女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 寒い、寒い、寒い。

 背筋が凍りつく。
 脳髄が凍える。
 脊髄から脳天まで、冷え切った感触が伝わる。
 それは考えさせる事すら彼女に与えない。

 嫌、考えさせる必要等無い。

 考える必要等無い。

 決まっている、決定事項は一つ。

 こんな世界、こんな世界、こんな世界。

 死と絶望がひしめき合う世界。誰も幸せにならない世界。

 ファランちゃんがいない世界。

 こんな世界要らない。こんな世界知らない。こんな世界。

 壊れてしまえ。

 全部壊してまた作り直せばいい。



Act.83 女子高生VSジョーカー

 

「ここまで戦力を持ち込んで……船はいいんですか?」

 

「森の少し先で待機している、まぁブレインも乗っている、大丈夫だろう」

 キセルを吹かすユラを横目にホルンが口を開く。

 

「状況は」

 

 一瞬だけルーファは沈黙する。

 それが躊躇いだったのか、考えたのか三人のジョーカーには解らない。

 

「……侵食したファランを殺しました、その後にダブルの存在を確認。カナタに何かを吹き込んで……あんな感じ」

 顎で指すカナタはフラフラとしながらも、未だ独り言を零し続けていた。

 

「壊れた壊れた壊れた壊れた……もっと大きいもの大きいもの大きいもの」

 

 ようやくカナタの存在に気付くレオンは表情を強張らせる。

 その異様な姿に、周りに舞う光にホルンとユラも目つきを変える。

 

「あれカナタちゃんかよ!?」

 

「……おいおい何だぁ?あの滅茶苦茶な量のフォトンは。どうなってんだアリャ」

 睨むようなホルンの視線にルーファは苛立つように頭を搔く。

 

「知りませんよカナタに聞いて下さいってば」

 

「さて、お喋りはそこまでだ」

 キセルを銜え直し黒い手袋を力強く引っ張りなおす。

 合わせる様に三人もカナタへと視線を戻す。

 先ほどよりも、青白い光が大きく広がっていた。

 光は、再び頭上へと集まっていく。

 

「もっと……もっと大きい物、もっと具体的に……知ってる物!!!」

 カナタが上げる声に光は呼応する。

 先ほどの氷山よりも大きな光が空にまとわりつく様に広がっていく。

 巨大な影と共に横へと広がる物体は姿を見せる。

 

「潰れろ! 潰れろ! 潰れろ潰れろ潰れろ潰れろォォォォォ!!!」

 

 白と赤のコントラスト。巨大な影。森林を越える程の大きさ。

 

 333メートル。

 

 思わずその異様なサイズに4人は呆然と見上げてしまう。

 カナタの世界にあった巨大な巨大な電波塔。

 そんな存在を、彼等が知る由も無く、カナタの知っている最上級の巨大である物。

 すぐに我に返るユラは慌てて落下を始める巨大な物体へと掌を向けていた。

 

キセルに歯跡が着きそうな程に食いしばる。

瞬間的に巨大なそれの周りを黒いフォトンがまとわりついていた。

ユラの足場が同時に大きく陥没し、苦悶の表情に染まる。

 

「ぐっぉ!? おん……っも!!」

 

 『重力』の能力が333メートルを捉えた瞬間に、落下の動きが止まる。

 

「うおおおお!あっぶねぇー! 頑張れ!! 超頑張れ僕らの誤字プリンセス!!」

「てんっめ!! 絶対に落とすなよ!! 絶対落とすなよしったかでか女!!」

「良いからさっさと何とかして来い馬鹿共!!」

 

 『おお確かに』、と状況に不釣り合い呑気な二人の大小の男が瞬時に地面を蹴った。

 

 ふらりと、ルーファの体が揺れる。

 遅れるルーファからにポタリと数滴の血が落ちる。

 頭を数度振ると追いかけるようにぐっと足に力を込める。

 限界は、一度超えている。

 

「ルーファ」

 名前を呼ばれたルーファはユラへと顔を向ける。

 

