Evangerion〜The girl from Roanapura〜   作:RussianTea

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Russian Tea と申します。初めましての方とお久しぶりの方がいるかと思います。
さて、今回なぜ1話だけ、しかも更新するか分からないのに投稿したのか、というと、初の一人称視点の作品だったため、メモリに寝かせておくのもな……と。
それに、前作を予告無しに削除してしまった言い訳&お詫びもしたかったので、丁度いい機会かな、と。
そういう訳で、前作を勝手ながら削除したことを、深くお詫び申し上げます。


※前作からお読み下さっている方への注意

主人公の性格が前作よりも丸くなっております。後から読んでやり過ぎたと感じた為です。


※今作からお読み下さっている方への注意

本作の主人公マリと、新劇場版の真希波・マリ・イラストリアスは全く関係ありません。名前が思いつかなかったので、マリと名付けただけです。


では、どうぞ。



第一話 少女、襲来
Ep.1


福音とは、喜ばしい知らせのこと。

神の子が人々に齎した、人類の救済と神の国に関する喜ばしい知らせのこと。

そう、福音とは、即ち救い。

だが、私はそれを否定する。何故ならそれは生者に施されるものであり、私はただの歩く死人だからだ。そして何より、手前勝手に歩いてきた救いなんてもの、訪問販売並みに宛にならない。そんなものが来たら、弾くれてやって丁重にお引き取りを願うまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ##

 

 ――本日、12:30分、東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定されているシェルターに避難して下さい。繰り返しお伝えいたします。本日――

 

つい1ヶ月前、つまりは日本に来るまでは乗車方法も分からなかった電車に乗っていたところ、目的の駅まで後2駅だというのに、電車が勝手に止まってしまった。

そして私以外の乗客たちは、駅員と警察――なのかは分からない。多分そうだろう――の指示に従って、きちんと一列に並び、何処かに行ってしまった。

列を作り、押さないかけない喋ってはいたけど戻らないを守っている。

正直怖い。驚きを通り越してもはや恐怖だ。私が育った街だったら、まずこんなことはない。そもそも避難警報なるものも、生まれ初めてきいたし。その存在を。

 

「取り敢えず、どうしようか」

 

 私の潜伏先である、ホテルモスクワ系列のホテル――あっち系ではなくて宿泊用の――の元に、謎の召喚状と思われる手紙が届いたのが3日前。別に無視しても良かったが、それで日本(こっち)の構成員の皆様に迷惑をかける訳にはいかないし、何より差出人の面を拝み、あわよくば()()お礼もしなければならない。

 そういう訳で、私は第2新東京市から、ここ第3新東京市まできたのだが、この有り様である。

 

「…はぁ……」

 

  迎えの車はあと2駅先に来る予定。時間まで、走ればギリギリ間に合うだろうが、道が分からない。

  手持ち無沙汰だったので、一先ず上着のポケットからパーラメント、つまりは煙草を取り出し、口に咥えて火を付けた。

 

「待てば海路の日和あり……か」

 

  知り合いの中国人が言っていた台詞だ。要するに、焦らず待て、ということだが、私の性分には些か合わない。

 作戦行動中に待てというのなら、何時間でも待つことはできるが、こういう場合は無理だ。

 

「とはいえ」

 

 さてどうしようかと考えながら、空に登っていく紫煙を眺める。白い煙が空に吸い込まれていき、まるで雲と一体化しているように見える。

 なんて、変なことを考えていると、遠くのほうからプロペラの駆動音が聞こえてきた。

 まさかヘリで迎えか。いや、ありえない。テレビ局かなにかだろう。しかし、そんな悠長なものではなかったらしい。

 近づいてくる機体は、音からして2機か3機。その音に加え、ラッパ音にも似た機銃の銃声。

 

「戦闘か」

 

 この国は平和が売りだと聞いていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。戦闘を見たくもあるが、流れ弾には当たりたくない。もっとも、ミサイルなどが飛んできたら、一発で死ぬが。

  でもまあ、懐かしい響きだ。おはようからお休みまで、数えるのが馬鹿らしいくらいに銃声が鳴り響くあの街が、懐かしい。

  その時、山のほうから国連軍の機体が、射撃を続けつつ後ろ向きに飛行してきた。何かを牽制しているらしい。

  そして、国連軍に続いて姿を表したのは―――

 

