サイヤ人に捧ぐ   作:もちマスク

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別に最終回じゃありません。普通に続きます()
あと、一部の話を誤字脱字修正、ルビ振りなどを行いました

ラディッツ、ナッパについて加筆修正を行いました


サイヤ人に捧ぐ

「それでは。ベジータ王子をよろしくお願い致します」

 

「えぇ、他ならぬエミューゼさんの頼みですから。存分に目を掛けて可愛がってあげますとも」

 

 

宇宙船のデッキにて。

惑星ベジータを見下ろしながら、2人の怪物が談笑に興じていた。

両者の間には、どこか哀愁が漂っている。

今日がありとあらゆる意味で、最後であるとわかっているからだ。

 

今日この日、惑星ベジータは滅び、たった2人を除いたサイヤ人は根絶され。

エミューゼもまた、サイヤ人の赤子と共に行方を眩ますことになる。

 

「ベジータ王子とのお別れはあれでよろしかったのですか? なんでしたら、もう数日ほど決行を遅らせますのに」

 

「いえ、あれで構いません。彼もサイヤ人ならばきっと、今ので私の技を身につけることでしょう」

 

エミューゼの視線の先には、ボロクズのように地面の染みと化しているベジータがいる。

フリーザは冷や汗をかきながら、少しだけベジータに同情した。

 

未だ幼さの残るベジータに対して、“私の奥義の1つをあなたに贈りましょう”と。

容赦なくその奥義を叩き込んだのだ。

もちろん、エミューゼは極限まで力をおとし、ギリギリ虫の息で生き長らえるよう絶妙な手心を加えている。

そう。生きているだけである。

ピクリとも動かないが、ちゃんと生きている。

生きているといえば生きていると思える。

多分、生きていると思う。

シュレディンガーのベジータ爆誕である。

 

狂人め、とフリーザは内心で思っていたが、エミューゼはきっとベジータは自分に感謝するだろうと本気で思っていた。

サイヤ人ならば、この程度で根を上げるなどありえない。

自分の技をその身に刻み込み、習得しようというのだ、死に瀕し集中力を極限まで高めるのが当然である。

“痛くなければ覚えません”というのが、エミューゼの持論である。

 

事実、ベジータは“こ、殺される…!”と思いながらも、彼女の一挙一動を見逃すまいとその乱舞を脳裏に焼き付けていた。

結果、後に五年ほど掛けて彼女の技の習得に成功することになる………が、ベジータがエミューゼに感謝することは結局なかった。

 

「そ、そうですか。しかし、意外でしたよ。貴方が選んだサイヤ人が、ベジータ王子は兎も角として、下級戦士の赤子とは」

 

エミューゼに選別を任せた結果、彼女の御眼鏡に適ったのはたった2人のサイヤ人だった。

少なすぎるでしょう…厳しすぎるでしょう…とフリーザは思ったが、エミューゼの選別には彼女なりの基準が存在している。

ベジータとカカロット。エリートと下級戦士。

一見正反対に見える彼等の間には共通点が存在している。

反骨精神、強敵の渇望、純粋に闘いを楽しむ心、強さへの執着。

まだ赤子に過ぎないカカロットだが、その父のバーダックの存在、ブロリーとの一幕は、エミューゼに彼の存在、才覚を認めさせるに充分であった。

むしろ、赤子だからこそ。自分が手を加える余地があると考えた。

故に彼女は、カカロットの他星遠征に付き添うことに決めたのだ。

 

ちなみにバーダックが含まれないのは、彼女なりの慈悲である。彼は恐らくサイヤ人として闘いを挑み、散ることをのぞむだろうとの気配りからであった。

できれば手ずから介錯してやりたいとは思ったが。

自らの手でバーダックの最期を飾ってやれないことに対する負い目も、カカロットを選んだ一因に含まれてあった。

 

