女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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『聞こえるかな?』

「ひゃぁぁぁぁ!?!?」
 突然の空からの声にカナタが思いっきり声を上げる。


「ヒィィィィィィ!?」
 その声に合わせるように目の前の少女も同じく悲鳴を上げる。

『おっと驚かせてしまったかな? スマナイな。言い忘れていたよ棚の上にあるバイクは君の物だ。耳に付けてくれたまえ』
 凛とした声は間違いなくユラの言葉だろう。
 館内放送のような物だろうか。流石に艦全体の放送では無いだろう。無いと思いたい。

……今何て?

「バイク!? アークスは耳にバイク付けるんですか?」
 わけわからない放送に全力で声を上げるカナタに対して不思議そうな声が再び部屋に響く。

『何? そうか……君の世界では付けないのかバイク……便利なんだがな……』

「え、ええ? 耳元で騒音鳴らす感じですか? それ便利なんですか?」

『騒音とは頂けないな、人の声を煩わしく感じる事もあるかもしれんが意思疎通とは大切な事だぞ?』
 ア、アークスというのは本当に良く解らない。

 目がぐるぐるしているカナタの裾を引っ張る感覚に視線は引っ張られた先に向けられる。

 少女、ファランが困った表情で口元を動かす。

「あ、あれ、み、見て……」
 そう言った指さされた先へと視線を向けると、カナタの目の光が消える。
 考える事を辞めたような瞳と共に歩は棚の方へと進む。

 未だに人との繋がりの大切さを淡々と語る館内放送を無視して棚の上にあった物を手に取った。

「ユラさん、マイクですか? マ・イ・ク」
 小さな、簡単に取り付けれそうな片耳マイク。
インカムと言った方が解りやすいかもしれない。

『……ふむ、そうとも言うな。カナダ』

「何処の国ですか!!」


Act.16 「閃光の戦士!! ギャラクティカ☆マンダム!!!」

 通路を早足で歩く。

 

 今すぐトレーニングルーム、なる所に行けとの事。

 ファランから聞くと、どうも彼女、ユラは言い間違えの多い人らしい。

 

 ま、まぁ考えないようにしておこう。

 

 トレーニングルームの場所は、以前の研究室の直ぐ隣。

 大きなシップの地図は既に頭に入っていた。

 別世界に飛ばされていても、頭の良さが変わる様子は無い。

 

 ファランの前でお姉さんぶっていたカナタの顔が少し不安な様子を見せる。 

 未だに通路を歩く時の視線は気になる。

 料理の件のお陰か、以前よりは少しマシなようだが。

 それでも不安である事には変わらない。

 

 思わず早足でその場を後にしようとする。

 

 多くの視線の中、一つの視線に違和感を感じた。

 その視線は、前から感じる。

 誰もがカナタに隠れて視線を向けてくるのに対して。

 その視線は真っ直ぐにカナタを見据えていた。

 思わず前を向いた先に、その視線と交差する。

 

 壁際にもたれるその人物。

 赤い髪。

 まず印象に残ったのはその長いボサボサの髪だった。

 片方だけ隠れた赤い瞳は真っ直ぐにカナタを見つめ、割れるような笑みと共にその目は薄く笑みを作っていた。

 黒いネグリジェのような服装に裸足。

その下着のような姿に思わずギョッとしてしまう。

そして、彼女はそんな事を一切気にしている様子無く、ニタニタと笑を広げていた。

それが、余計に不気味さを感じてしまう。

 

 カナタの体全体を、舐めるように見るその視線にカナタは慌てて視線を外す。

 更に早足でその人物の前を通ろうとした。

 

「ねぇ」

 

 カナタが丁度目の前を通る瞬間に掛けられた言葉は、間違いなくカナタに向けられていた。

 

「……」

 カナタは顔をブンブンと振ると思い直す。

 もしかしたらカナタより先の人に話しかけたのかもしれない。

 で、あるのであれば、反応してしまっては危く恥ずかしい思いをする所であった。 

 うんうんと頷きながら早足のままカナタはそのまま立ち去る。

 

「ねぇってば」

 後ろから声が追いかけている気がする。

 気のせいだろう。

 

「聞こえてるんでしょ? 貴方だよ? 貴方だよ?」

 軽やかな声はついてくる。

 小馬鹿にするような含み笑いを込めながら声は続けられる。

 

「謎の女の子。ねぇ興味があるの、ねぇそこの髪の毛を横に小さく結んでいる黒髪の貴方だよ? もう一つ言えば中々大きいよね? ねえどれくらいのサイズなの? ねえねえいっぱい触って」

 

「何ですか!」

 

 強い口調と共に思わず振り向いてしまっていた。

 羞恥と怒りでカナタの顔は薄っすらと赤くなっていた。

 

 振り向いた先に、赤い髪の女性は直ぐ目の前に居た。

 思わず声が詰まる。

 瞳を覗き込む、と言うには数センチ目の前の距離は見る物も見えないだろう。

 しかし赤い髪の女性はその不気味な笑みを崩さない。

 固まったままのカナタを無視して女性は鼻をすんすんと動かす。

 

「あー! すごーい! いい匂いだー」

 

 目の前の突然の大声に小さな悲鳴を挙げてカナタは一歩二歩と後ろへ下がる。

 表情は既に怒りから驚愕へと変わっていた。

 

