ポケットモンスターORAS  高校二年生の戦い   作:タイタン2929

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オダマキ博士登場からの、初めてのポケモン

 1

 

 

「お前……見ない顔だな。ハルカの友達かなんかか?」

 

 ゲーム容姿の少年に、急に話し掛けられた俺だが、無視する訳にもいかない。

 だがしかし、ハルカという名前は聞いた事がある。

 確か、昔のポケモンアニメでヒロインをやっていた少女だった筈。

 でもそれは架空の少女。アニメでしか登場しない二次元の女の子だ。

 まあ、ここがもし本当に“ポケモンの世界”ならば、実在していても変ではない。

 俺がなにか言おうと口を開きかけた時、何者かに後ろから肩を叩かれた。

 

「やあ、きみがシュウト君だよね? ――ハア――ハア」

 

 俺をシュウトと呼んだ奴は、小太り気味の白衣を着た男性だ。

 背中には重そうな大きいリュックを背負っており、息を切らしている。

 

「話は『センリ』さんから聞いてるよ。いやあ、今日から旅に出るんだってね。」

 

 そう言い、小太りの男は俺に微笑みかけた。

 

(ちょ、ちょっと待て! センリって誰だ⁉ 旅ってなんだ⁉ そもそもなんで俺の名前を……)

 

 この男の話しについていけないが、一つの仮説が俺の頭に浮上してきた。

 先程、屋根の上にいたピジョンと思しき鳥。

 ハルカと呼ばれる少女と、浅黒い肌の少年の風貌。

 そして草原への不可解な転移。

 まさかとは思うが、これはもう信じるしかないだろう。

 

 俺は――――ポケモンの世界に転移した。どう考えてもこれしか説明がつかない。

 

 それもおそらく、ポケットモンスターORの世界だろう。

 ハルカという少女は、パッケージ裏に書いてあった。

 もう一人の浅黒い肌の男は、アサセと言うに違いない。

 ああ、もう。これからどうすればいいんだ。

 

「じゃあ、研究室でポケモンを配るから、一緒に来てくれ。アサセ君と、ハルカもね」

 

 アサセと呼ばれた少年は、元気のよい返事をし、小太りの男性の後をついていった。 

 

「あなたがシュウトね? 一緒にポケモンマスターを目指して、頑張りましょうね」

 

 ハルカと呼ばれた少女は、俺に激励の言葉を残し、研究室と思われる家に向かった。

 現実で見たのは初めてだが、さすがゲームのヒロインというだけの容姿だ。

 髪は綺麗に手入れをされていて、大きな赤いリボンを付けている。

 うん、普通に可愛い。

 

「マジでポケモンの世界かあ……」

 

 改めてこの世界に来てしまった実感が湧いてきた。

 住宅街を見るからに、ガス、水道、電気は通っているみたいだ。

 中世ヨーロッパじゃなくてよかったと思うが、俺には現状、家も金もない。一文無しだ。

 これから何をすればいいのか、どうやって生きていけばいいのか、今後の生活の事なんて全く考えていない。

 

 ――でも、意外と悪くないかもしれない――

 

 地球に未練がないかと聞かれれば、少しはある。

 だが、この世界も案外、悪くないかもしれない。

 寝る間もを惜しみ、必死に勉強して受かった志望校。

 夢にまで見た高校生活だが、そんな夢はただの理想に過ぎなかった。

 偏差値は決して高い訳ではないが、そこそこ良い高校に入ったつもりだ。

 中学の頃とは違い、ぼっちを卒業できるかと思ったが、そう上手くもいかず、信用できる友達は作れなかった。

 その後、特になんの事件も起こらず、だらだらと高校生活を過ごしていった。

 この世界に来れたことは、意外と幸運だったかもしれない。

 大学受験へ向けての勉強もしなくて済むし、失うものはなにもないからな。

 

「この世界はポケモンが実際にいるんだろうな~」

 

 自分の目で見たはずだが、未だに信じられない。

 まあ、時期に慣れるだろうと思うが。

 

「とりあえず、あのおっさんの向かった方へ行くか……」

 

 これからの予定は追々考えるとして、後は流れに身を任せよう。

 それがベストだ、うん。

 そう自分に言い聞かせ、俺は研究室と書かれた家へ向かった。

 

 

 2

 

 

 研究室の中には、様々な機会が置いてあり、近未来的なイメージだ。

 奥には木製の長卓があり、上には三つの球体が並べられている。

 その球体は上部が赤で、下部が白。中心には同心円状の小さな円がある。

 これはまさしく

 

「おお、モンスターボールじゃねえか!」

 

 真っ先に声を上げたアサリは、長卓に近づきモンスターボールを眺めている。

 おそらく、この中にはポケモンが入っているのだろう。

 

「ほら、ハルカとシュウト君も好きなポケモンを選んでね」

 

 ハルカはそう言われ、ボールが置いてある長卓へと近づいた 

 俺も同様に、長卓へと向かう。

 いよいよ御三家選びだ。気分は自然と高まってしまう。

 

「左から順に、アチャモ、ミズゴロウ、キモリだ。急がなくていいから、十分に考えて選んでね。これから旅を共にする大切なパートナーだからね」

 

 ほう、アチャモと言えば、可愛いポケモンで有名だな。

 《炎タイプ》で、《草タイプ》のキモリに相性がいいポケモンだ。

 逆に、《水タイプ》のミズゴロウに相性が悪いポケモンでもある。

 

「俺は最初からコイツって決めてるもんねー」

 

