ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか 作:ザイグ
50階層。モンスターが生まれない安全階層で【ロキ・ファミリア】は休息を取っていた。
「それじゃあ、今後のことを確認しよう」
団長であるフィンが口を開き、全員が視線を向けた。
「『遠征』の目的は未到達階層の開拓。これは変わらない。けど今回は、59階層を目指す前に冒険者依頼をこなしておく」
「【ディアンケヒト・ファミリア】の冒険者依頼だな。51階層、『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取だったか」
カルナの確認にフィンが頷く。
「51階層には少数精鋭のパーティを二組、送り込む。無駄な武器・道具の消耗を避け、速やかに泉水を確保後、この拠点に帰還。質問は?」
「え〜と、何でパーティを二つに分けるの?」
ティオナは何故か隣に座るカルナに尋ねる。
「要求量が一箇所の泉では足りないからだ。物資も限られるから、時間短縮と効率化のために二手に分かれる」
聞いたカルナは短くそしてわかりやすく説明した。
「カルナの言う通りだよ。……他に質問は? ないなら、隊員を選抜する」
フィンの言葉にティオナが挙手し、アイズとティオネを捕まえた。
「レフィーヤ。アイズ達のパーティに入れ。私の代わりだ」
大規模魔法で精神力を削ったリヴェリアは回復と拠点防衛のために残ることになり、これで一つのパーティが決まった。
そして自動的に残った第一級冒険者が二つ目のパーティとなった。
一班:アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ。
二班:フィン、ベート、ガレス、カルナ。
「……なぁ、一班、大丈夫か?」
「狂戦士二人、戦闘狂一人、格下一人。統率者がいないな」
「ちょっと狂戦士って私も! ティオナはともかく私は違うわよ!」
「私も格下って何ですか! 本当にカルナは口が悪いです!」
「……で、フィン。この班分けでいいのか?」
ティオネとレフィーヤの文句を無視してカルナがフィンに問う。じばし考えたフィンは、
「ティオネ、君だけが頼りだ。僕の信頼を裏切らないでくれ」
「ーーーお任せくださいッッ!」
「流石は女性冒険者人気一位だ。女の扱いはお手の物か」
「その言い方、やめてくれるかい?」
「それにお前も人気ならフィンに劣らないだろう」
「……そうなのか?」
素直に褒めたつもりがフィンは嫌がり、何故か不機嫌にリヴェリアが言う。自覚がないカルナは首を傾げた。
結局、パーティはそのままで決定し、カルナ達は51階層へ出発した。
◆◆◆
51階層。『カドモスの泉』を目指して二班は襲い掛かるモンスター達を蹴散らしていた。
「ぬんっ!」
「はっ!」
前衛はカルナとガレス。力自慢のドワーフと卓越した槍術を駆使するヒューマンが鎧の硬度を誇るモンスター『ブラックライノス』を引き裂く。
「ベート! 左通路からの新手を片付けてくれ! 僕は背後からの増援を叩く!」
「わかってらッ!」
中衛は速度に優れたベートが前後をフォローし、後衛ではフィンが的確な指示を飛ばす。
都市最強の冒険者達は瞬く間にモンスターを屠り、『カドモスの泉』に到着した。
「この通路を曲がれば泉だ。カルナ、ベート。カドモスはいるかい?」
「ああ、この匂いは間違いなく奴だ」
「こちらも確認した。泉の前で寝転がっている」
嗅覚に優れたベートと視力に優れたカルナが敵を確認する。これで戦闘は避けられなくなった。
「よし、カドモスは力だけならウダイオスを上回る。攻撃には注意してくれ」
「何を今更言ってやがる。そんなことわかってる」
「むしろ、注意すべきはフィンだな。防御力に優れた俺とガレス。回避に優れたベート。この中で一番攻撃を受けやすいのはフィンだ」
「ははは、そうだね」
「なーに、お前さんは小さ過ぎるからカドモスが見つけられんじゃろ」
ガレスの冗談に場の空気が和む。彼らには階層主を除けばモンスター最強のカドモスに挑むにも関わらず一切の不安がなかった。
「それじゃあ、行こうか」
「おう」
「承知した」
「任せろ」
フィンの言葉に全員が頷き、カドモス目掛けて走り出した。
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』
敵の侵入に気付いたカドモスが吠える。だが、それより冒険者の方が早かった。
「ーーー蹴り飛ばしてやるッ!」
「普通に蹴ってもこの巨体は飛ばないと思うが」
最初の攻撃は【ロキ・ファミリア】随一の俊足を持つベート、次にカルナだった。
メタルブーツが背中を陥没させ、大槍が腕を一本切り落とす。
「二人とも突出し過ぎだよ」
「前衛より前に出てどうする」
続いてフィンが槍を正確に目に突き刺し、最後にこの中で一番遅いガレスが大戦斧で体を引き裂いた。
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ⁉︎』
一瞬で重傷を負わされたカドモスが悲鳴を上げ、力任せに暴れ始める。
「その巨体と力で暴れるのは下手な戦術を駆使するよりは利に適っている。だがーーー」
カルナが振るう大槍が尻尾を切り落とす。あのまま尻尾が振り下ろされる位置には泉があった。
「俺達はその泉に用がある潰されるわけにいないな」
尻尾を焼かれたカドモスは怒り狂い標的をカルナに定める。
「カルナばっかり見てんじゃねええええええええッ!」
「僕達もいるのを忘れらないでほしいね」
「そういうことじゃ」
ベートの蹴りが、フィンの槍が、ガレスの斧が炸裂し、カドモスは全身に深い傷を負う。しかし、それでもカドモスは突進を止めずにカルナに襲い掛かった。
「瀕死になりながらもまだ襲ってくるとは、相変わらずのしぶとさだな」
カドモスのタフネスに感心しながらも、突進を上に跳んで回避したカルナは落下する勢いを利用して大槍をカドモスの額に突き立てた。
頭を貫かれたカドモスは悲鳴を上げることもなく絶命した。