女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.57 戦いの終焉 3⃣【3】

 ドーム状に広がる壁は、触手と連なり、その触手は徐々に数を増やし狭い空間を埋め始めていた。

 その様子も無視して、四つん這いのままになっているブレインの背中を摩るレオンは、呆れたため息を零す。

 

「あ、案ずるな、戦える」

 

「いや案ずらざるおえねーだろ大っ嫌いなお前の心配なんかしたくねーけど今の状況解ってんのお前?」

 

「ふふ……貴様にしては頭を使った発言じゃないか」

 

「いつもの覇気がねーんじゃこっちが怒鳴り返せ……ねーよっ!!」

 

 ふらふらのブレインを思いっきり蹴り飛ばすのと、そこに落雷が落ちるのは同時。

 

「あっぶね!! しっかりしろボケナス!!」

 レオンが叫ぶと共に慌てて走る。

 その背を追いかけるのは赤く羽の生えた球体。

 転がるように横へ飛ぶレオンが居た場所を通過していく、赤い光を残して走るダーカー兵器。

 

 ゲル・ブルフ

 

「まじかよ!! こんな狭いとこであんなの出すんじゃねーよ!」

 触れた瞬間にその命を毟り取る追尾型。

 一般のアークスでは破壊する事は出来ない物質的な要素が無い兵器。

 それは絶対攻撃力と言われたレオンにも言える事だった。

 物理的な破壊の概念を持つレオンには天敵とも言える存在。

 

 片腕をぶらつかせながら転がり込むように避けるレオンに容赦無く触手が胴へとめり込んでいた。

 

「おっえ゛!!」

 

 無理矢理に息を吐き出され、思わず体がくの字に曲がる。

 苦痛に顔を歪めるレオンに、再びゲル・ブルフが襲う。

 

 瞬時に飛び、辛うじて避けた所に再び触手。

 

「いってぇぇ!! てっめ! このクッソ女!! あっちの吐きまくってる奴狙えよバカ!!!」

 

 

「あんなのスグぶっ殺せるからアンタが優先よ、嫌ならサッサと死になさいよ」

 ふわふわと浮くミソラは不気味な笑みを向けるだけ。

 

「アタシも忙しいのよ! お仕事も途中なのよカス!!」

 彼女の後ろで球体が膨らんでいた。

 赤黒い不気味な球体。

 地面へと触手を伸ばし、何かを吸う様に膨らむと、合わせる様に球体が小さく膨らんでいた。

 

 それもダーカー兵器。

 

 ありとあらゆるエネルギーを吸い取り膨張を続け、最後に破裂した時、辺りに毒の雨を降らせるベイゼと呼ばれた爆弾。

 

「丁度良い感じにクソアークスもそこらじゅうで死んでるでしょうしぃ? いっぱいに血を吸ったこの砂漠は栄養だらけ♪ 後は死にかけのアンタ等にダメ押しってわ・け♪」

 楽しそうにケラケラと笑うミソラをレオンの鋭い瞳が睨む。

 

「最高に良い体してんのに最高にタチワリィなおい!!」

 

「言ってなさいよ栄養源。あんた等なんかアタシから見れば捕食対象なワケ。食物連鎖の上がアタシよ。さっさと食べられなさいよ」

 バカにしたように舌を見せるミソラは割れる笑みを浮かべたまま。

 今も後ろの球体は徐々に膨らむ中。

 

 低い声が響く。

 

「成程、ならばさせるわけには行かんな」

その声に、ミソラの視線が動く。

タバコを加え直すブレインの姿がそこにあった。

 

「あらアンタ、具合はいいわけ?」

 

「ご心配痛み入るね、完全では無いが…レディーとのステップを踏むぐらいなら充分さ」

 

「何言ってんだアイツは……」

 走り回るレオンは、その台詞にアホらしいというように小さく零す

 

「さっきまで馬鹿みたいに這いずり回ってた奴が何言ってんのよ!!」

 

 ブレインは小さく笑う。

「過去では無く、先を見るべきだ、前を見るべきだ。勿論、君と俺のこれからを」

 構える銃は空に向けられていた。

 

「しかしダンスを踊るにしては聊か狭くるしいようだが……」

 ポツリと零しながら引き金を引く。

 一度引くのに対して飛び出したのは大量の弾。

 散弾として宙へと大きな音を立てて飛び出す。

 

