俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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遅れて申し訳ありません。
今回は皆に頑張ってもらいました。
そしてガハマちゃんはエロい。


第41話 俺は彼女の誕生日を祝う

 各自が結衣の為に誕生日プレゼントを揃えて時間が経ち、本日はそれらが成果を発揮する本番、すなわち結衣の誕生日である。

彼女へのサプライズということもあって内密に練ったものであるが、対象が予想外の行動に出て台無しになっては元も子もない。だから八幡は部室に準備などを雪乃と沙希の二人に任せ、自分は結衣の動向を監視していた。

監視と言っても常々見張っているわけではない。さりげなく彼女に目を向けて部室に向かおうとすれば呼び止め何かしらの話題を振って時間を稼ぐ。

ストッパーとしての役割をしながらも八幡は内心まだ終わらないのかと思う。

別に大それたことをしようと言うわけではないのだから、準備にかかる時間は対して掛からないはずだ。

だからこそ、余計に気まずさを感じる。

そんな八幡だが、結衣はそんなことはないようだ。

 

「由比ヶ浜、やけに嬉しそうだな」

 

目の前で会話をする結衣がやけに嬉しそうに笑っているのを見て八幡はそう問いかける。

別に大した意味はない。ただ、彼女がいつもより楽しそうにしていたからそう感じた。

その問いかけに対し、結衣は少しだけ頬を桜色に染めつつ恥じらいながら答える。

 

「だって……ヒッキーとこんなに長く教室で一緒に話すことなんてなかったから」

「そうか?」

「そうだよ。ヒッキーっていっつも一人でいること多いし、すぐに何処かにいなくなっちゃって教室にいることが珍しいから。だからこうして一緒に話せるのが嬉しいの」

 

嬉しそうに微笑む結衣は可愛く、その笑みに近くに居た男子の視線が集まる。

そんな視線を感じつつ、八幡は少しだけ呆れた様子で返した。

 

「別に部室でも良く話してるだろ。こんな会話、どこでも出来る」

「それでも、なの。それにヒッキーって普段すぐ会話を切っちゃうから長く続かないし。だからこんな風に長く話せることが嬉しくて」

 

そう答える彼女は謙虚でいじらしく可愛い。

そう感じて八幡は自分の頬が熱くなるのを感じつつそっぽを向く。

 

「そんなことで喜ぶなんてな。まぁ、この程度で喜んでもらえるなら安いものか」

「うふふふ、よきにはからえ~、なぁんてね」

 

そんな冗談を聞きながら会話に花を咲かせつつ時間稼ぎをする八幡。

もし彼女と彼のこの姿を見ていた『彼に思いを寄せる女性』がいたのなら、少なからず機嫌を悪くしていたかもしれない。だからある意味、今この場にそれがいないことは救いであった。

そして少しだけ時間が経ち、時間稼ぎ終了の報せが八幡のスマホに来た。

 

『準備出来たから早く由比ヶ浜を連れてきな。あ、アンタもびっくりするに違いないからさ   川崎 沙希』

 

何故沙希が連絡してきたのかは分からないが、彼女らしい文面に少しだけ笑ってしまう八幡。しかし、文章内に少しばかり気になる内容があることが八幡の興味を引く。

その答えを知るためにも、八幡は彼女にこの言葉をかけた。

 

「そろそろ部活に行くか。と言っても依頼がなければ何もないけどな」

「そうだね、行こうか!」

 

八幡の言葉に結衣は弾けるような笑顔でそう答え、八幡の腕をぐいぐいと引っ張り始めた。

 

「別に急がなくてもいいだろ」

「だってヒッキーと一緒に部活に行くのって初めてだから。えへへへ」

 

傍から見て誰が見ても分かるくらい、結衣は乙女になっていた。

 

 

 

 そんな結衣に引っ張られながら歩くこと数分、二人は奉仕部に部室に来た。

そこはもう慣れ親しんだ場所であり、中に入るのに遠慮も何もない。

普通にそのまま部室に入る結衣。彼女の背を追うように歩く八幡はこの先に起こることに口元をニヤリと笑う。

その手に持っているクラッカーが咆哮の時を待ち望んでいるようであった。

そして部室に入った結衣が室内に戸惑っている所に雪乃と沙希、そして八幡はそのヒモを引いた。

 

