女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 現在データでの参照。

 屑木 星空 (くずき かなた)。


 17歳。

 見た目、構造は人間の姿である事を確認。

 多少のフォトン反応を感じる事からアークスの可能性が大きい。

 それ以外に、何も無い。
 これといった未知も謎も無い。

 唯の、女の子。

 そんなわけが無い。

 ダーカーしかいないこの星に、突如現れた少女。
 自身を別の世界から来たと言う少女。

 何も無い筈が無い。

 頭を抱え机で突っ伏しているラックルにレターが呆れた声を向ける。

「そんなにデータ見た所で数値なんて変わらないわよ」

 突っ伏したままのラックルは、視線だけジロリと上げる。
 恨みがましい視線に、レターはまた溜息を溢す。

「全く……どんだけカナタちゃんに固執してるのよ」

「逆に何で気にならないの!? あれ程の謎を前にして、あれ程の不可思議を前にして、あれ程の未知を前にして、何故冷静でいられる!?」

「だって普通に女の子なのだもの……この星には何人もアークスが送り込まれて行方不明になっているのだから……そのうちの一人が記憶障害を起こしているだけだと思うけど……」

「バカ! 姉ちゃんはバカ!! 何かあるに決まってるだろう! 絶対に何かあるんだ……絶対に何かあるんだ……」

 苛立ったように爪を噛みながらブツブツと独り言を続けるラックルにはもう姉の姿すら映っていない。
 若い年齢ながらも、研究員として選ばれる程の実力は十分に持っていた。
 ただ、その執拗な執着心はラックル自身の身を滅ぼして来たのを、姉であるレターは良く見ていた。

「……解剖さえ出来れば、解剖さえ出来れば」
 不気味な言葉を繰り返す弟に少し声色の強い声を向ける。

「私達はもうヴォイドじゃないのよ。あの人は、もういないの。解剖なんて事もう言わないで……」


 俯く姉の姿などラックルには興味の対象にはならない。
 ただ、ブツブツと続ける独り言だけが響く。

 そんなラックルは突然顔を上げる。

 それは突然の部屋に響いた警報音に反応したからだ。

「これだ……」

 ぼそりと続ける声は、再度確認するように続けられる。


「これだ!!」
 今度は大声で。
 爛々と不気味に目が輝く。

 響く警報音は止まらない。


《緊急事態発生 緊急事態発生。近くに仮面β(ペルソナβ)を確認。

   無闇に近づかず編成を確認後撃退する。繰り返す無闇に近づく事を禁止する。》


Act.46 仮面(ペルソナ)β

 

 

《緊急事態発生 緊急事態発生。近くに仮面β(ペルソナβ)を確認。

          無闇に近づかず編成を確認後撃退する。繰り返す無闇に近づく事を禁止する。》

 

 広いドーム状、最早カナタとルーファしかいないその空間でも警報音は響いていた。

 

「ペルソナ?」

 

 その場で首をかしげるカナタ。

 

「ああ、貴方はまだ見たことなかったですね。ペルソナってのはダークファルスの1人のことですよ」

 

 簡単に言ってしまうルーファにカナタは表情を強張らせる。

 

「え、ええ!? それって確か敵の親玉なんじゃないんですか!? だ、大丈夫なんですか!?」

 

「βって言ってたでしょう? あれはこの星で発見された新種ですよ。まだ見つけたばかりですからね、見た目が似てるからそう読んでるだけです」

 

「ええと、じゃあその親玉さん並では無いって事ですか?」

 

 カナタの言葉にルーファは「うーん……」と少し考える素振りを見せる。

 

「まぁアイツ等程じゃないのは確かですけど、そのβ、ちょっと能力が変わっているんですよ……最初に対峙した相手の姿になるんです」

 

「……そっくりさんになっちゃうんですか?」

 

「それで終われば苦労はしないんですけどねぇ……その対峙した物の能力、戦い方までコピーするんですよ。流石に劣化版ですけどねー」

 

 成程、とカナタはそこで理解する。

 そんな王道な敵キャラクターは良く漫画で見たことがあるぞ! という謎の理解をして見せる。

 

「それで近づくなって警告が出されてるわけですね! 新しい能力の目覚めによって倒せるみたいな!」

 

「……? 貴方が何を言っているのかサッパリ解りませんが、最初にアレを見つけた時は大変だったんですよ? 知らずに近づいたレオンの馬鹿のお陰で大惨事でしたよ」

 

 思い浮かべる。

『アルバトロス(一人大隊)』『絶対攻撃力』

 壮大な異名を持つ彼、勿論その戦闘力もカナタは目にしている。

 幾ら劣化したと言っても、あの攻撃力がこちらに向かっていたと考えるだけで身震いしてしまう。

 良く無事だった物だと呆れてしまう。

 

