「ぅん?ここは……」
真っ白な天井、その天井に取り付けられたシャンデリア。その眩さに目を細めながら、起き上がる。目をこすりながら、辺りを見渡す。
“誰も居ない……”
ザッと見渡したが、人の気配は感じられない。
“しかし、本当に広い部屋だな……”
二十畳くらいありそうな掃除の行き届いた部屋。白光りするタイル、これ程大きな部屋なのに配置されているものが今 腰掛けているベッドしか無い。ふかふかのベッドは今まで愛用していたものとは明らかに格の違いを感じる。
「あら、目が覚めたようね。お客様」
ビクーンと肩を震わせて声がした方へと向き直ると、入り口と思われる所から一人の少女が此方の様子を伺っている。
肩までで揃えられた短い桃色のサラサラな髪。此方を見つめる薄紅色の瞳はスゥーと細められて、フッと微笑を浮かべる桃色の唇。適度に整った顔立ちにはまだ幼さが残る。
「………」
それ以上に桃髪の少女が身に纏っている服装に目を見張った。
“メイド服だ、と!?”
黒を基調としたエプロンドレス、頭の上にはホワイトプリムが続く。細い肩が露わになった特殊な改造メイド服。華奢な体のラインがはっきりと浮き出ていて、何処と無くセクシーである。
“〈メイド服〉
黒や濃紺のワンピースに白のフリがついたエプロンを組み合わせたエプロンドレスに白いフリルが付いたカチューシャを組み合わせた服装の事である。始まりはよく分からないが18世紀にはあったらしく、その頃の貴婦人達のファションブームにもなった。19世紀後半の米国では最初に触れたタイプのものはメイドの人が午後の仕事に着用するものだったらしく、本来であればメイド服というのは存在しないものだったが、『貴婦人が連れ立って歩いていたら、後ろを歩く女性(メイド)には声をかけてはいけない』というマナーがあったため、女主人とメイドを明確に区別するためにメイド服が必要とされたという説がある。他にもダニエル・デフォーという人が『女中はそれにふーー”
「ーーレムを連れてこなくて良かったと。ラムは今、お客様のいやしい視線を受けながら思うわ」
細められた薄紅色の大きめな瞳に嫌悪と憤慨(何に対してかは分からない)の色を大きく含んでおり、俺は困惑した顔を浮かべる。父譲りの残念知識を頭で流してたのは悪いと思うが嫌悪される程に彼女の姿を見つめていないと思うが……。それ故に俺は桃髪の少女にツッコミを入れる。
「ただ眺めただけでその反応!?」
「ラムのメイド姿を視姦してよく言うわ。あのまま、森に捨てていれば良かったとラムは自分の老婆心に嫌気が差すところよ」
肩を竦めて、此方を蔑む視線を送る桃髪の少女に俺は諦めたようにため息をつく。実際、彼女のおかげで助かったのだ。文句をいうものでは無いだろう。俺はベッドの近くまで歩いてきた桃髪の少女に頭を下げる。
「その老婆心のおかげで俺はここに居るわけね。取り敢えず、助けてくれてありがとう。それより、さっきレムって言ったよね?君のほかにもここで働いている子がいるの?」
俺の質問に意味深な沈黙で答えた桃髪の少女は俺を一瞥するとスタスタとドアの方へと歩いていく。
「………。はぁ……。着いてくるといいわ、お客様。この屋敷の主、ロズワール・L・メイザース様がお客様をお呼びよ。……なんでこんな女々しい男をここで働かそうとするのか、ロズワール様のお気持ちがラムは不思議でならないわ」
「おい!そこッ。着いてこいっていうわりにズンズン歩いて、お客様を置いてけぼりとかメイド失格と思わないのか!?俺の質問にも答えないし!それ以上に本音をチラリズムとかどうかと思うよ!?」
「煩いわね、お客様。レムの仕事の邪魔になるでしょう」
「うん、お客様より同僚が立場が上とかどうかしてんな!?この屋敷!」
「はいはい、早く来ないと置いていくわよ お客様。ラムだって忙しいんだから」
「くっ……、それを言われては何も言い返せないな……」
その後は黙って、桃髪の少女の後ろを着いて歩いた。
τ
「ロズワール様、連れてきました」
桃髪の少女に連れられて来られた部屋に入ると一つの人影が目に入る。椅子に座っているその人影は俺を見るとニッコリと笑う。
濃紺色の髪を背中に当たるくらいに伸ばし、左右で異なる瞳が俺を映し出している。線の細い体つきは此方が心配になるほど病弱で整った顔も青白かった。しかし、その身につけている奇抜なファッションやメイクは何なのだろうか?
