女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.53「ああ……ちきしょう」【2】

「ほらどうしたレオン!! お得意の絶対攻撃!! 見せてみろよ!!」

 

 遠距離からレオンに向けて飛び交う赤黒い閃光のような弾丸を避けながらレオンは大きく舌打ちをする。

 

「ウゼェなオイコラ!! ちまちまちまちまちま攻撃しやがって!! お前は小姑か!!」

 距離を詰めようとするレオンに対しサバンは一定の距離を保つように後ろへと飛ぶ。

 遠距離での威力も大したことが無い攻撃。まるで馬鹿にされているような感覚にレオンの苛立ちは湧き上がる。

 

「ぶっ殺す!!」

 

 自身の異常なまでの身体能力。

運動神経に物を言わせたレオンは砂漠を蹴り上げ一気にその距離を0へと変えていく。

 

 空中で槍を水平に構え直す。

 

 その瞬間敵な爆発力。

 

 迫力のある勢いにサバンが怯む様子は無い。

 迫る脅威に対して、サバンは銃口を下ろしレオンへと笑い掛けていた。

 

「ほぉら釣れた」

 

 砂煙を上げながらサバンはその場で回転する。

 周りに撒かれる黒い弾倉。レオンが丁度飛び込んできていた場。

 瞬間的に後ろへと大きく飛びながらサバンの手に持つ銃剣から黒い光が飛ばされた。

 的確に撃ち抜かれた弾倉は連鎖反応を起こしながら爆発し、それは中央のレオンを巻き込んでいく。

 激しく響く爆発音に、目の前で火柱が上がる。

 

 数秒と続く火柱が消えた後、黒い煙が風で過ぎ去る。

 

「いってぇぇぇーーー!! あーイッテ!! マジイッテ!! 仕舞いにゃケツ毛燃えるわボケ!!」

 煙が過ぎた先に、レオンは当たり前の様にそこにいた。

 多少服に焦げた跡が付いた程度でしか無いレオンにサバンは呆れた様に首を振る。

 

「普通は痛いじゃ済まないんだけどね……一体君の皮膚は何で出来てるわけ?」

 

「うるせーぼけ!毎食きっちり食って快便してりゃー誰でもこうなるわ!」

 

「健康第一で君みたいな化物になったら泣けるよ……もう病気の領域だね君の馬鹿は」

 

「うっせぇってんだろ!」

 苛立つ声を上げるレオンは前へと踏み出すとサバンへと槍を振るう。

 器用に当たらない範囲までバックステップをするサバンは嘲るような笑みを浮かべる。

 

「まぁ普段の高火力が出せないんじゃ、ちょっと丈夫で動きの良いアークスでしかないよ君は」

そう言いながら視線を辺りへと向けるサバンに合わせるように、レオンの視線も動く。

 今も近くでダーカーと戦い敗れていく仲間達。

 舌打ちをしながらも、レオンの表情は曇る。

 

 レオンの圧倒的高火力。

 

 それは調整しようとも辺りを巻き込む広範囲型。

それは「多」に対してかなりのアドバンテージを持つが、周りに味方がいない事が前提でしかない。

 ジョーカーの中でも戦闘特化でありながらも、それは大きな弱点でもあった。

 

 強過ぎる力は、簡単に殺してしまう。

 味方すらも。

 

「ジョーカーと対でやり合うのに準備がないと思ったかい? それこそ愚策だ、確率を上げる方法なんて幾らでもあるさ、君はここで少しづついたぶられて終わるのさ、仲間がどんどん死ぬ中でな」

 

 伏せていたレオンの視線はゆっくりと上がる。そこには諦めの色があるわけでもなく、であればいつものような能天気な目をしている訳では無い。

 冷たい瞳。彼らしない、酷く冷えきった瞳がサバンを見つめていた。

 サバンの背中を冷たいものが走る。

 アークスだった頃の勘が、瞬時にサバンの脳内に激しいアラート音を響かせていた。

 慌ててその場からサバンが飛び上がるのと、レオンが槍を思いっきり地面へ叩きつけるのは同時だった。

 

 ワンテンポ早く飛んだ筈のサバンの体に、荒れ狂う様に砂や石が飛び散る。

 飛び散る小石がサバンの皮膚に食い込む程の勢い。

 

