女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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「カナ、タ、さん……カナタ、さん……起き、て」


 ゆさゆさと体を揺すられる。
 相手を気遣うようなゆっくりとした揺らされ方。
 カナタは薄らと目を開ける。
 いつの間に寝ていたのか、ベッドにつっ伏すように眠っていた。

 心配そうに見つめる彼女と目が合う。
 ぼうっとしたのも一瞬。

「ファランちゃん!!!!」
 今迄の思いをぶつけるように全力でファランへと飛びついていた。
 抱きつくカナタに困惑しながら、ファランは何処にやればいいのか解らない手を横でバタバタと動かす。

「ピ!? ピィ!? 」

「良かった!! 良かった!! ファランちゃん! ファランちゃん!」

 もう離さ無いというように、強く強く抱き締める。
 手から溢れた彼女を、今度こそ絶対に。



Act.68 いつもどーり

 

「あ、あの、カナタさん……こ、ここは何処ですか? それにこのベッドも……周りにある物にも変な違和感が……あ、あります」

 

 カナタはベッドに頬杖を着いたまま張り付いたようなニヤニヤ顔をファランへと向けたまま。

 

「………あの、聞いて、ます?」

 

「んー? 聞いてるよー? ンフフフフフフフ……」

 カナタが人懐っこい人である、という事をファランも知っていたが、それにしても。

 様子がおかしい。

 

「ええ、と……状況が読めなく、て?」

 

「ねぇファランちゃんって好きな人いる?」

 

「へ!? 」

遮られた言葉は想定していない言葉。

 思わず顔が赤くなるファランはまたパタパタと両手が舞う。

 

「な、な、な、な、そ、そういう、のは、えっと、あの……」

 

 ゴニョゴニョとしているファランをカナタの優しい瞳が見つめていた。

 

「そっかー変な事聞いちゃったかなーウフフフフ!」

 

 何故かは解らないけれど、妙にテンションが、高い?

 

「そ、そんな、の……カ、カナタさんは、どうなんですか……」

 耳まで真っ赤になっているファランは視線をベッドに向けていた。

 しかしその視線はチラチラとカナタのほうへ何度も動いてしまう。

 バレていないと思っているのかその挙動にカナタはまたクスクスと嬉しそうに笑う。

 

「ファランちゃんかなー」

 

「へぁ!?」

 

「ちょっと何処ぞの惑星の人みたいな声でてるよファランちゃん」

 

「ひやゃゃゃゃゃゃ!!! わ、わた、私おおおお女の子だしあのあのあのあの!!! 嫌じゃなくて寧ろ嬉しくてえとえとえとえと!!!」

 

「冗談だよー! ンフフフフフフ!!」

 

「……じょ、冗談、なのですか」

 

 大きくため息を零してしまう。

 そんなファランの様子にカナタは嬉しそうにニコニコと笑顔のまま。

 嬉しそうなカナタの笑顔は、見ているだけでファランも嬉しい。

 嬉しい。けれど……少し、違和感を感じる。

 

「きょ、今日のカナタさん……へ、変です……」

 

「んーなんていうのかなー今ねぇ……こう……ほら猫って愛らし過ぎて食べちゃいたくなるじゃん?」

 

「よくわからないです……」

 

 呆れた表情のファランに、カナタは思わず情けない笑みを浮かべていた。

 

「嬉しかったんだぁ……あんな風に言葉にしてもらえるの初めてで……聞いた事ある気がしたけどけねぇ~……」

 へへへ、と笑うカナタにファランはまたも首をかしげてしまう。

 何かをうんうんと考えていたファランは、ハッと顔を上げた。

 

「……………………ゆーかい」

 

「……ん?」

 

「ゆ、誘拐!! 誘拐! で、ですね!?」

 

「は?」

 

「が、合点が行きました!! 人目の付かなそうな洞窟に、ふ、不釣り合いなベッド! 用意されたよ、ような準備!!」

 

「ちょちょちょちょっと! 落ち着いてファランちゃん!」

 

「ピィィィィィィ!! 食べないで! 食べないで!」

 

「誤解の招くような言い方止めてくれる!?」

 