 三回目の引き金を引いたと共に銃は直ぐに下ろされていた。

 

「キャハハ! はぁ!? やっぱり調子悪いなら寝てればぁ!? 何処に撃ってんのよバァカ!」

 嘲る言葉が響く中、加えていた煙草を指で弾き次の煙草を取り出す所。

 気に留める様子の無いブレインに、ミソラは苛立った表情を浮かべる。

 

「すかしてんじゃ無」

 

 そこで言葉は止まる。

 ミソラの瞳に映ったのは弧を描くようにドーム内で降り注ぐ雨。

 その鋭い雨は一発足りとも地面に落ちていない。

 全てが、蠢く触手へと落ちていた。

 落下と共に蠢く触手に狙いを定めたかのように、一発一発が生き物のように追いかける。

 

 一瞬の後に、ブレインがかざす煙草の先に最後の一発が掠める。

 火の付いた煙草を加える男はニヤリと笑ってみせる。

 ドーム上を埋め尽くそうとまでしていた細い触手達が全て消え去っていた。

 

「ふむ、少しは広くなったな」

 呆然と見ていたミソラは我に返ったように声を荒げる。

 

「な、な、な、何なのよアンタ!!」

 

「おや、俺とした事が自己紹介を頂いたのに、返していなかったようだな失礼した」

 嘲るように、紳士的な大げさな礼。

 片手で縦に持つライフルとは別の手を丁寧に前に回しながらブレインは言葉を続ける。

 

「最強(スペシャル)のジョーカー。まぁ色々言われているが、この俺を示すには二つ伝えれば十二分。『見敵必殺(レッドイーグル)』『絶対命中』、俺はブレイン、以後お見知りおきを」

 

 顔を挙げた瞳は強く輝く、大きく開く口角、満面の笑みはミソラへ向けて。

 それは、最強(スペシャル)らしい戦闘に対しての高揚。

 ジョーカー内の戦闘狂集団。

 

 

「って馬鹿! こら馬鹿ブレイン! ゲルブルフも何とかしろ!! 俺ずっと追いかけられてんじゃねーか!!!」

 

「アルバトロス、十分何処かで遊んで来たろう、そこらへんでランニングに勤しんでいたらいい」

 

「あぁぁぁ!? お前マジで殺すからな!! お前ほんっと! ほんっと性格悪いなお前!!」

 

「おっと照れるね。こちらもお返しして置こう。君の頭の軽さについては本当に尊敬していてね……私も君のように何も考えずに発言出来ればと常々……」

 

「クソボケェェェェェ!!!!」

 走り回るレオンとぎゃあぎゃあと言い合いをしているのを他所に、ミソラの表情が無表情へと変わっていた。

 

「あ、っそ」

 ミソラが手を翳す。

 

「アンタ危ない感じなの、っふーん。だったら手加減抜きよクソアークス!!」

 同時にドームの中に現れるのは幾つものクラゲのような赤い物体。

 そして、ドームの外。

 縦と横に下から生える様に現れた高い塔。

 どちらもに赤黒い触手がまとわり付き、そして塔にはドームへと向けられた禍々しい粒子が集まる発射口。

 

 ダーカー粒子砲台。

 

 巨大な閃光を溜めて撃つそれは、一発であろうとアークスの作る兵器など簡単に破壊する代物。

 それは人体であれば欠片すら残さない。

 

「塵一つ残ると思うな!!!」

 

「ほう、ドームで動き辛い上に触れるだけで爆発するダーカー兵器で更に動きを封じ、それを十分な広範囲を上下に設置、その上から丸ごと攻撃、という具合か成程成程」

 一人でうんうんと頷くブレインに恐怖の影は無い。

 2つの塔それぞれの一点に集まっていく赤黒い粒子は止まらない。

 

「てんめー! どうすんだよ! お前が調子乗ったからこうなったんだろボケ!!」

 円状にぐるぐる周っているレオンに、ブレインは呆れた笑みを向けている。

 

「何を遊んでいるバターになるぞ」

 

「だったら助けろボケェ!」

 

「まぁ良いさ、敵地を理解した上で、準備も無く来る筈が無いだろう?」

 

 その言葉と共に、ハッとレオンの視線は下に。

 淡く光る地面。

 

 それには、見覚えがある。

 以前程では無い。しかしその輪は、十分に囲っている。

 外の塔も、ミソラも、ミソラの目の前に広がり続ける禍々しい玉も。

 

