俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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ダンまちの方に集中しすぎてすっかりスランプ気味です。
少しでも雪乃が可愛く見えれば嬉しいなぁ。


第68話 俺は彼女に食べさせる

 八幡はこの事態に対し、どうして良いのか反応に困った。

目の前にいるのは未だに風邪が抜けきらない雪乃。そんな彼女が自分が差し入れたアイスを手に持って上目遣いで潤んだ瞳を向けてきた。

美人に可愛いが加わってまさに最強な状態の雪乃。恋愛方面に鈍い八幡でもその愛くるしさには直視出来ない。

それはまだ良い。問題なのはその願いに対し、自分がどう返せば良いのかということだ。

願い自体は簡単なものだ。することは単純だし、その行動自体は妹の小町が風邪をこじらせた時にしてあげたこともある。だからするのに問題は無い。

だが、それはあくまでも身内だからこそ気楽なのであり、流石に年頃の女の子にするのは気恥ずかしいものがある。

だから当然八幡は顔が熱くなるのを感じた。気恥ずかしいし、直視出来ないくせに目の前で顔を赤くしている雪乃から目が離せない。

そんな八幡の視線を感じ取り、また自分が言ったことが如何に恥ずかしいことなのかを改めて考えてしまい、雪乃の顔は熟したトマトのように真っ赤になる。

 

(や、やはり恥ずかしいわ! それに何より、『私らしくない』)

 

自分のキャラと言えばクールで完全無欠の美少女と彼女は捕らえている。

そんな人物がこんな甘い事を言うわけがない。自分がそんな甘い事を言ってしまったことに彼女は今更ながらに羞恥で押しつぶされそうだった。

と、本人がそんなことで内心悶えているわけなのだが、実際に周りからは

 

『クールっぽいけど実は少し抜けてて優しく猫が大好きな可愛い女の子』

 

と思われている。特に結衣や沙希からは。

何せ猫を見て顔が締まらなくなっている雪乃を何度も見ているのだ。今更完全無欠とは思われない。

周りからそう思われているとは知らない彼女は今のチャンスに悶える。

そんな雪乃は表面的には八幡を見つめたままの状態であり、いつまでもそうしているわけにはいかない。

八幡はそう決意し、彼女の目を見ながら答えた。

 

「あぁ、わかった」

「ッ!? い、いいの………」

 

自分で言っておきながらその答えが信じられないのか、雪乃は八幡にそう聞き返してしまう。

そんな雪乃に八幡は何故だかおかしくて苦笑した。

 

「いいも何も自分からお願いしてきたんだろうが」

「そ、それはそうなのだけれど……………」

 

まさか受け入れてもらえると思わなかったのか、もしくは嬉しくてどう反応して良いのか、雪乃は真っ赤な顔で俯く。

その様子がまた普段よりも可愛らしく、見ていて八幡は頬が熱くなるのを感じた。

 そして八幡は雪乃に向かい合う形で椅子に座り、自分が買ってきたアイスの蓋を開け、木べらで中のバニラアイスを掬うと雪乃に向けて差し向ける。

 

「ほら、口を開けろ」

 

八幡のその言葉にこれから先に行うであろう行為を想像し頭から湯気を立ち上らせる雪乃。今更ながら恥ずかしくて、ついつい反抗的な態度を取ってしまった。

 

「あ、貴方は随分と普通にするのね! 恥じらいという物がないのかしら? それとも私が口を開けて待つ光景に邪な感情を抱くんじゃないかしら!」

「いや、お前がしてほしいと言ったんだろ。それに恥も何も、病人看護にそういうのは気にしちゃ駄目だろ。人の善意を疑いすぎだっての」

 

八幡の答えに雪乃はしまったと思い黙ってしまう。何せその答えはもっともなことであり、寧ろ自分で自爆しているに他ならない。

それと同時に内心である突っ込みを入れてしまう。

 

(も、もっと、その………年相応のエッチな妄想をしなさいよ!………は、私ったらなんてことを、そんなはしたない………べ、別に私はエッチじゃないわよ)

 

そんな事を考えてしまい顔を更に赤くする雪乃。彼女は年相応に妄想してしまいそれが頭から離れない。そんな自分に嫌悪し否定するが、それは誰の耳にも届かないものだ。

そんな雪乃の様子によく分からない八幡は彼女に口を開けるように促す。

 

「あまり待たせると溶けるぞ。ほら、あーん」

 

そう言われ雪乃は目の前で溶けかけてしまっているアイスを見て遠慮がちに口を開けた。

 

「あ、あ~~~ん……………」

 

小さい口が開き、中には赤い舌が艶やかに蠢く。

その様子は少しばかり淫靡であり、八幡も内心ではドキドキしてしまう。

だが、それを知られるのは気恥ずかしくて表面には出ないようにする。

そう心がけながら手に持つアイスを雪乃の口に優しく入れてあげた。

 

「ん……」

 

口に入る冷たいアイスに雪乃は目をきゅっと瞑ってしまう。

甘いはずなのに甘さはまったく感じられず、彼女の胸はドキドキと高まり過ぎて平常心を保てない。薄目を開けてみれば目の前にいるのはいつもより優しい眼差しをした八幡の顔。その視線が自分だけに向けられていることがたまらなく嬉しくて、胸が温かくてどうしようもなく幸せを感じてしまう。

そんな雪乃の顔は真っ赤だがどこか嬉しそうな顔であり、八幡は彼女の顔を見てアイスが美味しかったのだと判断した。

なので次の分をあげようと思うのだが…………。

 

「雪ノ下、流石にこのまま咥えられてたんじゃ次の分が掬えない」

 

未だに木さじを離さず咥えている雪乃にそう言う八幡。

そう言われ、雪乃は自分が間抜けな姿を晒していたことに気付き慌てて口から木さじを離す。

 

「ご、ごめんなひゃい…………うぁ~~~~~………」

 

挙げ句は謝罪を咬み、恥ずかしくて真っ赤に有りながら唸ってしまう。

そんな姿が普段から見られないだけに新鮮で可愛らしく、八幡は優しく微笑んでしまう。

 

「落ち着け雪ノ下。前も言っただろ、甘えろって。だから落ち着いてゆっくり食べろ。まだアイスはあるんだからな」

 

その笑顔があまりにも優しいものだから、その瞳がいつもと違いまったく濁っていないから、雪乃は八幡を見つめてしまった。

彼のその優しさを独り占めしていることに若干の罪悪感を感じるが、それが余計に刺激となり、一種の背徳感を感じさせる。

そういったものも感じたが、何よりも幸せを感じた。

二人っきりで彼の優しさを唯一向けてもらえることが嬉しい。

だから雪乃はいつもより少し大胆になった。

具体的にはクーデレだったのがデレデレになった。

見た目的には変わらないが、内心は猫を相手にしている以上にふやけてしまっていた。

 

「う、うん………その、もっと………ちょうだい」

 

若干幼さを感じさせる声音にドキッとしてしまう八幡。何やら妖しげな雰囲気を感じなくもないが、それを振り払うように八幡は再び木さじでアイスを掬う。

 

「ほら」

「あ~~ん………んふふふふ」

 

真っ赤になって恥ずかしがりながらもどこか幸せそうな雪乃。

 そんな雪乃を見て八幡は見舞いに来て良かったと思った。

 

 

「そ、その…………背中を拭くのを手伝ってもらいたいの」

「なっ!?」

 

その後爆弾が爆発するとはこのときは思ってもいなかった。


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