魔法少女リリカルなのは〜英雄譚〜   作:鎌鼬

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第7話

 

 

「まさかお前までいたとは思わなかったぞ」

 

「俺もだよ。手下からの情報で他人の空似程度の予想はしてたけどまさか御本人だとはな」

 

 

敵意を感じさせない口調で話し合うヴァルゼライトとゼファー。互いの死因は相打ちで致命傷を受けた事でそれが確執になりそうなのだが意外な事に二人は全く気にしていなかった。

 

 

二人が戦ったのは時代背景によるところが大きい。ゼファーの国は富を求めて戦っていた。ヴァルゼライトは外敵から国を守る為に戦っていた。それが二人の戦っていた理由なのだが国が無くなれば戦う理由も無くなるわけだ。

 

 

「あんたは兎も角どうして俺まで転生しちまったのかねぇ」

 

「……俺だけに関して言えば心当たりはあるがそれは例外中の例外だ。お前だが……可能性としては星辰奏者(エスペラント)か?無理矢理すぎる理由付けだがありえなくは無いだろう」

 

 

星辰奏者(エスペラント)、それは古代ベルカでもヴァルゼライト、ゼファー、ルシードの三人しか見つけられなかった魔力資質の発展系のスキルである。

 

 

古代ベルカの研究者の調べによると星辰奏者(エスペラント)は魔力を使って別次元に干渉し、その次元に満ちている不可視の粒子〝星辰体(アストラル)〟に感応。その結果として得られるのが星辰体(アストラル)の干渉によって頑強な生命体に細胞単位で生まれ変わる。人間の姿形でありながら魔導機や大砲などの大掛かりな兵器すらも一部性能で上回る。〝星辰光(アステリズム)〟という固有能力の発現。

 

 

星辰奏者(エスペラント)という共通点があるなら、ゼファーも転生したのは頷ける。その場合はルシードも転生した可能性がある訳だが廃墟都市にいるなら兎も角、都市部にいるのでは探す事が出来ない。

 

 

「もしくはヴェンデッタと同調したからかもな。あんただってアタランテと同調していた訳だし」

 

「その可能性もあり得るな……」

 

 

二つ目の可能性としてはヴァルゼライトがアタランテと、ゼファーがヴェンデッタと同調をしていたから。アタランテとヴェンデッタと名乗っているがその本質はギリシャ神話に登場する太陽神(アポロン)月の女神(アルテミス)である。そんな人間よりも上位の存在である彼女たちと同調していたから転生したのではないかとゼファーは語っていた。

 

 

「だが所詮は予想に過ぎん。答えは出てこない」

 

「そりゃそうだ」

 

 

だがどちらの可能性も所詮は予想に過ぎない。いくら考えたところで答えは出てこないので二人は転生について考える事を辞めた。時間があればいくらでも話し合うのだが、今の二人にはそんな事をしている余裕は無い。

 

 

「そんな事よりもこちらの問題が優先だ。俺たちはそちらのグループに手を出していないし、これからも手を出すつもりは無いことを理解して欲しい」

 

「それは分かってるよ。大方他のグループがあんたんとこのグループを名乗ってやらかしたんだろ?今あんたを襲った男を尋問してるから直ぐに分かるよ」

 

 

ヴァルゼライトもゼファーも、グループの長であることを自覚しているから私用よりもそちらを優先する。転生の事などこの問題が解決してから話し合えば良いというのが二人の了解だった。

 

 

それからしばらくして、部屋に一人の少年が入って来たーーー顔や服に付いた血をタオルで拭いながら。どうやらこの少年が襲撃者の〝尋問〟を担当していたらしい。

 

 

「ボス、あいつは北区のグループの人間だった。目的は俺らと南区のグループの仲違い、俺たちを争わせて弱体化させてから乗っ取るつもりだってよ」

 

「サンキュー。あと、タオルで拭くだけじゃなくて水浴びして来いよ。許可なら出しておくから」

 

「あいよ」

 

 

そう返事をして少年は部屋から出て行く。それを見届けてからヴァルゼライトとゼファーは心底面倒そうな顔をして同時に溜め息を吐いた。

 

 

「北区か……面倒事持ち込んでくれたなぁおい」

 

「こちらは事を荒げるつもりは無いのにな……だがまぁ、北区のお陰でお前と会えたのには感謝しても良いか」

 

「だな。前は殺し合いしていたとは言っても同郷の奴に会えたんだ。嬉しく無いと言えば嘘になるしな」

 

 

そう言って二人は見合わせたかの様に笑い合う。ヴァルゼライトは兎も角、ゼファーの方は辛かったのだろう。何せ死んだかと思えば見知らぬ土地でたった一人で、しかも子供の姿になって放置されているのだから。事実、例え敵だったとしても顔見知りであるヴァルゼライトに会えたことはゼファーに取って幸福であった。

 

 

そうして、一頻り笑い合ったところで二人は顔を変えた。年相応の子供の顔では無く、南区と西区のグループの長の顔でも無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「どうする?って聞いても考える事は同じなんだろうけどよ」

 

「警告はしたところで無駄だろう。向こうは所詮は子供のグループだと侮っているだろうからな、警告したところで嘗められたと逆上して直接的な手段に出るかもしれん」

 

「となると取れる手段は……」

 

「「殺られる前に殺れ」」

 

 

ヴァルゼライトとゼファーの答えが重なる。過激かもしれないが古代ベルカではこれは普通だったのだ。ヴァルゼライトの国は消極的だったこともあり自分から手を出す事はしなかったが防衛戦の際にはヴァルゼライトが開幕と同時に閃光をブッパするのが当たり前だったりする。

 

 

「戦力は……俺とあんたで十分だな」

 

「そうだな、他の奴を連れて行ったところでいらん犠牲を出すだけだ。それなら拠点の防備に回ってもらった方が良い」

 

「よし、そいじゃ夜になったら行きますか」

 

「なら飯を頼む。一週間は固形物を口にしていないからな……いや、半固形物なら口にしたが、あれは何だったんだろうな?肉でも無かったし野菜でも無かったし……なんかテケリとか言ってた気がする」

 

「良く無事だったなぁおい!!」

 

 

 


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