いや、本当に皆さまには感謝ですよ。
今回は八幡がいじられたり雪乃がいじられたりします。
川崎 沙希の問題の解決も大詰めになった八幡は更に彼女の為に役立つ何かがないかを調べていく。確かに八幡の解決法を提示すれば絶対に問題は解決するだろう。だが、それは本人次第ということもあるし、何より最終的に解決することは確約出来てもそれまでの事に関してはそうは言えない。更に言えば、前回の尾行で分かったことだが、彼女は家事が忙しいため勉強する時間というものがあまりない。だから彼女の望みである大学を受験するにしても勉強が不十分ではその望みも叶わない場合も十分に有り得る。
だから少しでも彼女の負担をなくすために何かないのか思いこうして調べていた。
はっきり言えばそれは異様な光景だった。
何せ身内でもない、更に言えば話したこともない赤の他人のことにどうしてここまで親身になっているのか? そのことに八幡は少しだけ驚きはしたが、ある意味分かってもいた。
きっと八幡は……川崎 沙希が羨ましいのだと。
自分と少し似ていて、しかし全然違う彼女。
自分はもう『あの時』から行く末を決めている。その事に後悔はないし悲しくもない。だから何も感じない。
しかし、彼女は少し違う。少しだけ似ているが、それでも自分の行く先を悩めるのだ。悩んで悩んで、そして自分の将来のために選んでいく。
それは八幡がとうの昔に捨ててしまったもの。彼の人生が決まった時点で不要になったものだ。
だが、その悩むということ自体が少しだけ羨ましく、それでいて憧れを少し抱く。
もう自分にはないからこそ、無い物を強請る子供のようにそれが八幡には羨ましく思えたのだ。
だからこそ、もう選べない自分の変わりに彼女には頑張って欲しいと思った。
それが自分勝手なものだということは分かっている。独りよがりな偽善だということも分かっている。それでも、八幡は彼女の事を応援したいのだ。
そのためにこうして何かないのかとインターネットで調べていた所、丁度八幡が求めているような情報が引っかかった。
「えっと……スカラシップ? 何々……」
どうやら成績優秀者に対し教育側から奨学金を出してくれるというものらしい。つまり成績優秀者はその施設の方から学費を出してもらえるというものだ。丁度受験を考えている彼女なら予備校は行くだろう。その時にこれは使えるかもしれない。
そう思い更にスカラシップに付いて調べようとする八幡であったが、それは突如として振動し始めたスマホによって止められた。
誰かがメールを送ってきたらしく、八幡はメールを確認する。
「これは……由比ヶ浜からか? えっと……何々?」
『ヒャッハロー、ヒッキー! 今日は依頼のために千葉にある天使の名前が付いてるメイド喫茶にいったよ~。えへへ、これ、どうかな。似合う?』
どうやら依頼のために川崎 沙希が働いている店を調べているらしい。聞いた話では既に二つまでに店を絞り込んでいるらしく、その理由は大志が家にいた際に姉宛てに店の店長から連絡が来たようだ。それでも名前をうろ覚えなのは感心しないと八幡は思うが突っ込むことはしなかった。結果名前と営業時間から割り出された候補が二つと言うわけである。既に八幡は店の事を知っているだけに少しだけ気まずさを感じずにはいられない。。
それもあったがそれよりも一緒に送られて来た画像データが気になり八幡は確認する。
そしてそれを見て、どう言葉にすれば良いのか分からない顔をした。
「あいつ等、本当に何してるんだ?」
画面に映し出されたのは、きっとその店の制服なのだろう。本来あるメイド服とは違うカジュアルで可愛らしいメイド服だ。それを纏った『3人』の画像である。
雪乃は元が美しいだけにとても綺麗であり、結衣はそのスタイルの良さが見て取れる。そして何故か戸塚もメイド服を着ていた。
「きっと間違われたんだな、あいつ」
八幡はそう察した。何せ傍目には女子にしか見えない戸塚がそんな所に行けば間違われるのは当然かもしれない。しかも戸塚はこう言った時の押しに弱いため、案外ノリ良くメイド服を着たのだろう。
結衣は天真爛漫な笑顔で、雪乃は物静かにしているようだがどこか落ち付かない様子で、戸塚は周りにつられるように笑いながら映っていた。
まぁ、総じて皆可愛いと思う。
そう八幡は思ったが、流石にそれをそのまま伝えるのは気恥ずかしいかったので、返信メールを誤魔化すように送った。
『ま、まぁいいんじゃないか。皆元が良いから似合ってると思うぞ。あ、でも戸塚で遊ぶなよ』
彼なりに誤魔化してるつもりなのだろうが、まったく誤魔化せていない。
彼は当然気付かないが、この返信メールを見た結衣は顔を真っ赤にしてニヤニヤしながらベットの上をコロコロと転がっていた。
そんな事になってるとは知らず、八幡は携帯を見つめる。
あのように送ったが、本当に似合ってると思った。いつもと違った二人を見て、八幡は妙に見入ってしまう。物珍しいと言えばそれまでなのだが、何だかもっと見続けたい気持ちになったのだ。
