女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.63 「大丈夫……皆、い、い、生きてる、大丈夫」

 

 現状の報告を終えた四人のアークスは、誰とも言わずに唸る。

 

「……ふむ、カナタをコピーしたペルソナβ……侵食されたアークス、それにダーカー兵器を操る少女、そして居る筈の無いジョーカー、か」

 

『鴉の王(クラウンクロウ)』『存在否定(ダウナー)』『最後のジョーカー(ラスト・ワン)』

 

 流石にズボンは新しく履いてきたのか、上下の汚れ差が妙に目立つ。

 最悪(エンド)のジョーカーが一人にして、船を任された責任者の一人。

 ユラは額に手を当て頭痛に苦しむようにため息を零す。

 

「ンンだよぉ! お腹いっぱいになるわ!! どんだけ詰め合わせ大サービスだよ!」

 声を荒げるは最強(スペシャル)のジョーカーが一人。

 

 『一人大隊(アルバトロス)』『壊し屋』『鋼刃(グロリア)』『絶対攻撃力』

 

 最大級の攻撃力を持つ男は子供のように頭を掻きながら苛立った様子を見せていた。

 

「こぞって全員逃してる時点で余計に頭が痛くなるな……それでもジョーカーか貴様ら」

 

 心外だ、と言うかのように長身のユラを見上げる視線が一つ。

 

「私は殺したと思ったら霧みたいに消えちゃっただけなのですけれど、ちゃんと殺したと思うんですけどねェ……いやーでも強かったですねーあのレベルは久しぶりでしたよー」

 等と、赤い目をキラキラとさせなが空を見つめる黒髪長髪の女性。

 白いリボンをたなびかせる鞘まで黒い刀を腰に携える少女。

 

『最速無敗』『殺し屋』『人間失格(ピリオド)』『狩人(イェーガー)』

 

 齢18にして最悪(エンド)のジョーカーが一人へと連なる少女、戦闘を重きに置く彼女の様子にユラはまたも呆れたように首を振るう。

 

「ちっげーよ! この馬鹿が一人ポンプしたり格好付けてたりしてなきゃ倒せたっつーの!」

 

「ッフ……うまいこと言うじゃあないか、褒めてやろう」

 

「いらねーよボケ!!」

 

 レオンの雑言を楽しそうに聞いている悪びれる様子すら見せない男は黒い帽子を揺らす。

 全身を覆うコートまで黒い暑苦しい姿の男は、涼しい顔のまま。

 

 『見敵必殺(レッドイーグル)』『ノイズ』『バーディー』『絶対命中』

 

 最強(スペシャル)が一人。天才と言われた5人目のジョーカー。 

 

 協調という物が一切無いジョーカー達を「解った解った」とユラは両手を上げるように収める。

 

「……ホルンの話を聞く限りでは、私もバッドエンドを逃してしまったようだからな、何も言えないがね」

 その名前を聞いたレオンが気味悪がるように舌を出す仕草をして見せていた。

 

「……よりにもよってアイツかよー相変わらず意味解んねェーな」

 

「何故奴がいたのかは解らないが、他のジョーカーも居る可能性も考えねばな」

 

「それだけなら良いんですけどー次またカナタのニセモノ出てきたらメンドクサイですからねー」

 

「いやあの女がやべぇよダーカー兵器操れるなんざ下手すら全員やられンぞ」

 

「連れ去られたアークス達も気掛かりではあるがね……侵食の件と関わっているのであれば、早急な救出を考えるべきかもしれぬがな」

 

「問題は山積みだな……」

 

 沈黙が流れる。

 

 そして、その沈黙を破ったのは唯一一言も喋っていなかった男から

 

『犠牲義損(ターミガン)』『便利屋』『染色白紙(パステル)』

 

「……あの偽善者バカは大丈夫か」

 

 

 

 

 

 

  ■

 

 

 

 

 

 

 

 死ね。死ね。死ね。

 

 胸の中の憎悪が止まらない。

 

 何だこれは。何だこれは。こんなものは知らない。

 黒い物が押し寄せる。

 生きてきた中で、これまでに世界を呪う事があっただろうか。

 自身が悪いのか、世界が悪いのか、誰かが悪いのか。

 悪いものがあるのであれば、それさえ壊せば、この黒い物は無くなるのだろうか。

 そうすれば、大好きな善がそこに、大好きな平和がまた、大好きな世界が戻る。

 

 壊せ。壊せ。壊せ。

 

 

「カナ、タ?」

 ハッと我に返り顔を挙げる。

 そこには心配そうに覗き込んでいるリースがいた。

 

「……リースさん」

 

 スカートが砂に汚れる事も気にせず座り込み、壁にもたれたままのカナタの隣へとリースも座る。

 

「とっても怖い顔してたから、最初は解らなかったよ」

 そういって笑うリースの表情は、無理矢理笑っていた。

 目元が赤くなっている事に気づく。

 

「無事で良かった」

 

「……はい」

 上の空のような返事をしてしまう。

 

 暫くの無言が二人の間に続く。

 ポツリと最初に言葉を零したのはリース。

 

「……アリスを、見なかった?」

 

 無言でカナタは首を振る。

 

「そう……どこにもいないの、あの子、今頃震えてないかな……大丈夫、かな……」

 いつものリースとは違う気弱な姿。

 必死で探し回ったのだろう。

 蹲るリースの姿に、いつもの覇気は見えない。

 

 カナタの心が動く。

 

 彼女が、彼女らしくある為に、彼女は……カナタは無意識に言葉を綴る。

 

「だ、大丈夫ですよ! アリスちゃんは生きてますよ! 一緒に、さ、探しましょう!」

 無理に作った笑顔。リースが求めていた通りの言葉。

 この子なら、そう言ってくれると信じていた。

 誰かにそう言って貰いたかった。心が折れそうになっていた、リースの苦肉でありながら、らしくない行動。

 

「うん、ごめんね……」

 その罪悪感を理解した上でリースは謝る。

 

「そう、うん、うん、うん、そう、大丈夫……皆、い、い、生きてる。大丈夫」

 

 リースは気づかない。

 カナタの目の色がいつもと違う事に。

 

 純粋で、善に熱い少女。

 その善に対する愛は、最早呪いに近い。

 




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

「大変更新遅くなり申し訳無いです……現状の忙しさが落ち着いて行けば更新速度をまた少しづつ上げていけたらと考えています。」


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee 



曲  黒紫  @kuroyukari0412

 黒紫さんが現在CoCのリプレイ動画を作ってくれています!

 http://www.nicovideo.jp/watch/sm29987843

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