ポケットモンスターORAS 高校二年生の戦い 作:タイタン2929
御三家とは永遠の謎である
1
新鮮な風が吹き、靡く叢。
木々は共鳴し、ザアザアと音を立てる。
現在俺は、パニック状態に陥っていた。
(な、なんだコレ)
睡魔に襲われ、そのまま眠った筈だ。
それなのに何故、こんな場所にいるのだろうか。
全く見当がつかない。
考えれば考える程に頭が混乱してくる。
(い、いったん、落ち着くんだ、俺。冷静に……冷静に考えよう)
もしかしたらテレビの新種ドッキリかもしれない。
まだ夢の中なのかもしれない。
そう考えたい所だが、
「どう考えても……現実……だよな」
地面の土を触れば、温かく湿っている。
空気を肺に満たせば、生きているという実感が湧く。
頬をつねってみたが、起きる気配はなく、普通に痛い。
これらの指す意味は、俺が起きているという事。
夢で臭いや、痛みや、満足感など感じたこともない。
――つまりこれは現実。辺り一面の草原は、現実だ――
「えらい事になったな」
ここまでの雄大な自然がある場所と、新鮮さは、地球でも数少ないだろう。
国外という可能性もあるかもしれない。
だが、更にもう一つの可能性がある。
極めて低い、どころか、ありえない。いや、あってはならない。
しかし、今はその現象に最も近い。
「完全に異世界転……いや、異世界召喚か」
改めて現状を思い返す。
俺はごく普通に部屋で寝た。
そして見知らぬ草原に立っていた。
二回目になるが、こんなことは現実でありえない。
(辺りを探索してみるか? このままだと……)
これが現実であるならば、このままでは餓死してしまう。
現に今は、喉が少し乾きはじめている。
時期に空腹にもなるだろう。
だからこのままではマズい。
「俺に残された選択は一つ、ってわけか」
地理の把握は出来ておらず、この草原の終わりはあるかどうかも分からない。
もしかすれば、危険な動物がいるかもしれない。
だがそれでも探索するしかない。
食料不足で死ぬなんて嫌だからな。
「とりあえず周りを見渡し――――っ‼」
周囲を見回そうと、後ろを見れば、煙突のようなものがあった。
家が存在していたのだ。
仮に異世界だとしても、文明があるのならば助かる道はある。
微々たるものだが、希望が湧いてきたような気がする。
「よ、よし。い、行くか」
知り合いでもない他人俺に、食料を分けてくれるとは限らないが、行くしかない。
そう自分に言い聞かせ、俺は南方へと歩を進めた。
2
赤い屋根で、二階建ての大きな家は、私の家である。
庭にはブランコが設置してあり、昔はよくこれで遊んだ。
それに、向かいに住んでいるアイツとも、よく遊んだ。
何度も、数えきれないぐらいに。
「ふあ~」
まだ若干の眠気はあるが、欠伸を噛み殺し、再び自分の家を見つめる。
楽しい思い出や、嫌な思い出。これまでの人生、本当に色々とあった。
でも、今日でそれは最後。もうこの家には当分、戻ってこない。
これから私は、“ポケモントレーナー”になるんだから。
「昨日は興奮しちゃってあまり眠れなかったな……」
ずっと昔から夢見てきた、ポケモントレーナー。
私の旅はまだ始まっていないけど、気持ちの高まりは最高潮だ。
今すぐにでも博士からポケモンを貰い、新しい街へと旅をしたい。
考えれば考える程、ワクワクは止まらない。
「最初のポケモンは、なににしよっかなー」
私の相棒になるであろう、最初のポケモン選びは非常に重要である。
草タイプのキモリは、冷静沈着で、おとなしい性格だそうだ。
対する、水タイプのミズゴロウはやんちゃで、元気いっぱい。
キモリとは真反対の性格をしている。
二人はいつも喧嘩しているとも聞いたことがある。
「どっちも強そうだけど……可愛いポケモンも捨てがたい……」
可愛い系では、アチャモが頭一つ飛びぬけている。
あのくりくりとした瞳は愛らしく、守ってあげたい衝動に駆られる。
「悩んじゃうな~……」
私が十分近く悩んでいると、近所に住んでいるアイツが声を掛けてきた。
「おっす、ハルカ! そんな所でなにやってんの?」
「最初の御三家で悩んでて……」
ハルカ、と呼んできた男は、アサセと言う。
昔からの幼馴染で、友達である。歳は私と同じで十六歳。
肌は少し焼けてて、とても活発な性格だ。あと、思考が単純でもある。
「そんなん後で決めればいいでしょ? それより早く旅に出て、街まで行って、美味しい飯を食いに行こうぜ!」
アサセの優先順位は、ポケモンより飯である。
3
煙突が見えた家の近場に来た俺は、その光景に自分の目を疑った。
煙突のある赤い屋根の家には、数羽の鳥がいた。
もちろん、ただの鳥ではない。
日本に存在していなければ、海外にもこんな鳥はいない。
世界中を探しまわったって、存在しないだろう。
だがその姿は知っている。よく俺は知っている。
これはどう見ても、
「ピジョンだよな~……俺の眼は正常だよな~……」
普段ならば、自分の頭を疑うところだが、状況が状況だ。
これはもう、信じざるをえない。
俺のいる場所は、赤い屋根の家だけでなく、住宅街のように家が立ち並んでいる。
小さな町を形成しているようだ。
もはや、完全にポケモンの世界だ。
昔やった、ポケモンの世界に瓜二つ。うろ覚えだが、屋根の上にいたポケモンはピジョンだろう。
「ま、マジで、これからどうしよう……」
俺が家の前で途方に暮れていると、横から声が掛かった。
「お前、見ない顔だな。もしかして……ハルカの知り合いかなんかか?」
肌が薄黒く焼けている、男だった。この風貌は、初期の性別選びで見た顔。
――ゲームのキャラクターの容姿――