サイヤ人に捧ぐ   作:もちマスク

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中身がないけど、戦闘シーンをば
ベジータ好きには申し訳ない、割とガチで噛ませになっちゃった()
中ボスキラーだから大ボスには多少はね?




if:劇場版 復活のf 中編

先に仕掛けたのはベジータであった。

否、仕掛けさせられたと言うべきか。

そうしなければ、闘わずしてベジータは膝をついていただろう。戦意を削がれ、成す術もなく叩き伏せられていただろう。

ぐっしょりと水分を含んだ服が纏わりつくようなーーーいや、まるでドロドロに溶けた鉛の海を泳いでいるような錯覚がベジータを襲う。

剥き出しとなったエミューゼの闘気が、荒れ狂う嵐のようにベジータを容赦なく飲み込み、彼の戦意をゴリゴリと削っているのだ。

 

ベジータは知っている。

これはエミューゼが好んで使っていた“烈風拳”だ。

ベジータの知る、ただエネルギー波を飛ばすだけの烈風拳とは似ても似つかない、ただ単にその場に佇んでいるだけにしか見えないがーーー間違いない、これは烈風拳だ。

闘気が劣る相手に自分の闘気を烈風のように、疾風のように当てることで戦意を削ぎ、触れずして勝利を得るという、烈風拳の真髄であった。

 

故に、ベジータは悪手と知りつつも。自身を罵りつつも、エミューゼに突撃せざるを得なかった。

 

「なんということだ…たかが烈風拳が、これほど恐ろしい技だったとは……っ!!」

 

だが、無策というわけではない。

ベジータには秘策があった。

当たりさえすれば、エミューゼすら倒し得る技が。かつて幼い頃にエミューゼより伝授され、いつかこの技を持って彼女を打ち倒そうと修練を積み続けてきた奥義が。

 

「くそったれぇーーーッ!!」

 

自身への叱咤と激励を織り交ぜた雄叫びを上げ、ベジータは全ての力を振り絞ってエミューゼに突貫する。持久戦は不利だと、ベジータの直感が告げている。

故に、出し惜しみなく、この奥義に全てをかけるしかない。全神経を集中させ、全速力を持って距離を詰め、エミューゼの虚をつくことで、奥義を直撃させる他ないーーー!

 

「ーーーーーー」

 

「っづ!?」

 

直前、エミューゼと視線が合う。

ゾッとするほど冷たい瞳で、品定めをする様な視線であった。蛇の様に絡みつき、ベジータが何をしてくるのかを今か今かと垂涎しながら、じっとりと観察する様な。

喰らってやるから、撃ってこいーーーそう告げていた。

しかしベジータは怯まない。超サイヤ人ブルーになる事によって極限まで高められた集中力が、ベジータにこれが千載一遇のチャンスである事を告げている。

ベジータは歯を食い縛りながら、そのまま口の端が釣り上がるのを抑えられなかった。

 

そうかい…ならば望み通りくれてやる。

あの時、死に物狂いで貴様から覚えた技だ……ようやく貴様に叩き込んでやれる時が来たーーー!!

 

 

「喰らいやがれっ……これがベジータ様のーーー“デッドリー・レイブ”だアァア!!」

 

 

それはかつて、エミューゼがベジータに授けた奥義。悟空に伝授した“龍虎乱舞”の対となる必殺の乱舞だった。

怒涛の如く繰り出される打撃の嵐。苛烈なまでの拳打の連撃を弾雨の如く浴びせ、最後にはち切れんばかりの気の塊を叩きつける乱舞ーーーそれらの動作が、一瞬の内に淀みなく行なわれる。

その一発一発が大地と大気を揺るがす、恐るべき殺傷力を秘めた一撃であることは、誰の目から見ても明らかであった。

 

だが、あろう事か、エミューゼは躱すことはおろか、防ぐことすらしなかった。まるで、身体を動かすことすら億劫だと言わんばかりに、その練撃を余すことなくその身に受けーーー

 

 

「所詮……こんなものかーーー小僧」

 

 

獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「“デッドリー・レイブ”。なるほど、よくここまでモノにしました。かつて私がその身に教え込んだ通りですーーーですが」

 

 

