「下がってろカナタ!!」
声を荒げ、高らかに叫ぶと大剣を構えた。
同時に囲むように大量の黒い影が出現する。
どれもがどす黒く、カナタには見た事の無い生物。
いや、似たような物であれば見た事はある。
しかし知っている生物とはサイズが違い過ぎる。
クモの様に見えるそれは、人の胴程の高さはあるだろう。
クモの風体と言うには6本では無く4本の足で立っていた。
4本の足は巨大な爪のように鋭い。
クモ特有の柔らかさは視線からは捕らえられず、どちらかと言えば甲殻類を思わせる鎧のような見た目。
ギラギラと光る赤い目が、二人に向けられていた。
大量のクモ達は気味の悪い声を上げながら爪を地面に突き刺す動作を見せていた。
その黒板を引っかいたような不気味な鳴き声にカナタは思わず耳を塞ぐ。
飛び掛る前準備の様な不気味さが広がる。
見た事の無い化け物が大量に蠢く姿に、カナタはその場で固まり動けないで居た。
救いを求める様に彼女はロランの方へと視線を向ける。
そんなカナタとは違い、ロランの表情は勝気な笑みと、強い瞳の光を見せていた。
彼の周りに青い光が舞っている事に気づいた。
クモが飛び込む。
高い跳躍力はロランに向けて。
鋭い爪を空中で振り上げながらロランに襲い掛かる。
悲鳴を挙げるカナタを他所に、ロランは強く青い光を纏う大剣を振り上げていた。
青い光が瞬間的に強く輝く。
ロランの全力投球の声が張り上げられる。
その巨大な剣を。
全力で縦に。
「オぉぉーーーバぁぁーー‼」
振りぬかれた。
「エーーーンドッ!!」
振りぬいた瞬間に合わせるように青い光が巨大な剣を作り出す。
地面を捲り上げる程の衝撃が一帯に強烈な風を引き起こす。
大量のクモ達は衝撃に合わせ吹き飛ばされて行く、不気味な蜘蛛達は体を粉々の破片へと変えていく。
その場、一帯に居た大量のクモは全て薙ぎ払われ消え去っていた。
黒い破片だけが辺りに飛び散り、徐々に破片は黒い霧へと変わっていく。
風と共に消えて行く。
何も無かったかのように辺りは再び砂煙が舞う。
残ったのは、ロランを中心とした数メートルもの大きなクレーター。
「ふぃー! あんな雑魚共一発よー! ワッハハ‼」
汗を拭い爽やかな笑みを零す。
一瞬の間の後、ロランは慌ててキョロキョロと辺りを見渡しだす。
「……あ」
間抜けな声を零した後、カナタが居ない事に気づく。
「や! やべぇぇぇぇ! 」
力を全力で振ったロランの衝撃に巻き込まれたのか、近くに居たカナタが見当たらない。
慌てて地面を掘ってみるも見つかる筈も無く、ロランの顔からダラダラと嫌な汗が零れる。
「やややややややばいやばい一般人巻き込んだとかルーファにぶっ殺されちまううううう!!」
ガチガチと歯を震わせながら目が泳ぐ。
必死に視線を走らせると、クレーターで出来た砂の壁から足が生えていた。
「…………」
壁から生えている足はスカートまで履いている。
「最近の怪奇現象はシャレオツだな!!」
「良いから助けて下さぁい!!」
「足が喋った!!」
突然の声にビクッとロランは体を揺らす。
足が生えている事よりも、喋った事に驚愕しているロランにカナタは泣きそうな声で言葉を繰り返す。
「は・や・く!!」
「解った解った」
ケラケラと笑いながらカナタの足を持つ。
「……白か」
「何見てんですか変態!! 馬鹿ァ‼」
「ほぶぁっ!?」
カナタが怒りに任せて動かした足は、顔面を見事に捕らえていた。
‐‐‐‐‐‐
「ほんっとーーに!! スマン!」
両手を合わせて平謝りしているロランを、カナタはジトーっと見てしまう。
「まぁ……助けられたのは事実ですから……」
体の砂を落としながらカナタは溜息を零し視線を落とす。
「許してくれるのか!?」
「許すも何も礼を言うのはこちらの方ですし」
「お! そうか! 存分に礼を言っていいぞ!」
ニヤけた表情ですぐに先程の調子に戻るロランにカナタの頬が引きつる。
もうちょっと顔蹴っておけば良かった。