 

「死! ねェ!」

 ミソラの翳す手が振り下ろされるのと、巨大な二つの赤黒い閃光が放たれるのは同時。

 ブレインが煙草の煙を吐くのもまた、同時。

 

 その塔も、全てを飲み込む青い光の塊が空から降り注ぐ。

 遠くから見れば、巨大な青い塔にも見えるだろうそれは全てを飲み込んでいた。

 

 青い粒子が消え去っていく。

 

 そこに残るのは中央に立つブレインと、知りもちを付いているレオン。

 

 そして、目を見開き、空中で浮いたままのミソラ。

 

「な、は……は?」

 思わずミソラの口からこぼれる声は、まだ現状を理解出来て居ない。

 全てが消えていた。

 作り出したドームも、生み出した二つの塔も、大量の爆弾も、そして、目の前でゆっくりと膨れ上がっていた筈の禍々しい玉ですらも。

 

 まるで何も無かったように砂漠の砂だけが辺りに舞っていた。

 

 呆然としているミソラを他所に、ブレインは笑い声を挙げる。

 

「絶対命中、俺が外す事は有り得ない。それが出来るという事は、『当てない』事も可能なわけだ」

 

 それは全てを消し去る無慈悲な攻撃力であるにも関わらず、まるでフォトンの高威力ビーム自身が避けたように、穴ぼこを作ったようにそれ以外に命中をさせていた。

 

 ミソラさえも外させていた。

 

「さて、これだけ広ければ踊るには持ってこいだろう」

 レッドイーグルが笑う。

 

「何を呆けている、まだ踊れるだろう? まだ、これからだ」

 銃を構えるブレインの目が光る。

 浮いていたミソラの瞳にもまた、色が点る。

 

「………………上っっっっっ等」

 ミソラの額の千切れそうな勢いの青筋と共に瞳は釣りあがっていた。

 

 ふざけやがって。

 ふざけやがってふざけやかってふざけやがって。

 またコケにしやがった。

 

 肌に刺さるような殺気を向けているミソラに、レオンは座り込んだまま哀れな視線を向けていた。

 

「解るわァ……コイツ本当にムカつくよなァ」

 

 そう零すレオンをミソラが見る事は無い。

 最早ミソラの瞳には入っていない。

 睨む先はブレインしか映らない。

 

 殺す。

 

 この男を絶対に殺す。

 ミソラの周りに禍々しい粒子がまた纏わり出す。

 

 一瞬の静寂。

 

 身構えるブレイン。

 直ぐに立ち上がるレオン。

 そして、ミソラ。

 

 三人が同時に顔を挙げた。

 三人の視野に映ったのは、放物線。

 空には弧を描いた大量な不気味な黒い曲線が円状に広がっていた。

 

 沈黙を破ったのは、大きな、大きな舌打ち。

 

「クッソがァ……」

 ミソラが纏っていた禍々しい粒子は彼女の後ろへと集約する。

 その粒子が作り出したのは、渦上のダーカー兵器。

 ファンジと呼ばれたそれは、本来であればアークスを捕まえるまで追跡し、瞬間移動させる物。

 しかし、そのファンジが動く様子は見せない。

 寧ろ作り出したミソラを飲み込もうとしていた。

 

 ミソラが指さす先はブレインへ。

 

「覚えたわよ、ブレイン、『見敵必殺(レッドイーグル)』……この私を扱けにしたお前を絶対に許さない……ッ私が殺す、絶対に殺す、完膚なきまでに殺す。」

 

 ブレインは鼻で笑う。

 憎憎しげに睨む瞳と、嘲笑うような瞳が交差する。

 先に視線を外したのは後者の瞳。

 やれやれ、という具合に金色の瞳は首を振る。

 

「返事を聞く前に去ろうとするとは……とんだ純情娘だ」

 

 煙草を指で取ると、ブレインはミソラへとそれを向ける。

 

「『絶対命中』の名の通り、獲物を逃す気は毛頭無い。勿論答えはYESだ、語り合おう、リードはお任せを、お嬢さん」

 

 渦の中に消え行く彼女が腕を真っ直ぐに伸ばす。

 おぞましい殺気の瞳と、最後に彼女が見せたのは彼女の気持ちいっぱいに込めた、中指だった。

 

 そして渦は消える。

 

 そこには、まるで最初から誰もいなかったように砂が舞う。

 

