女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.65 彼女は手を伸ばさない。

 戻るルーファにユラが声をかける。

 

「で、カナタの様子は」

 

 ユラの言葉にルーファは目を閉じると肩をすくめる。

 

「……今は寝てますよ。レター達の研究室は幸い無事だったらしいですから、今はそこで寝てますよ、相当精神的に来たんじゃないですか?」

 

「そうか」とユラは端的に零す。

 

「馬っ鹿じゃねーの? 映像が残ってようがあんなガキが出来る代物じゃねーよ、まずは疑う所から入るもんなんじゃねーの?」

 

 レオンの言葉に、隣のブレインが吹き出したように笑う。

 

「何笑ってんだコラ」

 

「ハハ、失礼。精神的ストレスは一定を超えれば、まず解消の手段を無意識に探るだろう。それも集団的であれば1点の弱者を探し始める……どこまでも優しく、弱い彼女はうってつけだろうさ、ハハハ……屈強なるアークスがか弱い少女に依存してるとは、最高に可笑しいと、思わないかい?」

 

「笑えねーよボケ」

 

「鳥頭には少し高度なジョークだったかな失礼」

 

「……あぁ?」

 

「止めろ馬鹿者。貴様達まで争ってどうする。カナタが未知数である事は今に始まった事ではない、未知数より出来る事を考えろ」

 

「まぁー出来る事って言うんなら」

 そう言いながらルーファは指を三つ立てる。

 

「1つは場所の移動、船が直り次第拠点を切り替える事、但し直るまでに次が来たら面倒臭いでしょうね」

 

 一つ目の指が折りたたまれる。

 

「2つ目は仲間の奪還。森に行方不明者がいた事から可能性としては高いんじゃないですか? 少数精鋭で挑めば良い。正し私達ジョーカーが別れる形になるのは、相手の思う壷ですね」

 

 二つ目が折りたたまれる。

 

「そして三つ目、こちらから今の全勢力でぶっ殺す」

 

「……おま、最後面倒臭くなってんじゃねーか」

 

「事実ですから。寧ろ私達なら最後が一番楽でしょ、まぁー敵の現状も解らない状態なんですから私達は兎も角残りは死ぬんじゃないんですか?」

 

 ユラは「ふむ」と小さく零す。

 彼女は思考するように目を閉じていた。

 数秒の後、開く瑠璃色の瞳は1人だけ喋らない者に向けられる。

 

「ホルン、貴様はどう思う」

 

 ユラの視線を鬱陶しそうにホルンは視線を外す。

 

「……………二つ目だ」

 

「それぞれに役割がある。船を動かす物も含めてな。人が減るってのはそういう事だ。それを補うのは別の奴等が減ったぶんを代用する事になんだよ。人員補充なんざこんな所で当てになるかよ。短期間で崩れるだけだ、先程の異常な心理状態も含めてな」

 

 一つ目にしても、三つ目にしても、人がいない事はユラも解っていた。

 それでも、目の前の少年の言葉の正論の裏、言葉の裏に、私情が入っている事は聞かなくても解る。

 誰よりも理解が深い彼は、何処までも1点がぶれる事は無い。

 

 仲間が彼の最優先事項なのだ。

 

「……決まりだな、直ぐにメンバーの編成を行う。ルーファ、レオン、お前達は確定だ」

 

 対一、に対して圧倒的な力を誇るルーファ、対多、に対して殲滅力に特化したレオン。

「おーよ!」と景気良く答えるレオンに対し、ルーファは面倒臭そうに視線を逸らす。

 

「べっつにいーですけど」

 その後思い出したようにルーファは言葉を続ける。

 

「あ、後カナタのバカは連れてきますよ。足手纏いだろうがファランを見つけた時に暴走してたら面倒臭いですし精神安定剤くらいにゃなるでしょう」

 

 ルーファの言葉に吹き出す音が響き渡る。

 

「ハッハッハ!! ピリオド! 本当の理由は何だ? 全くお優しい事だ!」

 

「…………あらブレイン肩に糸くず付いてますよ取ってあげます」

 

「け、結構だ」

 

