今回は父親や母親、親しくしていた人達との関係を書いてますので、宜しければご覧ください…
※そして、今回は長めです、個人的に重要な話だと思ったので……。
まぁ、長い…といっても、普通の章の話くらいなんですけどね(笑)
ラムさんに選んでもらったお茶を持ち、自室へと戻ってきた俺にも気付かずに、レムさんは微動だにせずに、あるページをジィ〜と見る。
“ん〜、何を見てるんだろ?”
レムさんを驚かせないように近づいて、そのページを見てみると、そこには俺にそっくりな女性が描かれていた。
癖っ毛の多い長い赤髪はゆったりと後ろで結ばれているようで、前髪も彼女の息子がつけているような幼稚なヘヤピンで止められていた。大きく勝ち気な赤い瞳は、強い意志を感じる。適度に整った顔立ちは、可憐というより美人の方に属されているのであろう。
“懐かしいなぁ…、これ、俺がこの屋敷で働くことになった時に書いたんだっけ”
この屋敷に来たときは知っている人も居らずに、つい…お母さんやお父さん、師匠などに縋り付きたくなり…気付けば、一晩で8ページを描いてしまっていてしまった…。
その時を思い出して、気恥ずかしさから赤く癖っ毛の多い髪を撫でる。その動作で、青髪の少女は俺が戻っていたことに気付いたのだろう。
慌てた様子で俺の方を見ると、パタンとさっき見ていたページを閉じてしまう。
「……、…!?あっ、ハルイトくん…帰ってきてたんですね…」
「あはは…ごめんね、レムさん。驚かせちゃった?」
俺がティーセットに乗っけっているカップにお茶を注いで、レムさんへと渡すと、レムさんは軽く会釈してそれを受け取る。
「いえ、レムは…そこまで。その…ハルイトくん、ごめんなさい…」
受け取りながら、申し訳なそうな顔をするレムさんに俺は眉を上げる。
「なんで、謝るの?俺が見てていいよって言ったんだから」
「いえ、しかし…レムが勝手に見てしまったのは事実ですから…」
そんなレムさんの隣に腰掛けながら、俺はさっきレムさんが見ていたページを開くと、不思議そうな顔をするレムさんへと微笑む。
「なら、もう少し見ててもいいよ。ちなみに、その女性が俺のお母さんだよ、名前は小糸。ほら、前に俺が光の壁や鎖を作ったことがあったでしょう?本来は、その技はお母さんの力なんだ」
「コ……イ、ト…さん?」
俺が母の説明をすると、レムさんがいつかの時みたいに難しい顔をして、言葉を発する。その発せられた言葉に頷きながら、俺は次のページをめくる。
そこにはーー深緑の短い髪に、空のように澄んだ青で大きめの瞳を持つ穏やかな笑みが特徴的な男性だ。昔、若い頃の写真を見せてもらったことがあるが、その時と変わっているところというと……年になって、目が悪くなったと眼鏡をかけているところと皺が増えたことだろうか。
“俺も将来は、こうなるのかな…?”
