俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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スランプにもう一つの作品への集中、そして最近になって海外のゲームで鹿とか狩るやつの古い方に熱中してしまって筆が全く進まない。でも頑張って萌えを書きたい所存です。


第69話 俺の文化祭は楽しくない

 雪乃の体調も無事に戻り、彼女は再び文化祭実行委員会の仕事へと戻る。

戻った彼女はそれまでの遅れを取り戻すかのように仕事を熟していく中、八幡はといえば彼女の手伝いをする………ということはなく、彼は実行委員会から距離を取った。

別に雪乃が八幡と顔を合わせる度に頬を紅くして恥じらいながら見つめてきて気まずいからだとか、それを見た結衣と沙希が不機嫌になってジト目で八幡を追求してくるからだとか、そういうわけではない。当初の目的である『雪ノ下が帰ってくるまでに作業を規定以上に終わらせる』が済んでいるからだ。

つまり居ても意味がない。目的が達成された以上、部外者である自分がいて良い道理などないからである。まぁ、雪乃は居て欲しかったようだが、意地っ張りな彼女がそれを口にすることはなかった。

そして時間はあっという間に過ぎ……………。

 

 

 

 『開演三分前、開演3分前』

 

雪乃が耳に付けているインカムから実行委員の男子の声が入り、彼女は周りに居る実行委員達に指示を出して開演への準備を整えていく。

実行委員やその他の委員、オープニングセレモニーの出演者などが忙しくなく動く中、八幡はといえば一応は出席しているようで体育館に来ていた。別にもうお役御免なのだからいる意味などないのだが、下手に抜けるとその後面倒な目に遭いそうだと判断したからである。

だからあまりにも覇気がない。いつものように濁った目でステージを見つめながらじっと立っていた。

そんな八幡と違い周りは大いに盛り上がりを見せており、開演を今か今かと待ちわびていた。

そして体育館全体が一瞬だけ暗くなり次にステージに照明が集中する。その光の先に居たのは一人の女性徒。ほんわかとした雰囲気と放つ可愛いという言葉が似合う美少女であった。彼女はこの学校の現在の生徒会長である。彼女は周りから集中する視線を一身に浴びながらも物怖じする様子なく笑顔で元気よく周りに向けて声を張り上げた。

 

「おまえらぁ、文化してるかぁ~~~~~!」

 

張り上げたというには可愛らしくて間延びした声。普通なら気勢を削がれそうな声だが、開演を待ち望んでいた若人達はそんなことは気にならないらしい。

 

「「「「「「おぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

周りのノリに八幡はついて行けないと若干呆れる中、生徒会長は皆の反応が喜ばしいようでより笑顔になりながらさらに皆に問いかけた。

 

「千葉の名物、踊りと~~~~~~?」

 

その問いかけに周りが一斉に答える。

 

「「「「「祭りぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」」」」」

 

ハイテンションに盛り上がる生徒達。ある意味に於いて皆の心は一つになっているのだろう。

 

「同じアホなら踊りゃな~~~~~!」

「「「「「「シング ア ソォングゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」」」」」

 

その言葉を皮切りにBGMが鳴り響き、生徒会長がステージから下がると共に有志団体のダンスチームがステージに登場し自慢のダンスを披露し始める。

それらによって完全に文化祭が始まったことで生徒達のテンションは天井知らずに跳ね上がる。その中で八幡だけが呆れて冷めているのは若さがないからではないだろう、たぶん。

そして進んでくセレモニー。生徒会長が司会を務める中に実行委員会長からの挨拶というものがあった。

それによりステージに現れたのは今まで仕事をサボってきた相模 南である。彼女は八幡によって無理矢理仕事をさせられたが、雪乃が復帰したことにより再びサボり始めたのだ。その事に既に見限った雪乃は何も言うことはなく、八幡も気にすることもなかった。

そんな彼女は周りからの視線に緊張で身体を強張らせながら何とかステージ中央に立つ。

 

「みッ~~~~~!?」

 

最初の一声が緊張の所為で上ずり、更にマイクの不調かキンと甲高い声になって周りへと響き渡る。

その声に彼女自身の緊張が更に高まり彼女は放心しかけた。

それに拍車をかけるように笑い声が噴き出す。きっと面白い珍プレーをしたなという程度のことだろう。だが、笑われた彼女はそう思えなかった。一人っきりの孤独の中、自身の失敗を聞いて笑う彼等を彼女には自分の失敗する様子を見て嘲笑うようにしか見えない。

だからこそ凍り付く頭。真っ白になった頭は本来あるべきはずの挨拶の言葉を頭から消し飛ばした。

放心しかけている彼女に生徒会長が慌ててフォローに回り、それで何とか動き出した彼女ではあるが、それでも再びやらかす。慌ててカンペを取ろうとして手を滑らせてしまいカンペを落とし、その様子から再び笑いが噴き出す。

まさに恥の上塗りに彼女には感じられただろう。震える身体からはもうこの場の雰囲気に怯える様子しか見えない。だからなのか応援の声が上がるが彼女には逆効果しか生まない。

何とか拙い言葉で挨拶を始めた彼女ではあるが、その言葉を聞いていて八幡は冷めた目で相模を見ていた。

 

