ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか 作:ザイグ
迷宮都市オラリオ。
ダンジョンから帰還した【ロキ・ファミリア】はホームを目指す。
無事に地上に戻ってこれたことに誰もが安堵する中、カルナは居心地悪そうにしていた。
「リヴェ」
「ダメだ」
なぜなら、リヴェリアに腕を組まされているのだから。
「……まだ何も言ってない」
「この手は離さん」
取り付く間もない。だが、これはカルナが悪い。弟が見たい為に精神疲弊(マインドダウン)寸前のコンディション最悪の状態で独断先行。リヴェリアが御立腹になるのも仕方ない。
自分が悪いと自覚しているカルナは諦めて腕を組んだまま歩く。
男性の憎悪と女性エルフの嫉妬を一身に浴びながら。
針の筵状態であることしばらく、カルナ達は【ロキ・ファミリア】ホーム、黄昏の館に到着した。
ちなみにカルナはこの建物を見る度に館ではではなく城に改名すべきだと思っていた。
「ーーーおっかえりぃいいいいいいいいいいいっ!」
ホームから走り寄ってくる女神。彼女は男性陣に目もくれず女性陣に飛び付いた。
「え、ちょ、きゃああああああ!」
アイズ、ティオネ、ティオナがひょいひょいと避けるが、レフィーヤは避けれずに押し倒される。
「グフフ、ちょっとおっぱい大きゅうなった?」
「な、なってませんっ⁉︎」
【ロキ・ファミリア】主神、ロキ。見目麗しい神々なだけあり、女神の美貌を持つが女好きで親父のような言動が目立つ。あと無乳。
フィンと話し、アイズを労ったロキはリヴェリアの方に来る。
「リヴェリアー、て、カルナ! 何でうちのリヴェリアとくっ付いとんや、羨ましいー、離れんかい!」
「リヴェ、ロキもこう言っているし、ホームにも着いた。もう離してもくれないか?」
「仕方ないな」
リヴェリアは渋々手を離した。
「んー。アイズたんもやけどカルナも無茶したみたいやな。てか、カルナがそれだけ疲弊するなんて何があったん?」
「やれやれ。リヴェだけでなくロキにも見抜かれるとは神の眼に驚きべきか、自身の未熟さを嘆くべきか」
「おのれが未熟なら冒険者の大半が赤子やアホ。ま、詳しい事はフィンに聞くから、ゆっくり休みや」
ロキはカルナの肩を叩く。その眼差しは我が子を慈しむ親だった。
その想いを感じたカルナは黙って頷いた。
◆◆◆
皆が夕食を食べている頃。早くに食べ終わったアイズはロキの私室、中央塔の最上階に来ていた。
無論、自分にセクハラするような神の部屋にアイズが来る理由など一つしかない。
【ステイタス】の更新。蓄積された【経験値】を【ステイタス】に反映させてアビリティの熟練度を上げる。良質な【経験値】を得れば器を昇華させる【ランクアップ】もできる。
強さを求める少女はその為に誰よりも早くロキの元を訪れた。
しかし、
アイズ・ヴァレンシュタイン。
Lv.5
力:D549→555
耐久:D540→547
器用:A823→825
敏捷:A821→822
魔力:A899
狩人:G
耐異常:G
剣士:I
……低すぎる。
少女の顔は険しかった。深層域のモンスターをあれだけ屠りながら、各アビリティの熟練度は微々たるもの。もうアイズには伸びしろがないのだ。
Lv.5に到達して既に三年。限界という壁がアイズの前に立ちはだかっていた。
「えらい顔しとるでアイズたん」
「……ロキ」
「強くなることいいことや。強くなれば沢山の仲間を守れる。やけど強さを求め過ぎると誰も支えられへん場所に独りで行ってまうで、そうなったら、誰もアイズたんを助けられん」
「………」
アイズもロキの言いたいことは分かる。でも彼女は強くなりたいのだ。もっと強く。悲願の為に。その為にアイズは限界を超えたかった。
「まぁ、いまは走りまくってもいいで。なんせ、アイズの前を常に全力疾走しとるバカがいるんや。そいつが支えてくれるやろ。ーーーなぁ、そろそろ入ったらどうや、カルナ!」
ロキの言葉にアイズは扉に視線を向ける。すると扉が開いて白髪の青年が入ってきた。
「本人がいるのを知りながらバカ呼ばわりとは。お前は酷い神だな、ロキ」
「このくらい気にせんって分かってるから言うてんの、愛情表現や。それよか自分かてアイズたんより早くといて順番譲るなんて謙遜過ぎるで?」
「何の話か分からんな。それよりステイタスの更新を頼みたいのだが」
「ええで、どうせ今日はこの二人くらいやろ。早よ、服脱ぎ」
ロキの言葉にアイズがいるのも気にせず上着を脱ぐカルナ。その大胆さにアイズの方が頬を赤くする。
「おお、良い細マッチョやな。ほな、更新するで」
ロキは手際よく更新を始め、出て行く機会を失ったアイズは棒立ちするしかなかった。
だが、手際よく更新していたロキの指が止まる。直後、
「初Lv.7キタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼︎」
カルナやアイズが耳をふさぐほどの大音量の喝采がホームに響いた。
ロキの喝采に深夜にも関わらず黄昏の館は上へ下への大騒ぎとなった。