サイヤ人に捧ぐ   作:もちマスク

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無印原作開始です。
ですが、今回は悟空パートは少なく、暗躍エミューゼがメインになります
また、他作品技が登場します、ご注意ください。



ガールミーツボーイ/ファイターミーツシンガー

孫悟空と名乗る少年と出会ってから数日がたった。

ブルマがこの少年に抱いた印象はチグハグなものだった。

異常パワーをもつ原始人染みた田舎者。

かと思えば妙に紳士的な部分もあり、立ち振る舞いが所々ではあるが上流階級のように洗練されている。

彼曰く、“行儀よくしないと母ちゃんに殺されっちまう”らしい。

まぁ、チグハグな所をみると、母親も半ば諦めているのだろうが。

 

なんにせよ、悪い印象は抱かなかった。

彼の祖父の形見を利用する事に少し罪悪感を抱くくらいには、ブルマは悟空を気に入っていた。

 

「このパンっていうやつスカスカしてうまくねぇな。この汁苦いしよ……」

 

「コーヒーよ。スキキライ言ってるから背が大きくならないのよ」

 

「え、これがコーヒーなんか。母ちゃん言ってたぞ。“コーヒーなんぞ泥水です。紅茶こそ至高…偉い人にはそれがわからないのです”って」

 

「……とりあえず、あんたの母親とは相互理解できそうにない事はわかったわ」

 

彼は何年か前に母親が出て行き、山で1人で生きてきたらしい。それから一年に一回しか母親とは会っていないという。

ブルマはひどい母親もいるものだと思ったが、悟空はそんな母親をとても慕っているようだった。

彼が異常に強いのも、母親にみっちり“死ぬギリギリまで”鍛えられたからだという。

銃弾を握りつぶすような子供を鍛えるような母親だ、ただ者ではないのだろう。

少し興味を覚えたブルマは、それとなく尋ねてみる事にした。

 

「ふーん…あんたも色々大変なのね。なんて名前なの、あんたの母親」

 

「母ちゃんか? 母ちゃんはエミューゼってんだ」

 

「エミューゼ…随分とまあ…」

 

それは、最近芸能界に彗星の如く現れたカリスマ演歌歌手と同じ名前であった。

まあ、偶然の一致だろう。

彼女はとても14歳の子持ちには見えないし、何より、彼女はコーヒー好きで有名なのだから。

 

ーーーー

 

南の都にある酒場。

知る人ぞ集うような、細々とした酒場であるが、常連たちが集うといつも決まって騒がしくなる。

だが、この日は異様な静けさに包まれていた。

 

それは厳しい顔をした男だった。

長い黒髪を三つ編みに束ね、殺と書かれた馬掛に身を包むという奇妙な出で立ち。

冗談のようなセンス溢れる格好であったが、男から立ち込める尋常ならざる気配から、誰も彼を笑うことはない。

当たり前の話である。誰も、彼の眼前に広がる赤い染みの一部になどなりたくはないだろう。

 

「これが武道家? 師弟揃ってどうしようもない愚か者だな」

 

この日、酒場には2人の格闘家が訪れていた。

南の都にて格闘技の大会があり、その大会に出場するために遠征してきたのだ。

格闘家として有名な彼らが訪れたということもあり、その酒場も大いに賑わっていたのだが。

 

「ぁ………師匠……?」

 

不幸なことに、世界一と称される殺し屋もまた、この酒場を訪れていたである。

 

凄惨な光景であった。

後にサタンと呼ばれる男……その師はすでに息絶えている。

優れた格闘センスと、決して浅くない経験を積んだ古強者だったが、その幕切は余りにもあっけない。

振り向きざまの一突きで正確に心臓を捉えられ、胸に大きく風穴を開けられた彼は、自身の死を理解することもなく絶命した。

死の直前と同じ笑顔を浮かべたまま、自身が作り出した血溜まりに沈む様を、弟子のマークは茫然と眺める事しかできなかった。

 

「……人殺しだ。師匠を殺しやがった……」

 

マークもまた優れた格闘家であったが、目の前で殺人が起きるのは初めての事であった。

仇討ちだとか、闘うだとか、果ては逃亡だとか。

そんな事を考える事すらできず、頭の中が真っ白だか真っ赤だかわからないような色に染まり、構える事すらままならない。

 

その致命的な隙を、殺し屋ーーー桃白白が見逃すはずもなく。

 

「お前も嗤っただろう。わたしの髪型がなんだって?」

 

「……ぇ……あ、いや…」

 

蛙を潰したような音が響いた。

それが自分の発した声だとマークが理解した時には、呼吸ができなくなっていた。

桃白白の一撃で、喉を潰されたのだ。

 

