女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 広い廊下をルーファと歩く。
 横並びではなく後ろについて歩くような具合。

「ここはシップと言われる私たちがこの星を搜索する上で拠点にしている場所です、今から貴方には精密検査と事情聴取を受けてもらいます」

「は、はい」
 振り向かずに突然説明を始めるルーファにカナタは慌てて返事をする。
 広い廊下はカナタとルーファ以外にも様々な人が歩いていた。
 二足歩行する機械のような人や耳の長い人、左右の目の色が違う人。
新鮮で見た事がない世界にキョロキョロと辺りを見渡してしまう。

「そんなに珍しいですか?」
 そんなカナタの様子に気づいたのか、ルーファが呆れたような言葉を零す。

「こ、こんな近未来的な物、映画とかでしか見たことなくて……」

「……本当に何も知らないんですねぇ」

 ふと何故か歩いている人?達もカナタを見ている事に気づく。

「な、何か私、見られてます?」

「そりゃそうですよ、こんなダーカーしかいない星に突然あなたは現れたんですから、ダーカーだと思われても仕方ないですよ」
 ダーカー、それが前に見たカマキリのような者の事だとすぐに気づく。

「そ、そんな! 私はあんな化物じゃありません! ちゃんとした人間ですよ!」
 カナタの慌てている様子にルーファは、ふぅ。と小さく息を吐いて見せるだけ

「それを今から調べるんです、 安心しなさい。もしダーカーだとわかれば私が痛みなく消してあげます。」

「……何も大丈夫ではないのですけれど」
 一つの扉の前で彼女立ち止まると、カナタの方へと振り向く。

「ここから先は一人で行ってくださいね」

「私……一人で、ですか?」

「私は唯の貴女の監視役ですから」
 監視、という言葉に背筋が寒くなる。
 カナタは1度ルーファへとペコリと頭を下げると逃げる様に自動ドアの奥へと消えていく。

その後を見送るルーファの瞳に色は灯らない。
無機質な瞳が、カナタが行った先の、既に閉じているドアへ向けられていた。





Act.11 女子高生、見習い料理人へとジョブチェンジ

 

 

「待ってた! 待ってたよ!」

 部屋に入るなり突然両腕をがっしりと掴まれていた。

 

「ひっ!?」

 短い悲鳴を挙げるカナタに手を握ったであろう少年はニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

 

「うっわ! 良い声! 肌もスッベスベ!!」

 カナタの腕を摩る白衣の少年にカナタの背中にゾワゾワと寒い物が走る。

 

「止めなさい」

 

「ふんっげ!?」

 低めの女性の声と共に、白衣の男の頭に金槌が振り下ろされていた。

白衣の男はそのまま地面へと崩れる。

 ブルブルと震えているカナタに金槌を振り下ろしたであろう女性がニッコリと笑いかける。

 

「ごめんね? 大丈夫だった?」

 金槌を手で遊びながらポニーテールの女性が笑いかけてくれていた。

 倒れている少年と同じ様に白衣を着た女性。

 優しい目にカナタは胸を撫で下ろすとゆっくりと頷く。

 

「私達は虚空機関(ヴォイド)よろしくね? カナタちゃん?」

 

「う゛ぉいど?」

 

「話に聞いていた通り何も知らないのねぇ……ヴォイドって言うのは研究機関だと思って頂戴、何でも屋って言ったら通じるのかしら?」

 その言葉に何となくだがカナタはコクコクと頷く。ポニーテールの女性は優しく微笑む。

 

「私はレター、この子は弟のラックル。宜しくね?」

 

「よ、よ、よ、よろしくね! 君名前はカナタって言うんでしょ? 知ってるよ!」

 ラックルと言う名の少年、少年と言ってもカナタと年齢は変わらなさそうな見た目。

ラックルの銀縁眼鏡から除く瞳が食い入るようにカナタを見つめていた。

 

「よ、宜しくお願いします」

 興奮するラックルの様子に軽く頬を引きつらせてしまう。

 カナタのその様子を気にする事も無くラックルが手を強く握る。

 

「先に言っておくけれど、私達は貴方を調べないと行けないの」

 今度は少し困った表情でレターが「ごめんね」と小さく付け足す。

 

「仕方、無いですよね……」 

 

「だ、大丈夫だヨ!! 優しくするからね!! 痛くないようにするからね!!」

 レターには笑いかける事が出来たカナタだったが、妙な興奮をしながら捲くし立てるラックルの方を見る事は出来ないで居た。

 

