ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第十六話

「餌を用意されておいて、そのままお預けを食らった気分ね」

「あ、わかるかも」

「……お、お二人とも、武器もないのによくそんなこと言えますね」

 

家屋の屋根にはティオナ、ティオネ、レフィーヤがいた。モンスター討伐に向かったはいいが会話でわかる通り、アイズがモンスターを瞬殺していくので出番がないのだ。

ただし気楽なアマゾネスの二人と違い、レフィーヤは装備なしで戦うのが不安だった。

 

ーーーそんなことを考える私が嫌だ。

 

アマゾネス姉妹は強い。アイズと肩を並べて戦えるほどに。

それに比べてレフィーヤは無手でも魔法という強力な武器を持ちながら、恐怖を感じている。

逃げ出した『トロール』や『ソードスタッグ』はLv.3であるレフィーヤなら単純な【ステイタス】でも上回っいるため倒すのに問題はない相手だ。そんな相手にさえ怯んでしまう。

 

やっぱり、私はカルナとは違う。

 

レフィーヤとカルナは同時期に入団し、新人同士それも槍使いのカルナは前衛、魔導士のレフィーヤは後衛と理想的な組み合わせだったのでパーティーを組んでダンジョン探索をすることも多く、カルナとの付き合いが一番長い。そのおかげでレフィーヤもカルナを呼び捨てにするほど心を許していた。

まあ、入団時点でLv.2だったレフィーヤが『神の恩恵』を授かったばかりのカルナを下に見ていたのもあるが。

 

ーーーでも、その認識はすぐに間違いだったと思い知らされた。

 

入団して半年で【ランクアップ】。それもLv.4相当の階層主(ゴライオス)を単独撃破を成し遂げて。

それはレフィーヤの自惚れを粉々に砕くには十分だった。いまのレフィーヤでもゴライオスは倒せる。だが、それは長文詠唱が完了するまでゴライオスが攻撃しなければという条件が付く。

実質、単独撃破は不可能。それをカルナはLv.1、それも駆け出しの新人の時に達成してしまった。

それからカルナは飛躍的な成長をしていき、一緒にアイズの後ろ姿を追いかけていた相手は彼女に追いつき、逆に憧れたアイズが彼の後ろ姿を追いかけていた。

現在のレフィーヤはLv.3の第二級冒険者。カルナはLv.7の世界最高峰。

この差は何なのか? 同時期にスタートしながら、いや、レフィーヤの方が既に【ランクアップ】していた分、圧倒的アドバンテージを持っていた。それでもこれだけ隔絶した差が開いている。

 

「………やっぱり、私なんかが追い付くなんて無理なの?」

 

どれだけ頑張っても私ではアイズさんの側いる資格がない。そう思い始めた時、

 

「⁉︎」

 

何かが爆発したような轟音が届く。膨大な土煙が立ち込め、石畳わ押しのけて地中から出現したのは、蛇のような長大なモンスター。

 

「何あれ……また新種⁉︎」

「あんなモンスター、【ガネーシャ・ファミリア】はどこから……⁉︎」

「アイズは遠い! ティオナ、叩くわよ。レフィーヤは様子を見て詠唱を始めてちょうだい」

「わかった」

「は、はいっ」

 

ティオネがティオナとレフィーヤに指示を出し、モンスターも向かってくるティオネ達に反応し、襲いかかる。

力任せの体当たりをティオナとティオネは回避し、アマゾネス姉妹はモンスターに拳を叩き込む。

 

「っ⁉︎」

「かったぁー⁉︎」

 

しかし、渾身の一撃は凄まじい硬度を誇る皮膚に阻まれた。並みのモンスターなら破砕する第一級冒険者の一撃でビクともしていない。

 

『ーーーーー‼︎』

 

効かなかったとはいえ攻撃されたモンスターは怒り狂い攻め立てる。

だが、アマゾネス姉妹には危なげなく攻撃を避け、モンスターのいたるところに打撃を見舞う。

 

「打撃じゃあ埒が明かない!」

「あ〜、武器用意しておけば良かったー⁉︎」

 

アマゾネス姉妹は当たれば一溜りもない突撃をことごとく避け、モンスターはいくら打撃を受けようと怯みもしない。

互いに決定打を与えられず、膠着状態になる。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり】」

 

レフィーヤが状況を打破すべく、ティオナ達が時間を稼ぐ間に詠唱を進めた。

速度重視の短文詠唱。威力は低いが高速で動き回る敵を捉えられる。

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

モンスターはティオナ達にかかりっきりで、レフィーヤに見向きもしない。これならばいけると魔力を解放しようとした瞬間ーーーモンスターがレフィーヤを見た。

 

「ーーーぇ」

 

無関心だったモンスターが『魔力』に反応したのだ。レフィーヤもそれに気付くが遅すぎた。

 

「ーーーぁ」

 

地面から伸びた触手がレフィーヤの腹部を貫いた。衝撃で華奢なエルフの体が宙を舞い、地面に倒れ込む。

そして仕留めた捕食するためにモンスターが変貌していく。

頭部に幾筋もの線が走りーーー咲いた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』

 

咆哮が轟き渡る。花弁が開かれ、中央には牙の並んだ巨大な口が存在し、口腔の奥には光に反射された魔石が見えた。

 

「咲い……た⁉︎」

「蛇じゃなくて……花⁉︎」

 

モンスターの正体にティオナ達が驚愕する。蛇だと思い込んでいたのは食人花のモンスター。

魔力に反応した食人花は大きな口をレフィーヤに向ける。

 

「レフィーヤ、起きなさいッ!」

「あーもうっ、邪魔ぁっ‼︎」

 

駆け付けようとするティオナ達だが、食人花の体から派生する触手の群れが襲いかかり、行く手を阻む。

 

 

◆◆◆

 

 

ーーー嫌だ、嫌だ、もう嫌だ。

 

眼前に迫る食人花を見ながらレフィーヤは嘆いた。

全身に鞭を打つが腹部の激痛のせいでまるで動くことができない。

レフィーヤの奮闘も虚しく、食人花が捕食せんと大口を開く。

 

ーーー同じだ。また助けられるんだ。憧憬の彼女に、黄金の彼に。

 

新人の時からカルナは助けてくれた、守ってくれた。遠征メンバーに選ばれる実力を得てもそれは変わらず、助けられる回数が増えただけ。それどころかカルナだけでなく憧れのアイズにも守られてばかり。

 

ーーー私達は、何度でも守るから……だから、危なくなった私達を、次はレフィーヤが助けて?

 

アイズはそう言ってくれた。でも、アイズが助けを必要とする時にレフィーヤの力が役に立つのか? カルナに至ってはそんな言葉を掛けられたことさえない。それはカルナはレフィーヤが力にならないと判断しているからでは?

無力な自分が悔しくて思考が負の連鎖に囚われる。

そして食人花がレフィーヤを飲み込もうとその時、

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ⁉︎』

 

食人花が絶叫した。ティオナ達の打撃でも貫通しなかった食人花の体を乱入した者が素手で貫かれたのだ。

 

「無事ーーーとはいえないな、レフィーヤ」

 

黄金の鎧を纏った青年、カルナが現れた。

 

 

 


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