森の中で、穏やかな風が舞う。
その風に乗せられるように黒い霧が舞う。
穏やかな日差しの中にも拘わらず、凄惨な場が広がっていた。
大きなクレーターが滅茶苦茶に幾つも存在し、木々達は薙ぎ倒され、切り刻まれ、無残な姿へと変わっていた。
まるで、嵐でも通ったかのような世界。
それ以上に姿が滅茶苦茶になっているダーカー達の、死骸の山。
その量から霧に代わるのが遅れ、周りに黒い霧が漂っていた。
大量の死骸の山の一部が動く。
死骸を押しのけ、一匹の小さなクモの形をしたダーカーが飛び出していた。
片足が吹き飛び、三本の足でヨタヨタとバランスを保っていた。
そのクモが向かう先は洞窟の近く。
一つの倒れている黒い影へと向かっていた。
その影は。
空ろな瞳のまま、今も血を地面に流し続け、一帯を血の海に変えていた。
「一緒、に………暮ら……」
その少女は小さく口ずさんでいた。
誰が居るわけでも無く、笑顔を浮かべながら楽しそうに。
「ほんと? うれ、し」
少女は誰かに話しかけていた。彼女にしか見えない誰かに。
身体の血の3割を無くすと幻覚が身体を襲いだす。
それも、自身の身体の状態から現実逃避をするような、都合の良い夢のような物を。
歩みの遅いダーカーはようやく少女の身体に行き着く。
空いている一本の爪を少女の身体に勢いを付けて突き立てていた。
肉へ食い込む音と共に、彼女の身体が揺れ、新たな穴から血が噴出す。
「美味し……パン屋が……あって……ね」
痛がる様子も無く、彼女は笑顔を浮かべながら空ろな瞳で言葉を紡ぎ続ける。
数度突き刺したあと、ダーカーはヨタヨタと移動する。
「褒め……くれ……たぁ……ニヤ……ちゃう……なァ……」
ダーカーの爪は、ファランの顔へと、眼の部分へと。
突き立てられた。
「大好」
そこで言葉は止まる。
数度の痙攣が彼女の身体を襲う。
その後、残った方の瞳から、完全に光が消えた。
脳漿と血が入り混じったそれが、血の海にまた追加される。
絶対回避とまで言われた彼女。
ガーデンの一人。
化け物の一人。
最強で最悪で最害で最善のジョーカーの一人。
触れる事すら叶わないと言われたハミングバードが、たった一匹のダーカーに命を断ち切られる。
夢を見る。
都合の良い夢と共に、彼女は二度と目覚めぬ眠りへと付く。
最後に彼女の脳裏に移ったのは。
カナタの手を引いて、町を歩いている世界。
困った顔をするカナタの事等気にせずに、ファランは大好きな人の手を引いて夢中で町を回る。
そんな輝く未来。
桃色の瞳に青空が反射するように光る。
穏やかな光が世界を照らす。
幸せそうな彼女の表情を。