またエミューゼに選別されたサイヤ人の他に、他の惑星に侵略に向かったが故に命拾いをするサイヤ人ーーーラディッツとナッパがいるが、彼らはそもそもエミューゼの眼中になく、彼らが生き残ったのはただの偶然である。

部下となるサイヤ人がベジータだけでは物足りないと考えていたフリーザが密かに彼らの生存を喜び、改めて粛清をしなかったあたり、2人の幸運…否、悪運は筋金入りと言えるかもしれない。

 

「意外…ですか。そうかもしれませんね。しかしーーー」

 

訝しむフリーザに対し、エミューゼは続ける。

 

「かつて。私に立ち向かったサイヤ人は弱かった。臆病で、よく虐められて顔を腫らし泣いて帰ってきたものです。でも、あの子はサイヤ人として最も大切なものを持っていたーーー」

 

強大な力に立ち向かう心を、彼は持っていた…エミューゼは懐かしむように目を細め、そう語った。

 

「……まるで恋をするようにおっしゃるのですね」

 

「えぇ。もう、叶わぬ恋となってしまいましたが」

 

そこで初めて、エミューゼは穏やかな微笑みを浮かべた。

フリーザは思わず見惚れ眼を奪われた。

 

美しかった。

影のある、どこか寂しげな横顔。

今まで見たどの人間のどの表情とも違う、フリーザの初めてみる類の微笑み。

 

あの時、死んでおけばよかったのだと。

惨めに生きながらえ、望む強敵は現れず、生きるままにして心が腐っていく事が辛くて。

まだ闘いを愉しめる存在がいるあの時にーーーあの時に彼に殺されていればよかったのだと。

過去に思いを馳せ、後悔と失望にその身を蝕まれている事が、痛いほどに伝わってきた。

 

フリーザは納得した。

宇宙の帝王として長年君臨している自分ではあるが、永遠を生きたこともなければ、闘争に悦びを見出したこともない。

故にエミューゼの考えは理解できない。

しかし、理屈を抜きにして、そういうものなのか、という不思議な納得が、フリーザにはあった。

 

“これが本来の戦闘民族サイヤ人なのか。彼女は敵がいなくては生きていけない生物なのだ…”

 

サイヤ人の赤子を連れて何処ともしれない辺境の惑星に行く。

もはやそれは隠居だと言えるだろう。

厄介な存在が消える。それは自分に取って喜ばしい事のはずだ。

しかし、フリーザは何処か物悲しさを覚えた。

もはやフリーザはエミューゼに脅威を感じてなどいなかった。

彼女はただの抜け殻だったのだ。

いくら強大な力を持っていようと、警戒に値しない……絶対者“だった”抜け殻でしかなかったのだ。

 

フリーザは時の流れすら忘れ、思考に没頭する。

彼女のような自身に匹敵するであろう強者でも、いつかは抜け殻に成り果ててしまうのだろうか。

自分がこのまま宇宙を支配し君臨しつづけたとして。

自分が仮に不老不死を得たとして。

いつかは彼女ように、死に焦がれる事になるのだろうか。

 

エミューゼの背中が見えなくなり、ザーボンに名を呼ばれるまで、フリーザの心はエミューゼで支配されていた。

エミューゼという絶対者の抜け殻。

彼女がもつ退廃的な、ある種の美しさと呼べるものに心を奪われていた事を自覚した。

今までに感じた事のない、未知の感覚だったが、そういう美しさもあるのかと、心の何処かにすっぽりとはまったようだった。

 

「寂しくなりますねぇ…」

 

「……フリーザ様。サイヤ人共が謁見をと願い出ております。どうやら彼女がうまくやったものかと」

 

「………随分とせっかちですね、彼女も」

 

謁見。それはフリーザの元に辿り着くためのただの口実である。

ベジータ王の反旗。それはエミューゼが惑星ベジータを離れた事を示す、フリーザと取り決めた合図であった。

 

