ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか 作:ザイグ
怪物の咆哮と冒険者の雄叫びが轟いていた。
世界の『穴』。ダンジョンの奥深く49階層『大荒野(モイトラ)』。
数いる冒険者の中でも一握りしかこれない深層。そこに至れる数少ないファミリアの一つ。道化師のエンブレムを掲げる【ロキ・ファミリア】である。
行く手を阻むは大人を遥かに越す巨軀で進撃するモンスター『フォモール』の大群。
戦況は【ロキ・ファミリア】が不利。高い団結力と実力を誇るがモンスターの圧倒的物量に押し込まれそうになっていた。
「ティオナ、ティオネ! 左翼支援急げッ!」
「あ〜んっ、もう体がいくつあっても足りなーいっ!」
^_^
「ごちゃごちゃ言ってないで働きなさい」
小人族の首領が指示を出し、第一級冒険者であるアマゾネスの姉妹が疾走するがモンスターはいくら倒しても途切れることなく押し寄せる。
「【ーーー間もなく、焔は放たれる】」
だが、勝機はある。後衛組の中で呪文を紡ぐ絶世の美貌を持つハイエルフ。
「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」
オラリオ最強の魔導師が放とうとしている強力な攻撃魔法。モンスターの大群を一撃で全滅させるその魔法を誰もが待ちわびながら、己の歯を食い縛る。しかし、
『ーーーオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッッ‼︎』
一際巨大なフォモールが尋常ならざる膂力で、前衛の一角を吹き飛ばした。
「ーーーベート、穴を埋めろ!」
「ちッ、何やってやがる⁉︎」
こじ開けられた穴に狼人が急行するが、間に合わない。フォモールの攻撃がエルフの少女を襲う。魔導士である彼女ではフォモールの攻撃を防ぐ術がない。せめて痛くないように目を瞑ったその時、
「諦めるのが早くないか、レフィーヤ」
レフィーヤを襲おうとしていたフォモールの上半身が宙を舞い、棒立ちとなった下半身から血飛沫が噴出する。
「魔法を追求のが悪いとは言わないが、多少は動けるようになるべきだ。リヴェのように白兵戦までできるとは期待していないが、避けるくらいできるようになれ」
黄金の鎧を装着した槍兵が端から聞けば悪口にしか聞こえない注意をする。
「わかってます! もうちょっとマシな言い方はできないんですか、カルナ!」
その場違いな発言に先程まで絶体絶命だったのを忘れてレフィーヤが叫ぶ。
「それだけ喚ければ心配ないな。見ての通り、いまは一刻を争う状況だ。俺は他の支援に向かう」
「カルナ! アイズがフォモールの群れの中に飛び込んじゃった!」
「……やれやれ、世話の焼ける奴がもう一人いたか。俺が支援する! ティオナは防衛戦を維持しろ!」
わかった! と返事して疾走するティオナを見送りながら、カルナはアイズを探す。彼の優れた視力は大型モンスターの群れに隠れる金髪の剣士をすぐに見つけた。
「強さに飢えた獣、か」
モンスターに無双する少女を見てカルナはそう思ったが、いま関係ないとモンスターの群れに飛び込む。
風のような速さで駆け、人が扱うものとは思えないほどの大槍を軽々と振り回し、モンスターを駆逐していく。
モンスターの群れを駆け抜けたカルナは瞬く間にアイズと合流した。
「突出し過ぎだ」
「! カルナ」
「強さを求めるのは間違いと思わないが、Lv.5の【ステイタス】ではフォモールをいくら屠っても【経験値】は微々たるものだ。無駄な事はやめろ」
「……っ」
アイズはカルナの言葉に唇を噛む。確かに最近はアビリティの熟練度が殆ど上がっていない。だからと言って自分の努力を無意味なこと言われたのは怒りが湧き、アイズがカルナを睨むと、
「だから、最も下の階層に行くまで我慢しろ。こんな所で無駄な力を使うな」
「!」
強なりたいなら、未到達階層で強敵を求めろ。強敵と戦うために力を蓄えておけとカルナは告げる。それを理解したアイズはコクリと頷いた。
「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」
「リヴェの魔法も完全間近だ。戻るぞ」
「うん」
カルナとアイズは後方へ大きく跳躍しモンスターの群れを超えて自陣へ帰還した。
「【焼き尽くせ、スルトの剣ーーー我が名はアールヴ】!」
同時にリヴェリアが魔法を発動させた。
「【レア・ラーヴァテイン】‼︎」
業火の広範囲殲滅魔法が世界を灼熱に包み、フォモールの大群を一掃した。
「終わったな」
「うん。……カルナ、さっきはありがとう」
「わかったなら、俺が言うことはない。だがーーー」
カルナはアイズの背後に目を向ける。そこには、
「アイズ」
ニッコリ微笑む小人族の首領がいた。
「フィンは言いたいことがあるらしい。独断専行した罰だ。しっかり、叱られてこい」
助けを求めるアイズの視線を無視してカルナは背を向けた。
◆◆◆
いつ死んだのかは覚えてない。ただ信じられないことに俺は前世の記憶を持ったまま転生したらしい。
そしてこの世界が前世とは違う世界であることもすぐに気づいた。だって人並みデカイ虫や角の生えた馬とか現実にいるわけない。それに生まれた村も中世の時代のような生活をしていた。
極め付けは今世の俺の弟だ。
「待ってよ、兄さん」
「心配しなくても置いていかない。ベル」
何とダンまちの主人公ベル・クラネルが弟だった。最初はFateの転生したと思ってた。
だって俺の容姿って白髪にオッドアイの白肌の美青年なんだぜ。自分で美青年なんて言うとナルシストかと思うかもしれないが、事実だ。話がそれたがFateのキャラクターでこの容姿といえば、
不死身の大英雄カルナさんです。
それに今世の名前がカルナだから勘違いしても仕方ない。まあ、黄金の鎧がない時点で疑問に思うべきだった。
まあ、ダンまちは好きだったし、冒険者にも興味はある。命懸けというのが嫌だが、二度目の人生だ。好きに生きよう。
だが、焦る必要はない。原作通りならベルがオラリオを目指すはずだから、その時一緒に付いて行こう。それまで村で農業ライフしよう。そう思ってたんだがな……。
とある理由でベルより先にオラリオで冒険者してます。
カルナ・クラネル
18歳
【ロキ・ファミリア】所属。
冒険者歴三年。
Lv.6の世界最速記録保持者。
【施しの英雄】の二つ名を授かってます。
これがいまの俺だ。