「……良いストレス解消になりましたけどね」

 

 そう言いながらニヤリ、と珍しく小さくだが、不敵な笑みを浮かべるルーファを見て、うわぁ、とカナタの頬が引き攣る。

 口で言っているが大変だったと嘆いている顔には見えない。

 

「ま、こんなふうに突然現れるわけですが、特にジョーカーは相対する事を禁止されています。私は私と戦ってみたいんですけどねー」

 良くそんな事を簡単に言える物だと思いながら、ふと気になった事を聞いてみることにする。

 

「あれ? だったら近づけないですよね? どうやって倒すんですか?」

 

 素直な疑問に、ルーファが口を開こうとした時、突然訓練場の大きなドアが音を立てて開く。

 肩を揺らし、振り返るカナタの視線の先。

 そこにラックルが居た。

 走ってきたのだろうか、洗い呼吸と血走った瞳がカナタを食い入るように見つめ、不気味に笑みを広げていた。

 その異様さにカナタは思わず数歩後ろへ下がってしまう。

 そんなカナタの様子も顧みずにラックルはずかずかと距離を詰めてくると、その輝く瞳でカナタに詰め寄り。

 

「ま、待ってたんだこの時を! い、一緒に来てくれ!!」

 

「…………………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

「イーヤーデースー!!!」

 必死に抵抗して見せるカナタは両足に全力で力を込めていた。

 しかしその努力は無駄だと言うようにルーファが引っ張る片手にあっさりとひきずられ砂煙をあげていた。

 

「まだ言ってンですか? どっちにしてもぶっ殺さなきゃ行けないんですから弱いのが役に立っていいじゃないですか」

 

「自分とそっくりなのが実験に使われるとか殺されるとか嫌に決まってるじゃないですか!!!」

 

 

 つまる所。

 その仮面(ペルソナ)βなる物の倒し方は、一度コピーしてしまえば姿が変わる事はないので、一番弱い人物をコピーさせて後は倒してしまえばいい、という事らしい。

 そしてシップで今一番弱いと思われるカナタをラッセルが上で押し、あわよくばカナタの存在への研究の為に使いたいとか。

 

 何故話が通った!!

 

 最初に話を聞いた時でも否定の声を上げ続けたが完全に無視される始末。

 それでも食い下がるカナタは上(ユラ)に通話を繋げ直談判。

 

『安心しろ、外に出る事になるがルーファがいれば安全だ。よっぽどの事が無ければ彼女が負けるような事は無い』

 

「そういう事じゃ無くてですね!!」

 必死に捲し立てるも完全に聞くつもりが無いらしくアッサリと話は可決されそれでも嫌がるカナタを無理矢理引きづるルーファ。

 それが現在の状況。

 

 

「だ、大丈夫だってば! 君じゃなくてペルソナβを解剖するだけだから! 君には何の損害も無いから!」

 何を嬉しそうに言ってるのだろうこのメガネは。という気持ちいっぱいにひきずられながらカナタはラックルを睨む。

 

「そういう問題じゃないんですよ!! とにかく嫌なんです!! 私は早くファランちゃんの所に行きたいの!! イーーーーーーーヤーーーー!!!」

 

 

「はいはい、もう目の前ですから、いい加減に腹決めなさい甘ちゃん馬鹿」

 

「へ?」

 

 思わず顔を上げた。

 目の前に広がるは広大な砂漠。

 いつ以来かの茶色に近い金色の世界。

 そこにいる一人。

 たった一人の人の形をしている者が存在していた。

 身長は高いわけでも低いわけでもない。

 体は太いわけでも細いわけでもない。

 黒一色の服に、顔には仰々しい覆面のような物が被っていた。

 

 一瞬呆けるカナタは、背を押され思わず数歩前に出る。

 

「これ以上近づいたら私がコピーされちゃいますからね、後は見た目変わったら後ろ下がりゃ私が殺ります」

 

「ぼ、僕はもっと離れておくから」

 

 後ろの二人の言葉を聴きながらも、カナタは身動きが取れないでいた。

 この人にしか見えない存在が化け物であると、ダーカーという存在だと言うのだろうか。

 

 何故かは解らない。

 

 カナタは食い入る様に、『彼女』を見ていた。

 

 吹いたのは風。

 心の底が震える程の紫色の風が吹いていた。

 それは『彼女』を中心に螺旋を描き、風が吹いた後。

 

 そこに仰々しい被り物は無くなっていた。

 

 黒く長い髪。 澄んだ瞳。

 左右に小さく結んでいる髪は無くとも、目の前の存在に一瞬鏡を前にしているような錯覚に陥る。

 

