それは、英雄の物語。
世界を揺るがす大事件があった。
"個性"という己だけの力。
人類は思い知らされた。
この力は、一個人が持つには過ぎた力だと。
元々"無個性"だった人類は、"個性"と向き合わなければならない。
安全装置など無いのだ。
"個性"は、いとも容易く人を傷つける。
自覚が足りないのだ。
己は、隣人を、友人を、恋人を、家族を、己さえ傷つけてしまう"個性"に無頓着すぎる。
力を持つという責任が欠落している。
"個性"が初めて確認されてから世界は劇的に変わった。
そこには、熱意があった。
そこには、使命があった。
そこには、力に対する責任が存在していた。
「そこには、未知への恐怖が確かにあった。だが、そう。それでも、彼らは決して止まろうとはしなかった。我々のような特異体質、おっと進化だったか?まあその辺はどうでもよい」
嗚呼怖いだろう。
嗚呼恐ろしいだろう。未知に挑むのは。
「未来ある子供たちのために、"無個性"である大人たちは先へ繋がる道をつくったのだ。それは生半可なものではなかっただろうに」
これを勇気と言わず何というのだ。
「今や"個性"は常識、己を表すステータスと言って過言ではない。だが、"個性"がまだ超能力などの超常現象に分類されていた頃はどうだ?神から
増え続ける異形の子供たちを守ろうとした者がいた。魔女狩りなど時代遅れだが、希少な特殊能力を身に宿した子供を売りさばく商人がいた。
「今でこそ"個性"を持つものが上に立つ時代だが、昔はそれはそれは酷いものだ。未知に対する恐怖で罪のない子供の血が流れた。力の管理が今より不十分で、教育も確立していない時代は、身に宿す力に振り回され最初に両親を殺すといったケースも存在した」
己だけが常に見えない拳銃を所持できる。それは脅威でしかないが、皆が平等に見えない拳銃を所持する社会ならどうだ?
「所持を許されていない平和な日本では分かりにくい感覚かもしれんが、アメリカでは拳銃は誰でも持てる便利アイテムだ。国民誰もが抑止力を持つ事で規律を敷いたのだ。アメリカ合衆国の信念は今も昔も一つ、撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけ……素晴らしいぞ!」
だが、現実はどうだ?
「
好きなのだろ?英雄譚が。
好きなのだろ?悪を倒す己が。
好きなのだろ?正義と戦う己が。
好きなのだろ?悲劇を演じ正義に助けられる己が。
「人とは不思議なものだ。予め用意されたキャラクター以外を決して演じようとはしない。ヒーローとは、ヴィランとは、無力な一般市民とは。かく言う俺も分かりやすいのは好きだし、否定もしない。これは好みの問題だ」
悪を倒す、人間の光を浴びる正義の執行者。
我が物顔で秩序を乱す、人間の闇を体現する忌むべき者。
「ようは何でもよいのだ。俺はただ人の素晴らしいところを滅ぼしたくないのだ」
何故、守られる事に恥を覚えない。愛する女を正義の他人に助けられ何故、屈辱を感じない。男なら気概をみせろ。
「貴様らも"
そう――――――
「願う真が胸にあるなら、ただその道をひた走れ。躓き、倒れ、泥をなめようが何度でも立ち上がるのだよ。なぜなら誰でも、あきらめなければいつかきっと夢はかなうと信じているから」
だから――――――
「だから―――俺は魔王として君臨したい!」
ビジネスでヒーローを目指すのではない。
何となく、仕方なくでヴィランを目指すのではない。
「俺に抗い、立ち向かおうとする雄々しい者たち。その命が放つ輝きを未来永劫、愛していたい!慈しんで、尊びたいのだ。守り抜きたいと切に願う」
欺瞞に満ちた世界などいらんだろ。カテゴリーにハマるのではない。真に己がヒーローと名乗るなら、その輝きを見せてくれ。
「俺に人の輝かしい勇気を見せてくれッ」
曰く、魔王。
曰く、勇者。
曰く、馬鹿。
曰く、人を思いやれるのに自己中。
