サイヤ人に捧ぐ   作:もちマスク

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登場初期のフリーザ様は本当にかっこ良かった


紅茶の色は紅かった

フリーザがエミューゼを前にして抱いた感想は“やはりか”というものだった。

 

彼はサイヤ人でもなければ、スカウターなしに強さを測る術ももたない。戦闘力をコントロールする相手がいれば、彼に相手の強さを知ることはできない。

 

それでもなお、彼はエミューゼに対して戦慄を覚えた。

彼以外は気付いてはいない。側に控えるドドリアは鼻を鳴らしてあからさまにエミューゼを見下し、ザーボンは呑気にエミューゼの美しさを評価している。

 

しかし、この場にいてフリーザだけは、目の前のサイヤ人が只者ではない事を見抜いた。

長年、ならず者達をまとめ上げていた彼は人を見る目に自信があったし、加えてフリーザの勘は昔からよく当たった。後にナメック星にて見知らぬサイヤ人の成長を嫌な予感として捉えられる程には、彼の直感は卓越していた。

 

ゆえにフリーザは自身の判断を疑わない。最大限の警戒が必要だと考えた。少なくとも、第一形態のままでは瞬殺されるだろうことは察することができた。

 

(この感覚……妙ですね。いまのサイヤ人がこの眼をできるはずがありません)

 

フリーザがまず違和感を覚えたのは、まず彼女の視線であった。

この視線に、フリーザは妙な既視感を抱いたのである。

 

(この眼は…強者の眼だ。自身の強さを信じて疑わない絶対者が持つ眼だ)

 

兄のクウラや父コルド達と同じ眼だ。恐らく、自分と同じ眼だ。

対峙する相手を遥か高みから値踏みするような、そんな眼だ。

自分に支配され、屈辱を噛み締めているであろう今のサイヤ人が持っていてよい眼では断じてない。

ゆえに、この時点でフリーザは、彼女がベジータ王の娘ではないこと、スカウターの数値が虚偽であることを確信した。

更に、ベジータ王がエミューゼの話をした時に妙に怯えていた理由、彼等の力関係に当たりをつけた。

 

同じ絶対者だからこそ。そしてフリーザの卓越した識別眼だからこそ見抜くことができた事だった。

 

やはり、7人ものサイヤ人が死んだという惑星サダラの残骸調査が関係している。

目の前のサイヤ人は明らかに何かがおかしい。

 

フリーザは恐怖など抱かなかったが、不安を覚えはした。

 

目の前の存在は明らかに誰かの下につくことを良しとはしないだろう。ベジータ王の下にいて大人しくしているはずがない。

何故、彼女は惑星ベジータにあって不気味なほどに沈黙を保っているのか。

何故戦闘力を隠し、ドドリア如きに嘗められて意に介さないのか。

 

彼女の目的の不透明さだけが、フリーザの不安の種だった。

 

もしこのフリーザと利害が衝突すれば、厄介な障害になりうる事は容易に想像できた。

少なくとも、兄クウラ並みの脅威として見積もっていた。

 

「お待ちしていましたよ。初めまして、エミューゼさん」

 

「えぇ。中々に立派な宇宙船だったものですから、つい散歩に興じてしまいましたもので」

 

 

悪びれもせずに笑顔で応えるエミューゼ。フリーザは眉を微かに動かしたが、咎める事まではしなかった。

それどころか、彼はいまのやり取りだけで、腹の探り合いは必要なさそうだと感じた。

どうやら彼女はベジータ王の顔を立てる気は無いようだったからだ。

むしろ、彼女を筆頭に挙げてベジータ王が反旗を翻さない理由に合点がいったくらいであった。

いまの応酬の意味に気付かなかったドドリアは額に青筋を立ててエミューゼを非難するが、彼女は何処吹く風かと言わんばかりに紅茶を口に運んでいた。

 

なんでも、食堂でギニュー隊長に奢ってもらったのだとか。

 