 

 

「ひ、比企谷……」

 

開演のセレモニーも終わり学校中が文化祭で賑わいで溢れかえる中、八幡は後ろから聞こえてきた声に振り返った。

そこに居たのは八幡が見知っている人物。ポニーテールがトレードマークの格好良くて美人で、それでも可愛らしい女の子。

 

「どうしたんだ、川崎?」

 

彼女、川崎 沙希に八幡はそう話しかけた。

八幡に話しかけられた沙希は顔を赤らめながらも八幡をじっと見つめる。

 

「そ、その………わ、私、クラスの出し物の方でもうやることないから、その………」

 

消え入りそうな程に小さな声。でも一生懸命さが伝わるその声に八幡は可愛いと思った。

そんな八幡の優しい視線を感じて沙希は決心したらしく八幡の目をしっかりと見つめながら結構大きな声で八幡に言う。

 

「私と一緒に文化祭、まわって下さい!!」

 

緊張のせいで何故か敬語になった告白。それを聞いて八幡は少しだけ笑ってしまった。

 

「お前は何というか、不器用だなぁ。でも、何て言うか………そこが可愛いのかもな、お前は」

「なっ!? 何言ってるのよ、アンタ! そ、そんなこと言うなんて…………」

 

八幡にそう言われ沙希は顔を真っ赤にして俯いてしまう。見た目からは信じられないくらい初心な彼女は八幡に可愛いと言われ、そのことに嬉しいやら気恥ずかしいやらで顔がにやけてしまいそうになるのを必死に堪える。

そんな沙希は当然の如く周りから視線を集めてしまうわけであり、彼女の様子からして暖かくもながら興味深々な視線が集まっていた。

それを感じそろそろ離れた方が良いと判断した八幡はとりあえず沙希の手を軽く取った。

 

「あまりこの場にいるのはまずい。注目されてるからな」

「え?」

 

繋がれた自分の手を見て再び固まってしまう沙希。

そのまま八幡に手を引かれゆっくりとだが歩き始めていることにやっと彼女の理解が追いついた。

 

「ひ、比企谷、その手、手、繋いでる………」

「悪いけど我慢してくれ。少しだけ離れるぞ」

「う、うん………(比企谷の手、私と違って堅い………やぱり男の人なんだなぁ…………)」

 

八幡に手を引かれている沙希は顔が熱くなっていて真っ赤になっていることを自覚したが、幸せを感じていた。

そんな沙希は八幡の歩みに従いゆっくりとこの場を離脱。そして少し歩いた後で改めて八幡は沙希と向き合った。

 

「あ~、それでさっきの申し出なんだが」

「………え、あ、何?」

 

八幡に手を引かれていたことに夢中になっていた沙希は八幡にそう声をかけられ少しばかり夢見心地な状態で何とか対応する。

 

「さっき言ってただろ、一緒にまわってくれって」

「う、うん………」

 

八幡の言葉にやっと理解が追いついた沙希は少し緊張しながら八幡を見つめた。その瞳には期待が籠もっている。

その期待を感じて八幡は少しばかり気まずい顔をしながら返事を返した。

 

「そのな、申し訳ないんだが………連れがいてもいいか?」

「え、連れ?」

 

八幡と二人っきりを期待していた沙希は八幡の言葉を聞いて落胆してしまう。せっかくのチャンス、二人っきりで文化祭をまわるという恋する乙女なら誰しもが憧れるイベント。それを断られてしまったというショックは計り知れない。

だが致命傷ではない。何故なら八幡の言葉を思い出してもらいたい。彼は『連れがいてもいいか?』と答えたのだ。一緒にまわるということに否定はしていない。

つまり二人っきりは無理だが連れと一緒にならまわることは出来るということだ。

まだ一緒にまわれるだけマシだと判断した沙希は仕方ないかと軽く溜息を吐くと八幡を軽く睨みながら問いかけた。

 

「べ、別にまわれるならいいけど。それよりその連れって誰?」

 

八幡の交友関係を詳しくは知らない沙希だが、概ね八幡の性格を知っているだけに友人が少ないことは分かっている。だからこそ、結衣でも雪乃でもない『連れ』とやらが気になった。もし女の子だったらと思うと胸がやきもきして仕方ない。

そんな沙希の胸中に気付く様子はなく八幡は答えようとしたが、その前に別の方向から声がかかった。

 

「あぁ、やっと見つかったぁ! ハチマン、校門前で待ってるって言ったのにいないんだから。お陰でアテ、疲れちゃたよぉ」

「よぉ、ハチ。改めて学校で制服姿のお前を見るが、何て言うか………ぶふっ、まったく似合ってねぇなぁ」

 

その声がした方向を見る沙希と八幡。

その先にいたのは二十代前半の格好いい男と真っ黒いゴスロリパンクな服を着た美少女にも美少年にも見える不思議な子供がいた。

その二人を見て八幡は疲れた溜息を吐きながら言葉を漏らす。

 

「静州にアリス………勝手に動くなって言っただろうが」

 

その言葉は沙希の耳には入らず、彼女は八幡のことを知っているであろう二人の新たな人物に視線を集中させるのであった。


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