「はじめまーぁしてだね。私はこの屋敷の当主、ロズワール・L・メイザース。君も黙ってないで名乗ったらどぉーだい?」
あまり想像していたよりも数倍個性的な屋敷の主に驚きが隠せない俺。
「………。あっ、ごめんなさい。俺の名前ですね。一条 晴糸(いちじょう はるいと)といいます」
絶句していた俺は瞬時に自分の置かれている状態を思い出し、頭を下げながら名乗る。ロズワールは俺の無礼には気にも留めてない感じで机の上に組んだ手の上に顎をのせると俺に微笑みかけながら、更に俺を驚かせる事をいう。
「ハルイトくんだぁーね。突然だけど、ここで働かないかぁーい?」
「へぇ?…………ッ!?」
驚く間も無く、ズキンと心臓が軋む。その痛みから冷や汗を流しながら、前を向くとロズワールの頭の上にひょっこり顔を覗かしている白い旗ーー
“ッ……こいつが原因って訳か……”
ーーそこには
【1と書かれた三角旗の周りに赤い矢印が書かれており、その矢印が斜め上へと向かって伸びている】
が描かれており、俗に言うストーリーフラグというものだろう。ストーリーフラグとは物語を進めるために必要な分岐点が印されたフラグの事で、そのフラグが現れたということはーー
“俺はこのロズワールのお願いを聞き入れなければならないということか?”
ズキンと心臓が脈打ち、続けて現れる白い旗。
【ロズワールに跪く赤髪の中性的な顔立ちをした少年】
がプリントアウトされた旗に俺は困惑する。その旗に印された少年は間違いなく俺だろう。その俺がロズワールに跪いているということは
ーー忠誠を誓えというのか?この得体の知れない青年に?
ズキンズキン。
『まるで口答えするなッ!』というように心臓が締め付けられる。目の前の光景が遠のいてくる。ドクンドクンと脈打つ心臓の音だけ やけにやかましい。
「はぁ……はぁ……。ッ⁉︎」
ズキンズキン、ドクンドクン。
カンカンと警告音が頭の中に鳴り響く。
「ハルイトくんはだぁーいじょぶかい?顔色が悪い気がするよ?」
遠くの方で誰かが俺の名前を呼んでる気がする。しかし、所々しか聞き取れず 何を言っているのか分からない。
ズキンズキンズキンズキン、ドクンドクンドクンドクン、カンカンカンカン。けたたましく鳴り響く三つの音。
「お客様?大丈夫なの?足が赤子のようにフラフラよ」
まるで熱が加わったプラスチック容器みたいにグデ〜ンと視界が溶けていく。その間にもズキンズキン、ドクンドクン、カンカンと言った警告音は鳴り響く。荒く息を繰り返しながら、俺はふらつく脚に力を入れて こう言った。
「分かりました……。俺をこの屋敷で雇ってください……」
途端、ズキンズキンと心臓に広がる不快な痛みもカンカンとけたたましく鳴り響く警告音も鳴り止んだ。胸元を掴みながら、深呼吸を繰り返す。そんな俺を見つめる二人が心配そうな瞳の裏に意味深な色を滲ませていることも俺には気づけないでいた……
主人公の名前を見て、ピンときた人も居るのではないでしょう?これからの話で主人公のお父さんとお母さん、この二人の事も書いていこうと思うので宜しくお願いします。それまでは皆さんも主人公のお父さんとお母さんが誰なのか考えながら、ご覧ください。
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