Re:フラグから始める攻略生活   作:律乃

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続けて、更新です。
今回でこのお風呂シーンは終わりとなります。そして、今回の話が今までの話で一番長いです。色々と複雑な気分ですが、どうぞ!


十四話『マナとゲート』

ポカポカな湯船に浸かり、温まってきた黒髪を上へと持ち上げるような髪型をしている少年・スバルは同じく湯船に入っている藍色を背中の方まで伸ばしている青年・ロズワールへと視線を向ける。

 

「そだ、ロズっち、ロズっち。ちょっと聞きたいことがあんだけど、聞いてよろしくて?」

 

「まーぁ、私の広く深い見識で答えられる内容なら構わないとーぉも」

 

「自分、物知りなんですってそんな迂遠な言い方する奴を初めて見たよ。それはともかくとして、この風呂ってどんな原理で湧いてんの?」

 

コンコンと浴槽の底を叩き、スバルはずっと疑問に思っていたことを問う。

スバルたちが浸かるこの浴槽は石材でできていて、触り心地から大理石のようなイメージを抱かせる。浴場は屋敷の地下の一角にあり、さすがに男女兼用だ。しかし、この浴場は贅沢なことに入浴者ごとにお湯を入れ替えており、エミリアの後に入ったとしても充実感をスバルに与えない。その事実に気付いた時、スバルは愕然としたものだ。

 

「別にお湯飲んだりしないけどね。飲む前に気付いてたし」

 

「スバル……」

 

スバルの発言に冷たい視線を送るのは癖っ毛の多い赤髪を持つ少年・ハルイトだ。ロズワールは驚いたように目を丸くしている。

 

「君の冒険心には時々驚かされるねーぇ。これが若さか……いや、しかし私が若かった頃に君のその発想が出ただろうか。いや、出なかっただろうね」

 

ロズワールはスバルの向こう見ずな若さを眩しそうに見るとコクンコクンと頷く。

 

「まぁ、ともあれ、その答えは簡単だーぁよ」

 

「浴槽の下に、火属性の魔鉱石を敷き詰めているんだよ。入浴の時間にはマナに働きかけて湯を沸かすって原理だね。スバルも見たことあるだろ?あの調理場で俺とレムちゃんが使ってるのをさ」

 

ロズワールに説明を丸投げされたハルイトはロズワールを睨みつつ、スバルへと向き直ると説明する。しかし、スバルにはちんぷんかんぷんだ。だが、最後のセリフには納得した。

 

「あぁ〜、なるほど。鍋ってそういう原理だったんだな。ガスがないのにどうやってんだろと思ってたんだ」

 

「俺も最初来た時はびっくりしたなぁ〜、今はもう慣れたけど」

 

スバルの様子を懐かしそうに見ていたハルイト。しかし、スバルはまだ『マナに働きかける』というのが分からない。

 

「そのマナにどーたらって魔法使いじゃないとどうにもならないわけ?」

 

今度のスバルの質問に答えたのはロズワールだった。

 

「いーぃや、そんなことはないよ。ゲートは全ての生命に備わっているかーぁらね。動植物すら例外じゃーぁない。でなければ、魔鉱石を利用した今の社会は成り立たないだろうしねーぇ」

 

新しい単語の出現に首を傾げるスバルを見兼ねてか、ハルイトが右手を上げる。

 

「はーい。ロズワール先生、俺もそのゲートやらが分からないので教えて欲しいです〜」

 

「よし、仕方がなーぁいね。ここは少し無知蒙昧な君達に魔法使いのなんたるかを教授してあげようじゃーぁないの」

 

「なんかつっこみたくなるな……」

 

「ハルもか」

 

「あぁ、スバルも」

 

「あぁ」

 

しかし、タダで教えてもらえることはないだろう。スバルとハルイトはロズワールへと正座で向き直る。

 

「それじゃーぁ初級から。スバルくんはもちろん『ゲート』について知っているね?」

 

右手を上げて、横に降るスバル。

 

「いや、そんな知ってて当たり前みたいに言われても、知らない側はぽかんですし……」

 

「すんごい急に声の調子が落ちたね。ハルイトくんは?」

 

「いや、ゲートについては……俺も全然分からないです。レムちゃんに教えてもらって、手をかざして、えいってやったら魔鉱石も動かせましたし、そんなに深く知らなくてもいいかなぁ〜って」

 

「相変わらず素直だーぁね、ハルイトくんはーぁ。しかし、二人ともゲートのことも知らないか……控え目に言って、え、それ、マジ?ってーぇ感じ。二人とも使い方、合ってる?」