「とても親切な方で、此処までの道を教えていただきました」

 

「それは良かった」

 

フリーザが気にする様子が無い上に、ザーボンはある程度事情を読み取ったのか、エミューゼに紅茶の飲み方やマナーを説く始末。この辺り、流石は元王族かとフリーザはザーボンの評価を少し上方した。ドドリアは混乱するばかりであったが。

 

「なるほど。茶とは中々に奥が深いのですね。このようなものは、私が生きた時代にはなかったものですから」

 

新鮮な気分です、と微笑むエミューゼ。

 

フリーザの眉は再び動いた。

生きた時代?

それは、惑星サダラの調査に関係あるのだろうか。

しかし、聞く事はしなかった。もう少しばかり彼女との会話を楽しみたいと感じていたからだ。

 

結局、この日はただお茶会を開いただけに終わった。

思いの外、エミューゼとの話は弾んだ。野蛮なサイヤ人とは思えない立ち振る舞いはドドリアにすら好評であった。

お開きになった時に「珍しい奴もいるもんだ」とガハハと笑っていたほどに。

 

しかし、ザーボンの表情は険しかった。

 

「よろしかったのですか、フリーザ様。彼女の目論見はわからずじまいでしたが…」

 

「構いません。少なくとも、不穏な動きを見せるベジータ王に与していないことはわかりました」

 

「まあ、ベジータ王に御せるような存在ではないでしょうが……」

 

「反抗期ってやつか? 俺の娘も最近生意気を言うようになってきてな」

 

「ドドリア。少し黙ってた方がいいよ、お前」

 

しゅんとなるドドリアをよそに、フリーザは機嫌が良かった。

自身の勘が正しければ、彼女は自分の“目的”の邪魔はしないだろう。それどころか、嬉々として応援するだろう。

 

「で、でもよ。戦闘力はたったの1だぜ。いくらサイヤ人だからってあれを警戒する必要なんて…あ、俺の娘は最近戦闘力を上げてきてな。そりゃあもうお転婆で」

 

「ドドリア、今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ。フリーザ様、やはり彼女は……」

 

「十中八九、そうでしょうね。あなたや私と同じように」

 

「変身する。あるいは、珍しい話ですが、戦闘力を増減させる…」

 

「戦闘力を増減させるにしても。1まで押さえ込みながらあの自然体です。尋常な使い手ではないでしょう」

 

だからこそ。彼女は自分の敵にはならないだろう。

破壊神ビルスの要請で惑星ベジータを滅ぼすつもりの私の邪魔は、決して。

 

「私や彼女のような人種にはね、ザーボンさん。もっとも嫌悪する存在があるのですよ。そこに存在するだけでも虫唾が走るような、どうしても許せないものがね」

 

「……なるほど」

 

「美を好み醜いものを嫌う貴方なら多少は理解できるでしょう。そうです。彼女は他ならぬサイヤ人が憎くて仕方ない」

 

フリーザは確たる信を持って述べた

 

「同じサイヤ人でありながら、どうしようもなく愚かで弱いサイヤ人達が、憎くて仕方ないのですよ、彼女は」

 

「流石フリーザ様、御慧眼です」

 

「念のため、惑星サダラについて調べなさい。惑星ベジータの調査もお忘れなく。私の考えが正しければ、サイヤ人に囚われた科学者がいるはずです。救助し、話を聞く必要があります」

 

フリーザの指令を受けた2人の行動は素早かった。

頭を下げ、任務に向かう2人を満足気に見送りながら、フリーザは考える。

 

「優秀なサイヤ人だけ、手元に残すつもりですが…選別は彼女に任せてもよさそうですね」

 

惑星ベジータが滅ぶ日は、そう遠い未来ではなかったーーーー

 




勘だけでサイヤ人が成長していて、それがベジータではなさそうと結論できるフリーザ様マジ宇宙の帝王。

次回は
フリーザ「こいつマジかよ」ドン引き
をお送りします

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