 アサセは自信満々に、長卓に置いてある真ん中のボールを手に取る。

 一切の躊躇はなかった。

 

「あ、ちょっと! シュウト君がまだ決めてないじゃない! なんでアサセが先に取るのよ!」

 

「べ、別にいいじゃんかよ~。俺は徹夜で昨日から考えていたんだからさあ。な? な?」

 

 俺へ懇願するように、話し掛けてくるアサセ。

 別に問題はないが、これで残るポケモンはアチャモかキモリとなった。

 

「ごめんね、シュウト君。アイツの所為で我慢させちゃったみたいで……」

 

 ハルカは俺に向けてぺこりとお辞儀をして、申し訳なさそうな表情をしている。

 

「い、いやいや。別に何の問題もないから大丈夫だよ。それより、ハルカさんもポケモンを選んだら? 俺は最後でいいよ」

 

「そ、それは悪いよ。このポケモンたち、センリさんがパパに渡したポケモンだし……」

 

(えっ! そうだったのかよ⁉)

 

 そういえば、センリという男は俺の親父って設定だったっけ。 

 ってことはあまり遠慮しなくていいよな。

 俺も好きなポケモン選びたいし。

 

「じゃ、じゃあ……遠慮なく選ばせてもらうよ」 

 

 変に遠慮しても、ハルカさんが選びにくそうだからな。

 

「どれにしよっかなー」

 

 俺に残された選択は二つだ。

 アチャモか、ヤモリ。《炎タイプ》か《草タイプ》。

 名前やタイプは知っているが、個体値なんかまでは分からない。

 そこまでのポケモン廃人ゲーマーではなかったからな。

 

「可愛いし……アチャモでいいか」

 

 心の拠り所というか、癒しというか、やはりそれ系のポケモンの方が愛着が湧くだろう。

 《炎タイプ》ならば、焚火とかで便利そうだし。

 それに、最終進化系のバシャーモのカッコよさも抜群だ。

 うん、コイツに決めよう。

 そう思い、一番左のボールに手を伸ばした時だった、

 

「あ……私の……アチャモが……」

 

 非常に小さい小言だが、しっかりと俺の耳に聞こえてきた。

 本人は無自覚で出してしまった声かもしれないが、さすがにこれでアチャモを選ぶ気にはなれない。

 俺はセンリの実の息子ではないし、なんだか気が引けてしまう。

 ここはキモリを選ぶのが妥当だろう。

 

「じゃあ俺はキモリで」

 

 サッと一番右のモンスターボールを手に取り、暫しボールを眺める事にした。

 手に持った質感は、ツルツルしていて、傷一つない新品だ。

 投げたらさぞ気持ちよかろう。

 

「私はアチャモっと」

 

 ハルカはパッと表情を明るくさせて、一番左のボールを手に取る。

 いきなりボールから出したりせず、ボールを凝視している。

 アサセも同様で、初めてのポケモンに感激しているようだ。

 

「よーし、みんな選び終わったみたいだね。アサセ君がミズゴロウで、ハルカがアチャモか」

 

 オダマキ博士はうんうんと一人で唸り、なんだか納得している様に見える。

 

「そして、シュウト君がヤモリか。三者三葉に個性があっていいね~」

 

 俺が憶測するに、ミズゴロウがわんぱくでやんちゃな性格で、アチャモは活発で明るい性格だろう。

 で、俺のヤモリは、内気で人見知りな性格といった所かな。

 

「それじゃあ、ポケモン図鑑を……「ちょ、ちょっと待ってくれ!」」

 

 アサセがオダマキ博士の言葉を遮る。

 

「ポケモンバトルやろうぜ! いいだろ、オダマキ博士?」

 

「はいはい、そう言うと思ったよアサセ君」

 

「な、なら早速ポケモンバトルやらせてくれよ!」

 

 アサセはモンスターボールを強く握りしめて、今にも投げそうな勢いだ。

 

「じゃあ、外でやろうか。総当たり戦って事で、一番勝った子には、特別におじさんの自腹でモンスターボールを五個プレゼントするよ」

 

 オダマキ博士が言い終わる前に、アサセは颯爽と研究室を飛び出してしまった。

 ハルカはやれやれといった感じで、アサセの後に続いて外へ出た。

 

「無一文の俺にはモンボ五個は貴重だな、うん」

 

 画面の向こうからではなく、実際にポケモンバトルをするのは物凄い不安がある。

 だがそれも、本当にポケモンバトルが出来るという嬉しさと、ワクワクで塗り替えられ、楽しみでしょうがない。

 高校二年生になってポケモンバトルで燃えるなんて恥ずかしいかもしれないが、この世界ではこれが普通だ。

 

「やってやるぜ」

 

 俺も研究室を飛び出し、アサセとハルカさんのいる外の広場へと走った。

 オダマキ博士も少し遅れて広場へと到着し、ポケモンバトルの準備は整った。

 

「僕が審判をやるから、一対一でポケモンバトルしていいよー」

 

 ハルカは地面へ座って観戦するみたいなので、どうやら俺とアサセがバトルするらしい。

 いきなり戦闘とは緊張するが、やはり興奮の方が上回っている。

 

「いけっ、ミズゴロウっ!」

 

 アサセはボールを投げる動作をし、モンスターボールからは水色の体色をした動物が出てきた。

 尻尾はヒレのようで、口元にはオレンジ色の髭が生えている。 

 

 ――ミズゴロウ。本物のミズゴロウだ――

 

 俺は気付かない内に、モンスターボールを投げていたようで、そのままポケモンバトルは開始された。

 

 

 




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