 

ロズワールが『マジ』の用法の確認を取る。そんなロズワールに二人はうなづく。三人でハイタッチをしてから、授業へと戻る。

 

「ロズワール様、つまり『ゲート』って何ですか?」

 

「あるとないとじゃあ何が変わるの?」

 

「まぁーぁまあ、二人とも。順を追ってから説明するかーぁらね。そうだーぁね、簡単に言ってしまうとゲートというものは自分の体の中と外にマナを通す門のこーぉとだね。ゲートを通じてマナを取り込み、ゲートを通じてマナを放出する、生命線だーぁね」

 

ロズワールの説明に其々の反応を取るスバルとハルイト。

 

「なーる。MP関連の蛇口のことね……」

 

「なるほど。俺の世界でいうパロールってことか」

 

ロズワールの丁寧な説明によって、合点がいく。おおよそ、想像してた通りの内容だった。

 

「ゲートが誰にでもあるってことは、俺にもあるってことじゃね?」

 

「そうだね、スバルにもあるよ」

 

「まーぁ、そりゃあるだろねーぇ。人間の自信があれば。君、人間?」

 

「ふふふ、あっはははっ!ロズワール様、それマジ失礼」

 

「いや、笑ってるお前が一番失礼だかんなっ」

 

ロズワールのセリフに笑ながらつっこむハルイトに、スバルは軽くハルイトの頭を叩く。叩かれたところを抑えながら、恨めしげに睨んでくるハルイトにスバルはどこ吹く風。

 

「ロズっち、俺ほど真人間のまま異世界に放り込ませた男はかつていねぇよ。マジ常人、マジモブ」

 

「ぷっ……スバル、モブで常人なん?そんな目つき悪くて?」

 

「〜〜ッ!!お前は黙ってろっ」

 

ハルイトの頭をポカンと叩いたから、ロズワールへと向き直る。

思い返せば、ここまで辿り着くまで幾つもの困難があった。召喚された一日目には理由もわからず、沢山死に戻りした。このロズワール邸に来てからも一回、死に戻ったが。それがこの魔法習得によって、この死に戻りが緩和されるかもしれない。いや、そんなめんどくさいことはいい、取り敢えず魔法が使いたい!異世界で魔法使いになるとか最高じゃん!!

もうドキドキワクワクのスバルは興奮気味に語る。

 

「この異世界に来てからの一番嬉しかったことはもちろんエミリアに会ったことだけど、これもかなりヤバイな!きたがついに俺も夢の魔法使い……いや、これでこそが俺が待ち望んでいたチャンス!」

 

「いや、チャンスって……魔法使いもそんな楽しいのじゃないと思うけどね……」

 

「いーぃや、魔法の話でそこまで喜んでもらえるとなーぁると、魔法使い冥利に尽きるってーぇもんだね。もっとも、ゲートがあっても素養の問題は大きい。自慢しちゃうけど、私のように才能に恵まれることはまずなーぁいもんだよ」

 

「……ッ」

 

ロズワールのそのセリフにハルイトは胸を抑える。いつもの心臓を握りしめられる感覚にハルイトはスバルへと視線を向ける。そこにはーー

【ドヤ顔を浮かべた黒髪の少年が腰に両手を添えて、自信満々な様子で踏ん反り返っている】絵が白い旗にプリントアウトされている。

“うわぁ〜、意味わからんけどムカつくフラグが出た〜”

これまた今まで見たことがないフラグだが、見ていると無性に腹が立ってくるのはどうしてだろうか?

そんなハルイトに気づく様子がないスバルはロズワールへと魔法の話を促していた。

 

「きたぜ、きたきた。ロズっち、俺の新しい希望だ!魔法、魔法、魔法トークしようぜ。なんか分かんないが、俺には分かる!今、魔法の波がきてる。俺の輝かしい未来が、波間に漂ってるよ!」

 

「そーぉ?それじゃ続けちゃおう。魔法には基本となる四つの属性があるわけだーぁけど、知ってるかなーぁ?」

 

「知らなーい!」

 

「知らないのかよ……。基本となるのは火・水・風・土だろ?」

 

「チィ」

 

「なんで俺舌打ちされた!?」

 

スバルの舌打ちにハルイトはオーバーリアクションを取る。そんなハルイトを置いておいて、ロズワールへと向き直るスバルは続きを促し続ける。

 

「ハルは置いておいていいからさ、続き続き!」

 