「「「誕生日、おめでとう!!!!」」」

 

その掛け声とともに弾けるクラッカー。

飛び出した紙吹雪などが結衣の顔にかかり、彼女は目の前で起こった事態に頭が追いつかず唖然となる。

 

「え、あ、あれ、えっと、これって………」

 

鳩が豆鉄砲を喰らったという言葉をそのまま表している結衣を見て笑いそうになるのを堪える八幡。

そんな八幡を見て雪乃も笑いそうになるのをこらえつつ、結衣に見えるように持ちこんだ最終兵器………この日の為に雪乃と沙希が二人で作ったケーキを机の上に出し、彼女に優しく微笑みかける。

 

「6月18日、何の日か知ってる?」

 

その問いかけに結衣はやっとこの状況が何なのかを理解した。

 

「あぁ、私の誕生日ってこと!? 何で知ってるの!」

「アドレスにそのまま番号振っていれば大体予想がつくものよ。それに調べたけどちゃんと誕生日だったわ」

 

答えを明かす雪乃に結衣はそう言われ納得する。

それとともに、皆に祝ってもらえることが嬉しくてより笑顔になった。

 

「あ、ありがとう、ゆきのん、サキサキ、ヒッキー!」

「サキサキって言うな。まぁ、おめでとう」

 

結衣の言葉に反応しそう文句を垂れる沙希だが、その顔は微妙に赤くなっており恥ずかしがっている様子から満更ではないことが伺える。

そんな沙希に更に微笑む雪乃。八幡もそんな彼女を見て軽く笑った。

 そして始めるパーティー。

と言っても大きなものではない。学生らしくこじんまりとしたものだがその雰囲気はとても暖かく、仕事先で行った『誕生パーティー』なんかよりも余程和やかで心の底から祝いたいということが伝わってくる。

その心を感じてなのか、結衣は何度も泣きそうに目を潤ませていた。

そんな彼女を微笑ましく見る雪乃と沙希と八幡は確かに彼女を祝福する。

 

「これ、川崎さんと一緒に作ったケーキなの。市販のものに比べたら多少美味しくないかもしれないけど、二人で一生懸命作ったのよ」

「そんな、売ってるやつより凄いって! それにサキサキと一緒に作ってくれたって思うと、食べるのが勿体ないくらい綺麗だって。ありがとう、ゆきのん、サキサキ!」

 

目の前に差し出されたケーキに目を輝かせながら興奮する結衣。

そんな彼女の笑顔が見れて嬉しそうに笑う雪乃と沙希。二人はその笑顔に満足し、ケーキをさっそく切り分ける。

それはどこにでもある普通のショートケーキ……ではなかった。

上にイチゴが飾られているが、それ以外にも桃がふんだんに使われており桃の香りが漂うフルーツケーキである。桃は結衣の大好物だ。

それがふんだんに使われているということが、如何に彼女を良く知っているのかが良く分かる。結衣もそれが分かるからこそ、その嬉しさが更に増して泣きそうになった。

だが、泣く前に食べて感想をいうのが礼儀だと判断し、結衣は一番最初にケーキに口を付けた。

そして目を見開き、その舌が感じた感動を全身をもって表す。

 

「すっごく美味しい!! これ、お店に売ってるヤツなんかよりも美味しい!」

 

最高の褒め言葉を受けて嬉しそうに笑う雪乃。親友と言っても良い彼女の笑顔が心底嬉しいらしい。

 

「二人とも凄いね~! こんな美味しいケーキを作れるんだから」

「べ、別に大したことはしていないわ。ちゃんと分量を図って作っただけだから」

「わ、私もそこまでしてないし。大体雪ノ下が教えてくれたのをやってただけで」

「それでも凄いわよ。一回言っただけで見事にこなすのだから、家事を普段からしてるようだからかしら。手つきが堂々としていたわ」

 