 ワキワキと両手を動かすルーファと逃げる体制で中腰になっているブレイン。

 2人を牽制するような様子にユラはため息を付く。

 

「後でやれ馬鹿共……」

 

「オラァー! 逃がさねーぞコラァ!」

 

「ナイスですよぉー! 鳥頭!」

 後ろからガッチリと羽交い締めにするレオンにルーファが親指を立てる。

 

「ふふ……参ったな。モテル男は辛い」

 

「おい気取ってタバコに火付けてっけど手震えてんぞ馬鹿」

 

「後でやれって言ってるだろ馬鹿共ォォォォォォ!!!」

 

 

 瞬間的に反応が早かったのは二人。

 黙っていたホルンがッバ! と顔を挙げた。

 その次に遅れて反応したのはルーファ。

 ルーファはブレインを離し慌てた様に視線を向ける。

 

 二人の視線は今も修理を続けられている船へ。

 

 その視線は、船の奥底へと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

   ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。

 辺りには誰もいない。

 暗い個室のような部屋。

 頭が揺れる。

 痛い。

 上げた手は包帯のような物に触れていた。

 

 ゆっくりと手が降りる

 

「…………」

 

 言葉は出ない。

 というよりも、声が出ない。

 

「………………」

 少女はベットから降りる。

 ふらふらと、歩き出す。

 頭はズキズキと痛むが、それでも歩を進める。

 ドアはあっさりと反応し、横へとスライドされる。

 暗い廊下がその先に続いていた。

 

「………………………………」

 

 歩き続ける。

 ここに来てから、何度も通った道。

 間違える事は無いだろう道。

 やや傾いて、電気など付いている様子も無く、何かで引き裂いたような痕が所々にあろうとも。

 やはりその道は知っている道。

 

 ふらふらと歩き続け、そこへと行きつく。

 ドアは開けたまま。

 

 一面の血だらけ。

 

 あの子と住んでいた部屋の面影など微塵も見えない程の鮮血。

 

「…………………………………………………」

 

 やっぱり、見た物は変わらない。

 

 

 血だらけの部屋の中、三角座りの形でカナタは、その場に座り込む。

 

 

 

 寒い。

 

 

 

 顔を上げる。

 

 

 目の前に先程まで無かった物が存在していた。

 

 

 赤と黒が蠢く不気味な渦。

 カナタの瞳は虚ろにその渦を見つめる。

 続くアクシデントのせいか、既に疲労困憊なのか。

 最早驚く事すらカナタには出来ない。

 目の前の渦から、薄らと冷気のような物が漂っている事に気づく。

 カナタの背筋を冷たい物が走る。

 その寒気を知っている。

 忘れるわけがないあの衝撃の瞬間を。

 

 謎の双子に殺されて、その後の飲み込まれていく闇の世界。

 

 ゆっくりと、立ち上がる。

 

 その渦に、手を伸ばしていた。

 直感していた。

 この渦に飛び込めば、ここ以外の何処かに行けると。

 

 何処でも良い。

 ここ以外の何処かへ。

 

 

 手を伸ばした。

 

 

 帰して。帰して。帰して。

 

 

 返して。

 

 

 渦に触れるか触れないかの瞬間、後ろからけたたましい音が響いていた。

 

「カナタァァァァァァァァ!!!」

 

 急ブレーキと共に歪んだ形のドアを無理矢理に蹴破り、再度ルーファが地面を蹴る。

 思いっきりカナタへと手を伸ばす。

 一瞬振り向くカナタの瞳と目が合っていた。

 彼女らしく無い、色の無い不気味な瞳。

 そこに、生気に溢れる光は無い。

 

 

 彼女は手を伸ばさない。

 

 

 伸ばした手は空を切る。

 瞬間的に広がる禍々しい渦はカナタの体を飲み込んでいた。

 

 目前で消え去り、そこに無音が広がる。

 

 掴み切れなかったその手をルーファは悔し気に、睨むように見つめながら拳を作る。

 

「連れて……行かれた……!! 約束したのに……!!!」 




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/



挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee 



曲  黒紫  @kuroyukari0412

 黒紫さんが現在CoCのリプレイ動画を作ってくれています!

 http://www.nicovideo.jp/watch/sm29987843

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