この話は、レムちゃんとラムさんが入れ替わったどうなるのかなぁ〜と思い書いたものです。少しだけネタバレ要素も含むので、読まれる時は何処かネタバレなのかな?と思って読まれるとより一層楽しめるかと、思います!
俺の朝の訪れは、優しい揺さぶりと慈愛に満ちた幼さの残る可愛い声によって知らされる。次第に強くなっていく揺りと、愛おしく思う愛らしい声音によって、ゆっくりと眠りの海から海面目指して登っていく…そして、ゆっくりと重たい瞼をあげるとそこには頬を朱に染めて、可愛らしく微笑む青髪の少女が居てーー
ーーそれが俺の変わらない日常であり、それは変わらずにこれからも続くものだと信じていた…いや、今でも信じている…だが、真実は小説よりも奇なりとは本当によく言ったものだ。
だって、俺は朝のあの出来事から数時間が過ぎているのに…今だに目の前の光景に慣れないのだから……
τ
「…いさま」
ゆさゆさと優しい手つきで身体を揺さぶられ、俺はゆっくりと覚醒へと導かれていく。
「兄様、起きて下さい。朝ですよ」
次第に強くなっていく揺さぶりに、俺はゆっくりと瞼を開けて…ぼやける視界の中、目をこすりながら起き上がった俺は頭の中でいつも起こしに来てくれる青髪の少女の事を思い浮かべていた。
「………ん」
「あっ」
“…また、レムちゃんに起こしてもらっちゃったな…。本当に、いつもいつも申し訳ない。これで〈兄様〉なんて呼んでもらってるんだもんな…、これじゃあどっちが上か、わかんないなぁ…。
まぁ、好きな女の子に起こしてもらうなんて…男冥利に尽きるんだけど……
そこだけは、寝坊助で良かったって思うんだけどね”
自分の不甲斐なさとそれによって得られる幸せの狭間で、俺はこの朝に弱いという弱点を直すべきか悩む。しかし、まず俺は起こしてくれた青髪の少女へお礼を言うべきだろうと思い、指定位置の左横へと視線を向けてーー
「おはようございます、兄様」
「ん……おはよう〜、レムちゃーーん?」
ーー目を丸くして、俺は固まった。
下から視線をあげていくと、まず目に付くのはほっそりした両脚を包み込むガーターベルト付きの純白の靴下だろう。その上には、白いフリがついた黒いスカートが続き、白いエプロンが括れた腰へと巻きついている。その更に上には、ぱっくりと胸元が空いたメイド服が続く。
改造されただけあって露出度が半端ない。まぁ、一つだけ言えるのは、間違いなくこの改造メイド服は着る人を選ぶであろうということだろうか…。
で、その着る人を選ぶ改造メイド服を見事に着こなしている双子の姉妹は、顔つきや身長などが瓜二つというくらいに似ている。
しかし、そんな瓜二つの二人だが…二人を間違えることは限りなく少ないだろう。その理由をあげるのであれば、まず、髪の色と瞳の色を指摘するだろう。
俺が世界で一番愛すると誓った少女の髪の色は桃色で、大きな瞳は薄紅色だ。そんな少女と同じくらい好きになった少女は青色であるし、大きな瞳の色は薄青色で間違う余地もない……無いはずなのにーー
「どうかされましたか?兄様。もしかして、具合でも悪いんですか?」
「………」
ーー俺を心配そうに見つめる大きな瞳は、予想に反して〈薄紅色〉をしていた。某然とした様子で、視線を上へとあげると当たり前のように、さらさらっと揺れる桃色の髪。
“なんで…”
「……なんで…、ラムさん?」
そう、俺の左横にいる少女はメイド姉妹の姉であるラムさんであった。
“今日は…ラムさんが起こしに来てくれたのかな?”
と思っていると、トントンとノックする音が聞こえて、ズカズカと俺の部屋へと入ってくる青髪の少女の姿が視界に入る。そして、青髪の少女・レムちゃんは俺とラムさんを腕を組んでみると、ラムさんへと視線を向ける。
その視線がいつもの穏やか眼差しでなく、鋭さを含むのは俺の寝ぼけ眼のせいだろうか?それに対して、左横にいるラムさんの眼差しが、普段の剣呑な感じではなく穏やかに思えるのも…夢または幻であってほしいと俺は願うが、その願いが叶うことはなかった。
「レム、ハルは起きた?」
“はぁ〜ぁ?レムぅ?”
