どうやらモブになるようです   作:おおぞら

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プロローグ

 

 

 

チャルロスの両親であるロズワールドとマリアの間に新たな子供シャルリアが生れて早一年、チャルロスは6歳になっていた。

 

一年前にチャルロスが海軍本部の中将に戦闘指導を依頼したことは多くの新聞や記事で報道された。

 

そのため、ここ数年で神童と呼ばれるほど注目の的となっていたチャルロスの指導をかの有名な海軍の英雄モンキー・D・ガープが行なう、という話は今までにはなかった出来事であったため話題性を呼び、チャルロスの弟子入りは多くの人が知ることとなっていた。

 

多くの人々はその小さな少年の、自身を鍛えようという心意気に賞賛を送ったが、中には不満の声を上げる者も。

 

その者たちの主張は、特権階級である天竜人に海軍の英雄と呼ばれているが、元はただの平民出身であるガープが指導を行なうのは失礼ではないか、つまり一言で表すと『分を弁えよ』というもの。

 

主張を唱える者の多くは天竜人やその従属である貴族や士官。

 

彼等の建前は、天竜人が平民に教えを請うなど階級支配構造に悪影響を及ばすから、であったが本音は、今まで以上に有名になっていくチャルロスが目障りになってきたからであった。

 

中には権力を行使してでも依頼を撤回させようとした者たちもいたが、それよりも早くチャルロス本人から、教官にはガープを選ぶという声明が発表された事でいったん不満の主張は落ち着いた。

 

教官の問題が解決されてからはガープの戦闘指導は本格的に成り、チャルロスとガープの姿は海軍の演習場でも度々見られるようになった。

 

明らかに年齢に見合っていない過酷な訓練であったが、チャルロスは折れることなくクリアしていき、6歳とは思えないほどの力を着々とつけていく。

 

一方で戦闘訓練が日々の項目に含まれることになったにも関わらず、チャルロスの日々の図書館に通う姿や学習量は変ら無いばかりか、新たに航海術に料理など以前よりも学習量は増していた。

 

その今だ6歳には思えないほどの行動力に精神力。

 

余りにも年相応でない姿に人々はチャルロスが普通ではなく、大成する存在ではないのか、と考える者も少なく、さらにあのガープ中将の弟子という事で将来への期待が更に高まっていた。

 

だが、期待が高まるとともにチャルロスへの嫉みや恨む者や、その人気が自身の立場を脅かすのではないかと考え快く思わない者達の数は決して少なくはなく。

 

さらに今回、他の天竜人の意見を否定した事でチャルロスと他の天竜人の間には溝が生れることになる。

 

本来は生れることがなかったチャルロスの高い知名度に、浅くはない天竜人たちとの溝。

 

そして―――――――――――

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

新しいクラスや職場での出会い、見たこともない新天地への出発。

 

一歩成長したような気分になったり、可愛いあの子やかっこいい子に恋をしたり、無二の友や強い絆で結ばれていく仲間との出会い、新たなことを始めるチャンスであり、今までとは違った自身になる再スタートの機会。

 

ドキドキやワクワク、誰もが不安を抱きつつも何か新しい出会いが始まるのではないか、と期待せずにはいられない、そんな春の季節。

 

ある島のある国で入学式が行われていた。

 

その入学式の主役は6歳の子供たち。

 

彼等は真新しいピカピカの制服を着て、一列に整列している。

 

慣れない式にじっとしていられず、キョロキョロと興味深そうに回りを見渡している。子供達の表情は誰もが違っていたが、どこか楽しみで堪らない、という瞳をしていた。

 

学校という共同生活を一度も体験していない彼等が、初めての生活を不安に思いながらも、楽しみで待ち遠しくないわけがなかった。

 

だから彼等はうんざりするほど長く、半分も意味が分からない学長の有難い話やその他の人の話を聞きながらも、楽しそうな表情を曇らせることはなかった。

 

もちろん、その一列の中にいるチャルロスもその1人で、終始ニコニコ嬉しそうな表情をしていた。

 

(やった!授業のおかげでガープさんの修行量が減る!!減るんだ!これで命の危険を感じずにぐっすり寝られる日が増える!学校最高!!)

