女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.26 「……解ってんだよ」

 ホルンは何となしに空を仰いでいた。

 熱く輝く太陽に眼を細める。

 

「あいつ等何処行ったんだ?」

 

 巨大な敵は確認した。

 しかし、行方の知れない三人の姿は何処にも見えない。

 

「……?」

 見上げる空が歪んだ。冷たい風が舞う。

 

 疑問が過ぎるものの、ホルンは驚く様子も見せずに数歩後ろへと下がった。

 素早く臨戦態勢へと切り替える。

 

「レオン……何か来ンぞ」

 ホルンの鋭い言葉がレオンに飛ぶ。

 空気が揺れていた。揺れると言うより、大きく空間が歪んでいく。

 ホルンとレオンの目の前に広がる砂漠は、姿を変えていく。

 ゆらゆらと揺れる歪みから、徐々に茶色から濃い緑色へ。

 

 そこには、大きな森林が広がっていた。

 

「おいおいおい何だこりゃ気持ち悪ィ」

 目の前に突然現れた森林に、レオンは構えを解かずに眼を細める。

 視界に収まらない程の巨大な森。

 

 周囲を確認するレーダーに変わる様子はない。

 目の前に浮く端末を見つめながらホルンは眉をしかめる。

 森の木陰から見える黒い物体達が蠢いているのが見えていた。その数は一匹二匹では収まらない。

 武器を構えながら、目前の蠢く虫達に警戒を向けていた。

 睨む視線の先、ホルンは妙な物に気づく。

 太陽の光で、煌く壁のような物が見えていた。

 その透明の何かに向けて、恐る恐る伸ばした腕は、見えない壁に触れていた。

拒絶するようなその壁を、軽く叩く。

小さな波紋のような物が広がるも、それ以上の反応を見せない。

 また二歩程後ろへ下がる。

 

「レオンいけるか?」

 ホルンの一声と共にレオンは「あいよっ」と、簡単に答え赤黒い槍を下から上へと勢い良く振った。

 森に向けて、先程よりかは小さな斬激が飛ぶ。全てを両断する攻撃力は、森に当たる手前で白い壁に当たると、壁に大きな波紋を広げるだけで斬激は消え去っていた。

 

「……あぁ? んだそりゃ?」

 

 レオンは小さく舌打ちをする。

 

「舐めやがって」

 気に食わなかったのか、レオンの表情が険しい物へと変わる。

 青色を基本とするフォトンはレオンの周りで舞う。

 そして、手に持つ槍に合わせるように赤黒い色へと変わり始めて行った。

 隣に立つホルンは、レオンが展開したフォトンで巻上がる巨大な風に、揺れるマフラーを片手で抑える。

 

「おい止めとけバカ、森ごとぶっ壊す気か」

 

「解ってんよ、ちゃんと調整するって!」

 再び下から上へと振り上げる斬激。

 今度は白い衝撃波ではなく、より大きな赤黒い斬激。

 

 先ほどの数倍以上の威力を圧縮したそれは、透明な壁に当たると先程よりも大きく揺れた。

 その揺れは長く続くと、ピシリという音ともに空間に小さな割れ目が見えていた。

 しかし、その割れ目は直ぐに再生されるように消えて行く。

 

「ダメだな……こりゃ物理じゃ開かねーか」

 

「いやまて! 全力全開で!!!」

 

「何と戦ってんだよ! 俺毎殺す気……」

 ホルンの言葉は最後まで言い切る前に止まる。

 レオンに向けていた視線、その視線の端に、妙な物を見つけていた。

 その先、森林に目を向ける。森の中に、透明な壁を挟む先に、人が居た。

 その姿は見間違える事はない。

 血だらけで赤く染まっているが、それでもホルンは見間違えない。

 

「シルカ……!?」

 行方不明になっていた一人。体を鮮血で染めていたが、フラフラと倒れないようにバランスを取っている姿。

 

「シルカ!! 聞こえるか!? シルカ!!!」

 白い壁を叩き必死に声を掛けるホルンに対し、シルカは反応を見せない。

 後ろに下がると、辺りにホルンのフォトンが舞う。

 

「レオン退いてろ! 」

 

 ホルンの背中が黄色く光り出す。

 その光は服を透かせるほどに強く光り、背中を埋め尽くす禍々しい刺青が露見されていた。

 黄色い光に合わせるように青いフォトンが黄色へと変わっていく。

 

「この壁!!!ぶち壊す!!」

 

 吠えるホルンに応えるように、黄色い光がホルンの体を覆っていく。

「限界突(リミットブ)……」

 

叫び声を上げようとした瞬間に、ホルンの小さな体が持ち上がっていた。

レオンが服を掴み無理矢理に肩に担いでいた。

 

「だ!? てめェ!!!」

 

「はいはいー!そーこーまーでよー♪」

 歌うようにそう言うレオンは森林に背を向け歩き出す。

 輝いていた金色のフォトンは消えていた。

 

「ちょ……! てめ! なにしてんだ! 離せコラ!!」

 ジタバタとホルンは暴れるも、小さな体では意味をなせず動けないで居た。

 

「テメェ! 目の前に血だらけの仲間が居るのに助けねえつもりかよ!!!」

 

ホルンの怒りの声に、今度はレオンがため息をこぼしていた。

 

「師匠ー……顔が半分しか無いのに立ってる人間を生きてるなんて言わねーよぉ」

 シルカと呼ばれた女性。

 女性らしい少し低めの身長も、誰かの真似をしたような純白の髪も、肩までの優しいウェーブも。

 全てが彼女の姿だ。

 

 しかし、彼女を確定させる顔の半分がそこには無かった。

 だらんと上を向いて残った瞳の色は、淀んでいた。

 

「……解ってんだよ」

 ホルンはそう零す。

 小さく言葉を続ける。

「解ってるけどよ……」

 ホルンは口をつぐんだ。

 レオンも、それ以上何も言わない。

 誰よりも悪態をつく彼が、誰よりも教え子達を大切にしているのを知っていたからだ。

 

 担がれたまま、ホルンは顔を上げる。

 首の半分しかないシルカと思われる人間がゆっくりと離れていく。

 首から漏れる血で体を汚し、シルカの体は遠ざかるホルン達に向けられたまま。

 片方しかない瞳な筈なのに、ホルンには何かを訴えられているような、そんな視線を感じていた……。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/



挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫            @kuroyukari0412

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