そんなスバルに気を良くしたロズワールは説明を続ける。

 

「熱量関係の火属性。生命と癒しを司る水属性。生き物の体の外に働きかける風属性。体の内側に働きかける土属性。主に属性はこの四つに大別されていて、普通の人はその中の一つに適性があるってーぇこと。ちなみに、私は四つの属性全てに適性があるよーぉ?」

 

「わぉ、自慢うざいけど形式上褒めとく、すごい!属性ってどうやって調べるの?」

 

「それはロズワール様ほどの魔法使いなら触っただけで分かるんじゃないんですか?」

 

「チィ」

 

「なんで、俺が答えるとスバルは舌打ちすんの!」

 

「で、ロズっち。ハルの言ってたことって合ってるの?合ってんなら、俺にして!」

 

「無視かよ!」

 

「そーぉだね、分かるよ」

 

「ロズワール様まで!?」

 

スバルとロズワール双方から無視されたハルイトはガクっと肩を落とす。そんなハルイトの横でスバルは興奮気味でロズワールに近づくと

 

「マジでマジで!きたよ待ってたんだよ、こんな展開!見てくれよ、今すぐそして教えてくれ!」

 

「よっし、スバルくんの見てあげようじゃーぁないか。ちょこーぉと失礼します。みょんみょんみょんみょん」

 

ロズワールがスバルのおでこへと右手を置くとスバルの瞳がキラキラと輝く。

 

「うおお!魔法っぽい効果音だ!今、ファンタジックしてる!」

 

「よぉーし、わかったよ」

 

「きたきた、待ってました、待ってましたよ!何だろ、何なるかな。やっぱ俺の燃えるような情熱的な性質を反映して火?それとも実は誰よりも冷静沈着なクールガイな部分が出て水?あるいは草原を吹き抜ける涼やかで爽やかな気性が本質とばかりに風?いやいや、ここはどっしり悠然と頼れるナイスガイな兄貴分な素養を見込まれて土とかでちゃったりして!」

 

「よくそんなに自分のハードルを持ち上げられるよな……、四つともスバルではない気がするけど」

 

目を開けたロズワールにスバルの期待がMAXへと達する。そんなスバルの横にはハルイトが呆れ顔を浮かべている。

 

「うん『陰』だね」

 

「ALL却下!?」

 

「ぷっ」

 

「笑うんじゃねぇ、そうだハルはどうなんだよ!」

 

スバルの押されて、ロズワールの前へと押されたハルイトのおでこへとロズワールはのっける。

 

「んー、『火』と『陽』かな」

 

「負けた!」

 

「いや、勝ち負けとかないだろう……」

 

ハルイトの呆れ声にロズワールはスバルへと視線を向ける。

 

「スバルくんのはもう完全にどーぉっぷり間違いなく『陰』だね。他の四つの属性との繋がりはかなーぁり弱い。逆にここまで一点特化は珍しいもんだけどねーぇ。

ハルイトくんのは程よく全ての属性を使えるよーぉだね。練習の賜物ってわーぁけだね。程よく使える属性の中で『火』と『陽』が格別に高いーぃね」

 

「ちょっと待った!『陰』ってなんだよ!分類は四つじゃねぇの?カテゴリーエラーしてるよ」

 

怒り気味のスバルにロズワールが説明をする

 

「話さなかったけーぇど、四つの基本属性の他に『陰』と『陽』って属性もあるの。たーぁだーぁし、適合者はほとんどいないから説明は省いたんだけどねーぇ」

 

スバルは怒りを鎮めようとする。そう、これはある意味チャンスなんだ。そう限りなく希少な属性ということなんだ。例外がないってことは……。

スバルは期待を込めて、ロズワールへと問いかける。

 

「なんかすごい属性なんだろ、実は?五千年に一度しか出ないとかいう超強力的みたいな!」

 

「そーぅだねぇ、『陰』の属性の魔法だと有名なのは……相手の視界を塞いだり、音を遮断したり、動きを遅くしたりとか、それとかが使えるかな?」

 

「デバフ特化かよ!?」

 

デバフとは敵を弱体化させるスキルの総称であり、補助職まっしぐらな特化性能である。

申し訳なそうな言葉を紡いだロズワールの表情からこの事実を覆すことは出来ないのであろう。

スバルはその後、落ち込んだように何も喋らなかった……




次回はスバルとハルイトの視点で

※特別章:ラムとハルがイチャつく話を書きました。宜しければご覧下さい。

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