「ロランも、アスも、ファランも……嫌な事ばかり押し付けるな」

 

 苦悶の表情を浮かべながらも、彼女の瞳には哀れみのような、同情のような視線。

 逃げように、ルーファは視線を外す。

 

「別に。私は『最悪』のジョーカー、『人間失格(ピリオド)』……私らしいでしょう」

 

 それだけ言うとルーファは飛び出す。

 ユラの言葉を待つことも無く、彼女はただ一直線に前を走る。

 

「……まだ、青い」

 

 

 

 

 

 

 先に行った二人にはスグに追いつく。

 カナタが次の初動に入った為に足を止めたのだろう。

 聞こえるのは悲鳴のような、獣のような叫び声。

 

「アァァァァァァァァァァァァァ!!!!! 壊す物壊す物壊す物!! 殺す物殺す物殺す物!! 兵器!! 兵器ィ!!」

 

 彼女を中心に広がる水色のフォトン。

 光と共に象られて行くのは大量の銃器。

 アークスである彼らには、最早見た目しか知らないであろう古臭い彼女の世界での兵器。

 

 百以上もの黒い機銃。

 宙に浮かぶ多種類のそれらの銃口は、全て三人に向けられていた。

 一斉に、殺す為の兵器が火を放つ。

 連続で響き渡る銃撃音は空気を震わせ大量の薬莢がばら撒かれる。

 戦場の一部を切り取ったような異常が一瞬で広がっていた。

 

「っつーか何なんですかあのチカラ」

 襲い来る銃弾の雨を、往復ビンタのように素手で払い除けるルーファ。

 

「ふん、正義バカの周りの光が集合して創り出していやがる……いや最早生み出しているの領域だな、それも完全に現存させてやがる。」

 ルーファとは違い最小限に体を揺らすように避けるホルンの視線はレオンへと向かう。

 

「で、実際食らってるバカ的にはどうなんだよ」

 

 気便な動きを見せる二人に対して、レオンは仁王立ちのまま一切動こうとしていなかった。

 

「いやスッゲーよ? 本物本物、全部マジもんよ。 中々いってーよ?もうめっちゃチクチクするわー、最初に上下関係叩き込もうとする先輩、みたいな?」

 

「いやわかりずれーよタコ」

 

「俺じゃなかったら原型残らねー程度には威力あんじゃねーの」

 

「ふん、滅茶苦茶だな『創造』型なんて聞いたことねーぞ」

 

 収まる様子を見せない銃弾の嵐。

 それを作り出しているカナタの瞳が見開く。

 

「もっと!!! もっと!! 破壊する為の物!!」

 カナタは空に吠える。それに応えるように再び白い光は瞬時に集まっていく。

 

「破壊!! 破壊!! 破壊!!」

 

 破壊の為の力。破壊する為の力。 力。 力。 力。

 

 今度は先程よりも一箇所に、集中的に。更に大きく、更に脅威に、更に巨大に。

 出来上がるのは大筒。異様に長い大砲。縦5メートル横10メートル。

 

「アハト・アハトォ!!!」

 破壊の為の兵器。

 彼女の世界での破壊兵器。

 彼女自身が漫画でしか見た事が無い筈の存在。

 

 カナタが手を掲げると共に巨大な兵器が動き出す。

 煙を上げ、機械音を響き渡らせながら、轟音と共に弾丸が放たれる。

 突風を撒き散らしながら螺旋を描くそれは三人をゆうに超えるサイズ。

 先頭に立つレオンは不敵にニヤリと笑う。

 

「嫌、アレは無理」

 

 揺れる空気の中、迫る脅威的サイズの弾丸。

 二人のジョーカーが前に出る。

 一瞬、体を交差させるホルンは大きく両手を広げた。

 青い光を舞わせながら飛び出す二つのワイヤー。

 先に連なる刃が弧を描ながらカナタの頭上に浮かぶ銃を粉々へと変えていく。

 同じく前に出るルーファは、真っ直ぐにカナタへと更に数歩前へ。

近づく巨大な弾丸に、恐怖の表情は無い。

 