「ば、馬鹿力が!!」

 悪態を付きながら視線は周りへと動く。

消え入る様子の無い砂煙。

 こんな物は唯の目くらましに過ぎない。 狙うは左右からか、背後からか。

 それとも正面か。

 考える必要は無い、先程のようにサバンは回転して見せる。先程と同じように辺りへと撒かれる弾倉。

 見えた瞬間先程と同じように爆発させてやれば良い。

 

 1秒ほどの静けさ。

 

 瞬間、サバンは頭上へと顔を上げた。

 

「上か!!」

 

 黒いフォトンを纏うドス黒い槍が落下していた。

 回転が砂煙を蹴散らしながら、サバンへと一直線。

 一瞬だけ目を疑う。レオンの巨大なフォトンを身に纏ったその槍が落ちれば辺り一帯が消し飛ぶ。

 

 サバンも、ダーカーも、アークスも、全てが消し去られる。

 

 見上げて固まった一秒、サバンは気づかない。

 頭上だけで無く、砂煙を纏いながら現れる男に気づかない。

 思いっきり土を踏み込む音でサバンの視線は前を向く。

 振り被っているレオンの拳。

 唯振り抜くという単純な行動は力任せな分避ける余裕も無く、サバンの顔面を捉えていた。

 

「へぁっぶ!?」

 間抜けな声と共に、顔半分にめり込まれた拳はミシミシと子気味の良い音を立てる。

 顔面の骨を粉砕させ、最大級の力任せを諸に食らったサバンの体は宙へと浮いていた。

 数メートルの滞空時間。

 

 レオンは振りかぶった拳をそのままに遠心力に合わせて体をその場で回転させる。

 丁度真上から落ちる槍をレオンの右手が捕まえていた。

 

 異常なその威力を踏まえた槍を受け止めた右手の皮が捲れる。

 捲れるというよりは抉れるように噴出す血。

 

「いっ!!」

 

 肉が潰れる音も無視して歯を食い縛り、回転を生かしたまま、受け止めた槍を再び放つ。

 

「っでぇぇぇぇぇ!!!」

 吼えながら垂直へ飛ばされる槍は、黒いフォトンを纏い、ロケット発射のような爆発を見せながら宙に浮くサバンの肩へと減り込む。

 

「っが!!!」

 突き刺さる槍はフォトンを爆発させながら威力を増していく。

 サバンの体は引っ張られるように更に空中を飛ぶ。

 数十メートル先でようやく落下し始める槍は、砂漠に降り立つと共に、サバンを中心に爆発する様な黒いフォトンが円上に広がっていた。

絶対攻撃力がその一帯を飲み込む。目で見て取れる異常性。

舌打ちをしながらレオンは血だらけの手を振るう。

ビチャリと飛び散る血を無視してレオンはヨロヨロと視線の先へと向かう。

 

「あー! くっそ! マージ痛ェ!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわお前スゲーな、アレ食らってまだ原型保ってんのかよ」

 右腕を庇いながらレオンは地面に突き刺さったままのサバンを見下ろしていた。

 槍が突き刺さったであろう肩の部分から腹の部分までごっそりと肉が抉れていた。

 血が出る様子は無く、抉れた所から焦げたように黒ずみ、顔の部分は威力で半分が形を崩していた。

 それでも、まだレオンの攻撃力に触れて人型の原型を保てている、それだけでも恐ろしい強化をされているのだと理解していた。

 

「だ、だか、ら、君に、近、づいたって、言った、ろ」

 中身は既に生き物として機能する部分は少ないのだろう。

 異様で異常な威力が槍が触れていなくとも、衝撃だけで人体の全てを破壊していた。

 たどたどしい口調がそれを物語る。

 

 足元のサバンへしゃがみ込むと、レオンは何時もどおりの口調で話し掛ける。

 

「あのなーお前オレに勝てるわきゃねーだろ、何か強くなってンのか知らねーけどよォ」

 

 乾いた笑みを零すサバンの口から、黒い血が漏れる。

 人とは懸け離れたドス黒い色。

 

「ハ、ハハ……さ、流石に、0.1%じゃ、か、か、勝てない、か」

 

「やっぱ自分の事かよ、最低でも30%は確立無いとダメなんじゃねーのかよ」

 

「な、何度も、言わせ、るな、よ、君に、ちか、ちか……近づいたんだ、て、ば」

 

「俺はそんな体の半分削れてねーよ」

 