「次は肺だ」

 

「……ぃっひく…ぅげ」

 

桃白白がマークの胸に手をぬらりと手を置くと。

ただそれだけで凄まじい衝撃が彼を襲った。

 

「この程度の浸透勁であれば耐えるか。喜べ、貴様は師を越えていたようだぞ」

 

マークは混乱した。

酸素の足りない脳を全力で回転させ、生き延びる術を探した。

ダメだ、目の前がチカチカしてまるで砂嵐のようだ。

見えない、見つからない。どうすればよいのか。

顔面は蒼白、唇も紫色になり、必死に肺に酸素を流そうと情けなくか細い呼吸音が鳴る。

脚がガクガクと震え、闘うことは疎か逃げる事すらままならない。

すでにマークの瞳は絶望で光をなくしていた。

 

「あの世で師に自慢してやるといい。直ぐに送ってやる」

 

しかし。

桃白白の言葉で不意にマークの瞳に光が宿る。

眼光は鋭くなり、機能しなくなった肺と脚に拳を叩きつけ、無理やりに酸素を取り込み地面に根をおろす。

重心を低く降ろし、これまでの修練で見に刻みつけてきた構えを取る。

 

奴の言う通り、あの世で師匠に自慢してやろう。

この拳を奴に叩き込み、一矢報いたと報告してやる。

 

マークは…後にミスター・サタンと称えられる男は臆病な男であったが、それを克服する勇気を持ち合わせてもいた。

師を殺されて立ち上がれないような男ではなく……彼もまた、1人の格闘家であったのだ。

 

「いっちょ前にやる気か」

 

そんな目の前の光景を嘲笑するように、桃白白は肩を竦めた。

力の差もわからぬ雑魚め。気も扱えぬただの格闘家風情が、この桃白白に挑むつもりか。

この後に及んでマークから殺気が感じられない。試合気分でいるのか、まるで鋭さが足りんわ。

あっさりと殺してやろう、そう桃白白が足を踏み出そうとした時。

 

「少しよいでしょうか」

 

不意にかけられた声に、全力でその場を飛びのいた。

とてつもない殺気を感じたからだ。

目の前の男…いや、マークではない。

鈴を鳴らしたかのような、美しい声だ。

 

殺し屋としての経験が警鐘を鳴らしていた。

全身をじっとりとした汗が舐め回し、今にも叫び出したいような衝動に駆られるのをやっとの思いで飲み干す。

 

「………ぅッ!?」

 

脚がガクガクと震え始め、呼吸が困難になり吐き気を催す。

目元には涙すら滲み、例えようのない恐怖にガチガチと歯が鳴り始めた。

 

桃白白はすかさず全身に気を張り巡らせ、殺気の正体を暴くべく、鉛のように重い脚に気合を叩き込み、振り返る。

 

そこに立っていたのは、何処かで見た……否、観たことがあるような、愛らしく儚げな少女だった。

 

テレビで見たことがある。そうだ、たしか『カリスマ演歌歌手』のエミューゼ。兄が密かにファンだったのを覚えている。

こんな小娘1人になにを怯える必要があるというのかーーーー何故だ。

 

何故、身体の震えが止まらない。

眼前にあるのは、吹けば飛んでしまいそうな細身の小娘だぞ。

だというのに、身体の震えは止まらない。

殺気は消えていない。

先程より濃密になった殺気が、眼前にある。

間違いない、殺気はこのエミューゼという少女から放たれている!

 

錯乱する桃白白を余所に。

エミューゼは今にも倒れそうになっているマークに手を差し伸べ、彼を酒場の椅子へ休ませる。

 

「良き闘志でした。あとは私が引き受けましょう」

 

マークは少し戸惑い、しかし疲労と緊張に耐え切れず。

霧散した闘志では抗いきれなかったのか、意識を失った。

周りの客に出来た人間がいたのか、すぐさまマークは外へ運ばれていく。

桃白白はそれをどうすることもできず、ただ見送るしかなかった。

 

「……貴様、何者だ。よもやただの演歌歌手などではあるまーーー」

 

「名乗りなさい」

 

「ぐっ………桃白白、殺し屋だ」

 

遮るように、有無を言わさないとばかりに告げられた言葉に、桃白白は逆らう事は出来なかった。

もし逆らえばその瞬間に絶対に自分は死んでいただろうと予感させられていた。

 

「殺し屋……それは良い事を聞きました。少しテストしてみましょうか」

 

「テストだと?」

 

「簡単なテストです。貴方の最高の一撃を私に叩き込む。ただそれだけです」

 