 ブレインは薄く笑っていた。

 

「熱いアプローチだ、照れるね」

 

 彼女が消えた先に、視線を向けながら佇む。

 金色の瞳がゆっくりと視線を落としていた。

 

 

 そのまま、崩れるようにブレインは四つん這いへと倒れていた。

 

「………あー、うん、まぁ、うん、そうだな……女と見つめ合って気分悪かったんだな……踏ん張ってたのな……うんうん頑張ってカッコつけたカッコつけた……」

 

 レオンはブレインの背中を摩りながら空を見上げる。

 黒い放物線は既に消えていた。

 

 それを彼は知っている。

 ようやく、終わったのだろうという事を、レオンも理解していた。

 

 

 

 

  ■

 

 

 

 

 白髪の少年は荒い呼吸を繰り返す。

 目の前の部下だった何かは虚ろな瞳のまま、佇んでいた。

 

 体中から不気味な触手を決して弱いわけでは無い。

 しかし、限界突破(リミットブレイク)のホルンなれば敵では無い。

 

 敵では、無い。

 

 何度攻撃をしても、何度触手を破壊しても、その体積以上の触手が体からまた生える。

 その体を抹消させる事もホルンには出来るが、彼は諦めていない。

 そして、限界突破(リミットブレイク)の限界が来ている事も気づいていた。

 

 諦めねェ‼

 

 考えろ、考えろ、考えろ‼‼

 

 鋭い瞳を向けるホルンと、ニタニタと笑うシルカ。

 二人が対峙するその一瞬、辺りで声が響いていた。

 

「おーい帰んぞー目的は達成したぜオイ」

 

 ホルンは声の方へとバッと顔を上げる。

 シルカの丁度頭上。

 そこにあったのは暗い闇の塊のような物。

 闇の塊からひょっこり現れた存在に、ホルンの表情は思わずぎょっとしていた。

 見間違える筈がない。

 ひどくボロボロになっているが、あのふざけたパンダ頭を忘れるわけが無い。

 

「ば、バッドエンド!? 」

 

 闇から現れたバッドエンドもおなじく大袈裟に身体を揺らす。

 

「ンゲッ!? ホルンじゃねーか!! 」

 

「て、テメー何でこんな所に!!」

 

「あーいい、いいから、その下りさっきやったから。っつーかシルカが居るならコイツも居るかぁ、んぁ? 逆か? ま、手遅れだからどっちでもいーけどよ」

 

「御託は良い! 何でテメーがいるかって聞いてんだよ!!」

 

「あーあー冗談通じねーでやんの。たまんねーぜオイ。ま、良いやクソやっべえの飛んで来てっから急ぐぜ」

 

 闇が深まる。

 膨れるように広がる闇は、シルカとバッドエンドをゆっくりと飲みこみ始めていた。

 

「テメェ逃がすかよ!」

 

「はいはい逃がすんだよ戦闘シーンはここまでってな。お家に帰ってハンカチでも噛んでろバーカ」

 

 瞬間的に投げる槍は闇に埋もれたかと思うと貫通するようにバッドエンド達の後ろを出ていく。

 

「ったく……1日にジョーカー2人も相手してたらゲロ吐くわ、手遅れだわありえねー」

 

 最後に見えたのは、何とか原型を保つシルカの顔。

 

「先、生」

 

 その一言と共に、小さく丸まるように、渦が消えていた。

 

「……くそが」

 舌打ちをするホルンは憎々しげに消えた闇の先を睨む。

 

「諦めるかよ……諦めてやるものか……俺が、俺が……」

 ぶつぶつと呟く声は砂に舞う。

 誰に言うでもない無意識に零す声は、彼自身も発した事を気づいていない。

 

 




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

「更新頻度がかなり遅れてしまい本当に申し訳ありません……PCの故障、リアルの忙しさが相まってしまい、滞てしまいました……何とかPCも新たに手に入ったので、もうすぐ更新頻度も復活できますゆえ!! 次回も遅くなる可能性もありますが今週さえ……今週さえ乗り切れれば元に戻れる気が! 多分! 多分!」

挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee 



曲  黒紫  @kuroyukari0412

 黒紫さんが現在CoCのリプレイ動画を作ってくれています!
 第一話出してくれています!!!
 顎クイシーンを何回も見ちゃう……

http://www.nicovideo.jp/watch/sm29987843

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