乱立するは赤い壁、不気味な羽を象った赤黒い物体、迸る黒い雷撃。
くらげのようにフワフワと浮く爆弾。
アークスを吸い込むように消し去っていく黒い円状に渦のような物体。巨大なレーザーを吐き出す黒い塔。
幾つものダーカー兵器。
そして、ひしめき合う不気味な姿をしたダーカー。
立ち向かうアークスの叫び声がそこら中で響き渡っていた。
それは奮い立たせる雄叫びでもあれば、悲痛を叫ぶ悲鳴も含まれる。
立ち込める砂煙はアークスの血と、ダーカーが舞わせる黒い粒子が入り混じり、不気味な変色を漂わせていた。
その中央、巨大に膨れ上がっている黒い球体が存在していた。
玉を形成しているであろう、うぞうぞと動く触手は地面から何かを吸い出すような収縮を繰り返していた。
同じく、前に立つたった一人のアークス。
騒がしい周りに比べると、彼の姿は酷く落ち着いていた。
咥えるタバコから吐き出される白い煙が宙に舞う。
「ベイゼ……とも少し違う、か」
帽子の鍔に触れると視線を上げる。
金色の瞳が巨大に膨れる塊を見透かす様に見つめていた。
「ダーカー兵器……自然災害に近しい物だ……操るとすればダークファルス、しかしそんな巨大な気配は感じ得ない。さぁて、このベイゼを中心に災害は広がっているわけだが、原因は君かな?」
独り言を続けるブレインは状況とは不似合いに、「くっくっ」と含む笑い声を響かせる。
「ダーカーが答えるわけが無いか」
「おい、馬鹿、なにやってんだテメー馬鹿コラ馬鹿」
楽しそうに一人笑うブレインの背に、声を掛ける者が居た。
後ろからの声にブレインは振り返る事もせずに頬を緩ませる。
「自己紹介にしては、少し卑下し過ぎじゃないかな、強く生きるべきだ」
「お前マジでぶっ殺すぞ! ダーカーに話しかけてる変態が何言ってやがる!!」
物騒なセリフと共にブレインの隣に立つのは褐色の男。
腹ただしげに視線を向けるレオンに対し、ブレインが視線を向けることは無い。
ただただ目の前の不気味な玉へ視線を向けていた。
「……テメーが居るってことは間違いじゃねー見てーだな」
「馬鹿にしては……言い判断だ」
ブレインの言葉にレオンは「言ってろ」と吐き捨て、担いでいる槍を片手で器用に回し、地面に突き立てる。
「さっさと終わらせんぞブレイン、油断すんじゃねーぞ!!」
くく、と馬鹿にするようにブレインは笑うと、手に持つタバコを、指で弾く。
宙に舞う灯火に目をやりながら、ブレインは大きく白煙を吐き出していた。
背に担ぐ長方形のアタッシュケースを下ろすと重々しい音と共に垂直に立ち辺りを砂が舞う。
「油断、油断ね、いい言葉だ、最高の言い訳になる」
アタッシュケースから蒸気のような煙が上がる。
高音の、煙の零れる音と共に開かれる中には黒い長銃。
彼の為に作られ、持ち運びの為の軽量も出来ないほどに、攻撃に特化した武器。
その銃を肩に担ぐと、重いであろう銃を慣れた具合に頬と肩だけで支える。
空いた両手で二本目のタバコを取り出していた。
その仕草は目の前に敵がいるとは思えないゆるやかな仕草。
加えたタバコに火をつけ、白い煙を吐きながら、ジョーカー『レッドイーグル(見敵必殺)』は文字通り白煙を撒きながら言葉を綴る。
「言い訳させてくれる程の相手だと期待しているよ」
その様子にレオンは苛立だしげに舌打ちをしてみせる。
「キザ野郎が……」
レオンはこの男が嫌いだった。
のらりくらりとした仕草も。
常に人を馬鹿にしている態度も。
自身と同じく秀でた力を持っていることも。
レッドイーグル(見敵必殺)。
その名の通り、彼の視線に入った物が生きて帰る事は無い。
「さっきからベラベラべラベラベラベラ!! バッカじゃないのアンタ!!」
突然響いた高い声に二人は瞬時に身構える。
同時に目の前の玉が音を立てて内側から音を立てて弾ける。
舞う破片が四散して行く中、ベイゼがあった場所へ、宙に浮く女性が現れていた。
腕組みをしながら睨むように二人を見下ろす女性に、レオンはぽかんと口を開けてしまう。
首元にチェックのマフラー、肌が見える危なげな服装。
黒のショートパンツ、羽織ように上着を肩に掛けたグラマラスな女性。
紫の短い髪。
色の違う瞳。
身長は低いようだが、大人びた雰囲気の女性。
しなやかな足と服の裾、そして頬から首部分に見える触手のような刺青が特徴的だった。