女子が3人揃えば姦しいというように、和やかに会話に花を咲かせる3人。

結衣はケーキを絶賛し、雪乃はそんなことはないと言いつつ沙希の協力があってこそだと答え、沙希はそう言われ真っ赤になりながら否定する。

そんな3人を微笑ましいものを見る目で見る八幡。

 

(これがちゃんとした誕生日って奴だよな。悪くはない………親しい人間を祝うのは悪くないな)

 

そう思いつつ雪乃と沙希が作った力作のケーキに口を付ける。

 

「美味い………」

 

そんな感想が口から洩れた。

たったそれだけのことなのだが、何故かそれをしっかりと聞いていたようで雪乃は顔を真っ赤にしてうつむく。

 

(由比ヶ浜さんのためのケーキのはずなのに、彼女に喜んでもらえたのと同じくらい嬉しいかもしれない……私、どうしてそう感じてしまっているの?)

 

そんな二人の様子に気付かないのかそれともケーキに夢中だったのか、結衣は八幡のその感想に同意する。

 

「そうだよね、ヒッキー! このケーキ、すっごく美味しいよね」

「あぁ、そうだな」

 

結衣の純粋な反応に普通に応じる八幡。

そんな二人に向けて、今度は沙希がテーブルの上にあるものを差し出した。

それは普通に有るタッパー。そしてその蓋を開けると、その中には黄金色に揚がった唐揚げが一杯に入っている。

 

「誕生日に唐揚げっていうのがウチの定番だからさ。雪ノ下のケーキに比べて地味で申し訳ないけど」

 

恥じらいながらそう言う沙希。

そんな彼女のいじらしい表情が更に心を高鳴らせる。

 

「ありがとう、サキサキ! それじゃぁいただきます」

 

唐揚げを摘み嬉しそうに食べる結衣。

 

「うわぁ、これも美味しい! 凄いよサキサキ。私もこんな風に美味しい料理が作れたらなぁ~」

「べ、別に大したことはしてないから。ただ隠し味に……ごにょごにょ……」

 

称賛を受けて恥ずかしがる沙希。

そんな彼女に皆が微笑む。

そんな中、彼女は何とか結衣を引き剥がすと八幡に向かって唐揚げを差し出した。

 

「あ、アンタも食べた、唐揚げ」

「いや、まだだけど」

 

その言葉に沙希は更に顔を赤らめつつ、震える手で何とか八幡に唐揚げを乗せた紙皿を差し出す。

 

「な、ならさ……食べてみてくれない。感想とか、聞きたいし……」

 

真っ赤な顔で目を逸らしつつもチラチラと八幡の顔を見る沙希。

そんな彼女の雰囲気にのまれつつ、八幡は唐揚げを口にした。

 

「ど、どう?」

「…………美味くて驚いた。こんな美味い唐揚げ食べたのは初めてかもしれないな」

「ぁぅ………」

 

八幡に絶賛され、沙希はそれこそ耳まで真っ赤になった。その瞳は濡れており、嬉しさのあまり泣きかける。

 

(どうしよう、ただ褒めて貰えただけなのに、嬉しすぎて泣きそうになってる)

 

そんな沙希の様子が気になり八幡は大丈夫か沙希に問いかけると、彼女は弾かれるかのように大丈夫だと答えて急いで雪乃の所へと戻った。

 

 

 

 ケーキと唐揚げを堪能し、今度はプレゼントを渡すことになった。

 

「私からはこれを。さっきも言っていたけど、料理を勉強している由比ヶ浜さんには必要だと思って」

 

そう言って雪乃が結衣に渡したのはららぽーとで買ったピンク色のエプロンだ。所々にフリルがあしらわれており、実用性の中に可愛らしさを散りばめられていた。

 

「あなたのお陰で毎日を楽しく過ごさせてもらっているから。親しい友人として心からの感謝を気持ちをこめて」

「ゆきのん………」

 

渡されたエプロンを胸でぎゅっと抱きしめつつ感動する結衣。

そんな彼女に雪乃は喜んでもらえた事が嬉しいようだ。

そして次は沙希の番。

彼女が差し出したのは、ピンク色をしたフリル満載のシュシュ。何でも沙希の手作りらしい。その出来栄えは売り物と遜色なく、雪乃と八幡を驚かせた。

 