「本音を語るが、俺はおまえの噂を聞いたとき、正直半信半疑だったのだ。だってそうだろう?俺が求める人間が本当にいるのか?間違っているのは俺なのではないのか?俺の世界は期待と不安で膨れ上がり胸が押し潰されそうな毎日を送っていたのだ」
ヒーロー共に守られているのがそんなに誇らしいか。己が何もしなくとも、守られて当然と誤認していないか。己はヒーローの威を借り、口だけが大きくなってはいないか。
「太平の世界において、避け難く生じるのは人間性の腐敗・堕落・劣化である。"自分は守られている、故に如何なる危険もこの身を害し得ないであろう"――――――そのような愚劣極まりない認識が、現世における匿名を用いた誹謗中傷や、"施し"紛いの公民権運動、そして論理整合性の破綻した愛護活動、等々の原因となっている」
無知蒙昧の無責任な奴原。
「脳に蛆の湧いた阿呆どもが闊歩する世界。それを守るヒーロー。もしかするとそれが正しい形で在り、間違っているのは俺ではないのかと、自信がなかったのだ」
そんな折、真のヒーローに救われたのだ。
「人の人たる在り方とは、人の命が放つ輝きとは、決してそのようなものではない筈である。――――――我も人、彼も人。そのことを常に弁え、覚悟と責任を絶えず胸に抱いた上で、雄々しく立派に生くべきではないのか。そして元来、人とはそういうものではなかっただろうか。現に今こうして、自分に真っ向から対峙するオールマイトという人間の、何と勇敢で雄々しいことか」
俺は、確かに英雄を見たのだ。
「このような素晴らしい人間性を、命の燃やす輝きを、失わせてなるものか、劣化など決してさせまい。しかし、ひとたび安寧に身を浸せば、人は生来抱えた惰性のために、その美徳を自ずから手放してしまう。ならば結構、必要とされているのは試練である。立ち向かい、乗り越え、克服すべき高い壁に違いない。希求されるのは即ち、それらを掲げ、人々に授ける魔王のごとき存在である」
易きに流れるなよ、胸を張れい。おまえは必ず、おまえの人生を踏破できる。
「俺はいつも、いつもおまえたちの傍に在るのだ――――――忘れるな。よいか、忘れてはならん。それが勇気だッ!」
我も人、彼も人。故に対等、基本だろう。
「目の前には異なる思考回路を備えた他者がいる。殴られるかもしれんし、社会的に制裁されるかもしれん。しかしそれを肝に銘じて行動するのが、相手に対する礼儀であろうが。俺は殴る。だから、おまえも殴り返せよ?」
決戦は東京。オールマイトは、アマカスが用意した
象徴が戦って他のヒーローが戦わない道理はない。まだ東京に残された400万人の人々を救助している。
日本の首都に、ヒーローが集まっている。皆が皆、
ここには、アマカスが望む楽園が広がっていた。
「アマカスッ!!」
「そうだ、来い。俺はここにいるぞ!」
東京を数分で壊滅させる試練に、オールマイトは全力で戦い、被害が拡大しないよう抑え込んでいる。その余波に、崩壊した瓦礫の下敷きになった人の救助と避難。少しでもオールマイトの手助けになるよう微々たるものだが外殻を削っていく。
「ほら、今がチャンスだぞ?俺は現状弱体化している。アレをつい出してしまったのはいいが、そのせいもありリソースの大半が奪われている。今の流行りで言うところの、そう――――――ワンチャンの可能性があるぞ?」
アマカスの正面にヒーローが並び立つ。オールマイトがヒーローたちがつくったこの千載一遇のチャンスを無駄にしない為に躍り出る。
「
「No.2ヒーローエンデヴァーか、上位ランカーのヒーローたちがこうも勢揃いだと圧巻なものだな。実はおまえと出会うのも楽しみにしていたのだ。オールマイトに万年負け続けながら、諦めず、ひたすらに走り続ける気概ある男と見込んでいる。故に――――――俺におまえたちの
鉄をも溶かす業火がアマカスに振るわれる。ヒーローとして敵であっても殺しはご法度。しかし、このレベルの攻撃をしなければこの男を決して止めることは出来ない。他のヒーローもそれに続く、気絶させる手加減した威力はなく、殺す気の全力攻撃。
「ううぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
弱体化したアマカスに回避は不可能。すべての攻撃を受け入れる。だが、これで倒したなどヒーローは誰も考えていない。幾度となく、その理不尽な"個性"を体験してきたのだから。
「一気に畳み掛けろぉおおお!奴を止めるのは今しかない!」
ヒーローは止まらない。プロとして鍛えてきた"個性"を全力で一人の敵にぶつける。後の事など考えない。否、そもそも後などないのだ。
「オールマイトもアレに勝てるか分からない!こいつが"個性"で生み出したのなら、こいつを倒せば止まるかもしれないッ!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』
一人の男を袋叩き。そこに理性はない。それ以上に、この男を生かしてはならないと本能が後押しをする。どれだけ攻撃を叩き込もうがこの男は倒れない。屈しない。そもそも諦めるという言葉を知らない。故に、この千載一遇のチャンスに、ここまでアマカスを追い込みながら倒せなかったヒーローたちは、真にアマカスの理不尽を体験する。
「素晴らしいぞお前たち!故に俺に負けてくれるなよ。今、殴り返すぞ」
ヒーローたちは戦慄した。在り得ないと。"個性"は強さの有無は個人で違いは出るが、その応用力と総合的な強さは、毎日ヒーローとして戦ってきた経験と"個性"の限界を引き上げる訓練がものを言う。それをこの男、たった今の一瞬で、気合と根性だけで突破したのだ。
「このようになァッ!」
瞬間、薙ぎ払った軍刀の一閃が東京湾を断ち割った。直撃を喰らったエンデヴァーは言わずもがな、その衝撃だけでヒーローたちは壊滅した。
「おっと、巻き込んでしまったか。だが、おまえたちなら何とかするだろ」
アマカスの一撃に巻き込まれた一部のヒーローが倒され、
「今の一撃で立ち上がるのはおまえだけか。どうやら、他のヒーローは見込み違いだったようだ。さぁ――――――次だ」
アマカスは次の手札を切ろうとする。その時。
「……貴様は間違っている」
「ほう。何を間違っているのだ?」
アマカスは攻撃の手を止め、対話に応答する。
「貴様の理屈は性悪説で、誰も信じられないことの裏返しに過ぎない。人の愛や勇気に魅せられ激賞するのは、それが在り得ない夢だと本音じゃ思っているからだろ」
「成程確かに、俺はその問いに否定はできない。してはいけんのだ。先も言ったであろう。間違っているのは俺ではないのかと。だから俺は一人の漢に気づかされたのだ。このままでは魂が劣化してしまうと」
これが、アマカスの歪み。
「俺に抗い、立ち向かおうとする雄々しい者たち。その命が放つ輝きを未来永劫、愛していたい!慈しんで、尊びたいのだ。守り抜きたいと切に願う」
故に――――――
嗚呼故に――――――
「人間賛歌を謳わせてくれ、喉が枯れ果てるほどにッ!」
アマカスの攻撃の直線状にはまだ沢山の一般市民がいた。先の攻撃はヒーローだけを狙ったものだが、次は無差別に被害を拡大させようとしている。これはアマカスなりの信頼だ。
"ヒーローなら、後ろに一般人がいる方がやる気が出るだろ?"
またしても薙ぎ払われる軍刀に、誰もが絶望した。
――――――誰か、助けて!!
『もう大丈夫』
その一言は、絶望に染まった心を希望に染め。
『何故って?』
東京湾を叩き割る一撃を正面から相殺し、魔王を殴り飛ばした。
『私が来た!!!』
全身から七色の星光が溢れ、その神々しさに全員の目が眩む。ハッキリと分かるのは――――――今、奇跡に立ち会っている、と言う事だけであった。
誰もがその光景に息を飲み、言葉を失う。
――――――英雄が来てくれた。
「アレを鎮めたか。おまえの"個性"では当然無理。……ちょうどアレと相性のいい"個性"で道を開いたか」
『ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!
