女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.32 『エスパーダ』

『りーちゃん、あーちゃん、大きいの来るよぅ』

 二人のインカムから聞こえる声に表情が変わる。

 

 リースがギュッとアリスを抱きしめる。

 同時に二人の姿が瞬く光と共に姿を消す。

 彼女達が消えた先に悍ましい黒い殺意の斬撃が通り過ぎていく。

 

 先程の場所よりも離れた部分に現れる二人へとレオンの視線は再び移動する。

 腕の中のアリスに視線を向ける。 

 

「アリス! 行くわよ!!」

 言葉と共に、腕の中のアリスは笑顔のまま親指を立てて見せる。

 そのまま光の粒子へと姿を変えるアリスの姿は巨大なハサミと共に消える。

 その粒子を見送った後、空中でリースはくるりと回転する。周りに光が舞う。

 

 光はリースの手元へ、白い光がそれを実態へと変える。

 

 弓。

 

 それは白く、光輝く弓。

 

 弦を引くと共に現れるのは、同じく輝く白い矢。

 

 金色の髪が舞う姿は見る人が見れば美しくも感じる瞬間。

 

 しなやかな指が離される。

 

 弧を描く純白の光が、瞬間的に拡散していた。

 レオンの体へと容赦なく大量の光が降り注ぐ。

 爆発のように捲り上がる砂煙。

 降り注ぐ矢は止まらない。

 

 着地と共にリースは片足を軸に回転する。

 空気に乗る砂がリースの頬を撫でる。

 

 砂煙が晴れる様子は無い。

 そして、彼女の動きもまだ止まっていなかった。

 

 ゆっくりと掲げる輝く弓は、一直線に砂煙に向けて。

 

 ふわりと、彼女の体が浮く。

 先程よりも多くの光が彼女が引く光の矢へと集約されていく。

 空気が揺れる。

 

 先程よりを中心に一瞬に円が集約する。

 合わせるように放たれた矢は、直線状の光線。

 きぃん、という金属音。

 その音を合図に、光の集約が止まる。

 放たれた光は地面を抉。

 

 砂煙を晴らす程の光の塊は、レーザービームのように中心へと穿(うが)たれる。

 

『ラストネメシス』

 

 高威力を発するアークスが持つ弓の最大攻撃力。

 

 光を放った彼女は荒い呼吸を繰り返す。

 攻撃力に相対するフォトンを体の芯から持っていかれていた。

 大型のダーカー殲滅に使われる必殺。

 一介のアークスが当たればひとたまりも無いだろう。

 それはレオンへと向ける本気の殺意。

 

 リースはぎゅっと唇を結ぶ。

 

 その意味は目前の現状から。

 

 光線は砂煙を貫く事は無かった。

 

 砂煙の中心。

 晴れた中心。

 腕を掲げるレオンの姿が見えていた。

 確かにその集約された光は直撃していた。

 白い煙を上げるレオンの掌が、あっさりと受け止めていた。

 

 リースが放つ最大の威力。

 

 アークス随一の超攻撃を放つレオンには届かない。

 

 一歩、後ろへ退くリースに合わせるように、レオンが一歩前へ踏み出す。

 リースが向けたものと同じ、レオンから向けられる明確な殺意。

 

 レオンの目にはリースという敵しか映っていない。

 

 その景色が遮られる。

 

 レオンの目に映るのは鉄、巨大なハサミ。

 

 一瞬固まるレオンを前にハサミの前にストンっと着地するアリス。

 にっこりと笑顔を向けるアリスの目は赤い。

 

 鮮血に、深紅に、茜色に、警戒色に。

 

 その色に、その瞳をレオンは思わず見入る。

 食い入るように、まるで目が離せないと言うように。

 

 殺意のみで動くレオンの瞳が飲まれていく。

 

「黒れおちゃーん! 見てぇ! じーっと! じーっと!」

 

 二つの赤い目が不気味に光る。

 呆然と見ていたレオンの体から力が抜けていく。

 だらん、と手が落ちる。

 手から黒い槍が離れていく。

 