 

少し理由は他の子供達とは違うが、本当に嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、彼はまだ知らない。

 

ガープとの修行は減ったが、内容が今までの2倍、3倍に増える事を。

 

今までの修行がまだましだと思ってしまうことを。

 

 

 

 

 

ドキドキ、ワクワクの入学式から一週間。

 

天竜人であるチャルロスが入学したクラスでは。

 

「あなたもネコさんがすきなの?」

 

「うん!ネコさんだいすき!!」

 

「みてみて。このバックかっこいいでしょ!」

 

「すっげぇー、かっこいい!!いいな~」

 

大好きなネコの話にかっこいい持ち物や昨日見たテレビ番組の話。

 

新しい環境、クラスに戸惑っていた子供達も雰囲気に慣れ、賑やかになり始めていた。

 

子供達には笑顔が見られ、先生達は新学期の忙しい日常に一段落しホッと一息つく。

 

だが。

 

 

 

 

 

チャルロスの姿は、教室になかった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

町から少し離れた所に立っているある施設の広場。

 

そこではたくさんの子供達が遊んでいる。

 

「いちぃ~にぃ~さん・・・・・もういいかい?」

 

「「「まぁ~だ、だよ!」」」

 

1から順に数字を数える少女の声に対して、子供達は元気よく返事を返す。

 

あと7秒。

 

鬼が動き始めるまでの時間を逆算し、鬼である少女に身体が見えないように身体を屈めながら、チャルロスはそっと隣の草陰に移動する。

 

「しぃ~ごぉ~ろぉーくぅ~」

 

刻々と減っていく時間。

 

(早く、早く、どこか隠れる場所は・・・)

 

近づいていくカウントダウンに焦りながら、一刻も早く隠れる場所はないかと辺りを見渡す。

 

だが見渡すが周りには背丈ほどの草ばかりで、隠れたとしても後ろからは丸見えで直ぐに見つかってしまう。

 

「ななぁ~」

 

あと3秒。

 

隠れ場所はないかとこそこそ移動しているうちに、カウントギリギリで、登れば人が1人隠れえそうな木の茂みをチャルロスは見つける。

 

(あそこに逃込めば!)

 

終了間際に転がって来たチャンスに喜びながら、飛び出し木の麓に目掛けて全力疾走する。

 

(まだ3秒ある。逃げ切れる!)

 

子供離れしたチャルロスの身体能力を使えば、木に登るのに必要な時間は1秒。

 

麓に辿り着き、登って隠れる時間は十分に残っていたため、チャルロスは上手に木の茂みに身を隠すだろう。

 

 

 

 

だが、それは途中で何も問題が起きなければの話であった。

 

 

 

「チィッ!」

 

走っているチャルロスは、反対の方向から向かってくる人物の姿を見つけ、舌打ちする。

 

その人物もこのかくれんぼの参加者で、同じように木に向かって走っている事から、チャルロスと同じ木の茂みのスペースを狙っての行動である事は明白であった。

 

しかし、隠れるスペースは1人分しかない。

 

どちらか1人は隠れられないのだ

 

相手もチャルロスを見て、このままかち合えばどちらが木に登って隠れるか決める為に、話し合たり、ジャンケンをするために、時間のロスが生れることに気づく。

 

この周囲にある身を隠せそうな場所はその木の茂みのみ。先ほどまでいた草まで引き返したとしても、途中でカウントを終えた鬼に見つかってしまうので、両者とも引き返すことは出来ない。

 

知り合ってまだ一週間と短いが反対から迫って来る相手からどんな答えが返ってくるか分かってはいたが念のため、そこを退けと、目つきの悪い少年に合図を送る。

 

