そして俺ガイル続のゲームが面白いですよ。
昼食を済ませた小町達は手早く片付けを終わらせた。
なので他の小学生達の手伝いでもしようと思ったのだが、それ以上に目を引く存在を見てそちらに歩を進めた。
「はぁ~………みんな変にハシャいじゃって……馬鹿ばっか」
彼女……鶴見 留美は呆れたようにそう呟いた。
彼女は周りとは一切交わらず、一人だけ離れて周りの小学生達を見ていた。
その様子から感じ取れる孤独は、ある意味小町達にとって馴染み深くもあるものである。
そんな彼女に最初に話しかけたのは雪乃だった。
「仕事をサボって何を言っているのかしら?」
それは挑発にしか聞こえない。しかし、同時に事実でもある。
確かに彼女は自分が入っていた班の子達とは一切行動していない。だから彼女が入っていた班の子達は彼女の存在などいないかのように片付けを行っている。そして彼女の足元には空になった皿が置かれていた。カレーだけ持ってきたようだ。ある意味タダ飯だが、彼女のような境遇ではそれもいたしかたないだろう。
突如として声をかけられたことに驚く留美に、雪乃は優しくも不敵な笑みを浮かべた。そんな彼女に今度は結衣が話しかける。
「一人でどうしたの?」
それは慈愛に満ちた優しい声だ。
心優しい彼女なりの気遣いでもある。その人柄もあってか、留美は結衣に答えた。
「別に、何も…………」
そう答えるが、その表情はとても暗い。
まだ幼いが故に感情が隠し切れていない。そんな子供を放置するほど小町達は冷たくない。
「何もないって感じじゃないよね。何かあったんじゃない?」
沙希は子供の扱いには慣れているのか、普段に比べ柔らかな笑みでそう問いかける。
普段は凛々しく厳しい彼女だが、問題を抱えている子を見て気になっているようだ。少しだけ、以前の自分に似てなくもないと思ったのだろう。抱えている問題は分からないが、それを抱え込んでいるという点では同じだから。
そんな年上の女性達にそう問いかけられ、留美はどうしようかと困惑してしまう。
普通なら相談しようなど思わない。だが、何故か彼女達になら相談しても良いと、心のどこかで思ってしまう。いや、自分がしたいと思ってしまうのだ。それほど彼女達は心が優しいと思えた。
「そ、その………名前………」
話したくなったが故に話しかけようとするが、その前に相手の名前が分からず困る留美。そんな彼女に小町はえへへっと笑いながら答えた。
「私、比企谷 小町。あなたのお名前は?」
「つ、鶴見 留美……です」
小町達は名前を知ってはいたが、彼女の口から教えてもらいたかったのでそう聞いた。
名前を聞いたことで結衣や雪乃、沙希も簡単に自己紹介をする。
そして改めて彼女が抱えている問題………いじめについて聞いた。
最初は悪ふざけで始まったことだが、それが段々とエスカレートし、しかも自分も過去に同じように誰かを一緒になっていじめたということ。
それを言いながら彼女は罪悪感に悲しむ。まだ子供な彼女では、集団意思に左右されてしまうのだろう。世の中そういったものに左右されるのは多くいる。分かってはいても仕方ないと、そう思うしかなかった。そして自分にそれが向けられることによって、その苦しみをより味わうことになった。
確かに可愛そうだが、見方によっては自業自得とも取れる。
それは彼女も分かっている。だから彼女は語り終えると共に、疲れ切った顔をしていた。
そんな彼女に小町達は考える。
いじめをやめさせることもそうだが、それ以上に彼女は友人が欲しいという意思もあった。
その二つの両立は難しい。女の子同士ならではの関係というのは得てして難しいものなのだ。
だからこそ小町達はどうするべきか、それを考えることにした。
夕飯を食べ終えた後、その問題は葉山達も交えて話題に上がった。
「何か心配ごとかね?」
話題に喰い付いた静に葉山が小さく答える。
「ちょっと孤立しちゃってる子がいたので心配に」
「可愛そうだよねぇ」
葉山の言葉に三浦が同意するが、問題を本人から聞いた小町達は違うと内心思った。
可愛そうだとは思うが、彼女がそれ以上に問題にしていることはそんな『悪意』によって孤立させられていることだということ。一人でいることは問題ではない。孤立するのも人の感性次第でいくらでもなる。だが、それがいじめという『悪意』で行われていることが問題なのだ。悪意は毒だ。どうやって絶対に向けた人間の心を犯す。
だから彼女が苦しんでいるのは悪意を向けられていることなのだ。