「き、君がやったんだ、ろ……それより、あ、あんなの、う、受け取れなかったら、どうする気……だったんだ、よ」

 最大威力のフォトンを帯びた槍。

 結果的にレオンが受け止め、その威力を力任せに横へ流していたが、彼自身も傷つく自らの異常な力。

 受け止めそこねれば、その場の全てを消し去っていた可能性すらあった。

 

「しらねーよ。出来たからいーだろ。あーイッテェ」

 そこでサバンはまた頬を緩ませる。

 1か0。確立論では無い男には失敗する世界等見えていなかったのだろう。

 

「……んで、テメェは、何でこんな事したんだよ」

 

「さぁ、ね、気づいた、ら、僕は、もう敵、だった。君と戦う敵、だった……」

 

「そうかよ」

 あっさりと、シンプルにそれだけを言うレオン。

 サバンはまた笑う。力を振り絞ったような声が小さく毀れる。

 

「な、なんだよ、そんな顔、すんなよ、ジョーカー、別に嫌じゃ、無かった。僕は、強くなった、んだ……君と同じ目線が見たかった、肩を並べ、て、見えている世界を、見たかっ、た……何の、事は、無いもんだった、けどね」

 

 共に遊ぶ目の前の男は最強と呼ばれた男。

 片や自身は唯のアークスに過ぎなくて。

 何が違うのだろう。

 まるで生きている世界が違う。

 こんな自分如きが、彼と並んでいる事が。

 

 何処か醜悪で、何故かモヤモヤして。

 

 釣り合わない。

 

 その癖、いつも通りに人の気など知らずに、笑うこの男が嫌いだった。

 

 

 

「……つまんねー景色だろ」

 そこで一度言葉を区切るレオンは、言葉を続ける。

 

「俺は別にテメーが強かろうが弱かろうがジョーカーだろうが、無かろうがよ」

 槍を引き抜き、レオンは笑う。

 いつものように思いっきりの笑顔を向けてやる。

 

「友達だったよ」

 

 目を見開くサバンの瞳は、レオンを見つめていた。

 優しい、金色の瞳。こんな時でも、いつもと変わらない。

 

「は、こ、こんな姿に、化物になった僕に、友達だ、何て……君ほんとに、馬鹿、だ、だよね」

 

「……だったら俺っつー『化物』と一緒に居てくれたテメーも、大馬鹿だよ……バーカ」

 

 

 馬鹿な癖に、馬鹿をして見せる癖に。

 

「あ、ああ……ああ、だ、だか、ら……」

 

 サバンの瞳はゆっくりと細まる。

 

「き、君の事が嫌いなんだ」

 

 風が舞う。

 暑苦しい筈の砂漠の上を、冷たい風が吹く。

 その風に合わせてサバンの体は崩れていた。

 黒い砂のように、煙のようにゆっくりと形を変えて。

 

 ひび割れ始める顔が、口元が、何とか言葉を紡ぐ。

 

「ば、馬鹿な君に、さ、最後にアドバイス、だ。災害のように、偶発的に現れる筈のダーカーが……い、意図的に、現れて、いる。そ、それはつまり、偶発では、無く、操っている誰かが要るって、こ、事だ。」

 

「何を根拠に言ってんだよ」

 

 そこでサバンは残る口元で笑ってみせる。

 いつもの悪戯っぽい笑みだ。

 いつもの通り、いつもの様子で、いつもの口調で彼は言葉を続けた。

 

「確立の、問題だ、よ……」

 

 その言葉と共に彼の顔が崩れ落ちる。

 砂に舞う、その場の砂に混じり、消えていく。

 夥しい血すら残さずに、彼が居た筈の場所は全て消えていた。

 残るのは黒い跡のような部分だけ。

 

 

 その場に落ちる自身の槍を拾い上げその場で突き立てる。

 槍に持たれるようにレオンは、顔を伏せる。

 

「嫌いとか目の前で言うなよ普通に凹むわマジでよぉ~あー! 腹立つわー!!」

 

 いつもそうだ。

 掌で覆う。

 手の中の物を守る為に、強く、強く掌の物を握りしめる。

 そうして壊して、また繰り返して。

 

 大きくため息を付くレオンは直ぐに顔を挙げる

 

「ああ……ちきしょう」

 

 残る黒い跡に目を向ける事も無く踵を返す。

 一点の曇りも無い瞳は、前だけを見つめていた。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

以前のカツ丼シーンを書いてくれました。

【挿絵表示】

あ、男の方です^p^

挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

曲  黒紫  

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