あと、今回の話は軽くホラーかつエゲツない要素が含まれます。
少なくとも原作ジャンプでやることじゃねぇ()
ちょっと早まったかもしれないーーー
同僚に肩を借りて退室する科学者を、引きつった顔で見送りながらフリーザは思った。
惑星ベジータを調査し、拉致された科学者を救出するという任務を、ドドリアは見事、文句無しに果たしてみせた。
ーーー満身創痍、血反吐を吐き、いまにも息絶え事切れそうになりながらもではあったが。
フリーザは驚愕した。ドドリアならばサイヤ人など、例え複数人が束になっても問題なく切り抜けられるはずだ。彼の戦闘力は22000。到底サイヤ人がかなうわけがない。
いったい誰が。エミューゼか? 否。それならばドドリアは生きてはいるまい。
ならば誰が、彼をこんな目に合わせたのか。
答えは科学者が知っていた。
呼吸すら億劫であるといった様子ドドリアを労い、メディカルマシーンまで運ばせたあと、フリーザは救出された科学者を呼び出した。
科学者は正気を半ば失っている状態で、話を聞き出すのは困難を極めたが、時間をかけてでも話を聞くことができたことをフリーザは心底感謝した。途轍もなく貴重で、必要な情報であったからだ。
同時に。エミューゼのあの微笑みの。
その裏にある狂気が垣間見えたようで、フリーザは背筋を凍らせた。
ドドリアを襲ったのは、エミューゼの実験に参加させられたサイヤ人だったのだ。
「実験……ですか。野蛮なサイヤ人らしからぬ試みですが、エミューゼさんならおかしな事ではありませんか」
フリーザは、知性を感じさせるエミューゼの瞳を思い出す事で納得した。この時点ではまだ笑い話で済んだ。
ドドリアに匹敵するようなサイヤ人を教導できるとは、エミューゼをフリーザ軍の戦技教導官に推薦するのも良いかもしれない。
そんな、呑気な事を考えていた。
フリーザはすぐ後にこんな馬鹿な考えをした自分を殴り飛ばしたくなる。
その実験とは、エミューゼが生きた環境を再現し、サイヤ人としての在り方を矯正することで戦闘力をあげ、あわよくば超サイヤ人を生み出そうという実験だという。
エミューゼが生まれ育った環境。
人はそれを“蠱毒地獄”と呼ぶ。
多数の虫を同じ容器で飼育し、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが神霊となるためこれを祀る。
エミューゼが行った実験はまさにこの蠱毒の再現に尽きる。
自分以外の全ての存在が敵。戦わなければ生き残れない。サイヤ人達は自身が生き残るために、閉ざされた空間で互いに殺し合いを繰り返した。僅かな隙をみては同種だった肉を腹に納め、命がけで仮眠をとり、ただひたすらに生き残る事だけを考えるしかなかった。状況を嘆くものから死んでいく。
まさに地獄であった。
ちなみにエミューゼはこの光景をみて“鶏肋”と呟いたという。
かつて彼女が生きた環境はこんな生易しいものではなかった。
しかし、科学者はこのおぞましい実験の監督をさせられたために心が磨耗し、精神を患うことになったようだった。
フリーザは正直なところ、恐怖を感じた。そしてそれを恥じる事はしなかった。
野蛮を通り越してもはやホラーであると渇いた笑いすら出る。
悪の帝王フリーザをして、“よくもこんな非道な事を笑ってできるな”と言われるものだった。
その実験の生き残りが、ドドリアを襲ったのだ。
そのサイヤ人はとうに正気どころか、知性や理性すら失っていた。だらし無く開けられた口からは血の混ざった涎を垂らし、奇声をあげながらドドリアに飛び掛った。
そのサイヤ人にはもはや、個人の区別などついてはいない。眼に映る動くもの全てが敵である。
先に殺さなければ殺されるーーーなどという思考すら、とうの昔に消え去った。
只々、動くものは殺すという、身体に刻み込まれ、染み付いたものだけが彼を支配している。そうしなければ生き残れなかったが故に。
もはや知的生命体とは呼べない風態であったが、しかしその両の眼だけは猛禽類のように己の敵を見定め鋭く光らせていた。
もちろん、ドドリアは応戦する。逞しい腕力から繰り出される拳は寸分の狂いすらなく、そのサイヤ人の頭部を捉えた。
ドドリアは恐怖した。
ダメージを厭わず、顔色すら変えず、サイヤ人はそのまま再び襲いかかってきたのだから。
捨て身と生への執着。相反する2つの意思を持って襲い来るサイヤ人。
闘いは熾烈を極めた。
スカウターによれば、そのサイヤ人の戦闘力は21500であったという。
ベジータ王など歯牙にもかけない強さである。
腕がもげようと、脚が消炭になろうと、顔半分が吹き飛ぼうと奇声をあげながら凄まじいスピードで飛びかかってくる、死を恐れぬ亡者の戦士。
