※主人公のパロールを変えました
静まり返った屋敷の庭に俺は立っていた。手元にある紙にスラスラと絵を書いていく。書き上がった絵の隅にある魔法陣に指先を切り、血を染み込ませて行く。二枚書いたうちの一枚には炎の翼をはためかせた鳥が描かれていた。もう一枚には白と黒のシマシマが特徴的な虎が書き上げられている。どちらにも素早く血を滲ませていく。
「前いまし今いまし先します主の戒めあれ。ZAZAS、ZAZAS、NASZAZAS。罪生の魔性を回生せよ。EVOKE、朱雀、白虎!」
「キュルルル」「ガルルル」
二匹が黄緑色の魔法陣から姿を表せると二匹が脚や頬にふさふさの毛並みをすり寄せてくる。それをこそばゆく思いながら、召喚に応じてくれた二匹を改めて見る。
俺の肩にとまり、頬に擦り寄ってくるのが朱雀で大きさとして俺の顔くらい。ユラユラと揺れる橙と紅のグラデーションが美しい焔の翼と鶏冠を持っている。愛くるしいまん丸の黒い瞳が此方を見つめている。脚に擦り寄ってくるのが夜風にたなびくサラサラの白と黒色をしたシマシマ模様が特徴の虎である。大きさとして寝そべった俺がまるまる入るくらいだろう。此方も愛くるしいまん丸の黒い瞳で俺を見つめている。
そんな二匹を撫でながら、俺は申し訳なさそうに眉をひそめた。
「いつも悪いな、朱雀 白虎。今日も俺の特訓に付き合ってくれるか?」
「キュルルル」「ガルルルル」
二匹は揃って、人懐っこい鳴き声を庭へと響かせた。感謝の意を伝える為に二匹をもう一枚撫でて、俺は構えを取る。二匹も俺から離れると其々の立ち位置へと移動した。
「ガルルルル」
「今日は白虎が相手してくれるのか?」
「グルルル」
「そうか、ありがとうな。朱雀は俺と白虎が誤って放った力の分散をお願いする、頼むな」
「キュルルル」
「頼りにしてるからな。じゃあ、始めようか?白虎」
「ガルルルル」
手招きした俺へと白虎が飛びかかってくる。それを腕で防ぎ、カウンターを入れようと右手を突き上げた。
τ
俺の住む世界にはファントムという者たちが暮らしている。
〈ファントム〉ーー英語で『幽霊』『亡霊』などを指し示すその言葉の通り、ファントムは人類にとって架空あるいは幻想とまで呼ばれていた者の姿を認識出来るようになったのは、ある施設から流れ出たウィルスが原因であると言われている。そのウィルスが人類の脳は刺激されて、認識機能が改変された。それによりファントムと呼ばれた者たちの姿を誰でも認識出来るようになり、次第に日常の一部となっていったのである。しかし、ファントムも人間と同じで色んな者が居る。人類に友好な者もいえば、人類に害する者も少なからず居る。そんな悪事を働くファントムを封印、追い払うのが〈特異能力者〉の役目である。
俺の父と母もこの特異能力者であった。
父は〈絵を書くことにより封印や召喚〉が出来る特異能力を持っており、母は〈歌声〉で強力な攻撃を放つ特異能力を持っていた。冒頭で触れたセリフはバロールで特異能力を発生しやすくするものと前、師匠に教わった気がする。
そんな二人の間に生まれた俺だが、実にチグハグな身体になってしまった。
〈母譲りの火力に父譲りの運動神経ゼロ〉
師匠曰く未完成な器に水が注ぎ続けられている感じ、らしい。母も同じような事を言っていた。父に至っては師匠と母の鋭い視線を受けて縮こまっていた。
師匠の言った話をわかりやすく言うと水=力(特異能力)を充分に発揮するための器=身体が出来上がっていないということ。幼い俺は噛み砕いて要点を話してくれた師匠に首を傾げたものだ。そんな俺の様子に師匠は笑い、頭を優しく撫でてくれた。
物心が付き始めた頃には師匠と共に基礎体力を上げる為、ランニングや腕立て伏せをした。毎日、へこたれながらも続けた結果 基礎体力と筋肉が多少ついた。しかし、まだまだで鍛練を続けるようにという師匠の言いつけ通り、たまにこうして召喚した使い魔と共に対戦しているということだ。
τ
「ガルルルルッ!!!」
「トッ」
俺を追い詰めようと飛びついてくる白虎を交わして、回し蹴りを決める。少し距離が空いた隙にバロールを唱える。
「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、標を留め置け!」
スゥーと息を吸い込み
「アァアアアアアアーーー」
母が得意としていたバロールだ。淡い檸檬色の光を放つ鎖に繋がれた白虎にもう一撃加える為に構えを取る。
「火克金の理により五行万象を発生し、緋にして橙なる火の氣は金を禁ず。心の火氣で拳を満たさん。陽にして飛なる火の氣は拳を満つ。いざや!一騎当千の戦に挑もうぞ!」
唱えながら、胸元を撫で 火の氣を集める。淡く赤い星の印がついてきたのを感じて、目を見開き 白虎へと拳を放とうとして一歩踏み出した。そして、視界が緑へと早変わりする。じわじわと広がる疲労感と筋肉痛、そして足を走る電機めいた痛みに俺は視界が早変わりした理由が分かった
“つったんだな、足”
「ガルルルル」
ペロペロと頬を舐められながら
「あはは、やっぱりお前には勝てないよ。白虎」
痛みを無理やり笑い声で白虎といつの間にか、近くに降りていた朱雀へと手を伸ばす。二匹によしよしとしてやり、二匹を本来居るべき場所に帰した。
「痛ぅ……、これは暫く こうしてた方がいいな……」
小さくそう呟き、俺はポロリと涙を流した。そんな芝生へと倒れこむ主人公を二つの人影が最上階から眺めていた……
主人公の親ですが、父親が一条晴彦さん 母親が水無瀬小糸さんとなっています。無彩限のファントム・ワールドで作者が特に好きだったキャラクターです。主人公の外見は小糸さんからとってます、名前は二方から一文字ずつとって名付けみました。この二方はまだ主人公の回想にあまり出ていませんがいつかしっかりと書きたいと思います。