 どれぐらいの時間が経っただろうか。

 

「はい! これは! 何かな?」

 そう言いながらラックルが机に立てかけたB5サイズの分厚い紙に描かれたイラストを見せてくる。

 それはカナタにも良く知っている物だった。

 

「……タンス?」

 

「正解正解正解!!」

 大袈裟に騒ぐラックルに小さく溜息を付いてレターの方を見てしまう。

 何かを書き込みながらレターが申し訳なさそうに笑う。

 数十分掛けた様々な見た事の無い機械で身体検査をされた後。

 それからは椅子に座らされ、一時間以上も紙芝居のような事をされていた。

 未来的に見える文明であるにも関わらず、随分と古臭い。

 

「はい! 今度はこれ! これェ!」

 今度見せて来たのは毛皮に大きな鼻が特徴的な生物だった。

 教科書で見た事がある気がする。

 

「マンモス?」

 

「ブッブー!!」

 大袈裟に目の前でバッテンを作られてしまう。

 ……何か普通に悔しい。

 

「正解はマルモスっていう原生生物! じゃあコレが強くなったバージョンは?」

 その言葉に意気込んでカナタは身を乗り出して答える。

 

「スーパーマルモス!」

 

「残念! デ・マルモスでしたー!」

 

 再びのバッテンにカナタはがっくりと椅子に座る。

 

「なーんーでーですかぁー……もし少年漫画だったら絶対スーパーですよぉー?」

疲れきった声と共に相手が知らなさそうな言葉で抵抗して見せる。

 

「少年漫画!? そっちの世界の少年漫画はスーパーが付くのかい!?」

 若干伝わった上に興味をもたれてしまった。

 疲れきったように顔を傾けながら話ができそうなレターの方を向く。

 

「これいつまで続けるんですかァー?」

 カナタの泣きそうな声にレターが優しく答えてくれる。

 

「申し訳ないけれど今の所もう少し続けないと行けないかな? 貴方の知識ってどうも中途半端なようなの。 知っている事は知っているし、惜しかったりするし……かといってアークスやシップについての当たり前の知識は抜けてる……」

 それはカナタがどういった存在かを見定める為に知識の確認をしているようだった。

 しかし、カナタの世界と知っている物がこの世界と大きくズレている。

 

「ダーカーでは無いのは確かのようだけれど、正直未確認としか言えない状況ね」

 唯の高校生でしか無いカナタはまさかの未確認生物のような扱いに苦笑いをしてしまう。

 勿論、自身の世界の話もしていた。

 

「さっきも言いましたけど! 私はこんな世界じゃないとこに居てですね!」

 言いかけるカナタをレターが遮る。

 

「確かに私達が知らない別の惑星の可能性は有るけれど、チキュウ? だったかしら? それとはまた別で貴方の中にあるフォトンは私達のアークス達が宿す物と一緒なの、それは私達の種族にしか無いもの。……だから信じがたくてね?」

 困ったような言い方をされても、カナタは嘘をついているつもりは無い。 

 

「それに、知っている物も数多く存在している所を見ると単純な記憶の混濁や失墜の可能性の方が高い……」

 確かに置物や服装。

 名前まで同じ物が数多く存在している。

 自分が実は記憶喪失で記憶を勝手に改竄している……そう言われたら元も子も無いけれど。

 

「でも私この世界の字とか読めないですし」

 最初に見せられた良く解らない羅列された文字は読めるわけも無く。

 カナタの知っているローマ字に近い、と思った程度。

 

「そうなのよねぇー……」

 ボリボリと頭を搔いている様子を見るとよっぽど参っている様子。 

 何だか申し訳なくなってしまい体を縮こませる。

 その後、彼女が言った言葉の中に疑問を感じた。

 

「フォトンが有るって……私もロランさんやルーファさんみたいな力があるって事ですか?」

 

 カナタの言葉にレターは眉を寄せる。

 

「……ロランの力は、そうねフォトンの力なのだけれどね」

 妙な言い回しに首を傾げてしまう。

 それに気づいたのか慌ててレターは付け足してくれる。

「私達はフォトンを駆使してダーカー達を殲滅をするのだけれど、ルーファ、彼女は……いえ、彼女達は少し違うの。」

 余計に解らなくなってしまう。

 

 レターは困ったように言いあぐねていると、ラックルが興奮した様に口を開いた。

 