ベジータは目を疑った。確かにエミューゼは躱すことも防ぐこともしていない。しかし、まるで何故か手応えがない。傷一つ負っていない。

完全に受け流されたーーーそんな動作はまるで確認出来ていないが、宙を舞う羽根を殴りつけたような、ぬるりとした感覚が事実を物語っている。

 

 

「言われた事しかできない人間を三流。言われた事を上手にできる人間で、ようやく二流。あなたは何時になれば一流になるのですか?」

 

 

唖然としながら、思考をフル回転させて何が起きたのかを把握しようとするが、すぐに意識を切り替える。

戦闘中に意識を切らすなど、自殺行為に他ならないからだ。

超サイヤ人ブルーの能力を最大限に活用し、思考をクリアにしてエミューゼの一挙一動を見逃すまいと睨めつける。

しかし、完全に。全てが手遅れであった。

例え一瞬であろうと、集中力を切らすべきではなかった。

不意にエミューゼの姿がブレたかと思うと。

 

 

「私が教えた技で、私に勝てるはずないでしょう」

 

 

いつ攻撃されてもおかしくないと覚悟を決めていたベジータだったが、古代サイヤ人ーーーエミューゼを前にして、そんな前準備が何ら意味を為さない事を身を以て悟る羽目になった。

超サイヤ人ブルーの感知能力をして、気が付いたらとしか表現の出来ないタイミングで、ベジータは身体の中心に凄まじい衝撃を感じた。

目を離していなければ、気を逸らしてもいないと言うのに、反撃も防御も、それどころか何の反応も出来ず、知覚すらできない。

 

否、ベジータは視界の端に、エミューゼが構えを取るのをかろうじて捉えていた。

 

「“デッドリー…レイブ”か……!?」

 

それはたった9発の連撃であった。恐らくエミューゼが調整しているのであろう、スピードも威力も、寸分の狂いもなく、ベジータのデッドリー・レイブと同じであった。

しかし。

まるで練度が違った。

その一撃一撃の全てに意味が込められていた。

全ての一撃が必殺であり、全てが連鎖する前準備であった。

一撃目でベジータの構えをこじ開け。

重心をずらす事で体勢を崩し、軸を固定し、肺を潰し、力の逃げ場を失くし、脳を振動させ、意識を奪い、気の源を絶ち。

 

護りを全て奪われ完全に無防備となったベジータに、トドメとなる気の塊を叩き込み、炸裂させる。全ての守りが引き剥がされ退路も潰されたベジータに、抗う術などない。

軸をぶらすことも、衝撃を逃すこともできず、その暴力の全てを余す事なく急所に受け入れるしかなかった。

 

鈍く、凄惨な音が響く。

 

ベジータの身体が遥か後方に吹き飛び、岩盤に叩きつけられ、糸の切れた人形の様に、その場に仰向けに崩れ落ちる。そのままピクリとも動かない。

必死に立ち上がろうとするも、まるで力が入らず、指先に至るまでまるで動けなかった。

意識を辛うじて保っている事すら、まるで奇跡だ。

サイヤ人としての意地が、ここで終わる事を良しとしなかったのだ。

 

必死で途切れそうになる意識を繋ぎ、震える手で地面の土を握りしめる。

かつてはあの“デッドリー・レイブ”で完全に意識を失った。

今度は耐えてみせる…耐えて、いつか、奴に勝たなくてはならない!

エミューゼは既に過去のサイヤ人…今を生きるサイヤ人が、絶対に超えなければならないのだ!

 

それは、自分のためでもあり、内心の奥底でエミューゼの事を思っての事であった。

失われたとエミューゼが嘆いた、サイヤ人の誇りは決して失われていないのだと。

自分が受け継いでいるのだと、証明してやらなければならないのだ。

ベジータは自身を叱咤する。まだまだ終わっちゃいないはずだろう。こんなところでいつまで寝ているつもりだ。

しかし、身体は動いてはくれないし、眼前の壁はあまりにも高かった。

 

悔しさに任せ、握りしめていた土を地面に叩きつける。

どうしようもない虚しさだけが残った。

ベジータの視界が、溢れる悔しさで滲む。

 

 

「な、何故だ…何故、超サイヤ人ブルーとなった俺の攻撃をいなせるんだ…何故奴の動きが捉えられないんだ…!!」

 