「何だ……あれは」

 

  それは黒い巨人だった。肩幅は広く、手足は細く長い。首にあたる部分はなく、頭部は仮面のような無機質な形状をしている。

  見間違いではない。幻覚でもない。なにかのハリボテでもない。それは、確かに実態を、恐らくは意思も持っている。

 

『人生、何があるか分からんぞ』

 

  私の育て親が、何かの拍子でそう言っていたのを思い出す。

 

「これは分かりませんよ、大尉」

 

  ははは、と笑いが漏れる。訳の分からない巨人が攻めてくる、だなんて特撮映画のようなこの状況。これが笑わずにいられるか。

 

「…あ……」

 

 巨人が大きく手を振り、国連軍の戦闘ヘリを叩き落とす。当然ヘリは大破し撃墜される。となるとどうなるかというと、地上に落ちてくる。

  ヘリは私の近くに落ちて爆発した。爆風が吹き荒れ、口に咥えた煙草が何処かに飛んでいく。日本では煙草は結構高いので、正直悲しい。

  しかし、このくらいの爆風は別に大したことはない。まだ立っていられるレベルだ。右手を翳し、吹き付ける粉塵から目を守る。

  と、そこに一台の車が滑り込んできた。そして助手席のドアが勢い良く開く。確か、この国のタクシーは自動でドアが開くのだったか。しかし、それにしては車種がおかしいような

 

「ごめーん。おまたせ!」

 

  ああ、やっぱ手動か。黒髪の女性が運転席から身を乗り出すようにして、助手席のドアを押し開けていた。

 

「貴方が送迎ドライバーか?」

「え? あっと、まあ、そんな感じ。取り敢えず、乗って」

 

  そういえば、召喚状と一緒に入っていた謎の写真。要らないアイドル写真か何かかと思っていたのだが……まさかドライバーの写真だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ##

 

 まずい。まずいまずいまずいまずい。

 繰り返す都度に5度。しかし、本当にまずい。

 

「よりにもよって、こんな時に見失うなんて。参ったわねー」

 

 愛車であるアルピーヌ・ルノーを、法定速度を完全に無視した速度で走らせながら、待ち合わせの場所の2駅前へと向かう。彼女が乗っていた電車がそこで止まったという報告が来たからだ。

 

「お願いだから生きててよ…サードチルドレン……」

 

  現在迫っている脅威――使徒に対抗する唯一の手段。それを操る適性を持つのは14歳の少女2名のみだったが、最近発見された3人目の適合者。

  と、突然爆発音が鳴り響く。視線の先には、もう少しで到着する目的地付近に墜落していく国連の戦闘ヘリ。

 

「いた!」

 

  その爆心地のすぐ側に、少女が立っていた。その少女の前に車をドリフトさせ、助手席のドアを押し開ける

 

「ごめーん。おまたせ!」

 

 怖がっているだろうから、なるべく明るくフランクに呼びかけた……が、目の前の少女は誰だコイツみたいな目でこちらを見ている。目の前にヘリが墜落したのに、なんでこの子は冷静なのだろうか。

 

Are you a pick-up service driver(貴方が送迎ドライバーか)?」

 

  ……何故に英語? この子日本人だよね?

 

「え? あっと、Exactly(そうよ).Anyway,get on(取り敢えず乗って)

 

  よく分からないけど、英語で返答しておく。少女は軽く頷くと車に乗り込み、彼女が乗り込むのを確認し、私はアクセルペダルを踏み込み、現場から一目散に離れた。でないと使徒に踏み潰される。

 

「貴方の名前は?」

 

  本当に冷静過ぎる。普通この年頃の女の子があんな状態にほっぽりだされたら、パニックになるとか、怖くて泣くとか。最近の子供は冷めてるとよく言うが、些か冷めすぎだろう。

 

「私は葛城ミサト。よろしくね、碇マリちゃん」

「よろしく、ミス葛城」

「ミス、は無くていいわよ。ミサ……」

 

  下の名前で呼んで、と言おうとしたが、それはマリの声に掻き消される。

 