 見つめる。

 

 自分を見つめる。

 

 相手も、鏡もカナタを見つめる。

 

 冷たい瞳がカナタを見つめる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ほ、本当に私、みたい……でも、私こんなに冷たい目かなぁ」

 等と苦笑してしまうカナタとは違い、仮面(ペルソナ)βは一切微動だにしない。

 その不気味な様子にカナタは思わず視線を後ろへと向ける。

 

「もう! これで好いんですか!! 私帰って良いですか!!」

 あきれ気味、それと少し怒り気味の声を発するカナタの目に最初に映ったのは、手をさし伸ばすルーファの姿だった。

 突然の、目の前に現れた彼女にカナタの思考回路は固まる。

 ルーファの目は大きく見開かれ、険しい表情のままカナタに向けて思いっきり飛び込んでいる形なのだと頭の端で理解する。

 

「伏せなさい!!」

 飛び込んたルーファの両手がカナタを抱きしめるように捕まえると、そのまま砂漠の砂の中へとダイブして行く。

 倒れて行くカナタの目にルーファの後ろの光景が見えていた。

 

 自分が居た場所に、巨大な斬激が通過している所であった。

 目に入りきらない程の巨大な紫。

 衝撃で強烈な風が回りの砂すらも吹き飛ばす。

 地面にルーファ毎倒れて2度3度地面を跳ねていた。

 痛みで思わずうめき声が漏れる。

 それでも慌てて上半身を起き上がらせる。

 どこまでも続く巨大な亀裂が目の前に存在していた。

 思わず亀裂を目で追ってしまう。

 その先に、亀裂を挟むように立っているラッセルが目に映った。

 間抜けに口を空けていたラッセルの体が、その亀裂に合わせるように『ずるり』と体の軸がずれる。

 一つだったラッセルの体は二つになり、左右へぼとりと倒れる。

 砂煙を上げて倒れる。

 血しぶきを上げて倒れる。

 重たいものが落ちる音を二つさせて倒れる。

 

 

 

 楽しかった時間が終わる音をさせて倒れる。

 

 

 

 

「え、え、え、え? ラ、ラ、ラ、ラッセ、ル……さ、ん?」

 

 震える声を零すカナタの耳元にルーファが囁く。

 

「…………走りなさい、絶対に振り向いてはダメ。亀裂側に向けて、走りなさい」

 鋭い声。

 いつもと様子が違う事を直ぐに理解する。

 

「で、も、ラッセルさん、が……」

 

「…………言い直しましょう。今あなたが居たら邪魔です。巻き込まれたくなかったら逃げなさい、防衛本能に従い逃げなさい。その命がまだ必要なら逃げなさい。貴方が死ねば悲しむ人がいるなら……逃げなさい!」

 弾かれたようにカナタは立ち上がっていた。

 振り向く躊躇を一瞬見せるも、直ぐに亀裂へ向けて走り出す。

 人としての姿を無くしたラッセルの方を見ないように必死に視線を前へ向けて。

 

 戦いという概念から遠い筈のカナタでも解った。

 

 背中に感じる異常に冷たい冷気のようなもの。

 心の芯まで凍える様な、吐き気を催すような物。

 

 カナタはそれを知っていた。

 

 この世界に来る前。

 

 飲み込まれた時に感じた、死の感触。

 

 

 

 ■

 

 

 

 離れていく少女を視線が見送る。

 彼女が遠くに見えるシップの方に走っているのを確認する。

 今は大きな煙を上げ、目の前の誰かと同じように、亀裂に従い真っ二つになったシップ。

 自身の住まう船を破壊されたにも関わらずルーファの表情は変わらない。

 脳は冷静に処理をする。

 それは『絶対攻撃力』を彷彿する程の威力。

 

 ルーファは振り返る。

 

 視線の先に居るのはカナタの顔をした仮面(ペルソナ)β。

 しかし先程と違うのは、ひきずるように片手に持つ巨大な大剣。

 濃い紫一色。剣というには酷く乱雑な歪曲をした大剣。

 

「あのクソ馬鹿偽善者雑魚女のコピーで? なんで、そうなるわけですか?」

 

 仮面(ペルソナ)βはカナタの顔のまま、無表情に大剣を振り上げる。

 体のサイズを有に超える不釣合いな大剣は、ルーファの方に向けられていた。

 

 その巨大な大剣をルーファは良く知っていた。

 

 

 禍王 ファルス・ヒューナル。

 

 ダークファルスが一人。

 

 アークスを震撼させた化け物。

 

 絶望の脅威が使っていた伝説の大剣。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

曲  黒紫            @kuroyukari0412

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