ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第十二話

夜。宴をするため【ロキ・ファミリア】は『豊穣の女主人』を訪れていた。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征皆ごくろうさん‼︎ 今日は宴や! 飲めぇ‼︎」

「「「「「乾杯‼︎」」」」」

 

ロキの音頭に一斉にジョッキがぶつかる。

 

「団長、つぎます。どうぞ」

「ああ、ありがとう。ティオネ。だけどさっきから、ぼくは尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけどね。酔い潰した後、僕をどうするつもりだい?」

「本当にぶれねえな、この女……」

「獲物を追い詰める獣の眼をしている」

「こらっ、カルナ! 酒が止まっとるぞ! もう限界か?」

「ああ、すまない、ガレス。まだまだいけるさ」

「こいつらもぶれねえな………」

 

カルナはガレスと並んでドワーフの火酒を競うように飲んでいた。そのペースは店員の猫人(キャットピープル)とヒューマンが、

 

「あいつら、飲むの早過ぎるニャ!」

「運ぶのが追いつかない!」

 

と悲鳴を上げるほどである。

 

「うおーっ、ガレスー、カルナー⁉︎ うちも飲み比べ勝負に混ぜてー!」

「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい」

「結果が目に見えている事を勝負とは言わないと思うが?」

「うちが相手にもならんって言いたいんか、吠え面かかしたる! ーーーちなみに勝った奴がリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやァッ!」

「じっ、自分もやるっす⁉︎」

「俺もおおおお!」

「俺もだ‼︎」

「私もっ!」

「ヒック。あ、じゃあ、僕も」

「リ、リヴェリア様……」

「言わせておけ。……だが、カルナ」

「何だ、リヴェ」

「負けるのは許さん」

「…………承知した」

 

騒ぎが増す中、自分の調子を守って食を進めるアイズにも飛び火がくる。

酔っ払った団員の皆達がここぞばかりに酒を勧めてきたのだ。

しかし、酒は目にも留まらぬ速さで取り上げられた。

 

「アイズに酒を飲ませるな」

 

取り上げられた酒を一瞬で飲み干しカルナが釘を刺す。酔っ払った団員達もLv.7に登り詰めたカルナに注意されては引き下がるしかない。

 

「……あれ、アイズさん、お酒は飲めないんでしたっけ?」

「アイズにお酒を飲ませると面倒なんだよ、ねー?」

「えっ、どういうことですか?」

「下戸っていうか、悪酔いなんて目じゃないっていうか……カルナにガチ勝負を仕掛けたっていうかぁ」

「あぁ、それでカルナはあんな怖い顔して釘刺してたんですか」

 

誰が、怖い顔だ。自慢じゃないがポーカーフェイスには自信があるぞ、レフィーヤ。とカルナは心の中で文句を言うと同時にアイズが悪酔いした時を思い出す。

 

あれはカルナが入団して一年ほどでLv.3になった時のことだ。【ランクアップ】最速記録を祝う宴で誰もが前代未聞の偉業に騒ぐ中、一人だけ険しい顔をした少女がいた。

アイズは自分が最初の【ランクアップ】に一年かかったにも関わらず、カルナがずっと早いペースで【ランクアップ】していくのに嫉妬にも似た気持ちを感じ、アビリティの熟練度が中々上がらないのも拍車をかけていた。

そしてそれを忘れる為に酒に手を出してしまったのだ。

酔ったアイズは感情を爆発させ、カルナに勝負を挑み、カルナも承諾したことで全力戦闘が始まってしまった。

結果から言えば勝利したのはカルナだ。

Lv.3がLv.5に勝てるはずがなかったのだが。カルナはLv.1で階層主(ゴライオス)を単独撃破して【ランクアップ】した規格外である。それにアイズが酔っていたことや魔法の相性も良かったなどのプラス要素も多かった。

こうしてカルナは所要期間一日でLv.4に【ランクアップ】という『偉業』ーーーいや、『異常』を成してしまった。

 

「……いまとなってはこれも思い出か」

 

カルナはそう呟き火酒を飲んだ。

ちなみに回想している間にもガレスと飲み比べは続いており、大樽を三つ分は空にしている。

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

ベートが騒ぎ出した。そういえば酔っ払ってベルを侮辱するんだったな。

この場にベルがいたはずとカウンターの方を見れば、顔を伏せた白髪がいた。揺れる髪が兎耳のようだ。

……本当なら、弟を馬鹿にする犬は叩き潰してやりたいが、堪えるべきだな。

ベルはここで笑われて自分の身の程を嫌というほど教えられる。それをバネに飛躍的に成長していくのを考えればこれはベルが乗り越えなければならないこと。助けるだけが救いじゃない。

だが、弟を好き放題言われ、尚且つ笑い種にされるのは腸の煮えくり返る思いだった。

カルナが必死に自身を抑え込んでいる間にも、ベートは馬鹿騒ぎし、酔った勢いで告白に近いことまで言っていた。そして、

 

「ベルさん⁉︎」

 

店員の少女の叫びに視線を向ければ、弟が涙を流しながら店を飛び出ていくのが見えた。

そこが我慢の限界だった。

無言で立ち上がったカルナは自然な足取りでベートの背後に回る。ベルを追い掛けて出ていったアイズに気を取られて気づきもしないベートの頭を鷲掴みにし、

 

「頭を冷やせ」

「ぐげぇっ⁉︎」

 

力任せに叩き付けた。Lv.7の『力』で叩き付けらたベートは、テーブルを割り、床に頭をめり込ませた。

カルナの突然の凶行に酒場が静まりかえる。

 

「カ、カルナ……」

「ロキ、すまない。ベートがあまりに醜態を晒すので黙らせた」

 

そう言いながらベートを持ち上げる。凄まじい『力』で叩き付けられたため、完全に白目を向いている。

 

「醜態?」

「事実だ。ミノタウルスを取り逃がしたのは俺達の不手際で、この場の全員が笑った冒険者は俺達のせいで死んでいたかもしれない。にも関わらずベートは殺しかけた相手を笑った。これが醜態以外の何がある」

 

カルナの非難に【ロキ・ファミリア】の誰もが黙る。この重大さにようやく気付いらしい。

 

「冒険者の品位を下げているのが不手際で殺しかけた冒険者を笑う自分だと気付いていないとは……いや、それは笑った【ロキ・ファミリア】全員に当て嵌まるか」

「カルナ、言い過ぎや、その辺にしとき」

「……そうだな。折角の宴に水を差して悪かった。邪魔者はさっさと退場するとしよう」

 

気絶したベートを担ぎ、カルナは店主であるミアの元に向かう。

 

「ミアさん、店を荒らして済まない。これは修理代と迷惑料だ、これで気が済まないなら、俺は出入り禁止にして貰って構わない」

 

カルナはカウンターに大金の詰まった袋を置く。

 

「ふん、構わないよ。あの犬が吠え過ぎて煩いと思ってたところだよ」

「感謝する。……それから、先程飛び出した少年の代金も頼む。あれは俺の弟だ」

「! 感情を滅多に出さないあんたが暴れた理由はそういうことかい」

小声の頼みにミアは驚きながらも納得した。

もう一度、礼をしたカルナはベートを担いだまま店を出た。

 

 


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