青髪の少女が桃髪の少女に向けて、そう言い放つのを見て、俺は空いた口が塞がらない。
普段から彼女らが、一人称を自分の名前で言っているのは見慣れているが、その見慣れている光景とは明らかに違う異様な空気が流れていた。
そんな異様な空気に気づかない様子で、話し出すメイド姉妹を俺は驚きでまん丸な瞳で見つめる。
「はい、姉様。起きられたのは起きられたんですが、まだお寝坊さんみたいで…目をパチクリされてるんです」
「そう、これ以上レムとラムの足を引っ張るようなら…一発殴るか首を刎ねるかね。どっちがいいかしら…やっぱり、首を刎ねるほうがハルのお好みよね。早速、実行しましょう。レム、ハルを抑えててーー」
「ーーいやいやっ、暴力反対!!覚めた、目覚めたからっ!?それに、今ラムさん?の身体はレムちゃんだから!!」
俺は驚きから抜け出すと、高速で右手を横に振る。これ以上、話をそらせてはならないと本能が俺に告げる。
だが、そんな俺が気に入らない様子の青髪の少女は腕を大きく振り上げると、今まさに氷の槍を出そうとする。
「そう、なら氷漬けね」
「イヤイヤ。意味わかんないから!!」
「…」
「ラムさん、ラムさん。そこで何故そんな残念そうな顔をされるのか…俺にはラムさんのお気持ちが分かりかねるんですが…」
「ハァッ」
「……」
“この人…本当に俺の事好きなんだよな?”
小馬鹿にしたように鼻で笑う青髪の少女の中身が、完全に自分が異世界で初めに好きになった少女であると確信する。
あの戦いの後、俺に向けて好意を伝えてくれた桃髪の少女・ラムさんは俺を愛しているというわりに、あたりの強さが緩和する様子はない。
ラムさん曰く、俺を甘やかしすぎてもいけないと姉妹で話し合った結果、レムちゃんが飴と鞭の飴役で、ラムさんが鞭役との事だった。
確かに、その宣言通り、自分の役割を全うする二人だが…俺だって思うことがある。少しでいいから、鞭役を引き受けたラムさんも甘えてきて欲しいとーー
「何を惚けているの、ハル。早く起きないと、朝のお勤めに間に合わないわ」
ーーだが、現実は厳しく…今はこんな訳のわからない出来事が目の前で起きている…。
“もう…何が何だか…”
「わかんないよ…」
そんな軽いパニック状態の俺へと、変わらぬ奉仕を続けてくれる飴担当ことレムちゃん……いや、身体はラムさんなんだからラムさんなのか?
まぁ、とりあえずレムちゃん?にしておこう。
そんなレムちゃん?が、濡れタオルを俺へと差し出してくれる。それを受け取った俺は、顔を拭うとレムちゃん?へとお礼を言う。
「兄様、どうぞ」
「えっ、あっ…うん……ありがとう、レムちゃん?」
「どういたしまして。ですが、何度も言っているようにお礼は要らないんですよ。
レムは兄様のお役に立てるだけで幸せですので」
本当にそう思っているらしいレムちゃん?は、いつもは鋭さを前面に出している薄紅色の瞳を柔らかいものへと変える。頬を淡く朱に染めながら、クネクネと嬉しそうに揺れる。
そんなレムちゃん?を見て、俺は複雑な気持ちを抱きつつ苦笑を浮かべる。
「うん、もっと他にも幸せを感じようね〜。まぁ、そう言いつつ、レムちゃんに甘えってばっかなんだけどね…」
「えぇ、そうね。ハルはレムに過ぎだわ。
兄様なんて呼ばせているくせに、兄らしいこと一つ出来ないなんて…ハルの無能さにラムは頭を抱えるわ」
と此方も通常運行のラムさん?は、いつもは柔らかな光を讃えている薄青の瞳へと凍え死にそうなくらい冷たい視線を俺へと向ける。
“あはは…、鞭担当も変わらぬ切れ味で…”
「うん、ラムさんにそう言われるのは筋違いと言いますか…」
苦笑を浮かべる俺に、ラムさん?はもうこれ以上は付き合わないっていうように、ドア向けて歩いて行く。そして、ドアをあげると、こちらを見ることなく、レムちゃん?へと指示すると颯爽と部屋を後にした。
「まぁ、ハルの戯言なんていいわ。これ以上、待たされたら、ラムは眠たくなるし…先に仕事へと向かうわ。レム、ハルの着替えを手伝ってあげなさい」
「はい、分かりました、姉様。兄様、右腕を此方へとーー」
「早っ!?」
ラムさん?の指示の数秒後には、俺の仕事着を手に持ったレムちゃん?が俺の隣にスタンバっていた。その閃光の如き動きに、俺は目を丸くしてつっこむ。
が、キョトンとしたレムちゃん?ーーキョトンとした表情を浮かべるラムさん(外見)に思わず心を奪われ、撃沈。
「?」
「……」
“中身がレムちゃんってことは分かっていても…、外見がラムさんだからな…”
そう、だから、俺がドキドキすることは仕方が無いことなのだ。だって…普段は表情に乏しいラムさんが、こんなにも分かりやすいリアクションをとってくれるのだから。
そんなレアラムさんに見惚れていたら、レムちゃん?が心配そうに見つめてくる。
「兄様…?本当に大丈夫ですか?」
「あぁ、うん、大丈夫だよ。それより着替えだよね…」
「はい、此方へと右腕を通してください」
「がってん」
そして、ロズワール邸 メイド姉妹入れ替わり事件は幕を開けたのだった……
二話へと続く…