ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第十五話

ジャガ丸くんで騒ぐロキを、無視しながらカルナとアイズは闘技場に到着した。

しかし、調教師(テイマー)とモンスターの戦いで盛り上がる闘技場内に比べ闘技場周辺は張り詰めた雰囲気となっていた。

ギルド職員が慌ただしく、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が武器を携えている。

 

「……何かあった?」

「そうやね、いやな空気や」

「モンスターでも逃げたんだろう」

「カルナ、それ洒落にならんで」

 

洒落ではなく事実を伝えただけだ。ベルと戦わせるためにフレイヤがモンスターを逃がしたのだから。

カルナ達は事情を聞くために近くのギルド職員の元に向かった。

 

「……すいません。何かあったんですか?」

「ア、アイズ・ヴァレンシュタイン……それにカルナ・クラネルも……」

 

こちらを見た職員が目を見開き、現状の説明をする。

現状はカルナの言った通りモンスターが逃げ出し、町に散らばったらしい。そして人手が足りないので協力してほしいという事を。

 

「ロキ」

「ん、聞いとった。しかし、カルナの予想が的中してもうたな。予知能力でも持ってるん?」

「そんな能力はない」

 

原作を知っているとは言えない。

 

 

◆◆◆

 

 

モンスター制圧に協力することになったカルナとアイズは周囲一帯で最も高い闘技場の外周部からモンスターを探していた。

「近辺にいるのは八匹だな」

「うん、あと一匹が見つからない」

 

カルナは超視力、アイズは風の流れから周囲のモンスターの位置を把握した。

しかし、脱走した九匹の内、見つけられたのは八匹。最後の一匹を確認できずにいた。

 

「仕方ない。俺が最後の一匹を探すから、アイズは発見できたモンスターの討伐を頼む」

「わかった。ーーー【目覚めよ(テンペスト)】」

 

アイズは風を纏い、壁を蹴りつけた。

 

「リル・ラファーガ」

 

弾丸と化したアイズは補足したモンスター目掛けて射出された。

それを見届けたカルナはある方向に視線を向ける。

 

「……ベルは、ダイダロス通りに入ったか」

 

ベルと彼の主神、ヘスティア。そしてベル達を追いかける九匹目のモンスター、シルバーバック。

彼らがもう一つの迷宮と言われる広域住宅街、ダイダロス通りに入るのをカルナの眼は捉えていた。

アイズが見つけられなかった最後の一匹をカルナは最初から捉えていた。弟が襲われているとわかっていながら、カルナはそれを黙認したのだ。

 

「戦え、ベル。お前はーーー決して弱くなんかない」

 

フレイヤが与えた神の試練。その程度ベルは乗り越えてみせる。原作がそうだからとか関係なく生まれてからずっと見てきた弟だからこそ、カルナはベルが勝つと信じていた。

 

「だが、この脱走で住民にモンスターへの恐怖心が芽生えた。神ウラノスの目的がまた遠のいてしまったな」

 

ダンジョンにいる異端児(ゼノス)達に申し訳なく思いながら、カルナは闘技場を飛び降りた。

 

 

◆◆◆

 

 

重力に従い自然落下したカルナは音も立てずにロキの真横に着地した。

 

「どひゃっ! ーーーて、カルナかい。驚かせんといて」

「女性らしくない驚き方だな。素で驚いてそれとは芯から女を捨てているようだ」

「あれ、カルナはモンスターを追いかけないの?」

 

先程、ロキと合流したティオナが疑問を投げ掛ける。後ろにはティオネ、レフィーヤもいる。

 

「見世物にする為に集められた低レベルなモンスターばかりだ。アイズ一人でも過剰戦力なのに俺まで出る必要はない」

「確かにどんどん減っていってるわね。私達の出番はなさそう」

 

カルナの言葉に、遠目に次々とモンスターを撃破していくアイズを確認したティオネが同意する。

 

「ああ。だが、アイズは一匹を捕捉できていない。警戒は怠れなーーーん、あれは………」

 

言葉の途中でカルナは近くにいる【ガネーシャ・ファミリア】の中に知り合いを見つけた。声を掛けておこうとロキ達に一声掛け、彼女の方に向かう。

こんな騒動になることが分かっていながら、黙認したせいで彼女に苦労させているという後ろめたさもあるが。

 

「大変そうだな、シャクティ」

「! カルナか」

 

【ガネーシャ・ファミリア】団員に指示を出していて気づかなかったのか、声を掛けられて近くにいたカルナに彼女は驚く。

彼女は【ガネーシャ・ファミリア】団長、シャクティ・ヴァルマ。【象神の杖(アンクーシャ)】の二つ名を持つ【ガネーシャ・ファミリア】最強の冒険者である。

女性でありながら成人男性にも負けない170センチを超える長身だが、180センチ近いカルナが隣にいると目立たなくなる。

 

「【ロキ・ファミリア】の協力、感謝する。本当なら身内の失態は私達だけで解決したかったが、市民の安全には変えられない」

「そういう格式ばったことはロキにでも言ってやれ。俺達の間でそんな形式的なものは必要ないだろう」

「そうだな。協力ありがとう、カルナ」

 

先程までの固さが抜けカルナとシャクティは親しげに話す。

この二人、ある事件がキッカケでかなり親しい。断れない事情があったとはいえ彼の愛槍の名前に彼女の名前が付けられるほどに。

因みに作成した椿が他の女の名前を二人で作った武器に付けた時は怒り狂った言うまでもない。

まあ、その話は別の時にでも話そう。

 

「モンスターを逃した事はあまり気にしない方がいい」

「……犯人を知っているのか?」

「ああ、少なくとも【ガネーシャ・ファミリア】に恨みのある奴じゃないし、今回だけだろう。………それに分かっていたところでどうこうできる神物ではない」

「それほどの大物か……」

 

大派閥【ガネーシャ・ファミリア】の面目を潰し、モンスターを脱走させて市民に危険に晒しても、気にも留めない存在。それだけの力を持つのはオラリオ二大派閥。カルナが所属する主神はこんな事はしない。ならば犯人はもう一つの最強派閥の主神しかいない。

全てを魅了するあの女神が相手ではどんな相手でも骨抜きにされてしまう。

 

「シャクティは許せないかもしれないが我慢してくれ。モンスター討伐は俺達がーーー!」

 

言葉の途中で何かに気付いたカルナはしゃがみ、地面に手を置いた。

 

「どうした、カルナ!」

 

シャクティの叫びに答えず、カルナは全神経を掌に集中させ、地面から伝わってくる振動を感じ取る。

人が歩く音、馬車が走る音、歓声による地響き。地面を通して伝わってくる振動の中で不自然な音が混じっている。

地中を巨大なものが上へ向けて掘り進んでいる。その証拠に周囲の音に掻き消される程度だった地響きが徐々に大きくなり、はっきりと地面の揺れを感じられるようになってきた。

 

「地中から大型モンスター多数。上がってくるぞ!」

「馬鹿なっ、逃げたのは九匹だけだ! それに大型モンスターなんて私達は連れだしていない!」

「だろうな。この巨大さは見世物にするには手に余るはずだ。俺が討伐に向かうから、シャクティ達【ガネーシャ・ファミリア】は市民の避難を頼む!」

「ああ、そちらは任せた!」

 

シャクティは団長達に指示を出すため、カルナはモンスター討伐のために走り出した。

 

 

 

 


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