そんなことを考えていたからなのか、更に別のメールを受信したことで振動したスマホに少し驚き落としそうになってしまう。
それを何とかキャッチして確認すると、今度は雪乃からのメールであった。
『今日由比ヶ浜さんと一緒に川崎さんがいるかもしれないお店に行ってみたけどいなかったわ。だからもう一つの候補である『天使の階』っていう名前のバーに明日行こうと思うの。場所はホテル『ロイヤルオオクラ』の最上階よ。詳しい話は明日の部活で出来れば来て』
(やっぱりもう突きとめたか。まぁ、二つに絞った時点で流石だとは思ったが)
八幡はもう衝突は避けられないと思った。ここまでくればもう仕方ないことだと。
その結果がどうなのかさえ分かってしまうだけに、どうしようもなく心苦しい。
だが、それを自分が気にした所でどうしようもないのだ。既に分かり切っている、決まってしまっている事柄に自分がどうしようとどうにもできないと分かっているからこそ、彼はその苦しさを吐き捨てた。
感じていても仕方ないのだから、自分がすべきことはその先にあるのだから。
だから気を取り直し、八幡は雪乃のメールを返した。
『あぁ、分かった。明日はバイトもないし行く。あぁ、そうそう……メイド服、似合ってたぞ』
自分の心情を少しでも落ち着かせようとしてなのか、こう言えば雪乃がどのような反応をするのかを分かるからなのか、八幡は彼女をからかうためにそのような返信メールを送った。
そしてそれを見た雪乃は………
「な、何でその事を知ってるの!? さては由比ヶ浜さんね!」
(何でよりにもよって比企谷君に送っちゃうのよ、由比ヶ浜さん! で、でも……似合ってるって言われた。なんだろう、凄くドキドキする………でもやっぱり恥ずかしい!!)
結衣よりも顔を真っ赤にして恥ずかしさで悶えていた。
翌日になり放課後。
一端部室に集まった奉仕部一同はこの後向かうであろう『天使の階』について話し合う。
「ドレスコードがあるらしいので、それ相応の格好が必要なの。二人はこういった場所に見合う服を持っているかしら?」
雪乃のその言葉に結衣は困った顔をした。
「ごめん、たぶんないよ。そういうのってアレでしょ、舞踏会とかにでるようなドレスみたいなやつ」
寧ろ一般家庭がそんなドレスを持っていたらそれはそれで凄いものである。結衣の言葉は別におかしなものではない。だから雪乃は彼女に優しく微笑みかける。
「別にそんな派手なものではないのだけれど……分かったわ。由比ヶ浜さんの分は私が貸してあげるわ。家に何着かそういうドレスがあるから」
「えぇ、いいの! やったー、ゆきのんありがとう!」
ドレスを貸してもらえることになり喜ぶ結衣。彼女はその喜びを表すかのように雪乃に抱きついた。
当然雪乃は嫌がるそぶりを見せはするのだが、もう慣れたのかそこまでの抵抗は見せない。
そして今度は八幡に問いかける。
「それで、比企谷君は大丈夫なのかしら? 生憎私は女性物しか持っていないのだけれど。もし持っていなかったらその時は女装でもする? あぁ、女装しても貴方はその目で追い出されるかもしれないわね、女装谷君?」
「かってに女装前提にするな。一応それなりの服は持ってる。だから大丈夫だよ」
昨日の意趣返しでもされたのかと思い突っ込み返す八幡。
すでに前回行ってることもあるので服については問題ない。
「そう、なら問題はないわね」
着る服について話し合った後、3人はとりあえず一端自宅へと帰ることに。
結衣は雪乃の家に行きドレスを借りに行き、八幡は自宅にあるスーツに着替える。その際に必ず『あるもの』を見た後、彼はスーツを翻し家を出た。
そして夜になり川崎 沙希が働き始める時間に八幡達はホテルの受付前で待ち合わせをした。
先についたらしく、八幡は壁に寄り掛かって二人を待つ。
彼の服装はカジュアルに着こなしたスーツであり、髪型は少しばかりあげてオールバックにしている。
そんな八幡に向かって見知っている声がかけられた。
「待たせたわね、比企谷君」
「ヒッキーおまたせ~!」
その声に八幡は声の方に振り向くのだが、それを見て言葉を飲み込んでしまった。
彼の目に映ったのはドレスを纏った雪乃と結衣。
雪乃は黒のシックなドレスを身に纏い、彼女の物静かな雰囲気にマッチしていて美しさが際立っていた。
結衣は胸元が開いていて胸の谷間が強調されているセクシーなデザインの赤いドレスを着ていた。
どちらもドレスに合わせて髪を結っており、それが更に大人らしさを感じさせる。
いつもとまったく違う二人を見て、八幡は正直見惚れてしまっていた。
それぐらい二人は綺麗で可愛く美しいのだ。
そんな八幡の様子は当然二人にバレてしまったようで、雪乃と結衣は八幡に少し顔を近づけて囁くように問う。
「どうかしら、比企谷君?」
「ヒッキー、どう……似合ってる?」
そう問われ、八幡は顔が熱くなるのを感じつつ答えた。
「………あぁ、凄く似合ってる。二人とも凄く……綺麗だ」
その言葉に顔を真っ赤にした雪乃と結衣だが、それは嬉しさから真っ赤になっていた。