俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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やっと始まった本編。これがないと物語はまったく進みませんですからね。
ちなみに自分はこの作品において、1話を約2500字くらいで書いていく予定です。


第1話 俺の課題に問題なんてない

 高校生活を振り返って

 

特に覚えていません。

毎日学校行って授業受けて飯食って寝こけて下校してバイトして、それが毎日だったので何か覚えているのかと言われてもまったく覚えていません。

この課題が問いかけている問題に関して言うのであれば、本来はここの一年を振り返っての精神の成長について問いかけたいのだろうと思いますが、生憎と言うべきか何と言うべきか、正直忙しすぎて感慨に耽る余裕もなく、特に考えたこともありません。

結果、何も覚えていないわけです。

強いてこの課題について述べることがあるのなら、きっと私はこの先もずっとこんな感じなのでしょう。

正直な話、振りかえるくらいなら前を向いていこうと思います。

 

              総武高校2年F組  比企谷八幡

 

 

 

(何故俺は呼びだされたのだろう?)

 

職員室のとある教員の席の前にて、彼こと比企谷八幡は立っていた。

それと言うもの放送で呼び出されたからであり、思い当たる節がない彼は不思議に思いながらここに来た。

その目は常に眠そうであり、瞳は暗く淀んで濁っている。10人が見れば10人が不審者だと訴えるくらい、その顔は気味悪いものになっていた。

そんな気味悪い八幡に臆することなくその席の主たる平塚 静は面と向かって声をかける。美しい長髪をしたスタイル抜群の美女であり、中身を知らなければ男性から言い寄られること請け合いの美人だ。

 

「比企谷、何故呼ばれたのか分かるか?」

「いいえ、分かりません」

 

問いかけられた言葉に対し、八幡は即座にはっきりと答えた。普通、こういった場合は自分が何かをしでかしたのではないか不安に駆られるものだが、そのような様子はまったく見受けられない。まさに堂々とした様子で答えた。

その様子に平塚は呆れたような顔をしつつ咎めるようにその答えを八幡に告げる。

 

「これを見てそんなことが言えるのか、君は」

 

その言葉と共に突きだされたプリントを八幡は見て、それでも分からないと返答する。

 

「これはこの間出された作文の課題ですよね。これに何か問題が?」

「大ありだよ、まったく。なんだ、この作文は?」

 

平塚はまさに頭が痛いと言わんばかりに眉間に皺を寄せ、差し出したプリントを自分の方に戻し改めて読み上げてみせる。

そして読み終えるなり、ため息を一回吐くと八幡を少し睨みつけるかのように見つめ始めた。

 

「これで問題がないと思えるのは君だけだぞ。この課題は『高校生活を振り返って』だったよな。なのになんだ、これは。全く振りかえっていないじゃないか。君は学園行事に参加しなかったのか?」

「仮病とサボりで参加しませんでした」

「堂々と言うことか!」

 

思いっきり怒鳴られることに何故だろうと八幡は思う。

別に単位や内申点の問題はなかったし、皆に迷惑をかけるようなこともしていないはず。そもそも自分の存在などクラスの連中が認識しているかでさえ怪しいのだから。皆で協力したりするような行事なら尚のこと参加する必要なぞないだろう。連携というのは日々の絶え間ない努力によって成立するのであり、急に参加した者相手に連携などとれるはずがない。寧ろ足を引っ張るだけであり、クラスに貢献するという考え方からすれば参加しない方がむしろ正しいのだ。

そんな風に考えている八幡に平塚は少し心配したような声をかける。

 

「君の境遇などは知っているし、特例でアルバイトも認めている。成績だって悪くないことは分かっている。だがなぁ、いくらなんでもこれはないだろ」

「そうでしょうか? 確かに学校側には特例でバイトを認めて貰っていることはありがたく思いますし、成績もそれに見合うようにしているつもりです。だから忙しくて周りに目を向ける余裕がないのはしょうがないのではないでしょうか?」

「いや、そういうことじゃないんだ。そのだな……もう少し青春を楽しもうという気はないのか?」

 

平塚が心配したのは、八幡の学校生活での姿勢であった。

平塚はこの学園の国語教師で生活指導の担当をしている。その中で少し問題に上がるのが八幡であった。

曰く、まったく学校に溶け込んでおらず、常に一人でいる。学校行事には一切参加していない。両親がいないという環境で妹と二人っきりの生活にアルバイトで少しでも生活を楽にしようとする苦学生。

成績自体は悪くないのだが、学生としてはあまりにもよろしくない生徒。それが教員から見た八幡の評価。と言っても大概の教員は何故か気にせず、彼を気にしているのは平塚だけなのだが。

要はボッチなのがよろしくないというだけなのだ。学生なら、学生らしくこの3年間を楽しむべきだと。

その言葉を言われ、八幡は少しばかり目が動く。

 

「青春……ですか?」

「そうだ。君の目は人としておかしなくらい淀んでいて濁っている。まるで死人のような眼だ。その目が映すものが何なのかはわからないが、周りに興味がないってことだけははっきりと分かる。自分だけが違うといった感じの。別に自分だけを特別視しているとかそういう感じではない。自分には無関係だとはっきり決めているような、そんな感じだ。それは良くないぞ、比企谷。まだまだ人生色々あるんだ、今を大切にしなさい。青春はあっという間に通り過ぎてしまうぞ」

 

昔を懐かしむように語る平塚に八幡は静かに見つめる。

 

(青春を楽しむ? 何を馬鹿な。俺にそんな権利なんてあるわけないだろうに。俺は今を一生懸命に『生きて』、親父の分も小町を見守るだけだ。それ以外に俺が生きる意味なんてない)

 

既に答えは出来っているのだと思い口にしようとするが、下手に言ったところでまた蒸し返されるかもしれない。

だから八幡は彼なりに平塚をからかうことにした。

 

「先生、そう何度も青春という歳ですか? 俺の経験上、そういった言葉を連呼するのはそれが欲しくて仕方ない場合ですよ。先生の歳なら……」

 

ここで言葉が切れたのは、八幡の目論みが成功したからに他ならない。

それまで八幡を優しく諭すような雰囲気から一変して、突如として轟々とした殺気が吹き出した。

その大本である平塚が素早い動きで一瞬にして間合いを詰めると拳を八幡に向かって振るったのだ。

直撃させようというわけではない拳だが、八幡はこれをわざと受け止める。

その途端に職員室内に何かが弾けるような音が響いた。

 

「見事な拳です、先生」

「比企谷……女性に年齢の話をするなと教わらなかったのか?」

「それはすみませんでした」

 

受け止められた拳を引き戻し、未だに燻ぶる怒りを散らしながら平塚は八幡に目を向ける。

八幡はそんな平塚に苦笑しつつ謝り、もう話は終わったと判断し平塚の前から去ろうとする。

そんな八幡に平塚は待ったをかけた。

 

「ちょっと付いてきたまえ。君のそのどうしようもない性格を直せるかもしれない所に行こうじゃないか」

 

その誘いを断りたくなった八幡であったが、がっしりと手を掴まれている為にそれは無理だと判断し従うことにした。

 

 余談だが、結構な威力を出す割に平塚の手は女性特有の柔らかさがあった。




可笑しいなぁ~。八幡がどこぞの軍曹のようになってしまっているような気が………。

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