「お、女!?」
「何よ!! 文句あるわけ糞アークス!! ぶっ殺すわよ!!」
キッと上がる鋭い瞳はレオンに向けられていた。
ふわりと地面に着地すると、彼女はずかずかとレオンへと大股で近づく。
「女だからって舐めてたら承知しないわよボケ!」
声を荒らげながら目の前の女性はレオンへと手を翳す。
同時に、レオンの頭上にバチリと電流の音が挙がる。
瞬時に後ろへと飛んだレオンが居た場所に黒い落雷が落下していた。
砂が焦げる匂い。
ダーカー兵器、間違いなく彼女が今狙ったであろう瞬間。
「コイツが操ってんのか!!」
槍を構えるレオンの方を見向きもせずに女性の視線は次にブレインへ向けられる。
「それにアンタよ!! さっきから気持ち悪いのよ! 何そのキザったらしい感じ! 本当不愉快! あんたムカつく事自覚してるわけ!?」
敵と思われる女性は一切の警戒なくブレインに詰め寄り怒りの声を向けていた。
手を伸ばせば簡単に届く距離。
女性の猫のような鋭い見上げる視線と、目を細め見下ろすブレインの視線が交差する。
先に視線を外したのはブレイン。
小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「この俺にここまで言えるとは、なかなか面白い小娘だ」
そこで、警戒をしていたレオンの表情が瞬時に青くなっていた。
「おいバカ!! 落ち着け!」
その声はブレインの耳には届いていない。
外した視線は直ぐに女へと戻る。
金色の瞳が殺意で染まる。
狙いを定めたように金色の瞳が淡く光る。
ブレインはクールにタバコを指で取ると不適な笑みを浮かべていた。
「……フン、ダーカーの人型か。相手にとって不足は無オロロロロロロロロロロロロ!!!」
「キャァァァ!? 何いきなり吐いてんのよきったないわね!!」
「あー……まぁそうなるよなァ」
四つんばいで未だ嗚咽を繰り返すブレインに近づき彼の背中を摩りながらレオンは溜息を零す。
ふらふらと立ち上がるブレインは、震えながらも口元に新たなタバコを運ぶ。
「フ、フフ……俺に一撃を加えるとはやるじゃないか……楽しませてくれそうだ」
「いや私何もしてないわよ」
「おーい馬鹿、馬鹿帽子、お前それタバコ逆だぞ」
火を付けた瞬間に普段と違う煙の様子に、瞬時に表情が怖ばっていた。
「むっげ!? げっほげっほ!!」
瞬間、再び目の前の女が視線へと入っていた。
そのまま再びスローモーションのように崩れていく。
「お、おえええええええええええ!!」
「だから何なのよこの男は!! 人の顔見てゲロ吐くって失礼にも程があるでしょ!! 信じらンない!!」
「いや違うんだよダーカーの姉ちゃんコイツさー普段かっこつけてんだけどさー……」
天才的アークスにして才能の塊とまで言われた男。
常勝無敗。『最強(スペシャル)のジョーカー』が一人。
弱点、大人の女性。
「お前そのせいでアプレンティス逃したの覚えてンの? いい加減にしろよテメー」
「あ、案ずるな……この程度丁度良いハン、オロロロロロロロ……」
「まぁ何でも良いわよギャグ担当の馬鹿共、アークスは全員ブチ殺すか持って帰るってワケだし」
ゆらりと、女の足元が宙に浮く。
合わせるように女の周りを黒い雷撃がバチバチと舞っていた。
彼女を中心に、ダーカー兵器が次々と現れる。
そして音を上げるのは地面をめくりあげながら高く高く上がるおぞましい赤黒い触手。
何本も現れるそれは円上に空に上がりら一瞬で絡み合い、そして、半径5m程の触手で囲んだドーム。
逃がす気など無い。
女が不気味に笑う。
「私は『ミソラ』。ここまで来れたんだからそれぐらい教えて上げる。でもあんた達は所詮クソアークス、アタシ達に遊ばれる玩具ってわけ。玩具らしく私を楽しませなさい!!!!」
レオンは背中を摩りながらちらりと自身のもう片方の腕を見る。
先程の、自身の攻撃力で潰れた腕は未だ動く様子は無い。
「……割りとやべーな」
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/
今回初登場のミソラちゃん。立ち絵を書いてくれました!↓
【挿絵表示】
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