しかし、父のような穏やかな人になれるのであれば、とてもいいことだと思う。幼い頃によく遊んでくれたし、俺にとっての理想の父親図はやはり、父なのだから…
「そう、コイト。そして、次のページに描かれてるのが、俺のお父さんで晴彦っていうのが名前なんだ…。で、ここまで言っちゃうと分かると思うけど、俺の名前はそんな二人からそれぞれ人文字ずつ取ってから付けられたわけですよ、全く安易だよね?」
「コイトさんにハルヒコさん……、………あぁ、本当ですね」
俺がレムさんへと困ったように微笑みかけると、レムさんは暫し俺の言葉の意味がわからなかったようだ。小さく俺の父と母の名前を反芻して…パッと顔を明るくさせて、俺の方を見てくる。そんなレムさんに頷きながら、次のページを開く。
そこには、俺が今までで一番、お世話になった女性が描かれていた。鮮やかな色合いを持つ金髪は母のようにゆったりと結ばれており、慈愛に満ちた紫の瞳は少し切れ長で、左眼の下にあるホクロも女性を表現するのに必要となる要素だろう。
「納得してくれたようで嬉しいよ。そうだ、ついでに他の人達も教えてあがるよ。次のページに描かれているのが、俺をここまで強くしてくれた舞師匠。俺の技はこの人が作ったものなんだ」
「そうなんですか…この人が……」
そう呟くレムさんの薄青色の瞳に、複雑な感情が芽生え始めているのに俺はおろか、レムさん自身も気づいていなかっただろう。
まぁ、俺はそんなレムさんの些細な変化より、くだらないことに思考を咲いてしまっていたから……
“まぁ…師匠を表すには胸を伝えれば、一発なんだけどね………”
一緒に練習していると、プルンプルンと暴れまくるおっぱいは幼心に今だに覚えているーー
「ーーって、そんな事しか覚えてないのかよ、俺……」
自分の事ながら情けない…
「ハルイトくん?」
そんな最低な思考回路の俺を心配そうな表情で見つめるレムさんに申し訳なくなってしまう。俺はレムさんに笑いかけながら、次のページをめくる。
そこには、艶やかな黒髪を小さな肩へと流している女性が描かれている。まん丸で大きな水色の瞳に続くのは、適度に整った顔立ち。しかし、女性は美人というより可愛らしい……可憐と表現したくなるほどに愛らしい。それは、今でも俺が思っている事だ。
“叔母さん…元気かな…”
「あぁ、大丈夫だよ。で、次の黒髪の女性が玲奈叔母さん。小さくて可愛らしいんだけど、その見た目からは想像できない位よく食べるんだ……子供ながらに、この量の食べ物はこの人の何処に行くんだろう?って思ったよ。それくらいよく食べるし、すら〜としてるんだ。そして、次がーー」
「ーーふふふ…」
突然、笑い出したレムさんに首を傾げる俺に、レムさんは申し訳なそうな表現を作るが、それも一瞬でキョトンとしている俺を見て、また笑い出す。
「?」
「いえ、すいません…ハルイトくんが家族の皆様のお話を楽しげに話しているので、つい…」
「……ッ、!?」
レムさんの謝罪を聞いた途端、胸を締め付けられる。ゆっくりと上を向くとサラサラと手入れの行き届いた青い髪にひょっこりと顔出す白い旗。
“【真っ白な布地の真ん中にはピンク色の大きなハート】がプリントアウトされてるか……”
どうやら、何がトリガーになったのか分からないが、レムさんもラムさんと同様に攻略しないといけないらしい…。
こっそりとレムさんを盗み見ると、レムさんも俺の視線に気づき、小首を傾げてくる。ただ、それだけの仕草なのにーー
“ーーレムさん、可愛いッ!!”
と思ってしまった俺は本当に最低な男である……。本当…ラムさんという人がおりながらも、他の女性へと目移ししてしまうとは……
“でも、仕方ないよね……フラグが出ちゃったんだもんっ”
と開きなった俺は、そのあとに続く人達の説明をした……
τ
それから、数時間後にふと魔刻結晶を見た俺はまだ興味深げに見ていたレムさんへと声をかける。
「あっ、もうこんな時間だ…レムさん、時間だよ。そろそろ、寝なくちゃ」
「?あっ、本当ですね」
俺と同じように、魔刻結晶を見たレムさんはスケッチブックを閉じると、俺へと差し出す。それを受け取りながら、俺は申し訳なそうな顔を作る。
「結局、星座の話出来なかったね、ごめん」
「いいんですよ、ハルイトくんが大切に思っている家族の方たちの話が聞けたので…」
そう言って、立ち上がったレムさんは俺へと頭を下げるとドアへと歩いていく。そんなレムさんの手助けをするように、ドア開けて、もう一度頭を下げてくるレムさんへと右手をひらひらと振る。
「こんな話で良ければ、いくらでもしてあげるよ。それじゃあ、お休みなさい」
「はい。おやすみなさい、ハルイトくん」
ゆっくりと遠ざかっていく青髪を俺は小さくなるまで、眺めていた……
九話に続く…