俺はZが書きたいんや…無印むつかしいんや……
あと今回はオリ主最強色がかなり強くなります(今更感)
何故だ。俺は宇宙の帝王フリーザだぞ。こんな事ありえない。あるはずがない。
必死に立ち上がろうとするも、混濁する意識がそれを許さない。
無様に地べたを這い、屈辱だけが虚しく自分を掻き立てる。
「その代わり、一番おいしいところは俺がもらう」
「わかってるよ、交代だ!」
2人のサイヤ人…孫悟空とベジータが呑気に言葉を交わしている。
ーー憎きサイヤ人に。自分が支配していた種族に、よりにもよって2度も自分が。
そう思考した途端に、全身の血液が沸騰するような怒りが湧き上がるが、それでも立てない。
胸中を抉るような激情を原動力としても、再びゴールデンフリーザに変身する事は叶わなかった。
「おのれ……そ、そんな…馬鹿な……! たかがサイヤ人如きに…こんな猿如きにィィイ……!!」
言葉とは裏腹に。
フリーザはプライド故に絶対に認めない事ではあったが、彼は誰よりもこう思っていた。サイヤ人は強い。まさに天敵。自分を脅かす存在があるとすれば、サイヤ人以外にはありえないだろうと。
かつてエミューゼという少女に会った時から、そう予感していた。
超サイヤ人が現れた時も、エミューゼに育てられた男なのだから当然だという、ある種の奇妙な納得があった。
プライドをかなぐり捨てるならば、やはりサイヤ人は部下に欲しかった。自分でさえ御することが出来なかったサイヤ人……これだけの強さを持つ存在が仲間であったのならばと、そう思わずにはいられなかった。
もし、あのままエミューゼを地球に送らずに手元に置いておけばどうなったのだろうか。
しかし、もう2度とプライドを捨てるような真似はしたくない。無様に命乞いをするような真似は絶対に。
「貴様はもう終わりだ。2度と蘇るんじゃないぞ」
「ちくしょう……ちくしょォォオ!!!」
あぁ、こいつらが私の死かーーー
その時である。
空を切り裂くような音が、その場一帯を凪いだ。
「この気は…」
ピッコロが突如として出現した何者かに気が付いた。凄まじい速度でこちらに向かってくる。
否。
「ーーどうやら。私はあなたを甘やかしすぎたようですね」
すでにこの場に存在している。
緑を帯びた銀の髪を靡かせ、この場の全てを支配するように、最古のサイヤ人、エミューゼが。
「ーーー悟空」
遥か上空より飛来し、地面を大きく削ることで慣性を殺しながら、フリーザとの間を遮るようにベジータの眼前に静止する。
「獲物を前にして舌舐めずりをして、ちっぽけな光線銃で撃ち抜かれるなど……母はそのように育てた覚えはありません」
「か、かあちゃん、別にオラ舌舐めずりなんて…」
「ーーお黙りなさい。油断して無様に敗北したことに変わりはありません。その上、他者にその尻拭いをさせるなど…恥を知りなさい!」
煮え滾る怒りを具現したような、凄惨な表情であった。
悟空の額に思わず冷や汗が流れた。悟空は知っている。この顔をした母には何を言っても無駄だ。母の怒りが収まるまで、ただひたすらに生き残ることを考えなければならないのだと、幼い頃からの経験が物語っている。
「まさかとは思いますが。戦闘民族サイヤ人が……同時ではないとはいえ2人がかりで疲弊した宇宙トカゲ1人を相手に闘うなど、そのようなみっともなく嘆かわしい行いをするつもりではありませんね?」
「いやぁ、でもベジータがずるいって言うしよ」
そこで俺の名をだすのか!? とベジータは内心で悟空を非難するが、眼前に立つエミューゼの手前、口を噤んでおく。この辺りの機敏さは父親譲りであった。
「言い訳は聞きません。そうですね、教育も兼ねて私がフリーザの側に立ちましょう」
「え、えっと…冗談なんですよね、おばあちゃん?」
「ん? 何か言いましたか、悟飯ちゃん」
孫に対しては一転して朗らかに笑うエミューゼを見て、恐怖に顔を引きつらせながら悟飯が悟る。
冗談じゃない…本気だ。
悟飯だけではない。その場にいる誰もが思い出した。
凶暴で、暴虐を好み、暴力によって全てを支配するサイヤ人の中にあってなお、数億年も語り継がれる伝説があったことを。
伝説に君臨していた最古のサイヤ人の恐ろしさを。
サイヤ人の祖エミューゼーーーそれが自分たちの眼前にいる存在の正体だと思い知らされたのだ。
余談ではあるが。
戦闘民族たるサイヤ人が油断して負けた挙句、ローテーションして疲弊した相手を2対1で仕留める事にエミューゼは憤りを感じているわけで。
悟空にはサイヤ人として恥ずかしくないように闘って欲しい、これを機に反省し、さらに上を目指して欲しい…しかし、このまま決着をつけてしまうと、悟空のサイヤ人としての誇りにシコリを残してしまう…そんな事は母として見過ごすわけにはいかない。
自分がフリーザにつけば2on2になる、まだギリギリでセーフということにして、大目に見て差し上げましょう…あぁ、また息子を甘やかしてしまうなんて、私は母親失格です……という思考故の行動である。
畢竟するに。
エミューゼにとってはただのお節介なのだ。