「嗚呼知ってるさ。ここからは小細工抜きの真っ向勝負。物語の終わりは概してそういうものだ」
オールマイト。おまえはなんと素敵なヒーローだろう。まるで俺が思い描いた英雄そのものではないか。だがしかし、あえて難癖をつけさせるとするなら一つだけ、定番であるだけにつまらない欠点をお前は持っている。
「俺が性悪説の奴隷なら、おまえは性善説の奴隷だよ。人を安易に信じすぎだ。それは言い換えれば、無責任とも表現できる。おまえは確かに強く優れた男だが、誰もがおまえのようではないのだぞ?己が背中をもって道を示す。それは結構なことだろうが、おまえが歩けた道を他者が歩けるとは限らない。保証がない理想論だし幼稚だろう。上手くいかなかった場合はどうするのだ?そんなものはただ単に、とにかく頑張るんだと言っているだけに過ぎまい」
『ヒーローってのは本来奉仕活動!地味だ無責任だと言われても!そこはブレちゃあいかんのさ……笑顔で人を救い出す"平和の象徴"は決して悪に屈してはいけないんだ。君は勘違いをしてないか?ヒーローは誰かを助けたい思いさえあれば誰でもなれるんだ!それがヒーローへの第一歩だ!!私は"平和の象徴"として、未来へ向かう子供たちの道しるべに、人々の目標になりたいんだ!』
「ふむ、嗚呼、俺は今満ち足りている。この神話的世界こそ我が理想。そこに掛ける覇気と覇気のぶつかり合いこそ我が王道。とにかく小細工抜きでやりたいのだよ俺は」
故に、ここに頂上決戦が開幕される。
「リトルボォォォイ!」
日本に落とされた二つの終焉の炎。第二回目の世界大戦において生まれ、使用された悪魔の兵器。この男は三つ目を日本に落とそうとしている。核分裂反応による超々高熱の炎が破裂する刹那、オールマイトは全力でリトルボーイを大気圏まで吹き飛ばす。広島の炎が天を赤く染める。
『舐めるなよ。君なら最初っからこうすると読んでいた』
オールマイトもまた、アマカスを信頼していた。この男なら初手で核兵器の類を使うと。
『今回は痛いじゃすまないぞ!』
全力の全力、100%を超える1000000%の拳。
「ぬうッうおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!ツァーリ・ボンバァァ!!」
創り出されたそれは決し無視をして良い物ではない。あれこそ爆弾皇帝。史上最大の水爆に他ならず、その総威力はリトルボーイの数千倍を上回る。大気圏まで吹き飛ばしてもその威力は地上の人を蹂躙するには十分な威力だ。オールマイトは先ほどより力が込められた拳を振り抜いた。
『ふんッ!』
「はあッ!」
アマカスの軍刀が砕かれ、右腕の骨が粉砕する。それでも拳を止めない。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る――――――殴る。
『哀しいよ、それほどの"思い"と"個性"がありながらこんな事にしか活用できない君の在り方に!私には仲間がいる!志を同じくするヒーローがいる!背中を預けるのはそれだけで十分すぎる!』
二人のヒーローが爆弾皇帝に接近する。一人は巨大な分身を生み出し空中で起爆する爆弾皇帝の距離を詰める。そして、すべてを飲み込むブラックホールが爆弾皇帝を無に帰した。
「そうだァ!それでこそヒーローだッ!