なんの事はないと言わんばかり、エミューゼは淡々と告げた。

 

「クリアできれば、貴方に依頼をしましょう。前払いで2億ゼニー。悪くない話でしょう。あぁ、ありえない話ではありますが、もし私が死んだとしても、後ろに控えているマネージャーが払いますからご安心を」

 

桃白白は肯定も否定もしなかった。そんなものは必要ないのだ。逆らえば、死ぬ。

クリア条件はなんなのか、クリア出来なければどうなるか、という質問もしなかった。無意味な問いである事がわかっていたからだ。

とにかく全力でこの女を殺す気で攻撃する。

それが女の御眼鏡にかなわなければ自分が死ぬ。

ただそれだけだ。

ただそれだけである事を、老練な殺し屋は識ることが出来ていた。

 

桃白白の意識が研ぎ澄まされていく。殺し屋としての経験が彼から無駄なものを取り払っていく。

故に、先程の師弟の事など既に脳裏にすらなく、生き延びるために必要なものだけが厳選されていく。

修羅場はいくつも潜り抜けてきたのだ。

桃白白は無言で、自身の必殺の一撃を放つために、指先へと気を集中させーーー

 

「どどん波ーーー!!」

 

光線。

殺傷能力に特化した、恐るべき死の光であった。

直線を描き放たれた気は、果たしてエミューゼに届く事はなかった。

地面にクレーターが現れたかと思うと、甲高い炸裂音と共にどどん波は消し飛び、桃白白は倒れ伏していた。

傷一つ負っていないというのに、身体がまるで動かせない事を悟り、桃白白は眼球を必死にエミューゼへと向ける。

 

何が起こったのだーーーその瞳はそう訴えていた。

世界一の殺し屋、桃白白の眼を持ってしても、エミューゼの動きをまるで捉えることが出来なかった。

 

「せっかく、戦闘力を貴方方くらいにまで抑え、貴方方でも私を殺せるようにしたというのに……こんなものなのでしょうか。可能性などなかった……所詮地球人ですね」

 

エミューゼはゆったりと桃白白へと近づいてゆく。

 

「以前、惑星コノハで見た技ですが。良い技だったので密かに練習してみたのです。あの子に教えるのに適していたのでね」

 

動け…動いてくれ身体よ。桃白白は必死に全身に気を送りつけようてして。

違和感の正体に気付いた。

 

気が練れない!

 

それはかつてエミューゼが封印される前に体得した、異星人の技を改良した技。

八卦六十四掌と呼ばれる技であった。

 

「なるほど……あの子にはちょうど良い。テストは合格にしておきましょうか。先の技をあの子が習得できていれば勝てる絶妙な戦闘力です」

 

エミューゼはそう言って、マネージャーを呼びつけ、2億ゼニーを用意するように指示を出すと。

動けぬ桃白白の前に静止し、にこりと笑みを浮かべた。

 

「さて。これからする私のお願いにハイかYesで答えてください」

 

「……ぐっ、こ、殺しの依頼か」

 

「えぇ。1人、少年を殺していただきたいのです」

 

そう言って、エミューゼは写真を桃白白に見せる。

まだあどけなさの残る、尻尾の生えた少年が写っていた。

 

「なぜ、わたしに頼む…貴様ならばわたしに頼らずとも……」

 

「地球の殺し屋は。クライアントの事情を知らなければならない職業なのですか?」

 

随分と命知らずな職業なのですねぇ、と口を三日月にするエミューゼに、桃白白はすかさず口を噤む。

桃白白に許された言葉は、先程エミューゼがあげた二言しかないのだ。

 

 

余談ではあるが、ミスター・サタンはとある演歌歌手の熱烈な大ファンなのだという。

 




というわけで。レッドリボン軍よりも早く桃白白先生が登場です。

また、他作品技でナルトから回天と八卦六十四掌。
SNK系列や北斗系列などと悩みましたが、スタイリッシュさを重視して採用させていただきました。

設定的には、かつてエミューゼが侵攻した星で、柔拳に似たような技を使う戦士がいました。 その技を自己流にアレンジしたものとなりますので、日向一族は何の関係もありません。

ちなみに、エミューゼはコーヒーが大嫌いでしたが、とある砂漠の虎を名乗るマネージャーにコーヒーをご馳走してもらったところ、コーヒーにドハマりしました。

原作と違って悟空は、銃弾を食らって「いってー!」じゃなく、握りつぶしています。
原作よりは少しだけ、つよめのイメージです

コメントでご指摘を受け、後のリングネームのサタンから本名であるマークへと表記を変更しました。
コメントで指摘して下さった方、ありがとうございます。

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