俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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仕事が忙しすぎてスランプに。
そしてもう一つのダンまちの作品の影響で頭が島津脳になってしまいラブコメが書けない。
マジでどうしよう………あぁ、手柄を立てればよいのか(狂)


第68話 俺は彼女の背中を拭く。

 甘えていいと言った。

八幡が彼女にそう言ったのは、常日頃人に甘えるということをしないからこそこういうときは頼って欲しいと思ったからだ。

雪ノ下 雪乃という女の子は成績優秀容姿端麗という非の付けようがない美少女だ。その事は総武高の全生徒が知っているといっても過言ではない。

だが、そんな彼女が実は不器用な性格で可愛い物が好きな女の子だということは八幡達しか知らない。八幡達だけがより『雪ノ下 雪乃』という少女を周りの人間よりも理解していると言ってもいい。

 だからこそ、甘え下手な彼女にはこういった機会に少しでも甘えて欲しいとそう思った。

そう思ったのだが、これは……………流石にどうなんだろうかと、八幡は思わずにはいられなかった。

 それはアイスを食べさせてあげた後のことだ。

八幡はこれ以上いても雪乃に迷惑がかかるだろうと判断しお暇しようとした。

 

「それじゃぁそろそろ俺はか……」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

帰ろうとしたら雪乃に待ったの声を掛けられる八幡。

彼女の方を見ると真っ赤な顔で何やら焦っている様子だ。

だから八幡は雪乃が何を言うのかを待つ。

八幡に待ってもらっている雪乃はというと、頭の中がグルグルと回っていた。

 

(呼び止めてしまったけど、どうしよう………)

 

特に考えてなどいなかった。

ただもっと八幡と一緒にいたいと、八幡の姿を見ていたいと、そう思ってしまったのだ。

絶対に認めたくはないと彼女本人はそれを否定するだろうが、それでも彼女は心の奥底でそう思ってしまった。

 

(せ、せっかくのチャンスだし、彼だってもっと甘えていいって言ってくれているし………それにここで少しでもリードしておかないと……卑怯だとは思うけれど、それでも…………私は!)

 

沸騰しそうな頭で必死に考え抜く雪乃。その脳裏にはこの『嬉し恥ずかしい状況』をより甘受するべきか、自身の不甲斐なさが招いた結果を利用することへの卑怯が駆け巡る。両者とも彼女にとって重要なことであり、卑怯を許せない正義心と恋する乙女としての甘えたい心が競り合う。

その結果勝ったのが……………。

 

「も、もう少しゆっくりしていってもいいんじゃない? 貴方も少し疲れている顔をしているようだし」

 

勝った方の心によってより前に踏み出す雪乃。

考えてみれば今更なのだ。この状況を利用し八幡に既に一回甘えてしまっているのだから、今更それが卑怯だ何だというのは遅いだろうと。

そうと決まれば話は早く、雪乃は不器用ながらも八幡にアタックをかけることにした。

 

「別に疲れているわけじゃないんだが………」

 

呼び止められた理由がとっさに出た出任せだということを八幡はとっさに察していた。

こう言ってはなんだが、一般人に気付かれる程に面の皮は薄くない。敵に対して不利な情報を与えるような甘いことなど八幡は絶対にしない。だからこそ、顔は常に無表情に近く目が濁っているのだ。まぁ、目の濁りはどうしようもなく天然だが。

だからこそ分かる。雪乃が自分の疲労具合を察しているわけではないということが。

そうなれば何故そんな事を言ったのかということなのだが、それは真っ赤になっている彼女の顔を見れば直ぐに分かることであった。

 

(まぁ、アイツにしては珍しく甘えたみたいだからな。もっと甘えたいんだろ)

 

妹に甘えられることがある経験からそう判断した。顔が真っ赤なのは甘える事への恥じらいからだろうと思いながら。

 

「ならもう少しお邪魔しようか」

 

そう答え再び雪乃の前にくる八幡。

八幡がまだいることにホッとしたようで嬉しいのか、表情を緩める雪乃。

 そこまでは良かった。だが、問題はここからである。

休めと言われても特にすることがない八幡と、呼び止めたは良いが何を頼めば良いのかわからない雪乃という構図が出来上がってしまったのだ。

その所為でどうにも気まずい二人。これでは休むどころか気疲れしそうだと八幡は思うが、雪乃の様子から帰るのはまだ無理だと思いこの場に止まる。

雪乃の方は八幡にどう甘えようかといつになく必死に考えていた。

今まで甘えるということを親にさえしてこなかった彼女である。人にどう甘えればよいのか、また如何に八幡に自分のことを意識してもらえるのかなどを考え、そして年相応の事を考えては顔から湯気を噴き出す。