「な、何なんですか!?」

 

「『な、何なんですか!?』」

 女性はカナタの声色を真似しながら同じように仰け反って見せる。

 その後馬鹿にしたようにゲラゲラと笑い声を上げる。

 不気味な様子は、十分にカナタの心を遠ざけていた。

 

「何をしているのかも、解らない? あれあれあれ? フヒヒ、あれあれあれあれぇ? おかしいなァおーかーしーいーなー?」

 そう言いながら女性は再び徐々に近づいてくる。

 その動作は、ゾワゾワと背筋を冷たい物を走らせていた。

 

「や、止めて下さい!!」

 堪らず女性を両手で弱弱しく押し返してしまう。

 

「おおっと? おおとぉ? 女の子の弱弱しい力だ。これは参った参ったァ~」

 

 そう言いながら下卑た笑いを零す女性に、カナタは再び数歩後ずさる。

 

「あれあれ? 怖かったね? 最初は『ゆっくり少しづつ』ゥ……だもんねェ?」

 

「っ!?」

 誰かを真似た言い方。

 それは、少し前にカナタがファランに向けて発した言葉。

 怒りから驚愕へ、そして恐怖へと変わっていた表情は警戒へと切り替わる。

 

「……貴方、何なんですか」

 

 低く、冷たいカナタの言い回しに女性は怯む様子を見せない。

 楽しそうにその場で空を仰いで見せる。

 

「あーあー! 君は、知っている、筈だ? 私の事を、知っている筈だ? 知らないのかな? もっと知って欲しいなぁ私の事もっと見て欲しいなー」

 

「貴方なんて知りません!!」

 ピシャリと言ってのけた言葉に女性は宙を仰ぐ仕草を止める。

 その片目だけの目を大きく見開き、首を傾げて見せる。

 

「あれー嫌われた……? おかしいなぁおかしいなぁ……」

 うんうんと頷く仕草を見せながら女性はカナタに背中を向ける。

 そのまま女性は体を仰け反らせ、髪の毛が後ろにガバッと逆さづりになる。

 逆さの瞳はカナタを見据える形へなっていた。

 

「ねー名前はー?」

 

 気味の悪い仕草に、表情を引きつらせながら思わず答えてしまう。

 

「カ、カナタ」

 

 その名前を言った瞬間、女性が眼を見開いた。

 ガバッと姿勢を挙げ、つかつかとカナタに迫る。

 

「い、いいい!?」

 再び数センチ程の距離からマジマジとカナタの顔を見つめていた。

 ギョロギョロと動く片方の瞳。

 先程の楽しそうなトーンとは違った、妙に低い声が女性から発せられていた。

 

「……………名前はぁ。屑木(くずき) 星空(かなた)でしょ?………二度と間違えるなァ」

 

 何処で知ったのか解らない。

 ロランにしか言った事の無い名前。

 それを、知っていて当たり前のように女性は言う。

 

「……っひ」

 小さな悲鳴を零し、それ以上カナタは動けなくなってしまう。

 色々なアークスを見た、色々な変わった人達が居た。

 しかし、この女性は違う。

 変わっているだとか、そういう物では無く、『オカシイ』

 そう感じてしまっていた。

 震えながらも、喉から言葉を搾り出す。

 

「あ、貴方は、誰なんですか……!」

 強がった声は震える。

 何が面白いのか女性の笑みは再び割れる。

 その瞳がカナタを見据えながら数歩後ろへと飛ぶ。

 

「私の!! 名前は!!」

 大げさに両手を交差させる女性は赤い髪が舞う。

 

「閃光の戦士!! ギャラクティカ☆マンダム!!!」

 

 数秒の沈黙。

 カナタの脳が停止していた。

 決まった……というような顔のまま赤髪の女性は目を輝かせながらこちらの様子を伺っている。

 周りの通路を歩くアークス達は何も見えていないかのようにカナタと女性を無視して何人も素通りしていく。それは実にシュールに感じ、カナタは馬鹿らしいというように肩を落とした。

 

「もう私行っていいですか? 呼ばれてるんですよ……」

 どっと何か疲れを感じながら女性に背を向ける。

 背筋に感じた寒気も、不気味に感じていた恐怖も最早吹っ飛んで馬鹿らしくなっていた。

 

「ばいばーい! クズキカナター! またねー!」

 後ろからの元気の良い声とぶんぶんという風の切る音は手でも振っているのだろう。

 色々なアークスが居る中、絶対に関わらないようにしよう。と彼女は心に決めた。

 

 

 

 カナタの後ろ姿を見送った赤髪の女性は振っていた手を下ろす。

 その後ろ姿を舐めるように見つめ、また頬が割れる。

 

「なんて、なんて、なんて、可哀想? 死臭? 撒き散らす絶望? フフフフフ、クズキカナタ、クズキカナタ、とっても、とっても…………綺麗な子」

 

 呟く台詞は誰に聞こえているわけでも無く、唯紡がれる。

 赤髪の女性は、見えなくなっても、カナタが消えていった廊下の先を見つめていた。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

「ぶっ壊れユカリちゃん。ぶっ壊れキャラ……良いよね!」


【挿絵表示】


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 
「ユカリもいいけどポカリもいいよね」


曲  黒紫            @kuroyukari0412
「あぁ~^~ユカリ可愛い~^p^」

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