乾燥した空気、照りつく光が射す中、砂の上を二つの影が進む。
一人は150足らずの少年。
炎天下の中、黒のコートに同じように真っ黒なマフラー。
にも関わらず少年は涼しい顔で黙々と歩いていた。
「あっぢぃ……あぢぃ……あぢぃぃーー……」
その後ろを大きな身体の男が呻き声を上げながら続く。
少年と違い、男、レオンは上半身は黒いアンダーウェア一枚を残し完全に脱ぎ捨てていた。
脱皮のように脱いだ服が腰から垂れる。
「ちょ、師匠ー……しーしょーおー! どっかで休もうぜー! いい加減焼け死ぬってなぁー!」
レオンの言葉に師匠と呼ばれた少年は振り向く。
「グダグダうっせーよ!暑い暑い言ってたらこっちまで気が滅入るわボケ!!!」
少年、ホルンは青筋を立てながらレオンに怒りの声を向けていた。
「んな格好してる奴に言われたくねーよ!」
「テメーみてえにギャーギャー言ってねえから熱くねえんだよ!ちったぁ黙って進めタコ!!!」
「え、まじかよ黙ってたら熱くないのかよ」
素直に驚いた表情を見せるレオンに、ホルンはふんっ!と強く鼻を鳴らすと再び前を向いた。
再び炎天下の中を二人は黙々と進む。
そして数秒後。
「やっぱあちぃって師匠!」
「うるせぇぇぇ!!! 黙って歩けカス!! 」
下らないやり取りは砂漠の中心で続く。
言い合いを続けていると、二人の耳に付けているインカムから突然通信が繋がる。
『楽しそうにやってくれているようで何よりだ』
聞こえる大人びた声に、ホルンはげんなりとした様子で答える。
「お陰様で気分も最高だクソが」
インカムの先から豪快な笑い声が聞こえる。
『フッハハ! 喧嘩するほど仲違いと言うでは無いか!』
「それだと順調に距離離れてんじゃねーか……」
『む? 喧嘩するほどナカムラだったか?』
「誰だよ!」
『まぁ良いさ。3名の行方不明者の反応が無くなったのはその辺りだ』
数日前。
探索に向かった3名のアークスは帰ってきていない。
何度かの交戦は確認されていたが、忽然とレーダーから三名共が同時に消えていた。
行方をくらました3人は揃って戦闘能力の高い人物。
中でも、うち一人はジョーカーを除けばアークス内でも、上から数えた方が早いような人物だった。
そんな3人が揃って消える。
その不可視の実態を確実に確認する為、絶対戦力の内である二人が向かっていた。
ホルンは辺りを見渡す。
「……つっても砂漠以外何も見えねーぞ」
『それを探索するのが貴様達の仕事だろう? それともう一つだ。今、探知機から聞き出した所だが、その辺りからダーカーの反応を確認している。しかもかなり大きい 』
一言で言ってのけたユラの言葉に、ホルンは目を細める。
それはダーカーがいる事に対して、では無く。
ユラが零した探知機、という言葉に反応していた。
「探知機……か」
そう零したホルンの表情は何処か暗い。
何かを悟ったのか、ユラの冷たい台詞がインカムから響く。
『深く考えるな。今は目の前の敵に集中しろ』
その言葉にホルンは「そうかよ……」とだけ答え後ろのレオンへ振り返る。
「おい、聞いたか 」
「おうナカムラって誰だろな」
「そういう事言ってんじゃね……?」
言葉が止まる。
空気が揺れたことに気付いた。
熱い砂漠の上にいるにも関わらず冷たい風が吹く。
100m程先、青い空の一部を黒い渦が覆う。
黒い渦は、勢い良く収縮したかと思うと、弾けるように巨大な穴を作り出していた。
青い空に浮かぶどこまでも黒い深淵の穴。
その巨大な穴に合わせる程に、大きな何かが砂漠へと降り立つ。
地響きと、めくれ上がる砂。
照りつく甲冑に包まれたそれは、四本の巨大な足、そして二つの長く伸びる二つの爪を蠢かせる。
見た目だけでいえば蜘蛛のようなそれは、あまりにも、巨大。
遠くで眺めるレオンがポツリと零す。
「……なー師匠」
「なんだ」
「あれ、ダークラグネだよな?」
「ああ、そうだな」
レオンの疑問にアッサリとホルンは答える。
それはダークラグネと言われる蜘蛛のような姿をしているダーカー。
どういった場所であろうと、何の前触れも無く突然現れ、アークス達の道を阻む巨大な化け物。
無論レオンもホルンも、戦い撃退した事があるダーカー。
言ってしまえば良く見る事があるダーカーは、その程度の敵でしか無い。
「俺が知ってる奴の二倍ぐらいあんだけど」
「いや、三倍ぐらいじゃないか」
あまりにもの異例なサイズのダークラグネが耳障りな声を上げる。
空気が揺れるほどの音波が響く。
ビリビリと二人の肌にも振動が伝わる。
巨大なダークラグネの赤く光る四つの複眼、その眼が二人を捕らえていた。
「うおっやっべ」
暢気にレオンがそう零したのと同時、巨体は二人に対して動き出していた。その巨体からは想像の出来ない早さで大量の砂煙が舞って行く。
『もう遭遇済みか、それ以上シップに近づけずその場で撃退せよ』
「おいおいユラよぉーこっちは超絶イケメンな俺とちびっ子の二人だけだぜ?」
「誰がチビだ!! テメーからぶち殺すぞ!」
インカムの先からユラの呆れたようなため息が零れる。
『ジョーカー同士でいがみ合っている場合では無いだろう……二人いれば順当だ。危なければ助っ人をよこすさ、健闘を祈る』
それを事切りに、インカムからの通信はプツリと切れた。
「勝手言いやがる……」
「でかいつっても、ダークラグネ如きにジョーカー二人何て豪勢なもんだよなぁ」
目の前の巨大な脅威が近づいているにも関わらず、レオンの暢気な様子は変わらない。
レオンに視線を向けると、ホルンはその場でしゃがみ込む。
「……奥の手は必要ないだろ」
ホルンは低い姿勢のまま、腰に付けているキーホルダーを1つ取り外すと、それを自身の黒い靴に触れる。
瞬時に青い輝きを放ち、ホルンの黒い靴は形を変える。
ホルンのサイズには不釣り合いな青白いブーツ。
相手に被害を与えるための禍禍しい突起。
靴の裏から展開されるフォトンの光がホルンの体を浮かせていた。
「なんだよ師匠やる気満々かよーこんな得体の知れねーの気持ち悪いってー」
ぶつくさと零すレオンにホルンは黒いマフラーを靡かせながら冷たい視線を送る。
「得体の知れねー奴だからこそ速攻終わらせるぞ、俺が足止めする。テメーが最後を決めろ」
「……師匠に奥の手使わせたくねーし、良いぜそれで」
レオンはめんどくさそうに背中に担ぐ槍を取り出す。
その様子に、ホルンは珍しく笑う。
「素直じゃねーか」
それだけ言うとホルンは空高く飛び上がった。
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
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挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412