不審者と言うからに警戒し取り押さえてみた所、判明したのは奉仕部へ依頼をしたいということで来た客人であった。
その事実が判明し気まずく感じる八幡。だが彼にだってちゃんと言い分はある。そもそも許可も無しに部室に入っていれば確かに不審者なのだから、その後どうなっても責任は取れないものだ。
故に彼は謝らないし、それを口頭で説明したからこそその依頼人も文句は言わない。
二人だけだったらそのまま気まずいだけで終わるが、結衣と雪乃もいるのでそうはならず、まるで尋問するかのように依頼人の周りを囲って二人は話しかけた。
「まず貴方の名前から聞きましょうか。流石に不審人物のままでは話も聞きたくなくなってしまうもの」
「それに室内でなんでコートしてるの? あとその変な皮手袋とか何? すごく似合ってないし」
女子二人に話しかけられた不審者は緊張し呂律が回らなくなりそうになる。
その様子からして女子に慣れていないのだろう。八幡は何故そのようになっているのか分からず、濁り切った目で軽く見る。どう見ても精神が不安定にしかなっておらず、まんま不審者と言ったところだろう。八幡も人のことは言えないが。
このままでは埒が明かないと判断し、八幡は不審者に問いかける。
「お前の名前と学年をまず言え。でないとこのまま平塚先生に突き出しそうだ……この二人が」
八幡の言葉に結衣と雪乃は頷く。勘で言ったのだがまさか本当にそう思っていたのかと思い八幡は少し驚いた。
八幡に問われ、不審者は同じ男子ということで緊張がほぐれたらしく、立ちあがって妙なポーズを取りながら堂々と発表し始める。
「我は剣豪将軍、材木座 義輝だ!! 学年は2年C組」
いきなりの大声に驚く結衣。何を言っているのか分からない雪乃。そして八幡は意味のない部分を消去して考える。
(2年C組の材木座 義輝ね。情報はないしこいつの顔にも記憶がない。元から覚える気がなければ覚えていないから、そこから考えるに重要度は低いっと)
顔見知りですらない相手ということで特に気にする必要はないと思ったのだが、この男……材木座は更に意味のわからないことを言いだした。
「ふっふふ……しかし、こんなところで出くわすとはなぁ……我が相棒、比企谷 八幡!」
その言葉に結衣と雪乃は八幡の方に顔を向ける。
「貴方の知り合いなの?」
「ヒッキー、相棒って言ってるけど?」
二人の質問に対し八幡は即座に否定する。
「知らない。俺はこの男について何も知らないぞ」
はっきりと下す言葉を聞き、それでも材木座は折れないようだ。
「相棒、忘れたとは言わせぬぞ! あの苦痛に満ちた時間、共に駆け抜けた日々を!」
やけに自身満々に言う材木座。
その言葉の意味が分からず雪乃は首を捻り、結衣は怖くなったのか八幡の後ろへと逃げる。
そして八幡はその言葉に暗号めいたものを感じ、自分なりに解読してみることにした。
(俺は覚えていないがこいつとは面識があるらしい。そして2年C組の人間と関わるような事と言えば……………あぁ、アレか)
その答えに行きつき、八幡は不安そうにしている二人に答えを発表する。
「たぶんだが………体育の授業で組まされた可能性がある。2年C組の人間と関わるのはそれぐらいだ」
「あぁ、それで貴方の事を知っているのね。出なければ貴方の事なんて知れそうにないもの」
「だからヒッキーの事を相棒って言ってたんだね。でも少し体育で組んだだけでそんな風に呼ぶのって、何と言うか………キモいかも」
八幡の言葉にやっと納得がいく二人。さりげなく毒を吐く辺り、雪乃はもう不安ではないようだ。
正体がはっきりした所で八幡は改めて材木座に問いかける。
「それで材木座とやら。お前の依頼について聞きたいんだが?」
その言葉に材木座は力強く頷くと、逆に八幡に質問を返してきた。
「ここは奉仕部の部室で間違いないのだな?」
締め上げた際に奉仕部に用があると言っていたのはどの口なのやら。
八幡は呆れかえりながら答えようとするが、それがまどろっしく感じたのか雪乃が先に答えた。
「えぇ、ここが奉仕部よ」
