ホルンは何となしに空を仰いでいた。
熱く輝く太陽に眼を細める。
「あいつ等何処行ったんだ?」
巨大な敵は確認した。
しかし、行方の知れない三人の姿は何処にも見えない。
「……?」
見上げる空が歪んだ。冷たい風が舞う。
疑問が過ぎるものの、ホルンは驚く様子も見せずに数歩後ろへと下がった。
素早く臨戦態勢へと切り替える。
「レオン……何か来ンぞ」
ホルンの鋭い言葉がレオンに飛ぶ。
空気が揺れていた。揺れると言うより、大きく空間が歪んでいく。
ホルンとレオンの目の前に広がる砂漠は、姿を変えていく。
ゆらゆらと揺れる歪みから、徐々に茶色から濃い緑色へ。
そこには、大きな森林が広がっていた。
「おいおいおい何だこりゃ気持ち悪ィ」
目の前に突然現れた森林に、レオンは構えを解かずに眼を細める。
視界に収まらない程の巨大な森。
周囲を確認するレーダーに変わる様子はない。
目の前に浮く端末を見つめながらホルンは眉をしかめる。
森の木陰から見える黒い物体達が蠢いているのが見えていた。その数は一匹二匹では収まらない。
武器を構えながら、目前の蠢く虫達に警戒を向けていた。
睨む視線の先、ホルンは妙な物に気づく。
太陽の光で、煌く壁のような物が見えていた。
その透明の何かに向けて、恐る恐る伸ばした腕は、見えない壁に触れていた。
拒絶するようなその壁を、軽く叩く。
小さな波紋のような物が広がるも、それ以上の反応を見せない。
また二歩程後ろへ下がる。
「レオンいけるか?」
ホルンの一声と共にレオンは「あいよっ」と、簡単に答え赤黒い槍を下から上へと勢い良く振った。
森に向けて、先程よりかは小さな斬激が飛ぶ。全てを両断する攻撃力は、森に当たる手前で白い壁に当たると、壁に大きな波紋を広げるだけで斬激は消え去っていた。
「……あぁ? んだそりゃ?」
レオンは小さく舌打ちをする。
「舐めやがって」
気に食わなかったのか、レオンの表情が険しい物へと変わる。
青色を基本とするフォトンはレオンの周りで舞う。
そして、手に持つ槍に合わせるように赤黒い色へと変わり始めて行った。
隣に立つホルンは、レオンが展開したフォトンで巻上がる巨大な風に、揺れるマフラーを片手で抑える。
「おい止めとけバカ、森ごとぶっ壊す気か」
「解ってんよ、ちゃんと調整するって!」
再び下から上へと振り上げる斬激。
今度は白い衝撃波ではなく、より大きな赤黒い斬激。
先ほどの数倍以上の威力を圧縮したそれは、透明な壁に当たると先程よりも大きく揺れた。
その揺れは長く続くと、ピシリという音ともに空間に小さな割れ目が見えていた。
しかし、その割れ目は直ぐに再生されるように消えて行く。
「ダメだな……こりゃ物理じゃ開かねーか」
「いやまて! 全力全開で!!!」
「何と戦ってんだよ! 俺毎殺す気……」
ホルンの言葉は最後まで言い切る前に止まる。
レオンに向けていた視線、その視線の端に、妙な物を見つけていた。
その先、森林に目を向ける。森の中に、透明な壁を挟む先に、人が居た。
その姿は見間違える事はない。
血だらけで赤く染まっているが、それでもホルンは見間違えない。
「シルカ……!?」
行方不明になっていた一人。体を鮮血で染めていたが、フラフラと倒れないようにバランスを取っている姿。
「シルカ!! 聞こえるか!? シルカ!!!」
白い壁を叩き必死に声を掛けるホルンに対し、シルカは反応を見せない。
後ろに下がると、辺りにホルンのフォトンが舞う。
「レオン退いてろ! 」
ホルンの背中が黄色く光り出す。
その光は服を透かせるほどに強く光り、背中を埋め尽くす禍々しい刺青が露見されていた。
黄色い光に合わせるように青いフォトンが黄色へと変わっていく。
「この壁!!!ぶち壊す!!」
吠えるホルンに応えるように、黄色い光がホルンの体を覆っていく。
「限界突(リミットブ)……」
叫び声を上げようとした瞬間に、ホルンの小さな体が持ち上がっていた。
レオンが服を掴み無理矢理に肩に担いでいた。
「だ!? てめェ!!!」
「はいはいー!そーこーまーでよー♪」
歌うようにそう言うレオンは森林に背を向け歩き出す。
輝いていた金色のフォトンは消えていた。
「ちょ……! てめ! なにしてんだ! 離せコラ!!」
ジタバタとホルンは暴れるも、小さな体では意味をなせず動けないで居た。
「テメェ! 目の前に血だらけの仲間が居るのに助けねえつもりかよ!!!」
ホルンの怒りの声に、今度はレオンがため息をこぼしていた。
「師匠ー……顔が半分しか無いのに立ってる人間を生きてるなんて言わねーよぉ」
シルカと呼ばれた女性。
女性らしい少し低めの身長も、誰かの真似をしたような純白の髪も、肩までの優しいウェーブも。
全てが彼女の姿だ。
しかし、彼女を確定させる顔の半分がそこには無かった。
だらんと上を向いて残った瞳の色は、淀んでいた。
「……解ってんだよ」
ホルンはそう零す。
小さく言葉を続ける。
「解ってるけどよ……」
ホルンは口をつぐんだ。
レオンも、それ以上何も言わない。
誰よりも悪態をつく彼が、誰よりも教え子達を大切にしているのを知っていたからだ。
担がれたまま、ホルンは顔を上げる。
首の半分しかないシルカと思われる人間がゆっくりと離れていく。
首から漏れる血で体を汚し、シルカの体は遠ざかるホルン達に向けられたまま。
片方しかない瞳な筈なのに、ホルンには何かを訴えられているような、そんな視線を感じていた……。
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412