 

「あらいんとらんす(夢に夢見し心地して)」

 

 アリスの歌ような声がレオンの芯に響く。

 舞う粒子と共に、だらんっ、としているレオンの前にリースが姿を現していた。

 呼吸は荒いまま、虚ろなレオンの頬へ、リースの手は伸びる。

 

 そっと触れるリースの手は、冷たい感触を感じる。

 

 苦しそうに、レオンの表情が歪んでいた。

 

 アリスが見せている別の世界。

 苦しく、おぞましい世界を見せるアリスの力。

 目を合わせるという条件で、幻覚を見せる。

 最も辛い過去すらも、呼び起こす。

 

  

「レオン……」

 思わず零す声と共にレオンの体が粒子へと変わっていく。

 リースの転移の力が、彼の姿を消し去っていく。

 

 そこにはまるで何も無かったかのように砂漠だけが広がる。

 リースと、アリスの二人だけ。

 

「うえぇ……お口に砂入ったー!」

 無邪気な様子のアリスに、リースは額から冷や汗を流しながら何とか笑いかける。

 同じく不可思議なその能力の連続は、リースの体力を大きく奪うものだった。

 その場にリースはへたり込む。

 

「りーちゃんー大丈夫ー?」

 除きこアリスに笑いかけながら大きく息を吐く。

 

「うん、上手く行って良かった……」

 微かにリースの手は震えていた。

 ジョーカーとの戦闘。

 エスパーダとしての役目なのは解っているが。

 一般のアークスとは比べ物にならない程の力を有する彼らを前にして生きているという事に毎回違和感を感じる。

 そして、殺意を向けてきていたレオン。

 方が無いのかもしれないが、少しだけリースの心が痛んでいた。

 

「レオンちゃんに私攻撃当てたよー! クフフフフ!! お姉さま褒めてくれるかなー? ナデナデしてくれるかなー!」

 白い大きな二つの髪を大きく揺らしながらぴょんぴょんと跳ねている姿にリースは苦笑する。

 小さく凹んでいる自分が馬鹿みたいだと、言うように。

 時々、彼女達が羨ましく感じてしまう。

 

 

 

 

 よろよろと体をふら付かせているレオンは黒い姿をそのままに荒い呼吸を繰り返す。

 

 レオンが居る場所。

 そには照りつく太陽も、砂漠も消えていた。

 周りは四方を鉄に囲ませた暗がり。

 暗がりの中、電子的な光だけが辺りを照らす。

 

 ふらふらと揺れるレオンの視線がぶれながらもゆっくりと視界が取り戻されていく。

 目に映ったのは、そんな大きな電子の前に可愛らしく座る少女。

 ピクリと頭の上の獣のような耳が動くと、少女は振り返る。

 ニッコリと、その金色の髪に似合う満面の笑みを、最強へと向ける。

 

 サーシャは、ぴょんっと飛び上がるように立ち上がると、とてとてとふらつくレオンへと歩を進める。

 

 小さな体を大きく見せるようにサーシャは両手を広げる。

 

 恐怖すら感じる事も無くサーシャは楽しそうに笑っていた。

 

「お疲れ様ぁー!」

 

 可愛い声が壁の中に響く。

 合わせるように、部屋に白い光が眩いていた。

 その光はサーシャを中心に数秒続く、ゆっくりと薄らぐ光の中、サーシャは笑顔を浮かべ、目の前の大男を見下ろす。

 黒い影の姿から、いつもの褐色の肌へと戻っていた。

 

 彼女もまた、特異な能力を手にしていた。

 多くのものを無くし、それを代償として。

 

 それでも少女は笑う事を止めない。

 自分が幸せである事を自負していた。

 

 たった一つの、異例の能力だけを手にして。

 

『エスパーダ』

 

 欠落品と呼ばれたアークス。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

「後からの追加にて二人の戦闘時の姿です」(※9/27日更新)


【挿絵表示】

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挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫            @kuroyukari0412

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