その先にあった世界は、大きな円状に広がる空間になっていた。
高い天井にカナタは思わず辺りを見渡してしまう。
視線はぐるりと周り、幾人かの知った顔が居る事に気づく。
壁際でもたれかかり、こちら側に笑顔で手を振るレオンの姿。
その隣にいるリースも控えめに手を振って見せる。
その二人から少し離れた場所に、高い身長の女性、ユラも居る。二人と違い視線を向ける事は無くキセルのような物を空へと吹かしている。
三人に向けて軽く会釈をした後、二人、知らない人物に気づく。
ドーム状の中央で腕組みをしている少年。
コートにマフラーを着けた黒一色の厚着。その黒とは真逆な、白髪の少年。
その後ろに立つ元気な笑みを浮かべる女性。
少年と似た白髪。
少年のような純白では無く若干に灰色みが掛かった色。
短い髪を後ろでちょこんと飛び出るように結んでいる。
ピンク色のパーカーに白い短パン。
頭の上にニッコリ、という言葉が出そうな程の満面の笑み。
その見た目だけで元気いっぱいである事を表現しているような見た目。
カナタの世界で言えば体育が得意そう。だとか適当にカナタは解釈しておく事にした。
そんな女性とは真逆の仏頂面の少年がカナタを睨んでいた。
「おっせーぞボケ‼︎ いつまで待たせる気だコラ!!」
その小さな体からは想像も出来ない怒声にカナタは一瞬怯むも、すぐにその表情は笑顔へと変わる。
何の警戒も見せずにカナタは少年まで近づくと、その白い髪に手を置いていた。
カナタの行動に、怒りの表情を浮かべていた少年の目は点になる。
「遅れちゃってごめんねー? でも目上の方にそういう口の利き方をしたら駄目だよー?」
元来子供好きのカナタはいつも通りの様子で少年の頭を撫でていた。
その仕草に三人程の吹き出す音。
「ぶはっ‼︎ ギャッハッハッハッハ‼︎ カナタちゃん最高‼︎」
腹を抱えて笑い転げているレオン。
その横のリースは口元に両手を当てて必死で笑いを堪えている様子
少し離れたユラは「確かに」と頷いている。
そして一番大声で笑っている少年の後ろの女性。
「にゃっはっはっはっは!! セーンセその通りだよねー! 言ってる事なーんにも間違ってなーい!」
何故こんなに笑われているのか、カナタが解るわけも無く少年の頭を優しく撫でながら首を傾げる。
「ま、まぁ、知らないから、し、仕方、無いよねっ!」
最早目じりに涙まで浮かべている後ろの女性の言葉をカナタが理解出来るわけも無く向けていた視線をカナタは下へと、少年へ落とす。
白髪の少年の固まっていた表情が、次に怒りの表情へと変わる。
手の上に乗るカナタの手を強く弾くと少年は一歩後ろへ離れる。
「てんめクソガキ‼︎ 俺を誰だと思ってんだ‼︎」
「あ! 恥ずかしくても手弾いたりするのは、いけない事だよ!!」
再び少年の目が点へと変わる。
そんな二人の様子にバカ笑いを続けるレオンと後ろの女性。
キセルを吹かしていたユラが白い息と共に溜息を零す。
「その方の名前はホルンと言う。多くのアークスを育て上げ、このシップにも沢山の教え子がいる……言うなれば我々の教官に当たる方だ 」
ユラの言葉に今度はカナタの目が点へと変わる。
「こ、こんな小さな子が!?」
笑っていた後ろの女性も、何故か自慢げに胸を張りながら口を開く。
「こんな姿してるけど、この人シップ内じゃ最年長なんだよカナタちゃん! 私はせんせーの助手をやってるシルカって言うんだ! よろしくね!」
「おい今こんな姿つったかコラ、聞きづてならねーぞボケシルカボケコラ!!」
元気一杯なシルカに慌ててカナタもお辞儀をする。
こちらまで元気になりそうな満面の笑み。
まーまーまーまー、とホルンを窘めながらシルカはカナタに軽く手を振っている。
……器用な人だ。
そして鋭い色の違う視線は再びカナタの方へと矛先が向く。
「そういう事だ馬鹿女!! 次舐めた事したらぶっ殺すぞ!!」
「で、でも、こんな可愛いのに」
「だから頭撫でようとするんじゃねー!!」
その様子にシルカはまた笑い声を上げ、遠巻きのレオンはニヤニヤと動く頬を抑えられない様子。。