「では、貴方の階級を尋ねたい」

「階級? 一尉……英語で言うと大尉(Captain)ね」

「大尉!? ……これが…?」

 

  なんか驚愕されてるけど、恐らくそれは私が見た目以上に若く見えるからだろう。いや、絶対にそうだ。

  さて、自己紹介を済ませたところで、何故英語で喋っているのかを聞くとしよう。

 

  カキン。シュボッ

 

  今のはライターの音かしら。それに加えてこの匂いは煙草……って。

 

「マリちゃん!? 何で煙草なんて吸ってるの!?」

「ん? あ、禁煙?」

「いや、そういうことじゃなくて!」

 

  不思議そうに首を傾げているが、不思議なのはこっちだ。何堂々と未成年者喫煙防止法に喧嘩売っているのだこの不良娘は!

  と、その時、私の目に使徒から離れていく戦闘機が見えた。それを見て状況を察した。

 

「まさか……N2地雷を使う気なの!?」

「N2地雷? 都市部で? 日本の軍隊は正気か?」

「伏せて!」

 

 目の眩むような閃光と轟音が鳴り響き、爆発の衝撃波がルノーを襲い、車体が反転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ##

 

  無駄になった煙草は本日2本目。1本でもいいから吸わせきらせてはくれないだろうか。口の中はシャリシャリするし、車はひっくり返っている。シートベルトをして無くて良かった。ナイフで切る手間が省けたから。

  窓ガラスを蹴破り、車外に出る。遥か向こうの方、あの黒い巨人がいるであろう場所は、砂塵で全く見えない。

 

「……いったぁ…大丈夫? マリちゃん」

「問題ない。そっちこそ大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 

  葛城一尉が車から這い出てくる。サングラスが割れているが、よく破片が目に入らなかったものだ。というか、衝撃で割れる程度の強度だったのか、あれは。

 

「これ、まだ動くの?」

「多分動く……と思う」

「何だ今の間は」

「と、取り敢えずひっくり返しましょう。手伝って貰える?」

 

  2人で車をひっくり返したのはいいが、これが動かなかったらどうする気なのだろうか。と思っていたら、近くに転がって来ていた車のエンジン部をいじり始め、パーツを持ってきた。

  別に、そっちの車に乗り換えればよかったのではないだろうか。

 

「あー……よし、動いた!」

 

  "ウゴイタ"……動いたのか。まったく、日本語はまだ慣れない。この1ヶ月でまあまあ慣れたと思ったのだけれど。しかし、英語やロシア語で話す時よりも、若干認識にラグが生じてしまう。仕方がないといえば仕方がないか。

 

「さあ、行きましょう」

 

  随分とヴィンテージ加工が施されたルノーに乗ると、再び目的地へ向けて、葛城一尉が車を走らせる。

  それにしても、こんなのが大尉だとは。それ以前に、大尉を小間使いにするとは、一体どういう組織なのか。

 

「マリちゃん、1つ聞いてもいいかしら」

「こっちも聞きたいことがあるけど、お先に」

「ありがと。じゃあ聞くけど……って、だから何で煙草吸ってんのよ!」

 

  煙草に火を付けた途端、さっきと同じような反応。そんなに人が喫煙する理由が聞きたいのだろうか。

 

「何でと言われても……落ち着くから、かな?」

「いや、あのそういうことじゃなくてね……」

「ん? まあいいや。質問は終わり?」

「質問はそうじゃなくてね。何で英語で喋ってるの?」

「馴染みのある言語だから。それ以外に理由が?」

 

  何当たり前のことを言っているのだ。と思ったが、私は一応日本人と日本人から産まれてきたわけで。自分で自分が日本人だと思っていなかろうと、日本語でないと不自然なのか。

 

「うん……なんかもう、いいわ。後で詳しく聞くから。で、マリちゃんが聞きたいことって?」

「ああ。あの巨大生物は一体何?」

「あれは使徒。人類の敵よ」

 

  人類の敵、ねえ。私に言わせれば、人類の敵は人類だけど。さっきも、私たちを車の中でシェイクさせたのは在日国連軍だか戦略自衛隊だかのN2地雷なわけだし。

  それ以降はあまり会話らしい会話もなく、目的地――特務機関ネルフ本部に到着した。

 


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