勝利を収めこそしたものの、ドドリアも無事では済まなかったというわけだ。
むしろ、ドドリアがPTSDを患っていないかをフリーザは案じた。
フリーザは邪悪で、使えなければ部下すら平気で殺すような男ではあったが、その彼をして、ドドリアの境遇には同情せざるをえなかった。
ボーナスと休暇をあげようとフリーザは本気で思った。
存分に家族サービスしてほしいと目の端に涙すら浮かんだ。
よくも生きて任務を果たしてくれたものだ。
そして選別したサイヤ人の教育はエミューゼに任せようなどと考えていたことを心底後悔した。
先日のエミューゼの微笑みに薄ら寒さすら感じる。
いったいどんな精神構造をしていれば、この凶行の上にあの完璧な微笑みを浮かべることができるのだろう。
薄っぺらく貼り付けたようなものでは決してなかった。
想像以上のホラー体験を聞かされたフリーザは、もう正直お腹いっぱいであったが、エミューゼと惑星サダラ調査の関係を聞かなければと意識を切り替える。
「古代サイヤ人……ですか。想像以上に厄介な存在のようですね」
実験の内容が、“エミューゼの生まれ育った環境の再現”であることから、嫌な予感はしていた。
科学者の話と、惑星サダラの調査から帰還したザーボンの話とを総合すれば、彼女こそサイヤ人の中でも崇め祀られている太古の生物なのだろう。
つまり。
今よりもずっと強いサイヤ人が跋扈する世界で。
先の実験なんぞとは比べ物にならないほどにおぞましい、まさに真の蠱毒地獄にあってなお。
彼女は生き残り、今なお伝説として語り継がれ、サイヤ人に恐れられている。
熟練しているはずだ。洗練されているはずだ。狂っているはずだ。
彼女は自分が想像する以上の修羅場を生きてきたのだろう。
これが、本当の戦闘民族たる所以だったのだ。
そりゃあ今のサイヤ人を見れば彼女は怒るはずだ。
彼女にすれば今の群れるサイヤ人など、なまっちょろくて仕方ないのだろう。
フリーザは自身の強さに絶対の自信をもつ。自分は生まれた時から約束された力を持っている。
家族以外で自分を苦戦させた相手はいない。
努力などしなくても、全ての存在が自分より弱者であった。
自分より強いものはいない。
自分の戦闘力は圧倒的なのだ
しかし、こと“闘争”に限れば、自分は彼女に劣るかもしれない。
自分が今まで行ってきたのは、一方的な虐殺。“戦闘”などでは決してない。雑魚にとっては真剣な死闘であっても、フリーザにとってはただの運動。掃除。お遊びであった。
故に、いかに自分が高い戦闘力とずば抜けたセンスを持っていようと。
彼女の“戦闘”“闘争”の経験値はやはり厄介である。
消すべきだろうか。
しかし、難しいだろう。
相手は正真正銘、化物。
一族の者が恐れたというあの超サイヤ人と並ぶ伝説の存在だとするならば。
自分が最終形態となり彼女と闘ったとして、負けないまでも、凄まじい被害がでるだろう。
少なくとも、フリーザ軍は壊滅するのは想像するに容易い。
正直なところ、フリーザが出したい結論は。
超関わりたくない。
これに尽きた。
エミューゼは完全に狂人である。狂人は何をしでかすかわからない。
読めない。
そんな輩とは関わらないのが1番である。
確かに、エミューゼの話は引き込まれるようで面白いし、ころころと変わる表情は見ていて飽きないし、過ごす時間は本当に楽しいと感じた。
故に惜しいとも思えるが、それ以上に、自分の障害になりうる。
障害となるならば全力で排除しよう。自分は宇宙の帝王フリーザ。負けることなどありえない。
だがしかし。もしこちらの害にならないのであれば、下手に刺激したくはない。
要するに。手元に置いておけば何をしでかすかわからず、敵対すれば厄介極まりない。
故に、放置したかった。関わりたくなかった。でもたまには会って、監視も兼ねて話をしたかった。
そしてそれは、フリーザにとって最高の形で実現する事になり、フリーザは狂喜乱舞することになるのだが。
それはさておき。
「さて………どうしてくれましょうか。ベジータ王め、厄介な存在を連れてきてくれましたね」
怒りの矛先は全てベジータ王に向かったのであった。
フリーザ様のホラー耐性が試されるお話でした。
フリーザ様「これが人間のやる事かよォ!?(ドン引き」
部下にするにも敵にするにも厄介な存在。超絶面倒クセェ心底面倒クセェ。でも話すと楽しい相手。それがフリーザ様にとってのエミューゼです。
エミューゼにとって肝練りはただのスポーツ。リアル戦闘民族の島津さん家と仲良くなれそう()
次回、カカロットとエミューゼ、地球へ発つ。惑星ベジータ、デデーン
をお送りします。