「ギャッハハ! 鬼教官もこれじゃ形無しだな! おい写真撮ろうぜ!!」
「や、止めなさいよレオン怒られるわよっ!」
「そう言いながらお前も顔真っ赤じゃねーかリース」
ホルンの視線は二人の会話の方へとギロリと動く。主にレオンの方へ。
その視線から慌てて目を逸らすとレオンは口笛へとシフト。
「レオン……それで誤魔化せてる人見たこと無いわよ私」
隣のリースが呆れた様に顔を伏せていた。
舌打ちをした後、ホルンの視線は直ぐにカナタへと戻る。
「述べろ。テメーが遅れた理由を簡潔に、且つ手短にだ」
目の前の白い少年の雰囲気に気圧され、カナタは手を引っ込める。
「ええと……赤髪の女性に絡まれまして……」
その言葉に、ホルンの表情は突然脱力した物へと変わる、大きなため息と共に視線はリースの方へ向かっていた。
釣られてそちらに視線を向けると、ユラ、レオンも同じようにリースの方を見ていた。
ユラの方は唯視線を向けた、という具合だがレオンの方の表情は何処か焦っている様な、というより気の毒に……という哀れみの視線が込められているような様子。
その視線を向けられたリース自身の顔は真っ青に染まっていた。
「嘘でしょ!? 部屋に何重も鍵を掛けて、その上にプロテクトまで掛けてるのよ!?」
「あの女……また逃げ出してんのか……」
呆れた声を零すレオンとは別に、リースは体を強張らせながらヨロヨロと一人出口へと歩を進める。
「ご、ごめんね……私ちょっと行って来るから……」
「ウム、私も居る。案ずるな」
ユラの言葉にリースは、振り返らずに頷く。
その背中の凄惨な様子は思わずカナタ自身声を掛けようとするが、分厚い自動ドアが丁度閉まる所であった。
「えっと……大丈夫……なんですか?」
不安そうに消えていったドアを見つめるカナタに、後ろの女性、シルカが答えてくれる。
「リースさんはねぇ~ちょっとした部隊の纏め役をしてるんだよ? と言ってもリースさん含めて四人な上に、残りの三人は揃ってお子様だからね~? 察してあげて?」
子供の面倒を見ていたカナタからすれば子供の相手がどれだけ大変か良く解っているつもりだ。
しかしそれでも可愛いのが子供なのだが。
そこまで考え、先程の見た目20台以上の赤髪の女性を思い出し、ああ……子供にも色々あるか、と考え直す。
言葉の通り、消えていってしまったリースの心中をお察しする事にする。
今度疲れの取れるハーブティーでも入れてあげよう……この世界の葉っぱが有害で無ければ。
「テメーは人の心配する暇あったら、自分の心配したらどうだ糞ガキ」
そこで始めてホルンの表情に笑みが出来る。
不安になるような、不適で、鋭い笑み。
「……な、何を、するんですか」
カナタの表情が曇ったのが嬉しいのか、ホルンは馬鹿にしたように笑い声を上げる。
「ハッ! その表情だ、この俺を見る時はその目で見ろ、恐怖という感情を常に抱け糞ガキ」
その言葉と共に、空から鋭い何かが幾つも地に突き刺さって行く。
思わず尻餅を付いてしまう。
目の前に広がるのは巨大な大剣、日本刀のような物、短い短刀、よく見れば突き刺さらずに転がっている物も存在していた。
手に嵌める鉄製のメリケンサックのような物。
杖のような物。
物騒な重火器まで。
果てはカナタが解るわけの無い形の物まで。
しかし理解は出来なくとも、それ等が全て武器という物なのだと言う事は理解出来て居た。
二つの瞳がカナタを見下ろす。
「武器を取れ、糞ガキ」
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/
「ホルンとシルカちゃんです。ホルンの画像は以前に載せさせて貰ったものと同じです。以前に画像を間違えて載せていました申し訳ないです(;'∀')」
【挿絵表示】
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挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412