自分を復活させた男を、滅びの鐘を鳴らすための鉄砲玉扱いとは、その無慈悲さに清々しさすら感じながら、フリーザは告げる。

 

「ザーボンさん。そこの扉を開けなさい。サイヤ人の皆さんをこちらに案内するのです」

 

「承知いたしました」

 

「慣れない感傷に浸ってしまいましたからねぇ。たまには運動するのもいいかも知れません」

 

 

ここからは、本来の史実通りである。

ベジータ王は倒され、1人最終決戦に挑んだバーダックも斃れ。

惑星ベジータはフリーザによって破壊される。

エミューゼのいるこの世界線も何ら変わることはない。

 

ただ、異なる部分をあげるとするならば。

 

ベジータ王は倒されこそしたものの、彼はフリーザの鉄拳を耐え、死の間際に己が一撃を叩き込むことに成功していた。

エミューゼに失望されたくないという一心と、王としてのプライド、サイヤ人としての誇りが成した最後の意地であった。

 

それは、たった数十秒だけ寿命が延びただけに過ぎないかも知れない。

意味のない変化であったかもしれない。

しかし、史実と違い、彼はフリーザに一矢報いることができたのだ。たとえ、その一撃が致命たり得ぬとも。

 

「……ベジータ王め。最後の最後に限界を超えて戦闘力をあげましたか。やってくれましたね…この私に殺した事を惜しいとおもわせるとは」

 

フリーザは事切れたベジータ王を一瞥し、眉間に皺を寄せた。

 

エミューゼがこの場にいれば、少しは彼を見直しただろう。

残念ながら、現実としてエミューゼはこの場に居らず、ベジータ王はただ無意味に倒されただけである。記憶力に優れるフリーザも、数秒後には一連の応酬など記憶の片隅に追いやり、既に死したものなどに興味はない。今後も亡きベジータ王に意識を割くことはないだろう。

だが、果たしてそれはやはり無意味だったのだろうか。

 

少なくとも、ベジータ王は最期に王としての矜持を見せることができた。

確かな変化ではあったが、果たしてそれは滅び行くサイヤ人達の慰め足り得るのだろうかーーー

 

 

 

 




というわけで、エミューゼがいようがいまいが、原作と変わらずサイヤ人は滅びてしまいます。
原作と違い、ベジータ王はある程度善戦しますが、やはり敵わず敗れ、野晒す兵となります。
あとは、ベジータがエミューゼから技を1つ伝授されています。
悟空vsベジータでお披露目になるでしょう。
他作品の技なので、苦手な方はご注意をば。

ちなみに、フリーザ様の言う通り、エミューゼは抜け殻。心に傷を負った女性(笑)なので、口説けばコロッと堕ちます。
ちょっとエミューゼより強くなって愛を囁くだけ……ね?簡単でしょう?
エミューゼ「素敵!抱いて(殺しあって)!」となること請け負いです。ちょろいですよ!
フリーザに警戒心を抱かせないための演技という可能性も微粒子レベルであるかもしれませんが

感想欄の書き込みにてラディッツとナッパの表記がなかった事に気付いたため修正を行いました。この場を借りて感謝と謝罪の意をば…

次回は地球についた2人、をお送りしますーーーの前に、閑話を挟むかもしれません。
ベジータ王の心境やifの闘いなどを書ければなぁと思います。
しばらく書き溜めに入るので、少し投稿が遅くなります。


話は変わりますがね。
愛の妙薬2、ルーの光輪、ダレイオス2、ケイカ、カエサル、呂布3、恋知らぬソラウ、麻婆豆腐、バベッジ、クーフーリン、静謐のハサン、一成2、シュトルリヒリッター、モータード、ライオンのぬいぐるみ、メフィスト、寺、ステンノ、援護射撃

fgoの夏の期間限定ガチャを引いた結果です。だれかピックアップの意味を教えてください

追記
水着マリー引けました。レベル100デオンとフランスパを組もう()

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