「こんな私でも普通に付き合ってくれて感謝してる。前はあんなに突き放したのにね。だからさ………ありがとう」

「サキサキ……」

「さ、サキサキ言うな。これはそのまま付けても良いけど、料理とかする際に腕の裾をまくった後にとめるのにも使えるから」

 

受け取ったシュシュをさっそく手首に通す結衣。まるで宝物を見るかのように目を輝かせていた。その様子を沙希は暖かな眼差しで見つめる。

そんな二人が終わり、今度は八幡の番。

ちなみに八幡は小町のプレゼントも預かってきている。彼女は中学生なので学校に来れないから八幡が渡すのを代行。

とはいえ最初に渡すのは当然自分のプレゼントであり、八幡は鞄から少し小さめな箱を取り出した。

 

「お前には結構世話になってるからな」

「ヒッキー………」

 

感動する結衣。それはとても綺麗に見えた。

 

「開けていい?」

「お好きにどうぞ」

 

八幡の許可を得て箱のリボンを解き空ける結衣。

箱の中にあったのは可愛らしいチョーカー? それを見た結衣は感嘆の吐息を漏らしながら喜ぶ。

そんなに喜んでもらえるとは思わなかった八幡は内心で驚きつつも、満足そうな結衣を見て安心した…………のだが、ここで思わぬ誤算が出てきた。

 

「ねぇ、似合うかな?」

 

結衣は八幡を見つめつつそう問いかける。

その問いの内容の対象は先程彼女に贈ったチョーカー?であり、彼女の首にそれが装着されている。

確かに彼女に良く似合ってはいるのだが、実は問題が一つ。

 

「………それ、犬の首輪なんだが?」

 

そう、八幡が送ったのはチョーカーではなく犬の首輪だ。

何故なら彼女との出会いの切っかけが犬だったからというのが大きい。そういった意味も込めてそう贈ったのだが、まさかチョーカーと思うとは思わなかった。

普通こんな事になれば当然怒るなり何なりと反応が返ってくるのだが、その後の反応は八幡の予想外のものだった。

 

「それってつまり………ヒッキーは私を『飼いたい』っていうことなのかな?」

 

顔を真っ赤にして瞳を潤ませつつ上目遣いで八幡を見つめる結衣。

熱い吐息が漏れる唇が妙に艶やかであり艶気を感じさせる。その解釈は変な方向に逸れ曲がり、少し間違えればただの変態でしかない。

だが、彼女はそんなことなど考えずに八幡にゆっくりと近付いた。

 

「ねぇ、どうなの……ヒッキー……わんわん、なんちゃって……ね」

 

目と鼻の先で熱い視線を向ける結衣に八幡は言葉を詰まらせた。

 

「ヒッキーが飼いたいって言うんだったら、私…………」

 

もう顔はポストよりも真っ赤になっている。でも、彼女の潤んだ瞳は八幡を逃さない。

その瞳に吸い込まれそうになる八幡は無意識の内に引き寄せられる。

そして…………。

 

「「ストップ!!」」

 

雪乃と沙希によって止められた。

この後は言うまでもなく大事になり、八幡は雪乃と沙希に罵られ、結衣は誕生日だからと言って調子に乗り過ぎだと釘を刺されることに。

 

(俺はいったいなんであんなことを………)

(わ、私、何であんなエッチなこと思っちゃったんだろ~~~~~~! どうしよう、恥ずかしいよ~~~~~~!)

 

そんなわけで落ち込む二人であったが、それでもこの誕生日は結衣の生涯に残る程に楽しい誕生日であった。

 

 

 

 

 尚、八幡が最後に渡した『小町からのプレゼント』を結衣は家に帰った後で開けた。

中に入っていたのは白い男物のワイシャツ。そしてメッセージカードにはこう記されていた。

 

『結衣さんへ。お兄ちゃんの使用済みワイシャツをプレゼントだよ! これで思う存分好きなようにして下さい。頑張れ、お義姉ちゃん候補』

 

その日、結衣はワイシャツを片手に悶えて眠れなかった。

 


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