そんな小町達の考えに応じるかのように、静は周りの問いかける。
「それで、君達はどうしたい?」
その問いかけに応じたのは葉山。
「俺は………可能な範囲でどうにかしてあげたいです」
実に『彼』らしい答え。
確かにそれは耳に心地よい言葉だろう。
だが、それを許す彼女ではない。
「可能な範囲で…ね…………あなたでは絶対に無理よ。そうだったでしょ」
過去の忌わしい記憶を思い出しながら雪乃がそう言うと、葉山は押し黙った。
そんな葉山に更に追い打ちが掛かる。
「葉山、あんたのそれは偽善ですらない最悪なもんだよ。可能な範囲でっていうのは、言い換えるなら無理ならそれ以上は手を貸さないってこと。そんな無責任な善意、向けられる方が迷惑。やるかやらないか、はっきりさせな」
沙希は鋭い目つきで葉山にそう言った。
彼女が脳裏に思い出したのは、勿論八幡のこと。
沙希と彼女の家族を助けたいと言った彼が取った行動は、限度を超えたお人よし。正気を疑う方法だったが、それはその解決に全力を尽くすという表れでもある。
救われたからこそ分かるその思い。沙希はそれを分かるからこそ、中途半端な葉山が許せなかった。
二人から睨まれ苦しそうにする葉山。
そんな葉山にこれ以上は無理だと判断し、静は雪乃達に話を振る。
「雪ノ下、君はどうする?」
その問いかけに雪乃ははっきりと口にした。
「私は彼女を助けたいです」
「ほう」
静が感心したように声を出すと、雪乃は更に言う。
「この合宿は奉仕部の合宿ということでもあるのなら、その部活動の一環としても取れます。そして困っているのなら、助けたいと思うのは人として当然です。ですから、私は彼女を如何なる方法を用いてでも助けるつもりです」
雪乃の中で思い浮かんでいるのは八幡のこと。
問題の解決に正も邪も含めて手段を用いる彼は、確かに問題があるだろう。
だが、それでも彼は彼女には出来ないことを成してきた。
特に顕著なのは沙希の問題を解決した時。あの時、雪乃はどうあっても沙希を説得出来なかった。持ちうる正論を向けても沙希は頑なに応じなかった。
だが、そんな彼女の問題を八幡は一回で解決してみせた。何があったのかは知らない。だが、沙希が八幡を見る目をみれば分かる。彼が彼女の苦悩を解決して見せたのだと。
その姿に正直感心した。
正しいことは確かに正しい。だけどそれだけでは『救えない』ということが、彼女にも理解出来てきたから。
だからこそ、この奉仕部の合宿で八幡の不在を自分が代わりに埋めようと、そう思ったのだ。
しかし、彼女のそんな決意に静は水を指すように問いかける。
「だが、彼女がそれを望んでいるのかね?」
それは確認だ。
望んでもいないことを勝手にやられておかしくされては、それこそ善意の押し付けであり偽善である。
だから静はそう問いかけたのだ。
その問いかけに対し、答えたのは結衣だった。
「たぶん、留美ちゃんは言いたくても言えないんだと思います。留美ちゃん、言ってましたから………自分も同じことをしていたからって。だから、自分だけ助けてもらうのは許せないんじゃないかな。みんなたぶんそう、話しかけたくても、仲良くしたくても、そうできない環境ってあるんだよ」
沈んだ気持ちでそう言う結衣。
きっと彼女も過去に何か思い当たる節があるのだろう。
「それに…………」
今まで静かにしていた小町がここで顔を上げて静ににっこりと笑いかけた。
「せっかくの楽しいキャンプ、水を差されるようなものを見ていては楽しめません。だからここはスパッと解決して皆で楽しまないと。せっかくの思い出が詰まらないものなんて、それこそ本当に可哀想です。彼女も……私達も」
彼女達の言葉を聞いて少しだけ止まる静。
だが、次第にプルプルと震えはじめ、そして…………。
「あっはっはっはっはっはっは!!」
思いっきり笑いだした。
それこそ腹が痛いと言わんばかりに腹を押さえながら。
「ま、まさか自分達が不愉快になって楽しめないから解決したいとは………わかった。なら、君達の好きにしなさい」
一しきり笑った後、静は朗らかに笑いながらそう言った。その顔は何処か楽しそうだ。
そして彼女は一人だけでふらりと何処かに行った。
その背中を見送りつつ、雪乃達はさっそく留美について会議を始めた。
夜になり、施設のログハウスで眠ることになった小町達4人と葉山組女子二人。男子は男子で別のログハウスに泊っている。
