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一話『不思議なお客様と赤髪のメイド』
「いっ……、嫌ぁ……それはいやだぁっ」
「兄様、我儘を言わないでください」
「そうよ、ハル。レムが困ってるんでしょう?」
朝を迎えたロズワール邸のある部屋の中、二人の少女が薄っすらと涙を浮かべてただをこねる赤髪の少年に手を焼いていた。だが、二人の少女が本当に困っているというわけではない。何故なら、二人とも微笑みを浮かべているのだからーーそれも意地悪な笑みを……
「困っているのは俺の方だよっ!なんで、今日に限ってメイド服を着ないといけないんだよっ。そんなの着たら、俺の男としてのメンツが……ッ」
「はぁ……」
泣き崩れる赤髪の少年ことハルイトを見つめながら、顔を見合わせる双子のメイドことラムとレム。ラムは桃色のショートボブを揺らすと溜息をつくと、ハルイトの前へと進み出る。見上げるハルイトにラムは冷酷にもこう命じた。
「ハル、着なさい」
「ラムさん、それだけは……それだけはご勘弁を……」
「いいから着なさい」
「……嫌、それだけは……」
「着なさい。これは命令よ」
「…………………はい」
何度も土下座を繰り返すハルイトにラムは静かに命じる。このメイド服を着ろと、そうしなければ今日の話し合いは無しにすると、事の次第によってはその先も無くすかもしれないと……。そんなのを薄紅色の大きな瞳で言われたなら、もう従うしかない。そうするしか、ハルイトは生きていけないだろう。
ポロポロと涙を流すハルイトを立たせると傍らに立っていた青髪少女ことレムが着替えさせる。本来なら自分で着たいだがメイド服など、どう着るかなんて分かるわけがない。なら、そのエキスパートに任せるしかない。というわけではハルイトは大人しく、今日の仕事着へと袖をとおした。
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メイド姉妹と別れた俺は今日の初仕事に精を出していた。着慣れてないメイド服を揺らしながら、朝食を作っていく。スープをかき混ぜて、口に含むと舌を転がして 味を確かめる。
「良しっ、いい感じの味付け。レムちゃんに習って俺の料理スキルも上がったな」
テキパキと魔鉱石を操りながら、食材を切ったり煮たりしていく。今日は俺が食事当番だ。ちなみに明日はレムちゃん、その次が俺だ。一日ごとに変わりばんこというのが俺とレムちゃんで話し合った結果なのであった。
“しかし……、運がいいのか悪いのか。エミリア様を助けてくれた大事なお客様の最初の食事が俺って”
口に合えばいいけど、と思いながら俺は手を動かし続けた……
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件のお客様は何というか、不思議な奴だった。黒く短い髪を上へと持ち上げている。服装は動きやすそうな黄色いラインが入ったジャージというものだろう。目つきは両方釣りあがっていて、がたいはそれなりに鍛えているのだろう、がっしりとしている感じだ。
「ハル、いつまでつったてるの。さっさと配膳しなくては料理が冷めてしまうわ」
ポカーンとお客様を見つめる俺に後ろから厳しい声が聞こえてきた。振り返ると俺と同じタイプのメイド服に身を包んだ桃髪の少女が居た。薄紅色の瞳が段々と険しくなるのを感じ取り、すぐさま行動を起こす。
「あっ、すみません。ラム姉様、すぐに取り掛かります」
上のセリフは俺が発したものだ。何が何だか知らないが、メイド服に身を包んでいる俺はラムさんとレムちゃんの妹という設定らしい。なので、そのように振る舞うようにと固く言いつけられた。俺にとっては何の利益も無いがラムさんが言ったことだし、腹を括るしかないだろう。
最初は件のお客様から配膳を行なっていく、俺が台車を押す係で食事を並べるのがレムちゃんの役割でお茶とスプーン、フォークを並べるのがラムさんの役割である。
「失礼いたします、お客様。食事の配膳をさせていただきます」
「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳をさせてもらうから」
テキパキと配膳していく二人の側、俺はというと手持ち無沙汰で台車を次のところへと押していた。すると、ふと視線を感じて 振り返るとあのお客様が俺を見つめていた。小首をかしげる俺にサッと視線を外すお客様。
“なんなんだ……一体……”
不思議に思いながらも俺は二人のサポートへと向かった……
ハルが可哀想でしたね〜