その言葉に材木座はぴたりと止まり、少ししてから八幡に堂々とした様子で話しかけてきた。
「やはりそうか! 平塚教諭に助言していただいた通りなら八幡、お主は我の願いをかなえる義務があるのだな………」
そこから続くのはよくわからない言葉。主従がどうだの八幡大菩薩がどうのこうの。
言葉にまったく脈絡がなく、何を言っているのかまったくわからない。
そんな言葉を吐いている材木座が鬱陶しかったのか、雪乃ははっきりと口にした。
「別に奉仕部は貴方のお願いを叶えるわけではないの。ただお手伝いをするだけよ」
その言葉に固まる材木座。まるで猫に睨まれた鼠のようだ。
そして八幡の方に顔を向けるとそれまで固まっていたのが嘘であるかのように話しかけてきた。
「ふむ、では八幡よ。我に手を貸せぇい!」
「依頼人を選ぶ権利くらいこちらにもあるけどな」
馬鹿馬鹿しく感じたようで八幡は投げやりにそう答える。
そして再びわけがわからないことを呟き始める材木座。それが不気味に感じたのか、雪乃は八幡の手の裾を少し引っ張った。
「さっきから聞いていたけど彼は一何なの? 剣豪将軍とか何とか言っているようだけど?」
その言葉に八幡は困る。何せ八幡だって分からないのだから。
だからどうにかしようと考えると、あることを思い出した。
それは訓練の休憩中に八幡の相棒であるレイス7が本を片手に言っていたこと。
『やっぱりこの年齢なら中二病は発現しねぇとなぁ、この小説の主人公』
それが何なのか知りたくなった八幡はそれを聞いたわけで、その正体も知った。
故に材木座の『症状』がどのようなものかを。
雪乃の質問に八幡は分かっている範囲で答える事にする。
「たぶん『中二病』というものなのだと思う。以前聞いた症状と特徴が一致する。確か男はある程度の年齢に達すると妄想と現実の見極めが困難になるのだとか?」
「それって何か危ない人なんじゃ……」
八幡の言葉に結衣は怯えながら反応する。
そして雪乃はそれがどういう意味なのかを彼女なりに答えを出したようだ。
「つまり自分で作り上げた架空の物語を演じて現実逃避をしている人と言うことかしら?」
「まぁそんなものじゃないか? 現実にそんな感じだし」
八幡の返事を聞いて確信したのか、雪乃は材木座に向かって歩み寄る。
その行動に結衣は逃げるよう言うが、彼女は引かない。
「つまり、貴方の依頼はその精神病を治すということで良いのかしら。正直この手の場合は素人よりも専門家に頼んだ方が良いのだけれど」
雪乃にそう言われ固まる材木座。どうやら相当女子が苦手なようだ。
そして八幡に言葉をかけるのだが雪乃に叱責される。話している相手の顔を見るのは当たり前の話である。
それで黙るかと思われた材木座はそれでもまだ話そうとする。その『中二病的な話し方で』。
それを辞めるようすぱっと言いきる雪乃。その様子を見て結衣は雪乃を凄いと関心しているようだ。
八幡もそれには関心した。特に相手に有無も言わせず圧倒する所など特に関心すべきところだろう。
そしてどうやら雪乃の中では材木座の依頼は『中二病を治す』ことになってしまっているようだ。確かに普通なら治さなければならない事だとは思う。しかし、本人はそうではないとしょんぼりとした様子で答える。
では一体何なのかと思い問い詰めようとする雪乃。八幡は止めるべきか悩むのだが、そこで初めて床に散らばっている物に気が付いた。
それは長々とした文章が綴られている紙。しかも一枚ではなく何枚もの紙が散らばっている。
どうやら八幡が材木座を取り押さえた際に飛び散ったらしい。
その紙を拾いながら八幡は材木座に問いかけた。
「もしかしてお前の依頼は……こいつに関係することじゃないのか?」
それを見た材木座はホッと安心したのかデカイ声で答えた。
「そうだ、それこそが我の依頼。お前たちにはこの小説を読んでもらい感想を聞かせて貰いたいのだ!」
やっとはっきりとした依頼。
それは……………。
『書いてきた小説の感想を聞かせてほしい』
と言うものであった。
それを聞かされた途端、3人の顔はすごく面倒臭さそうな物へとなっていた。