日頃していない運動をした為か、疲れて眠ってしまった三浦達と違い、小町達はいつもと違う環境に興奮気味であり夜更かししていた。
布団を4人で寄せ合い、顔を近くまで寄せて会話に花を咲かせる。
最初はこの合宿についてから始まり、昼間の山登りや昼食の感想など。
失敗した結衣の話や雪乃が体力不足でへばった話などで盛り上がり、そのことに関して二人とも顔を赤くして慌てながら否定する。
些細だがいつもと少しだけ違う。そんな話がとても楽しかった。
特に今年が受験で進路希望先の学校の先輩との話は非常に面白く有益である。だからとても面白かったし、3人から応援してもらえて嬉しかった。
そしてそろそろお決まりだと言わんばかりに小町はニンマリと笑う。
これから彼女が行うのは更なる発破。この3人の『義姉候補』により意識してもらうための仕掛けである。
「ところで………皆さん。ウチのお兄ちゃんについて、どう思ってるんですか?」
さりげなく、何気なく、それでも何故かはっきり聞こえる声でそう問いかける小町に、それまで楽しそうに話していた3人が固まる。
「きゅ、急にどうしたの、小町ちゃん?」
挙動不審になりつつ何とか結衣が小町にそう問いかけると、小町はニコニコと笑いながら答えた。
「別に大したことじゃないですよ。ただ、お兄ちゃんが親しい人からどう思われているのか知りたいかな~って思っただけで」
その問いかけに対し最初に答えたのは雪乃だった。
「べ、別に何もないわよ。特に何も………」
意地を張っているのか表情が強張っている雪乃。
そんな彼女に小町はニッコリと笑った。
「では、そうお兄ちゃんに伝えておきますね」
その言葉にこの答えが八幡に伝わると思ったのか、本当はそんなつもりもないのに慌てて雪乃は答え直した。
「そ、そうね………とても不思議な人だとは思うわ。意地悪だと思ったら優しいし、人をいじめると思ったら逆に励ますし……」
そう答える雪乃の顔は真っ赤になっていく。
そんな雪乃に続けて今度は結衣が答えた。
「ひ、ヒッキーはその、とても優しいかな。それに良く頭をポンポンってしてくるし…………」
八幡に頭を撫でられていることを思い出しながら答える結衣。
彼女の眼は潤み、トマトのように顔は赤い。
そして最後に沙希が切なそうに吐息を洩らしながら熱くなった頬を抑えつつ答えた。
「ひ、比企谷はその……私の恩人だし、そのことは感謝してもしきれないし、それに………優しすぎだし、格好良くて………す、好き………」
最後の部分は聞き取れないくらい小さかったが、それでも顔がそれを物語たっていた。
それを聞き終えると共に意識する雪乃に結衣に沙希。
3人の顔は誰が見ても乙女の顔をしていた。だからなのか、3人とも誰が好きなのかを察してしまう。だが、それでも……嫌な気はしなかった。
そんな3人に向かってシャッター音が鳴り、彼女達はその音の音源に向かって急いで顔を向けた。
その先にいたのは、ニヤニヤとした笑みを浮かべる小町。
彼女の手にはスマホが持たれており、その画面には恋する乙女の顔をした3人の画像が映っている。
「ん~、実に良い写真が取れました。これはもう、お兄ちゃんに送るしかないですよね~!」
「「「待って~~~~~~!!」」」
その後、しばらくどたばたと暴れた4人だが、悲しいことに小町がそう言ったのは送った後であった。
そして彼女達は翌日になり、その意中の相手に会うことになる。予想外の所で………。
そんな風に小町達が盛り上がっている時、八幡はと言うと………。
「おい、起きろ。交代の時間だ」
「んあ……あぁ、もう時間かよ」
仮眠を取っていた同じチームの仲間を八幡は起こした。
現在は夜戦演習中。仮眠をとり周りを警戒するもの演習の一環である。
この演習では仮眠の取り方も一つの演習であり、こうして交代制で仮眠を取り合っているのだ。
そんな八幡は次に仮眠をとることになっている。睡眠時間は2時間。
普通に考えれば寝不足も良いところだが、実戦で2時間も寝られるのはありがたいことだ。
だからこの時間は貴重であり大切。八幡は直ぐに眠ろうとするのだが、それは同じチームの別のメンバーによって止められた。索敵に出ていたらしい。
「敵チームに動きあり! どうやら仕掛けるようだぜ」
それを聞いてそれまで仮眠を取っていたメンバーも起き、各自で戦闘態勢に移る。
「どうやら仮眠は中断らしい………はぁ」
周りの様子から仮眠が取れないと確定し、八幡はペイントナイフ片手に駆けだしていった。
彼はまだ、寝れそうにない。