「……それはそうと、さっきの青い光って何なのですか?」
カナタはロランの周りに綺麗な青い光が舞っているのを目にしていた。
青い光で形成された巨大な剣も、辺りに舞っていた粒子のような物も、見た事が無い。
単純な興味。
カナタの世界では見た事も無い物。
「ああ、本当に何も知らねーんだな、あれはフォトンってんだよ、俺達アークスがダーカーと戦う為に必要な力だ」
簡潔に言われた言葉に、カナタはやはり首を傾げてしまう。
理解するにはまだ時間が必要なのかもしれない。
ようし凄いぞ漫画みたいだ! と取り敢えず自分の中で完結しておく。
信じ難い部分も多々あるが、この妙な世界に来ている時点でそんな事も言ってられない。
カナタからすれば、疑う拒否権すら奪われてしまった気分だ。
しかし漫画好きのカナタは取り敢えずポジティブに考える事にする。
「漫画みたいでかっこいいですね!」
「すげーバカみてーな事言ってんなカナタ」
「……短い間柄ですがロランさんにだけは言われたくないってのだけは解ります」
「そうかぁ? ま、良いや。取り合えず移動すっぞ! またダーカー来たらめんどくせぇ」
ダーカー。
先程の不気味な虫のような存在を思い出し、無意識に視線が落ちる。
あんなものが居る世界で、自分が無事でいれるのだろうか。
カナタの心に不安が過ぎる。
「カナタ」
名前を呼ばれ、顔を挙げた。
「安心しろよ俺達アークスが守ってやる」
屈託の無い優しい笑顔。
元気付けてくれようとしている事を理解する。
思わずカナタも自然と笑顔がこぼれる。
「……はい、ありがとうございますロランさん」
最初の印象は不安を感じていた。
今は違う。
力強い自身のある言い方に頼もしさを感じる。
本当に、優しい人なんだって。
「さん、はいらねェって!」
そう言いながら豪快に笑うロランに合わせるようにカナタも笑う。
最初に出会えたのがこの人で良かったかもしれない。
そんな風にさえ思えた。
こんな人に思ってもらえる女性は、きっと凄く素敵な人なんだろうな。何て考えてしまう。
先程ロランが思わず零していた女性の名前。
ルーファ、一体どんな女性なんだろう。
「しっかしやり過ぎたなーコレ、登るのめんどくせぇ」
ロランがグルリと辺りを見渡し自分で作ったクレーター状の壁を見上げていた。
「自分でやったんじゃないですか」
ロランにそう返すも、カナタ自身もその高い壁に少しげんなりとしてしまう。
5メートル程のクレーターは決して大きすぎるわけでは無い。
それもこの熱い中、嬉々として登ろうとは思わない。
カナタは慌てて首を振る。
先程元気付けられたばかりだ、気合入れないと。
「頑張りましょう! その女性も早く見つけてあげないとですからね!」
自分にも言い聞かせるようにしながらも、後ろでだらけているロランの方を向く。
「は」
思わず声が出た。
続いて間抜けな声が続く。
「え?」
目に映ったそれが理解出来ない。
ロランの胸の部分に、空洞のような細長い歪な穴が出来ていた。
そんな物は先程まで無かった。
空洞からは赤い液体が滴り、ロランの口からも漏れるように赤い物が零れている。
「…………は……ァ………は?」
ロランの口から漏れ出た言葉は疑問符のような物。
共に漏れ出るのは赤い液体。
それはロランすら状況を理解していないでいた。
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
「小説を毎日三本更新してるよ! ツイッター上では挿絵担当がラフで色々と上げてくれているよ!」
http://mypage.syosetu.com/3821/
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
「お腹が空いた(物理)ロラン君」
曲 黒紫 @kuroyukari0412
「ヤーレンローランローランほいっほいっ!!」
http://www.nicovideo.jp/mylist/35049795