女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.24 ホルン&レオン 凸凹

 乾燥した空気、照りつく光が射す中、砂の上を二つの影が進む。

 一人は150足らずの少年。

 炎天下の中、黒のコートに同じように真っ黒なマフラー。

 にも関わらず少年は涼しい顔で黙々と歩いていた。

 

「あっぢぃ……あぢぃ……あぢぃぃーー……」

 その後ろを大きな身体の男が呻き声を上げながら続く。

 少年と違い、男、レオンは上半身は黒いアンダーウェア一枚を残し完全に脱ぎ捨てていた。

 脱皮のように脱いだ服が腰から垂れる。

 

「ちょ、師匠ー……しーしょーおー! どっかで休もうぜー! いい加減焼け死ぬってなぁー!」

 

 レオンの言葉に師匠と呼ばれた少年は振り向く。

 

「グダグダうっせーよ!暑い暑い言ってたらこっちまで気が滅入るわボケ!!!」

 少年、ホルンは青筋を立てながらレオンに怒りの声を向けていた。

 

「んな格好してる奴に言われたくねーよ!」

 

「テメーみてえにギャーギャー言ってねえから熱くねえんだよ!ちったぁ黙って進めタコ!!!」

 

「え、まじかよ黙ってたら熱くないのかよ」

 素直に驚いた表情を見せるレオンに、ホルンはふんっ!と強く鼻を鳴らすと再び前を向いた。

 再び炎天下の中を二人は黙々と進む。

 

 そして数秒後。

 

「やっぱあちぃって師匠!」 

 

「うるせぇぇぇ!!! 黙って歩けカス!! 」

 

 下らないやり取りは砂漠の中心で続く。

 言い合いを続けていると、二人の耳に付けているインカムから突然通信が繋がる。

 

『楽しそうにやってくれているようで何よりだ』

 聞こえる大人びた声に、ホルンはげんなりとした様子で答える。

 

「お陰様で気分も最高だクソが」

 

 インカムの先から豪快な笑い声が聞こえる。

『フッハハ! 喧嘩するほど仲違いと言うでは無いか!』

 

「それだと順調に距離離れてんじゃねーか……」

 

『む? 喧嘩するほどナカムラだったか?』

 

「誰だよ!」

 

『まぁ良いさ。3名の行方不明者の反応が無くなったのはその辺りだ』

 

 数日前。

 探索に向かった3名のアークスは帰ってきていない。

 何度かの交戦は確認されていたが、忽然とレーダーから三名共が同時に消えていた。

 行方をくらました3人は揃って戦闘能力の高い人物。

 中でも、うち一人はジョーカーを除けばアークス内でも、上から数えた方が早いような人物だった。

 そんな3人が揃って消える。

 その不可視の実態を確実に確認する為、絶対戦力の内である二人が向かっていた。

 

 ホルンは辺りを見渡す。

 

「……つっても砂漠以外何も見えねーぞ」 

 

『それを探索するのが貴様達の仕事だろう? それともう一つだ。今、探知機から聞き出した所だが、その辺りからダーカーの反応を確認している。しかもかなり大きい 』

 一言で言ってのけたユラの言葉に、ホルンは目を細める。

 それはダーカーがいる事に対して、では無く。

 ユラが零した探知機、という言葉に反応していた。

 

「探知機……か」

 そう零したホルンの表情は何処か暗い。

 何かを悟ったのか、ユラの冷たい台詞がインカムから響く。

 

『深く考えるな。今は目の前の敵に集中しろ』

 

 その言葉にホルンは「そうかよ……」とだけ答え後ろのレオンへ振り返る。

 

「おい、聞いたか 」

 

「おうナカムラって誰だろな」

 

「そういう事言ってんじゃね……?」

 

 言葉が止まる。

 空気が揺れたことに気付いた。

 熱い砂漠の上にいるにも関わらず冷たい風が吹く。

 100m程先、青い空の一部を黒い渦が覆う。

 黒い渦は、勢い良く収縮したかと思うと、弾けるように巨大な穴を作り出していた。

 青い空に浮かぶどこまでも黒い深淵の穴。

 

 その巨大な穴に合わせる程に、大きな何かが砂漠へと降り立つ。

 地響きと、めくれ上がる砂。

 照りつく甲冑に包まれたそれは、四本の巨大な足、そして二つの長く伸びる二つの爪を蠢かせる。

 見た目だけでいえば蜘蛛のようなそれは、あまりにも、巨大。

 

 遠くで眺めるレオンがポツリと零す。

 

「……なー師匠」

 

「なんだ」

 

「あれ、ダークラグネだよな?」

 

「ああ、そうだな」

 レオンの疑問にアッサリとホルンは答える。

 それはダークラグネと言われる蜘蛛のような姿をしているダーカー。

 どういった場所であろうと、何の前触れも無く突然現れ、アークス達の道を阻む巨大な化け物。

 無論レオンもホルンも、戦い撃退した事があるダーカー。

 言ってしまえば良く見る事があるダーカーは、その程度の敵でしか無い。

 

「俺が知ってる奴の二倍ぐらいあんだけど」

 

「いや、三倍ぐらいじゃないか」

 

 あまりにもの異例なサイズのダークラグネが耳障りな声を上げる。

 空気が揺れるほどの音波が響く。

 ビリビリと二人の肌にも振動が伝わる。

 

 巨大なダークラグネの赤く光る四つの複眼、その眼が二人を捕らえていた。

 

「うおっやっべ」

 暢気にレオンがそう零したのと同時、巨体は二人に対して動き出していた。その巨体からは想像の出来ない早さで大量の砂煙が舞って行く。

 

『もう遭遇済みか、それ以上シップに近づけずその場で撃退せよ』

 

「おいおいユラよぉーこっちは超絶イケメンな俺とちびっ子の二人だけだぜ?」

 

「誰がチビだ!! テメーからぶち殺すぞ!」

 

 インカムの先からユラの呆れたようなため息が零れる。

 

『ジョーカー同士でいがみ合っている場合では無いだろう……二人いれば順当だ。危なければ助っ人をよこすさ、健闘を祈る』

 

 それを事切りに、インカムからの通信はプツリと切れた。

 

「勝手言いやがる……」

 

「でかいつっても、ダークラグネ如きにジョーカー二人何て豪勢なもんだよなぁ」

 目の前の巨大な脅威が近づいているにも関わらず、レオンの暢気な様子は変わらない。

 レオンに視線を向けると、ホルンはその場でしゃがみ込む。

 

「……奥の手は必要ないだろ」

 ホルンは低い姿勢のまま、腰に付けているキーホルダーを1つ取り外すと、それを自身の黒い靴に触れる。

 瞬時に青い輝きを放ち、ホルンの黒い靴は形を変える。

 ホルンのサイズには不釣り合いな青白いブーツ。

 相手に被害を与えるための禍禍しい突起。

 靴の裏から展開されるフォトンの光がホルンの体を浮かせていた。

 

「なんだよ師匠やる気満々かよーこんな得体の知れねーの気持ち悪いってー」

 ぶつくさと零すレオンにホルンは黒いマフラーを靡かせながら冷たい視線を送る。

 

「得体の知れねー奴だからこそ速攻終わらせるぞ、俺が足止めする。テメーが最後を決めろ」

 

「……師匠に奥の手使わせたくねーし、良いぜそれで」

 レオンはめんどくさそうに背中に担ぐ槍を取り出す。

 その様子に、ホルンは珍しく笑う。

 

「素直じゃねーか」

 それだけ言うとホルンは空高く飛び上がった。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/



挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫            @kuroyukari0412

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