「…………違うんですか?」

 

「食事の礼節はまず服を脱ぎます」

 

「ピィィィィィ!!!!」

 

「じょじょじょ冗談だってば! じょーーだん!」

 

 

 

  ■

 

 

 

 暫くシーツに蹲っていたファランを引っ張り出すのに10数分後。

 ようやく状況の説明を始めていた。

 

 

「そう、ですか……能力を……」

 

「うん、約束、守れなくてごめんね」

 

「い、いいん、です……私は、助けて貰えました……ただ、練習も無しに、む、無理に使えば、反動が返ってきちゃいます、から……」

 

「それと」とファランは付け加える。

 

「その、渦はダーカー兵器、ファンジと、言われてる、もの、です……ダーカーの巣窟へ無理矢理に転移させるのですが……良く、無事でしたね……」

 

 ファランの言葉にカナタは首を傾げる。

 

「う、うーん……? えーっと……あの時の事あんまり覚えてないんだよね……なんとなーく覚えてるんだけど……最後に何故かルーファさんが居たんだけど……うん? あれ? 私なんでそんな明らかに危なそうな所に入ったの?」

 

「き、聞いてるのは私なのですが……」

 首を何度も傾げているカナタにファランは不安そうな瞳を向ける。

 取り合えずカナタと同じように首を傾げてみるも特に何か思いつくわけも無い。

 

「んーまぁ私はそんな感じだよ」

 無意識なのか、意識的なのか、石を投げられた事は話していない。

 話を変えるようにカナタは首を傾げながら再び口を開く。

 

「それで、ファランちゃんは何故ここに? その血だらけの姿もだけど」

 

 真似をしていたファランは、カナタの言葉に、視線を外す。

 

「…………私も、ファンジに飲まれて、その後の事は覚えていま、せん……」

 

 明らかに避けるような話し方。

 血だらけの姿に関して、あの部屋の凄惨な状態に関して言うつもりは無いのだろう。

 そんなはっきりとしたラインを引かれた気がした。

 

「…………」

 無言が続く中、ファランのおどおどとした視線は右往左往していた。

 隠し事をしているのが丸わかりの動作にカナタは優しく微笑んでしまう。

 

「そっか、うん、解った! じゃあまずはそのコート洗っちゃおうか?」

 

「え、あの……」

 

「言いたくなったら言ってくれれば良いんだよ。大丈夫、私は信じてるから」

 

「………はい」

 優しい優しい、いつもの彼女。

 それが、またファランの心にチクリと罪悪感を残す。

 

「さてさてさてさて!! ンフフフ!! 脱ぎ脱ぎしましょうねぇぇぇ」

 

 先程の罪悪感が吹っ飛んだ所でファランは慌てて自身を守るように手を交差していた。

 

「じ、自分で脱げますから!!」

 

「まぁまぁファランちゃんはまだ安静にしてていいんだよぉぉ!!」

 

 ワキワキと動くカナタの手に、ファランの背筋に寒気が走る。

 

「ヒ、ヒィィィィィィ!!!」

 

「えーやんけえーやんけ!! ワシに任しとったらええねんでオヒョヒョ!!」

 

 

 再び10数分後。

 

 

「そ、そんなに、凹まないで、く、下さ、いよ」

 

「いやー良いんっすよ自分……ファランちゃんにマジで『嫌!!』って言われると思わなかっただけなんすよー……あ、自分そこらへんに落ちてる馬糞みたいなもんなんで……うっす着替え頑張ってっす……」

 

「バ、バーフン……? よ、良く解りません、けれど、もう終わりました、から!」

 

「え!? 私まだ覗いて無いよ!?」

 

「え? ご、ごめんな、さい? …………って私悪く、無いですよ、ね!?」

 

「ファランちゃんが突っ込みを!? バカな! 早すぎる!!」

 

「…………カナ、タ、さん」

 

「はいごめんなさいでしたー」




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/



挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee 



曲  黒紫  @kuroyukari0412

 黒紫さんが現在CoCのリプレイ動画を作ってくれています!

 http://www.nicovideo.jp/watch/sm29987843

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