前の更新から恐らく約半年くらい過ぎたでしょうか、その間にもこの小説を読んでくださり、お気に入りしてくださった方、評価してくださった方、感想をくださった方、そしてしおりをつけてくださった方…本当にありがとうございます(礼)
恐らく、これから先もこんな感じの長くあけた更新が続くと思いますが、よろしくお願いします。
また、今回の話はいつもよりも文字数が少なめかつ久しぶりに描いたので読みづらいと思います。
では、長らくお待たせしました、31話をどうぞ!
※お気に入り997名!そして、評価者61名と多くの方にお気に入りしていただけて嬉しく思います!!
また、休んでいる間に暖かい感想をくださった方、本当にありがとうございます。かけてくださった言葉に勇気付けられ、またこの小説を再開することができます(礼)
夜風に肩まで切り揃えた桃色の髪を遊ばせながら、薄紅色の瞳を持つ少女・ラムが薄暗い夜道や村を照らす竜胆の焰を纏う光の壁を見つめている…いいや、確実にいうと、ラムはその壁の先にあるであろう癖っ毛の多い赤髪を持ち、中性的な顔立ちをした少年・ ハルイトのことを思い描き、案じているのだ。きっとこの壁が崩れてしまった時にハルイトが無傷でいる可能性は低い、きっと最悪の事態となっている方が可能性的にはずっと上だろう。
“…ハル、ラムが出したあの問題を答えないで死ぬなんて許さないわよ”
そう、あの問いの答えをまだハルイトへと伝えてない。
それを伝えるまではハルイトに死んでもらうわけにはいかないのだ。
“きっと大丈夫でしょう、ハルはどんな約束も破らない男。それに何よりもラムが惚れた男だもの、そんなやわじゃないわ”
ハルイトがどんな小さな約束も破ったりしたことはなかった、律儀な程に真面目でまっすぐなその柔らかい瞳や想いにゆっくりと胸に固くかけていた鍵を開けられ、何も不快な気持ちもなく、いつの間にかラムの心の真ん中へと居座ったあの赤髪の少年が自分のするべき事を今全身全霊を込めて行なっているのだ。
自分がそれに答えなくてどうするというのだ。
ラムは竜胆の壁に向けていた視線を前に戻す。すると、丁度屋敷から戻ってきたのだろう黒い前髪を後ろに流している少年・スバルがその三白眼をラムに向けてきた。きっと、文句が言いたいのだろう。
なので、ラムはスバルが文句を言う前に心底ガッカリしたというように残念な声を漏らす。
「バルス、こういう時くらいその無駄に期待上げた筋肉を使わないでどうするの。やはりその筋肉同様使えないものなのね…さて、要らないゴミはここで捨て切ろうかしら」
「こらこら待て待て!って、そういうてめぇも少しは働きやがれ!こっちとりゃ、もう往復五回だぞ?全力疾走の上に両手に抱え切れる限界まで人を担いでの村と屋敷の往復だぞ?これがえらくならないわけないだろがっ!!」
「情けない上に使えないバルス…いいえ、犬…また間違えたわ、ゴミだわ」
「お前にとって俺は犬ですらないのか!!」
キャンキャン喚く黒い執事から視線を逸らしたラムへと駆け寄るのが彼女と瓜二つといっても胸元の膨らみと纏う雰囲気はまるで違う双子の妹であるレムであり、彼女の華奢は肩や腕には其々村人が乗っかっており、恐らく彼女が担ぎ抱えている人達で此処にいる村人は全員であろう。
「姉様、この人達で村の人は全員です」
「そう」
「兄様、お一人で大丈夫でしょうか?」
不安そうにラムの視線の先にある竜胆の焰を纏う光の壁のさらに先を見つめる薄青色の瞳に多くの色を浮かばせながら問うレムにラムは安心させるように淡く微笑むと優しい声音でその問いに答える。
「大丈夫よ、ハルはああ見えてやわじゃないわ」
「はい、そうですね」
「さぁ、ハルが壁を作ってくれている間に村の人たちを運び出しましょう」
そう言い、走り出そうとした矢先に村から屋敷へと向かう道全体を覆っていた竜胆の光壁がボロく崩れ去る。
まず、村を覆っていた壁が段々と半透明になっていき、ボロボロと壊れていき、その綻びから広がるひび割れによって屋敷へと向かう壁も淡く脆く崩れていく。
それが意味することはただ一つであり、真っ先に駆け出そうとするレムの腕を掴んだラムへとレムが何か言いたそうな顔をする。そんなレムにラムはそっと答える。
「ラムがいってくるわ。だから、レムは屋敷とその人たちをお願い」
「姉様ですが…」
「今のラムでは屋敷の村人とエミリア様を守りいるのは無理があるわ。だから、レムが守りを固めてくれる方がいいわ」
「そうですが」
「ハルの事はラムに任せなさい。どんな状況でも連れ帰って見せるわ」
「はい…」
渋々といった感じで引き下がるレムの髪の毛を軽く掬い、ラムは黒い闇に包まれる森へと駆け出す。
どのくらい走ったのだろうか?
時々現れるウルガルムを風の刃で引き裂きながら、ラムが森の抜けた所に来たときだった。
月の光に照らされ、闇の中に湧き上がるのはラムがもっとも見たくなかった光景であった。
濃い青い髪をおさげにしたものを下に垂らし、その小さな両手が切り傷や泥に汚れた中性的な顔立ちを持つ少年の頬を覆い、年相応に愛らしい顔を少年の顔を近づけるとその少年の桜色の唇へと自分のそれを重ねている。
「んぅ…」
静かな森に響くリップ音から少女は短いキスを繰り返している様子だった。赤髪の少年の唇を味わうように蠢く小さな唇と耳にしたくもないリップ音にラムの心にしていた蓋が音を立てて、外れてしまった。それ程までに青いおさげの少女と赤髪の少年…ハルイトのキスシーンはラムにとって衝撃的なものだった。
無造作に自身の右腕を横に振るラムから放たれた緑色の風の刃を寸前で交わした青いおさげの少女が見たのは、肩や胸元が出るようにオーダーメイドされた特殊なメイド服に此処に来るまでに葬ってきたウルガルムの返り血を染み込ませ、肩まで伸びた桃色の髪を自身が起こしている風にはためかせーー
「ラムの男から離れなさい、この泥棒猫」
ーーそう冷たい声音で呟く、激怒の風に荒れ狂う赤鬼の姿だった。
次回はラムさんと青いおさげの少女・メィリィの決闘となります。
また、寝ている間にファーストキスをメィリィに奪われてしまったハルイトをどうかロリコンと言わんでやってください。彼は被害者なのです…だから、ロリコンと言わんでーーはい、くどいですね…(笑)