合図は届いたようが、目つきの悪い少年は止まったり引き返したりするどころか、お前が退け、とばかりに強く睨み返した後、先程よりもギアをあげて駆け続けた。

 

(だよな~。退かないよな、お前は・・・)

 

予想合理の反応にやれやれと思いながら、チャルロスも少年と同様に駆けるスピードを限界まで加速させる。

 

そして。

 

((・・・じゃあ))

 

 

両者力一杯右手を握りしめ、

 

 

((お前が退かないなら―――――))

 

 

強く握り込んだ拳を、

 

 

 

「「先につぶして俺が登る!!」」

 

 

 

相手の頬に殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅうぅ~じゅうぅ~。もういいかい?」

 

「「「・・・・・・」」」

 

「あれ?」

 

返事が返って来ないのを不思議に思った少女は、振り返り様子を確認する。

 

振り返った先には、かくれんぼで隠れているはずの子供達が隠れて無く、カウントし終わった事にも気づかず立ったままある方向を見ていた。彼等が見ているその先には。

 

「てめぇが、失せろ!」

 

「そこを退けぇ!!」

 

文句を言いながら全力で殴り合う2人の少年の姿があった。

 

「はあ~」

 

あきれるしかない。

 

何度目だろうか?

こうやって目つきの悪い兄と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、喧嘩し合う姿を見るのは一週間の内に見るのは。

 

(お兄ちゃんとチャルロスの二人が初めて会ったのはつい最近なのに、何で二人とも毎日毎日飽きずに喧嘩しちゃうかな~。)

 

「もう!お兄ちゃん、チャルロス、かくれんぼができないから二人とも止めて!」

 

私の声を聞いて二人ともピッタ、と動きを止め。

 

「妹の頼みだ、仕方なく止めてやる。よかったな、負けて恥をかかなくて―――」

 

「ラミちゃんの頼みだ、よかったな、ボロボロになって妹の前で恥をかかなくて――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――と、思っていたが格の違いを見せてやるよ!」

 

「――――と、思ったが前言撤回、泣いて後悔するなよ!」

 

一度握った拳が下ろされることはなく、そう言って二人の殴り合いは再開した。

 

「はあぁ~・・・」

 

ため息の1つや2つ吐きたくなる。

 

もう二人の喧嘩は止まりそうにないし、他の子供達も2人の激しい喧嘩をヒーローショーを見るように目を輝かせて見ている。二人に夢中で隠れている子は誰一人おらず、もうこれではかくれんぼどころではない。

 

「そこだぁ!!」

 

「くらうかぁ!!」

 

開いたチャルロスのボディに兄は右拳を突き出し、その右ストレートをチャルロスは身体を無理矢理捻ることで回避する。

 

回避を成功した後に動きを止めることなく、チャルロスは左足で兄の顎を蹴り上げ、兄も後ろに倒れそうになるが踏ん張りチャルロスに頭突きをかます。

 

受けたダメージに体をふらつかせるが、倒れる事なく両者突撃を行う。

 

チャルロスの右足が兄を襲うが、体をしゃがませ避ける。しゃがんだ姿勢から兄も右膝蹴りで頭を狙うが、チャルロスも頭を後ろに引き、鼻に擦りながらもギリギリ避ける事に成功する。

 

紙一重で回避したがどちらも手加減なしの暴力の応酬。

 

すでに二人の服は砂まみれで汚れていて、顔には腫れや傷が何カ所かできている。

 

だが二人ともそんな些細な事など気にせず、ただただ真っ直ぐに相手を睨み付けている。

 

無意識に口角がうっすら上がっている、そんな些細な事など気づかずに。

 

(むむむ・・・・・そう言えば・・・)

 

見慣れた二人の喧嘩を見て若干ふてくされた私は、ふと、いつも最後にこの喧嘩がどのように終わるのかを思い出した。

 

兄とチャルロスの喧嘩がいつも起きるように、この二人の喧嘩をいつも同じようにある人の手によって止まるのだ。

 

