女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.9 始まりの狼煙

 

部屋を出ると、薄暗い廊下が広がっていた。

 

 ルーファの視線は首を届ける先の廊下、では無く足元に向かっていた。

 視線の先に、ダッフルコートやマフラーを纏う妙に暑苦しい子供が倒れていた。

 すっぽりとかぶったフードから淡いピンク色の髪の毛が零れている。

 その少女の事をルーファは知っていた。

目を回して倒れている少女に冷たい視線を送る。

 

「この子は、何をやっているの」

 倒れている少女を心配する素振りも見せずにルーファはトゲのある声を向ける。

 少女が答える事は無い。

 代わりに別の方向から声が聞こえた。

 

「テメェ等の馬鹿みてェな殺気に充てられたんだろが」

 

 後ろから聞こえたガラの悪い声にルーファは振り向く。

 振り向いた先には白髪の少年がいた。

 黒く下に付きそうなマフラーに、その鋭い瞳には見た目とは違う雰囲気を醸し出していた。

 

「子供はもうとっくに寝る時間でしょう先生」

 

 ルーファの言葉に先生と言われた少年は憎々しげに舌打ちをする。

 

「ガキ扱いすんなって言ってんだろがクソガキ! お前よりも何倍も生きてんだよボケ!!」

 口の悪い少年は、色の違うオッドアイの瞳でルーファを睨む。

 少年の名前はホルン。

 見た目は子供にしか見えないが、実年齢はルーファも知らない。

 少なくともルーファがアークスになる為の学校に通っていた頃から、ホルンは子供の姿で教官をしていた。

 

 そして今も、その姿のまま。

 

「では大先輩の先生。私に何の用ですか?」

 首を傾げるルーファにホルンは直ぐに答える。

 

「何故ロランを死なせた」

 

「心外ですね。私が殺したみたいな言い方に聞こえますよ」

 

「戦闘を回避するなり、まずは治療を優先するなりあったんじゃねーのかって言ってんだよ!! 報告書を見なくても解る!! テメーはダーカーを殺す事を優先したんだろう!!」

 

 怒声を挙げるホルンに対し、ルーファは悪びれる様子もなく、ただ目を細める。

 

「…………死ぬと解っている者を最優先にするか、未確定の敵の解析を優先するか、果たしてどちらが正しいでしょう」

 

 ルーファの言葉に、ホルンは押黙る。

 間違っていない。感情的にではなく未来の事を踏まえた考え方。

 決して間違いではない。

 

 ホルンはゆっくりと重苦しい口を開く。

 

「……そいつを寄越せ」

 特に渋る様子も見せず、手に持つ袋をホルンへと差し出す。

 ひったくるようにそれを受け取ると、地面で伸びたままの少女を、ホルンはもう片方の腕で乱暴に服を掴み軽々と少女を担ぐ。

 

 ルーファに背を向け、ホルンは言葉を綴る。

 暗がりの通路の中、少年の声が響く。

 

「テメーの考え方は、間違ってねぇよ。教官としてなら誉めてやる所だ……けどよ、仲間として、てんなら……最低のクソ野郎だ」

 吐き捨てるようにそう言うと、ホルンは振り向く事もせず暗い廊下へと消えていく。

 

 ルーファの表情に傷ついた様子は見えない。

 しかし、消え行くホルンの背中を無機質な瞳が見送っていた。

 見えなくなるのを確認した後、ルーファも暗闇の廊下を歩き出す。

 暫く歩いてから、ッス、と後ろを振り向いていた。

 音がしたからではない、気配を感じたからではない、唯無意識に振り向いていた。

何があるわけでもなく暗い廊下が続くだけ。

 

 ルーファは小さく首を傾げる。

 

 そして、気づく。

 

 いつもルーファの後ろにくっついていた大男がいない事に。

 いつもの様に、いつもどおりに、日常の一部だと振り向いていた。

 

 そこには誰もいない。

 

 大声を張り上げて笑いかける男はいない。努力家で、ルーファに憧れていた青年は。いない。

 

 暗い廊下は、ルーファ一人だけ。

 

 それが孤独感を更に強めていた。

 

「…………元の一人に戻っただけ、でしょう」

 零した言葉は誰に言うでも無く、まるで自らに言い聞かせているように。

 その場から慌てて離れる様に、彼女は小走りで廊下を後にする。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 少年の姿をしたホルンは、気絶した少女を元の部屋に乱暴に投げ込んだ後、白い布を手に持ち外に出ていた。

 巨大なシップから少し離れた場所。

白髪の髪が風に揺れる。

 

 月が空に上がっていた。ホルンはそれを見上げる。

 宇宙からこの星を見た限りでは、月のような惑星など確認されていない。

 その筈にも関わらず、月は嘲笑うようにホルンを照らしていた。

 

 ぼんやりと月を眺めた後、ホルンは手に持つ白い布を大きく揺らすと、下から空中へと投げた。

 

 白い布が舞う。

 仲間だった男の首が宙に舞う。

 ホルンが腰に手をかけると、青い玩具のような物が幾つかベルトに繋がれていた。

 そのどれもが、突起が激しい武器のような形をしている。

 その中の一つを見る事もなくホルンは取り外す。

 同時に青い玩具と、ホルンの周りに青いフォトンの光が舞った。

 玩具は大きく広がり、その姿を露見させる。

 小さなホルンよりも大きく、巨大な銃口を持つそれは、ランチャーと呼ばれる名前通りの武器。

 

 ホルンの頭以上のサイズの銃口は、空中に舞う首へと向けられていた。

 

「………アバヨ、馬鹿弟子」

 その一言と共に、銃口から青い光が放たれる。

 光線のように走る光は辺りを照らす。

 

 眠りについている静かなシップにも、その青い光に気づいた者達が居た。

 

先程まで気絶していたピンク色の髪の少女は虚ろな瞳を窓の外へ向ける。

 

 長い黒髪を束ね、ロランの首を斬ったであろう刀をぼうっと、見つめていたルーファの部屋からも、青い光は見える。

 

 最高責任者である一人の女性は寂しそうに光を見つめる。

 

「おー!でっけぇ!」

 能天気なガタイの良い男が豪快な笑い声を挙げていた。

 

 機械の体の者が小さな体の者が、様々な者達が様々な思いを胸に窓越しの青い光を見つめる。

 

 青い光は続く。

 

 始まりを予見する、狼煙のように。

 

 光が走った後にロランの首は見当たらず跡形も無く消滅していた。

 辺りは再び暗い闇が広がり、何事もなかったような静寂が続く。

 自分よりも大きな武器を器用に回転させると、ランチャーは再び小さな玩具の様なサイズへと変わる。

 腰の留め具へと再び収まった。

 黒いマフラーをたなびかせ、ホルンはシップへと足を運ぶ。

 左右の違う色の瞳に怒りを宿して。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
「子供先生、ホルンさん登場でございます。そんな目つきの悪い子供先生を挿絵担当さんが書いたのがこちら
【挿絵表示】

http://mypage.syosetu.com/3821/


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

「」


曲  黒紫            @kuroyukari0412

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