その様子は見ていて微笑ましいものがあるが、同時に可愛いと思ってしまう。

気まずいが見ていて飽きない………そんな雰囲気に包まれていた。

そして彼女が出した答えが…………。

 

「そ、その…………背中を拭くのを手伝ってもらいたいの」

 

何故こんな答えが出たのか、言った本人ですら分からない。

当然その答えに戸惑いを見せる八幡。雪乃はと言えば、もう倒れるんじゃないかというくらい顔を真っ赤にして破れかぶれに近い言い訳を捲し立てる。

 

「そ、その、まだ熱があるからお風呂に入れないので身体を拭くのだけど、流石に背中とかは手が行き届かないから、それでお願いしたいのよ!」

「いや、それは流石にどうかと思うんだが。そういうのを異性に頼むのは駄目だろ、普通」

 

雪乃の要望に流石に駄目だろと突っ込む八幡。いくら彼が歳不相応な精神をしていても異性に対してはそれなりに反応するのだ。そんなことをすればどうなるのかなど彼自身ある程度わかってしまうだけに断るしかない。まぁ、襲いかかるなんてことは絶対にしないだろうが。

八幡のそんな突っ込みに対し、雪乃は自覚はしていないが、瞳を潤ませながら八幡を見つめた。

 

「あ、貴方が言ったんじゃない、甘えろって…………駄目?」

 

まさに必殺の破壊力を秘めたお願い。

それを受けて断れるのは絶対に不能か同性愛者の変態くらいな者だろう。

 

「……………お前が文句なければいいよ」

 

その両者ではない八幡は当然のように折れた。

自分の言った手前、その約束を守らないわけにもいかない。

それが彼女の願いだというのなら、彼女が自分を頼って甘えてくれるというのなら、それを受け入れるのは言った者の責任だと。

そう思い決めた八幡に対し、雪乃はというともう何が何やら、頭から湯気を噴き出しながらあたふたとしていた。自分で言っときながらこうまですんなりと通るとは思わなかったのだ。

 そしてあっという間に行動は実行されることになり、電子レンジで温められ人肌よりも温かいタオルを渡される八幡。

 

「ど、どうぞ……………」

 

雪乃はそう言いながら八幡に背を向け着ていた寝間着の上着を脱ぎ下着を外し髪が邪魔にならないように掻き上げる。

現れたのは彼女の名にもある雪のように真っ白な背中。掻き上げた髪から覗くうなじは艶気を感じさせる。

その姿に八幡は珍しく頭がクラクラとした。

初めて見る女性の背中。妹の背中とは違う『女の子』の背中。それは少々どころでは済まない程に刺激があった。

いつまでもそうしているわけにもいかないし、速く済ませたほうがこちらの精神衛生的にも絶対に良い。

だが、どうにも目が離せない。

その視線を感じ取ったなのか、雪乃は顔が熱くなるのを感じながら消え入りそうな声で八幡に話しかける。

 

「ひ、比企谷君、早くお願い………恥ずかしいわ」

「す、すまん」

 

雪乃に言われてやっと八幡は動き出す。

渡されたタオルを使い、絹のように美しく染み一つない真っ白な背中を拭こうとする。

 

「んぅ………」

 

タオルが触れた瞬間、雪乃からそんな小さな声が漏れた。

小さな声だというのに、それにはあまりにも艶気が強い。その所為で八幡はドキドキが更に加速してしまう。

それでもと彼女の背中を傷付けぬよう丁寧にタオルを動かす。

 

「ん………くッ………はぁ………」

 

雪乃の口から漏れ出す喘ぎ声。それが八幡の精神をゴリゴリと削っていく。

お互いに思ったことは一緒だった。

 

((どうか、このドキドキが相手に伝わりませんように…………))

 

 

 

 こうして雪乃は八幡に甘え、ある意味彼女の願い通りに背中を拭いてもらい自分を意識してもらえたと恥ずかしいが喜んだ。

それを露わにしたのは八幡が帰った後。

 

「どうしよう…………恥ずかしすぎて寝られないわ」

 

その後、雪乃は嬉しいやら恥ずかしいやらでベットの上でバタバタと暴れ全く眠れない夜を過ごすことに。

尚、八幡は普通に寝ていた。

理由は……………。

 

『いついかなる場合でも休息を取るのは必要なことである。精神的に動揺していても、冷静に対処し時に思考を放棄しても休め』

 

そんな言葉がこの業界にはあるからである。


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