「あれはね! ジョーカーっていう化け物でね! 特別なんだよ!」

 その言葉に、ルーファが戦っていた姿を思わず思いだす。

 

「ちょ、ちょっとラックル!」

 慌てた様子のレター等お構いなしにラックルは続ける。

 

「アイツらはね! ダーカーを殺す為だけに作られた兵器で」

 

 ラックルの言葉は遮られる。

 それは、カナタの後ろにある重たいドアが音を立てて開いたからだ。

 合わせてカナタは振り向く。

 

 そこに、女性が立っていた。

 カツカツと音を立てて近づく彼女似合わせるようにカナタの視線は上がっていく。

 そのまま、椅子に座っているカナタは大きく見上げてしまう。

 それ程に巨大な身長。

 

 薄紫の長い髪、それよりも更に濃い瞳。

 紺色のスーツをぴしりと着ている綺麗な顔立ちの女性。

 その長い足から、大人びたスーツを着込む姿は、印象的にカッコイイ女性。というイメージを持つ  

 身長に違和感を感じさせない綺麗なスタイルの女性は、カナタに視線を送る。

 大人な女性の瞳に耐えられずカナタはつい視線を外してしまう。

 そんなカナタから、今度はラックルへと視線が移動する。

 

「ジョーカーの悪口とは……少し頂けないな」

 中世的な声。耳に心地良い優しい声にカナタは感じた。

 しかし、その言葉の中に棘の様な物も感じる。

 先程まで騒がしかったラックルは高身長の女性の視線から逃げるように机の影に隠れていた。

 体が半分以上見えている姿は妙に情けない。

 

 そんなラックルを無視して女性はにっこりとカナタへと笑いかける。

 

「私はこのシップの責任者、ユラと言う。疑うような事をしてすまないな」

 しゃがみ込みわざわざ視線を合わせてくれる。

 

「あ、ええと、こちらこそ?」

 子供の様に扱われているようでカナタは恥ずかしく感じてしまう。

 良く解らない返しをしてしまっているカナタに助け舟を出すようにレターが口を挟んでくれた。

 

「謎が多くて正直彼女の事は解らない事ばかりだけれど、無害なのは確かみたい」

 

「そうか、ご苦労」

 レターの方を見ずにユラは答える。

 視線は何故かカナタを見つめたまま。

 その視線に耐えられずにカナタは視線を外しながら零す。

 

「な、何でしょうか?」

  

「カナタ、趣味とかは無いかな?」

 

「へ!? あの、ええっと、料理、かな?」

 突然の質問に戸惑いながらも慌てて答える。

 

「ふむ、そうか、成程、ふむふむ」

 一人で何か頷きながらユラは立ち上がる。

 巨大な身長に見なくとも威圧感を感じてしまう。

 

「我々も慈善事業では無いのでな、シップに一人置いておくのもタダと言うわけにはいかん」

 

 上からビシッと指を向けるとユラは優しく笑う。

 

「見習い料理人として雇おう、精精頑張りたまえよ?」

 そう言い残すと豪快に笑いながらユラは踵を返す。

 

突然の事に呆然としていたカナタはハッと我に帰る。

 

「あ、あの!? ちょっと待っ!!」

 慌てて立ち上がるも、既にユラはドアを潜る所。丁度、機械的なドアが閉じる所であった。

 チラリとカナタへと視線が動く。

 見下ろす紫色の瞳が見つめていた。

威圧を感じるような、探るような。

 その瞳に何も言えずに居ると、機械的なドアに自動的に遮断されてしまう。

 

 

「良かったじゃない、これから宜しくね!」

 レターの優しい言葉に返す事も出来ずに、既に見えなくなった背中の変わりに分厚いドアを見つめてしまう。

 

「私の、意見は?」

 

 女子高生、カナタは見習い料理人へと転職する事になる。

 半ば無理矢理。

 薄々カナタ自身も感ずていた。

 出会う人に……話を聞いてくれる人が居ない。

 

「それじゃ後700枚! やっちゃうわよカナタ!!」

 

「最後まで一緒に仲良くやろうね! やらやろうね!!」

 

「え!? まだやるんですか!?」

 ここにも話を聞かないのが二人




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
「ジェネちゃんが好きです愛してます。マトイちゃんは天使」
http://mypage.syosetu.com/3821/


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 




曲  黒紫            @kuroyukari0412


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