全身の骨は砕かれたはずだ。内臓も破裂し、筋肉も破壊されている。なのに――――――この漢は倒れない。
オールマイトはアマカスの行いを絶対に認めない。それでも、その気合と根性、思いの重さを誰よりも認めている。この先の人生、これほどの漢に出会うことはない。それ故に、拳を振るうたびに胸が締め付けられる。
もしも、もしも――――――ほんの少しでいい。アマカスが人を信じられたなら、オールマイトの隣に並ぶヒーローになっていただろう。ヒーローとして、オールマイト以上の活躍をしたかもしれない。そして、一仕事終えた後共に酒を飲み交わし、馬鹿みたいな会話で腹を痛めるほどお互い大笑いするに違いない。
そんなかもしれない話。
『アマカス、君の懸念は尤もだ。私とて君の全てを否定はできまい。それでも、やりすぎなんだよッ!』
「一つ言わせてもらおう。俺は子を見込んでいるからこそ殴るのだ。そして殴るのが好きなわけでは決してない。血も戦争も好かんと答えよう。それをもって自罰している。ゆえ文句あるまい」
『大有りだッ!!』
互いの拳がクロスし一撃で飛ばされる。距離をとった戦いこそアマカスの本領だが、そこまで考えていたかは甚だ疑問である。
「ロッズ・フロム・ゴォォォッド!」
ゆえにアマカスは手加減などしない。ここまで乗り越えてきたヒーローを信じている。
衛星軌道上から音速の十倍で地上に放たれた神の杖は。純粋な運動エネルギーの塊であるだけに理屈で対処できる代物じゃない。どれだけ読まれようが関係ない。そんな一撃。もはや人の知覚では捉えることも出来ない。
だから――――――これを防ぐとなれば一つしかない。
『君のそういう所を信じてたよ!』
絶対に命中を許した状態だからこそ、見えなくてもオールマイトは安心して動くことなく真っ向から迎え撃った。
『
天候を変える一撃をもってして、神の杖を真っ向から粉砕する。無論、オールマイトとてその威力には深手を負い、僅かだが動きを止めてしまう。
「むうッ!」
僅かでも動きを止めればアマカスはその隙に次の試練を叩き込む。だがしかし。
「「オールマイト!」」
繊維を自在に操る"個性"とコンクリートを自在に操る"個性"でその動きを阻害する。どちらも強力な"個性"だが、アマカスの前では少しの足止めにしかならない。しかし――――――
『ありがとう君たち。私は決して、もう君を絶対に放さない!』
「熱いお誘いだ」
距離をとった瞬間、アマカスは破壊兵器を何の躊躇もなく解き放つ。それだけは、阻止しなければならない。ゆえに戦術は単純。
『拳の語らいと行こうじゃないか!』
ステゴロの殴り合い。これこそ漢の決闘に相応しい。
「ふはっ――――――」
『HAHAっ――――――』
互いの拳がぶつかり合い、命中する。一撃一撃に絶対の威力を込めた拳が互いの体を破壊する。それでも、加速する。
「はは、はははははははははははははははははははッ!!」
『HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAッ!!』
オールマイトもアマカスももう限界を超えている。いつ死んでもおかしくない傷が二人に刻まれている。それでも止まらない。二人を奮い立たすのは気合と根性――――――そして――――――
「俺のッ」
『私のッ』
ここに英雄と魔王の戦いは終結する。
「勝ちだッ!!」
『勝ちだッ!!』
地に膝を屈したのは、アマカスだった。
最後のあの瞬間、"個性"を無力化する"個性"でオールマイトのみ無個性に戻ったあの瞬間、100%、否、1000000%、否、10000000000%の全力がアマカスの顔面に命中した。
「これが、
『ああ、これがヒーローって奴だ』
俺はそんなオールマイトに憧れの念を禁じ得なかった。最後のあの瞬間、オールマイトが無個性へとなったあの瞬間、俺は真の勇気を見たんだよ。加減したわけでは誓ってない。しかし憧れを粉砕するために全霊以上を絞り出すのは不可能だ。
そうさ、そもそも俺が彼と同じ境地に立とうと思い、魔王として――――――
「だが、それすらまだ甘かったのだな……」
真の勇気を俺は見た。
見せてくれ。教えてくれ。救いを与えてくれ
「おまえの存在こそが俺の楽園。そう確信した瞬間に、もはや決着はついていたのだ。おまえならば、たとえどのような黄昏だろうと踏破する。何よりそう信じたがっているのは俺なのだからな」
誰も信じていない男。もっとも絶望し、もっとも勇気がない男。
そんな俺が生涯唯一人信じた男。
英雄には、拍手喝さいが御似合いだ。
「認めよう、俺の負けだ!俺の宝と、未来をどうか守ってくれ。おまえならすべてを託せる」
『ああ、君が信じた私を信じろ。その先に、必ず未来がある!』
辛気臭く死を迎える趣味は持たん。人は泣きながら生まれてくる以上、死は豪笑をもって閉じるべきだと決めている。もとより、これは祝福だろう。俺が何より愛したものが、この天下に存在すると証明されたわけなのだから。
「万歳、万歳、おおぉぉォッ、万歳ァィ!」
そうして――――――
とっくのとうに限界を超えていたアマカスの意識は、黄昏の中へ消えていった。
これは、英雄の物語。