 

血反吐を噛み締めながら、ベジータは呻く。

勝ち筋がまるで見えない。

不可解であった。古代サイヤ人と言えど、神の気を纏う超サイヤ人ブルーの気は感知できないはずだ。

その疑問に、エミューゼは当たり前のように答える。

 

 

「神の気とやら。確かに古代サイヤ人には感じ取れないでしょうが……本来のサイヤ人の動体視力を持ってすれば気が読み取れなくとも支障はありません。眼で追って、脚で追いついて、叩け伏せればいい。気を読まれるのならば、読まれていようと逃れられない速度と、受け流せないほどの力で上から叩き潰せばいい。知覚できない速度で動けばいいーーー戦闘民族サイヤ人には、それができるんですよ」

 

 

無茶苦茶で、理不尽な理屈であった。

生来備わった力と戦闘センスこそが、根本的な身体能力こそが、サイヤ人の…戦闘民族サイヤ人の最も強力な武器なのだ。

超スピードと、超パワー。単純極まりない暴力こそが、古代サイヤ人を最強たらしめる象徴なのだ。

道理を蹴散らし、常識を喰らう。ただ闘争本能の赴くままに。

 

もっとも、エミューゼの場合はそれだけでは済まないのだが、それを知ってこの場にいるのは破壊神とその付き人のみである。

 

 

「よく言うよ。こりゃあ、古代サイヤ人だとかブルーだとかじゃない…単純に練度の差だね」

 

「彼女、実際には、神の気も感じ取っているようですからねぇ。纏う気はないようなので動きは筒抜けですがーーー」

 

「それこそ古代サイヤ人の馬鹿げた身体能力と馬鹿げたパワーだ。感知できたところで、あの超スピードじゃ軸をずらして打点を反らすことすらままならない」

 

「加えてあの練度ですからねぇ…膨大な時間を湯水の様に使って技術面まで隙がないですし…」

 

「古代サイヤ人はどいつもこいつも、必要ないからって技が単純だったから付け入る隙があったっていうのにさ。どうすんだよ、アレ」

 

 

パフェを食べながら観戦しているビルスとウィスが、場違いなほど呑気な会話をしているが、その声の軽さに反して、両者の額には冷汗が流れている。

力と技の極致。まさに闘争の化身。

 

ビルスを破壊神と呼ぶならば、エミューゼは“闘神”とでも呼べば良いのだろうか。

 

 

「では、王子ーーー」

 

 

既に虫の息となりつつあるベジータに、歩を進めるエミューゼ。

柔らかな物腰とゆったりした動作であった。

優雅で花でも咲きそうな微笑を浮かべならベジータへと歩み寄る。

 

気が気でないと言った様子で見守っていたブルマは、エミューゼの笑顔をみて安堵する。

しかしすぐに、安堵は不安に変わる。

エミューゼの笑顔の下にあるものを見抜いたからだ。

フリーザもまた、この笑顔に見覚えがある。

コレは獲物を逃さないための微笑だ。

 

 

「ーーーお別れです」

 

 

エミューゼの静かな死刑宣告に対して、もっとも素早く反応したのは悟空であった。

 

 

「いけねぇッ! 掴まれるんじゃねぇ、ベジータ!!」

 

 

混濁する意識をどうにかフル活動させ、どうにかエミューゼから距離を取ろうともがくベジータだったが、不意に浮遊感を感じた。

 

そして数瞬して、自分の顔面を片手で掴み上げているエミューゼを確認し、顔を青ざめさせる。

 

「ふ、ふぉお…!?」

 

“やみどうこく”。

掴んだベジータを中心に、エミューゼの気が逆巻き始める。このままではベジータの全身は見るも無残に捻れ千切れるであろう。

悟空も、地獄の鍛錬で喰らった経験がある。あの時は手加減されていた為に四肢の骨が砕けかける程度で済んだ。

しかし、その全力を喰らってしまってはベジータはーーー!

 

 

 

 




次回、ベジータ死す! デュエルスタンバイ!

ベジータが教わったのはデッドリーレイブ、悟空は龍虎乱舞となります。
ベジータ「俺のデッドリーレイブにそっくりだ!」ってのを、やりたかっただけです

しばらくしたら幕間に移します。

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