もっともそれを正しく読み取り受け取れているのは、悟空ただ1人である。
ビルスやウィスを含めたその他の者にとっては災厄に巻き込まれたようなものでしかなかった。
「え、エミューゼさん……なのですか?」
「随分と久しぶりですね、フリーザ。随分とまぁーーーー」
その時、フリーザの心中にあったのは純粋な喜びであった。
エミューゼ。自分が初めて脅威を感じた古代サイヤ人。抜け殻を思わせる儚げな美しさは、色褪せてなどいなかった。
敗北を知らなかった自分がブレーキをかけていたせいだろう、かつては彼女の強さがはっきりとはわからなかった。
漠然と、最強である自分に匹敵する強さだと、そう感じていただけだ。
しかし、今ならわかる。あの時には既に彼女は超サイヤ人よりも強かった。
超サイヤ人と闘った時、不思議とエミューゼを相手にするくらいならと内心を過ぎった事は錯覚ではなかった。
そのエミューゼが。かつての力の象徴が、眼前で、自分を護るように立ち塞がっている。
屈辱を感じる間もなく、フリーザの胸中は安心感で埋め尽くされた。
儚げで小さな背中が、異常に頼もしく見えたのだ。
見えたのだが。
「随分とまぁーーー美味しそうに力をつけましたね…本来なら私が喰らってしまいたいのですが…」
彼女の獰猛な笑みを見て思わず息を呑んだ。
あぁ、そういえばそうだった。彼女も…というか彼女こそサイヤ人だった…。
敵がいなければ生きていけない生物が、相手になりそうな敵を見つけたらそりゃあロックオンもする。
それほどに強くなったことを喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、フリーザは悩んだ末に、疲れたように考える事をやめた。
体力の回復が優先だ、どちらにせよ、自分が帝王としての矜恃を取り戻すにはサイヤ人に打ち勝たなければならない。
恐怖は打ち砕かなければならないのだ。絶対に乗り越えなければならない…それが今なのだ。それが生きるということなのだ。
“帝王”はこのフリーザだッ!依然変わりなくッ!
そんなフリーザを喜色に満ちた笑顔で一瞥した後、エミューゼは再びベジータへと視線を戻す。
「弱さという種に、暴力という水をじっくりと撒いて、慎重に、花を愛でるように、時間をかけてゆっくりと、貴方達を更正させましょう。甘やかしすぎた分まで、サイヤ人らしくね」
「ーーー舐めるなよ、エミューゼ。貴様が古代サイヤ人だろうと、超サイヤ人ブルーとなった俺様の敵じゃないッ!」
ベジータは吼えた。サイヤ人の王族としてのプライドと、フリーザという敵を討つ邪魔をされた怒り。そして、超サイヤ人の枠を越え神の領域にたっているという圧倒的な自信。
かつて恐れたエミューゼでさえ、自分は恐れる必要はもうないのだと。
闘気に溢れる眼光が雄弁に語っていた。
「超サイヤ人ブルーですか…素晴らしい力です。ですが、サイヤ人としては唾棄すべきものだと言わざるをえませんねーーー」
吐き捨てるようにエミューゼはベジータと悟空を睨み付けたが、言葉とは裏腹にエミューゼの表情は喜色に満ちたものであった。
かつての諦めは。失望はもうない。
良くもここまで育ってくれた。良くも私に立ち向かってくれた。
それが堪らなく嬉しくて仕方なかった。
「サイヤ人は戦闘民族です。闘争本能こそが私達の全て……それを抑えつけ穏やかな心で闘うなどーーー」
地響きが起こった。
エミューゼの心臓の鼓動が波打った音によるものであった。
彼女を中心に大気が震え、荒れ狂う。
「貴方達には見せた事がありませんでしたね。貴方達が古代サイヤ人と呼ぶ生物の姿を。真なる戦闘民族の在り方を」
明らかな変貌であった。今まで戦闘力を極限まで抑えていたものが消え去り、“暴力”としか形容できないものが膨張して周囲を押しつぶしていた。
対峙するベジータはおろか、離れた場所にいる悟空たちや、庇われる形になっているフリーザでさえ戦慄と圧迫感に身体を支配されていた。
エミューゼの華奢な身体を緑を帯びた白銀の燐光が包み、彼女の長い髪と目の下がうっすらと光に縁取られる。
そう、まるでーーー
「ーーーお、大猿?」
大猿を思わせる変化であった。
溢れる力が全身から噴き出さんばかりに表面化し、オーラのように立ち上る。
増大した力が体内で畝り狂い、漲る力と圧迫感が世界を支配する。
そう。
これこそが彼女の真の姿。
とある世界線では超サイヤ人4と呼ばれる存在である。
前代未聞な事に、観戦している破壊神の額にすら、じわりと冷や汗が浮かんだ。
「ーーーおいおい、現役時代より強くなってるんじゃないのか、あれ。」
「そのようですねぇ。かつて彼女が超サイヤ人ゴッドと闘ってから随分と経っていますから、当然と言えば当然でしょうが」
対峙するベジータはたまったものではなかった。
サイヤ人としての本能が警鐘を鳴らして止まなかった。
かつてブロリーを前にした時も、これほどの脅威を感じはしなかった。
「ーーークソッタレが」
「ーーーでは教育してあげましょう。本当のサイヤ人の闘争というものを」
悟空はエミューゼの出現を、あっちゃぁ…としか思ってません
()