そろそろやって来るだろう人に思いを馳せていると、あの人の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「ふぅ~たぁ~りぃ~とも、止めなさい!!!」

 

 

 

 

 

そんな怒気の籠もった若い女性の声と供に、ドゴォンッ!!!と凄まじい衝撃音とともに砂煙が舞い上がる。

 

そのもくもくと舞い上がる砂煙は、ちょうどさっきまで二人が喧嘩していた場所で、

 

「もう!二人ともいくら元気があるからと言っても喧嘩はダメです。ここは広場と言っても教会の敷地内ですよ。お祈りしている方もいらっしゃるので、叫んだり喧嘩したりせずに遊びなさい。」

 

そんな若い女性の声もその砂煙の中から聞こえてくる。

 

だんだんと砂煙が薄れていき、砂煙の中がどうなっているか見えるようになった。

 

砂煙が薄れた先には、頭にシュルシュルと煙を立てている丸々大きなたんこぶを作ってうつ伏せに倒れている二人の姿。

 

そして、その二人の前に仁王立ちして刻々と二人に話し続ける一人のシスターの姿があった。

 

「だいだい二人とも、そんなに毎日毎日喧嘩する時間があるのなら、私と一緒にお祈りを捧げましょう。信じる者は救われます。信じれば二人とも喧嘩せずに仲良く成れるはずです。」

 

二人は気を失っているのかピクリとも動かないが、シスターはそんなことなど気にせずに話かけ続ける。

 

「シスター!シスターだ!!」

 

「見て見て、キレイなお花!」

 

子供たちはシスターの姿を見ると、2人の喧嘩など無かったかのように、我先にと近づき話しかけ。

 

たちまちシスターは子供達に囲まれてしまう。

 

「そういえば、もうすぐ三時ですね。みなさん遊びはいったん止めにしておやつの時間にしましょう。手を洗って来て下さいね。」

 

シスターはさっきまでの般若のような顔とは打って変わって、優しい笑顔を浮かべていた。

 

「「「「はぁ~い!!」」」」

 

そのいつもと変らない光景に。

 

「はあぁ・・・。やっぱりシスターがお兄ちゃんとチャルロスを止めちゃった。」

 

私はあきれたように呟くが、その声色には変らない日々へのうれしさがにじみ出ていた。

 

 

 

みんなと遊び、兄とチャルロスが張り合って喧嘩して、シスターが仲裁(拳骨)する。

 

 

これが私の、兄の、チャルロスの―――――私たちの日常。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

これは、ある少年の物語。

 

 

どんな光よりも眩しい輝きを放ち、煌々と照らす太陽よりも暖かく、根幹となる余りにも短い1ヶ月。

 

だか、その価値はどんな黄金にも劣らず、輝きはどんな黄金をも凌駕し、永遠よりも長く思えた時間。

 

笑顔があり、涙があり、弱さ、強さ、悔しさ、出会い、記憶、希望、山、嬉しさ、楽しさ、寂しさ、怖さ、怒り、思い、友情、お金、焦り、おまけ、手助け、海、冒険、恋、協力、仲間、幸福、衝撃、嵐、別れ、運命、恐怖、罪、業火、怒号、暴力、咆哮、絶望。

 

 

 

 

そして―――――復讐で終わる物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

そしてーーーーー本来あり得なかった出会い。

 

運命は軋み始め、ゆっくりと新たな歯車が動き始めた。

 

 

さぁ、幕を開けよう。

 

 

運命に囚われた少年少女たちとの儚くも美しい、

 

 

幼少期の幕上げだ。

 

 

 





お久しぶりです、皆さん。
そして、こんなに遅れて本当に申し訳ございません。
次回はもう少し早く仕上げるので、楽しみに待ってくれれば幸いです。

感想・誤字・評価お待ちしてます。

最後に一言。

メルトリリス、マジ天使。



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