 ルーファと砲弾がすれ違う瞬間、刀の鞘を仕舞う高い音が響く。

 

 音が響く静けさの後に、巨大な弾丸は八つの線を走らせ、そのまま破片へと姿を変えていた。

 

「惚れてもいいですよ馬鹿レオン」

 

「惚れてほしけりゃもっとサイズでかくしろボケ」 

 

「よおし次はお前を八つにしてやる」

 

「まだ遊んでもいい時間じゃねーぞ馬鹿ども」

 

 舞う銃の破片を目の当たりに、狂ったように、カナタは何度も何度も何度も頭を振るう。

 

「あ! あ、あ、あ、あ、あぅぅぅぅぅ!!!! 何で! 何で! 何で! ひどい! ひどい! ひどい! ひどい! ひどい! ひどい! ひどい! ひどい! ひどい! ひどい!」

 頭を抱えるカナタは呻き声のような言葉を綴る。

 

「お前どんだけ恨まれてんだよルーファ」

 レオンの言葉にルーファは視線を向ける様子は無い。

 

「……知りませんよ」

 

 ピタリと、頭を振っていたカナタの動きが止まる。

 憎悪が籠る瞳が向く。

 辺りに広がるのは更に青い粒子の光。

 今迄以上の光の粒が瞬くまに広がっていく。

 どす黒い瞳とは正反対の、美しい星のような輝きに、カナタは両手を翳す。

 

「絶対に殺すものだ! 絶対に! 消し去るものだ! 消えろ! 消えろ消えろ消えろ消えろ!!  消しつくせ! 見た事ある! ある! ある奴!」 

 

 呼応するように彼女の目の前に出来る10メートルはある巨大な砲台。

 先ほどの「アハト・アハト」よりもスリムな未来的構造。

 彼女の世界で彼女が見ていたフィクション。

 偶像でしかある筈の無い創作の中の世界の代物。

 それすらも現存させる。アニメだろうが、漫画だろうが、関係が無い。彼女の手に掛かれば「存在する物」、フィクションこそ力。

 

 砲台が空気を飲み込むようにその口の周りに青いリング状の光を展開させる。

 続く円状の光は標準を定めるように光の弧をすぼめる。

 その標的はルーファに向けて。

 

「ラグナロォォォォク!!!!」

 

 世界を終わらせる名を持つフィクションの中だけの兵器。

 

「ちょっと物じゃないと斬れませんよ」

 それでも未だ恐怖の表情を浮かべる様子など見せないルーファが口を尖らせる。

 

 光が放たれる。

 その兵器よりも巨大な光線が四人を飲み込もうと迫る。

 悍ましい熱線。地面を削り辺りの木々を吹き飛ばす。

 

 迫る光線。

 

 彼等三人を飲み込もうとす最悪の光線兵器。

 

 彼等が当たる寸で。刹那。目前。

 

 巨大な光の粒子。

 

 彼等の前に、壁のように空から連なる巨大な光線。

 

 ラグナロクの光を、上から飲み込んでいた。

 

『絶対命中』

 

 光の速さすら、その餌食で掻き消される。

 

 森から100メートル以上先。

 

 シップの屋上から森へ向けてアサルトライフルを向ける男の姿があった。

 引き金に伸びていた指を自らの大きな黒い帽子の鍔へと移動させ触れる。 

 

「やるじゃないかフィクション……この俺と同等レベルの威力を持つ兵器とは……あれ欲しいな」

 

 嬉しそうに呟くブレインの体が突然揺れる。

 

「ちょっと!! カナタは無事なの!? ファランは!? 私は見えないんだからちゃんと教えなさいよブレイン!!!」

 

「おごごごごごごごご!! リース! 揺らすな! 触れるな! 近づくな! 」

 

「相変わらず失礼ね貴方は! 何でいつも私を嫌がるのよ!」

 

「解ったからやめろ! 嫌! やめてください! お願いしますから!」

 


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